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番外編:王が恋に落ちた、その日に
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(ジャファル視点)
王とは、孤独なものだ。
父である先王が崩御し、若くしてこの玉座を継いでから、私はずっとそう感じていた。民を愛している。この国を豊かにしたいと、心から願っている。だが、王という立場は、常に私と民との間に、見えない壁を作った。
私の最大の憂いは、この国の宿命である太陽だった。
降り注ぐ陽光は、時に恵みとなり、時に呪いとなる。この国において、それは紛れもなく後者だった。灼熱に苦しむ民の姿を見るたび、私は己の無力さを噛み締めた。どれだけ策を講じようとも、天に輝く太陽そのものをどうにかすることなど、できようはずもなかったのだ。
そんな諦念にも似た感情を抱いていた日々に、あの報告は舞い込んだ。
「市場に、“聖なる天蓋”を操る少年が現れた」
馬鹿げた噂だと思った。だが、藁にもすがりたい思いがあったのも事実だった。私は自らの目で確かめるため、お忍びで市場へと向かった。
そこで、私が見た光景は、生涯忘れることはないだろう。
本当に、あったのだ。空を覆う巨大な影が。その下で、民が心から安らいだ顔で笑い合っている。私が、ずっと見たかった光景が、そこにはあった。
そして、その中心に、彼がいた。
銀灰色の髪、空の青さを溶かした瞳。旅の汚れでくすんではいたが、その存在は、どんな宝石よりも私の目を惹きつけた。
彼は、人々の称賛の声に戸惑い、所在なげに佇んでいた。その姿を見て、私は直感した。ああ、この青年は、きっとこれまで、誰にも認められることなく、辛い人生を歩んできたのだろう、と。その瞳の奥には、諦めと、それでも捨てきれない優しさの光が宿っていた。
虐げられてきたはずなのに、彼は他者を思いやり、見返りも求めず、ただ懸命にその奇跡の力を使っている。
その心の美しさに、私は雷に打たれたような衝撃を受けた。
声をかけた時の、怯えたような、それでいて芯の強さを感じさせる瞳。
王宮へ招き、彼の力を「呪いではなく恵みだ」と告げた時の、堰を切ったように流れた涙。
私は、どうしようもなく、この儚くも美しい青年を、守りたいと思った。この腕の中に閉じ込めて、誰にも傷つけさせず、世界中の幸福を彼一人に与えてしまいたい、と。
それは、民を愛する王としての感情ではなかった。
一人の男が、運命の相手と出会ってしまった、どうしようもない恋慕の情だった。
彼を「至宝」と定めた、あの日。
私は、王として国を守るという誓いに加え、もう一つ、新たな誓いを立てたのだ。
ノアという、私の唯一の光を、命に代えても守り抜き、世界で一番幸せにしてみせる、と。
乾いていた私の世界に、潤いと色彩を与えてくれた彼。
王が恋に落ちたその日から、私の人生は、本当の意味で始まったのだ。
王とは、孤独なものだ。
父である先王が崩御し、若くしてこの玉座を継いでから、私はずっとそう感じていた。民を愛している。この国を豊かにしたいと、心から願っている。だが、王という立場は、常に私と民との間に、見えない壁を作った。
私の最大の憂いは、この国の宿命である太陽だった。
降り注ぐ陽光は、時に恵みとなり、時に呪いとなる。この国において、それは紛れもなく後者だった。灼熱に苦しむ民の姿を見るたび、私は己の無力さを噛み締めた。どれだけ策を講じようとも、天に輝く太陽そのものをどうにかすることなど、できようはずもなかったのだ。
そんな諦念にも似た感情を抱いていた日々に、あの報告は舞い込んだ。
「市場に、“聖なる天蓋”を操る少年が現れた」
馬鹿げた噂だと思った。だが、藁にもすがりたい思いがあったのも事実だった。私は自らの目で確かめるため、お忍びで市場へと向かった。
そこで、私が見た光景は、生涯忘れることはないだろう。
本当に、あったのだ。空を覆う巨大な影が。その下で、民が心から安らいだ顔で笑い合っている。私が、ずっと見たかった光景が、そこにはあった。
そして、その中心に、彼がいた。
銀灰色の髪、空の青さを溶かした瞳。旅の汚れでくすんではいたが、その存在は、どんな宝石よりも私の目を惹きつけた。
彼は、人々の称賛の声に戸惑い、所在なげに佇んでいた。その姿を見て、私は直感した。ああ、この青年は、きっとこれまで、誰にも認められることなく、辛い人生を歩んできたのだろう、と。その瞳の奥には、諦めと、それでも捨てきれない優しさの光が宿っていた。
虐げられてきたはずなのに、彼は他者を思いやり、見返りも求めず、ただ懸命にその奇跡の力を使っている。
その心の美しさに、私は雷に打たれたような衝撃を受けた。
声をかけた時の、怯えたような、それでいて芯の強さを感じさせる瞳。
王宮へ招き、彼の力を「呪いではなく恵みだ」と告げた時の、堰を切ったように流れた涙。
私は、どうしようもなく、この儚くも美しい青年を、守りたいと思った。この腕の中に閉じ込めて、誰にも傷つけさせず、世界中の幸福を彼一人に与えてしまいたい、と。
それは、民を愛する王としての感情ではなかった。
一人の男が、運命の相手と出会ってしまった、どうしようもない恋慕の情だった。
彼を「至宝」と定めた、あの日。
私は、王として国を守るという誓いに加え、もう一つ、新たな誓いを立てたのだ。
ノアという、私の唯一の光を、命に代えても守り抜き、世界で一番幸せにしてみせる、と。
乾いていた私の世界に、潤いと色彩を与えてくれた彼。
王が恋に落ちたその日から、私の人生は、本当の意味で始まったのだ。
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