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第7話「社交界の罠と黒い嫉妬」
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農業改革の成功により、ヴァレンティン公爵領は活気を取り戻しつつあった。
俺の立場も、当初の「主君を誑かしたΩ」から「領地を救った才人」へと変わり、家臣や領民たちからの信頼も厚くなっていた。
そして、俺とラッセル様の関係も少しずつ変化していた。
彼は相変わらず俺の世話を焼き、過保護すぎるほどの愛情を注いでくるが、そこに以前のような強制的な力は薄れていた。
代わりに、互いを思いやるような穏やかな空気が流れるようになっていた。
俺も、彼に「ラッセル」と名前で呼ぶように言われ、戸惑いながらも少しずつ敬語が崩れるようになっていた。
そんなある日、王家主催の夜会への招待状が届いた。
「今回は、お前も一緒に行くぞ、レオンハルト」
ラッセルは、それが当然であるかのように言った。
「俺が?しかし、俺はただの……」
「ただの、なんだ?お前は私の未来の伴侶であり、この領地の再建に最も貢献した人物だ。何の遠慮がいる」
彼の言葉は嬉しい。
だが、不安の方が大きかった。
前回の夜会での一件が、脳裏をよぎる。
多くのαが集まる場所で、俺はまた醜態を晒してしまうのではないか。
それに、俺の存在を快く思わない者も多いはずだ。
「心配するな。今度はお前を一人にはしない。何があっても、私が守る」
俺の不安を見透かしたように、ラッセルは力強く言った。
その紫紺の瞳に見つめられると、不思議と心が落ち着いた。
夜会当日、俺はラッセルが用意した豪奢な礼服に身を包んだ。
鏡に映る自分は、まるで知らない人間のようだ。
強面の顔には不釣り合いな装飾に、どうにも居心地が悪い。
「とてもよく似合っている、レオン。誰よりも綺麗だ」
ラッセルは、うっとりとした表情で俺を見つめそっとエスコートの手を差し出した。
その手を取る瞬間、俺たちの指が絡み合う。
その自然な仕草に、心臓が大きく鳴った。
煌びやかな夜会の会場は、やはり独特の緊張感に包まれていた。
ラッセルに連れられて会場に入ると、一斉に注目を浴びるのを感じる。
好奇の視線、嫉妬の視線、そしてあからさまな敵意。
「あれが、ヴァレンティン公爵の……噂のΩか」
「βだった従者が、Ωに?そして公爵様を籠絡したと……」
「なんとも、はしたない」
ひそひそと交わされる会話が、嫌でも耳に入ってくる。
俺は俯きそうになるのを、ぐっとこらえた。
ラッセルの隣に立つ以上、彼に恥をかかせるわけにはいかない。
そんな俺たちの元へ、一人の男が近づいてきた。
壮年の、いかにも腹に一物ありそうな顔をした貴族だ。
確か、ヴァレンティン家と長年対立しているマルティン侯爵。
「これはラッセル殿。ご壮健そうで何より。そして、こちらが噂の方ですかな?」
侯爵は、ねっとりとした視線を俺に向けた。
その瞳の奥に宿る侮蔑の色に、俺は背筋が凍る思いだった。
「ええ。私の大切な人です。レオンハルトと申します」
ラッセルは、俺の腰をぐっと引き寄せ庇うようにしながら毅然と答えた。
「ほう。それはそれは。して、レオンハルト殿は、その……元々は従者だったとか。それが今や公爵様を虜にするとは、大した手腕ですな。一体、どのような『手管』をお使いになったのやら」
明らかに、俺を侮辱する言葉だった。
カッと頭に血が上り、何か言い返そうとした、その時。
「侯爵。言葉が過ぎるのではないかな」
ラッセルの声は、静かだったが氷のように冷たかった。
「レオンは、その類稀なる才覚で我が領地を救ってくれた恩人だ。君のような、旧態依然とした考えしかできぬ者には彼の価値は理解できまい」
「なっ……!」
「それに、彼がどのような手管を使ったか、気になるかね?それは、彼が誰よりも美しく、賢く、そして愛らしいからだ。それ以外に理由などない」
ラッセルは、そう言うと見せつけるように俺の頬にキスをした。
会場が、どよめきに包まれる。
マルティン侯爵は、顔を真っ赤にして震えていた。
その場は、ラッセルの圧勝だった。
しかし、侯爵が去り際に俺に向けた視線は憎悪と嫉妬に満ちた、黒い炎のようだった。
きっと、このままでは終わらないだろう。
夜会からの帰り道、馬車の中でラッセルは俺の手を固く握っていた。
「すまない、レオン。また嫌な思いをさせた」
「……いや。庇ってくれて、ありがとう、ラッセル」
俺は、彼の胸にそっと顔をうずめた。
彼の落ち着いたαの香りが、ささくれだった心を優しく癒してくれる。
「でも、よかったのか?あんなに敵に回して」
「構わない。言っただろう、レオン。お前に害をなす者は、誰であろうと許さない、と」
その言葉は、頼もしくそして少しだけ恐ろしかった。
彼の執着は、俺が思うよりもずっと深くそして容赦がない。
その夜、俺は初めて自らの意思でラッセルのベッドにもぐりこんだ。
彼に守られるだけの存在ではいたくない。
俺も、この人の力になりたい。
その想いが、俺を突き動かした。
驚くラッセルに、俺は震える声で告げた。
「俺を……あんたのものにしてくれ」
それは、俺なりの覚悟の示し方だった。
もう逃げないと、この人と共に生きていくのだという誓いの言葉だった。
俺の立場も、当初の「主君を誑かしたΩ」から「領地を救った才人」へと変わり、家臣や領民たちからの信頼も厚くなっていた。
そして、俺とラッセル様の関係も少しずつ変化していた。
彼は相変わらず俺の世話を焼き、過保護すぎるほどの愛情を注いでくるが、そこに以前のような強制的な力は薄れていた。
代わりに、互いを思いやるような穏やかな空気が流れるようになっていた。
俺も、彼に「ラッセル」と名前で呼ぶように言われ、戸惑いながらも少しずつ敬語が崩れるようになっていた。
そんなある日、王家主催の夜会への招待状が届いた。
「今回は、お前も一緒に行くぞ、レオンハルト」
ラッセルは、それが当然であるかのように言った。
「俺が?しかし、俺はただの……」
「ただの、なんだ?お前は私の未来の伴侶であり、この領地の再建に最も貢献した人物だ。何の遠慮がいる」
彼の言葉は嬉しい。
だが、不安の方が大きかった。
前回の夜会での一件が、脳裏をよぎる。
多くのαが集まる場所で、俺はまた醜態を晒してしまうのではないか。
それに、俺の存在を快く思わない者も多いはずだ。
「心配するな。今度はお前を一人にはしない。何があっても、私が守る」
俺の不安を見透かしたように、ラッセルは力強く言った。
その紫紺の瞳に見つめられると、不思議と心が落ち着いた。
夜会当日、俺はラッセルが用意した豪奢な礼服に身を包んだ。
鏡に映る自分は、まるで知らない人間のようだ。
強面の顔には不釣り合いな装飾に、どうにも居心地が悪い。
「とてもよく似合っている、レオン。誰よりも綺麗だ」
ラッセルは、うっとりとした表情で俺を見つめそっとエスコートの手を差し出した。
その手を取る瞬間、俺たちの指が絡み合う。
その自然な仕草に、心臓が大きく鳴った。
煌びやかな夜会の会場は、やはり独特の緊張感に包まれていた。
ラッセルに連れられて会場に入ると、一斉に注目を浴びるのを感じる。
好奇の視線、嫉妬の視線、そしてあからさまな敵意。
「あれが、ヴァレンティン公爵の……噂のΩか」
「βだった従者が、Ωに?そして公爵様を籠絡したと……」
「なんとも、はしたない」
ひそひそと交わされる会話が、嫌でも耳に入ってくる。
俺は俯きそうになるのを、ぐっとこらえた。
ラッセルの隣に立つ以上、彼に恥をかかせるわけにはいかない。
そんな俺たちの元へ、一人の男が近づいてきた。
壮年の、いかにも腹に一物ありそうな顔をした貴族だ。
確か、ヴァレンティン家と長年対立しているマルティン侯爵。
「これはラッセル殿。ご壮健そうで何より。そして、こちらが噂の方ですかな?」
侯爵は、ねっとりとした視線を俺に向けた。
その瞳の奥に宿る侮蔑の色に、俺は背筋が凍る思いだった。
「ええ。私の大切な人です。レオンハルトと申します」
ラッセルは、俺の腰をぐっと引き寄せ庇うようにしながら毅然と答えた。
「ほう。それはそれは。して、レオンハルト殿は、その……元々は従者だったとか。それが今や公爵様を虜にするとは、大した手腕ですな。一体、どのような『手管』をお使いになったのやら」
明らかに、俺を侮辱する言葉だった。
カッと頭に血が上り、何か言い返そうとした、その時。
「侯爵。言葉が過ぎるのではないかな」
ラッセルの声は、静かだったが氷のように冷たかった。
「レオンは、その類稀なる才覚で我が領地を救ってくれた恩人だ。君のような、旧態依然とした考えしかできぬ者には彼の価値は理解できまい」
「なっ……!」
「それに、彼がどのような手管を使ったか、気になるかね?それは、彼が誰よりも美しく、賢く、そして愛らしいからだ。それ以外に理由などない」
ラッセルは、そう言うと見せつけるように俺の頬にキスをした。
会場が、どよめきに包まれる。
マルティン侯爵は、顔を真っ赤にして震えていた。
その場は、ラッセルの圧勝だった。
しかし、侯爵が去り際に俺に向けた視線は憎悪と嫉妬に満ちた、黒い炎のようだった。
きっと、このままでは終わらないだろう。
夜会からの帰り道、馬車の中でラッセルは俺の手を固く握っていた。
「すまない、レオン。また嫌な思いをさせた」
「……いや。庇ってくれて、ありがとう、ラッセル」
俺は、彼の胸にそっと顔をうずめた。
彼の落ち着いたαの香りが、ささくれだった心を優しく癒してくれる。
「でも、よかったのか?あんなに敵に回して」
「構わない。言っただろう、レオン。お前に害をなす者は、誰であろうと許さない、と」
その言葉は、頼もしくそして少しだけ恐ろしかった。
彼の執着は、俺が思うよりもずっと深くそして容赦がない。
その夜、俺は初めて自らの意思でラッセルのベッドにもぐりこんだ。
彼に守られるだけの存在ではいたくない。
俺も、この人の力になりたい。
その想いが、俺を突き動かした。
驚くラッセルに、俺は震える声で告げた。
「俺を……あんたのものにしてくれ」
それは、俺なりの覚悟の示し方だった。
もう逃げないと、この人と共に生きていくのだという誓いの言葉だった。
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