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第9話「日記が語る呪いの真実」
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マルティン侯爵の失脚により、俺たちを取り巻く環境は一変した。
俺を公然と侮辱する者はいなくなり、ラッセルも以前より穏やかな表情をすることが増えた。
領地経営も軌道に乗り、平和な日々が続いていた。
俺はラッセルの伴侶として、そして領主の補佐として充実した毎日を送っていた。
だが、心のどこかに小さな棘のように引っかかるものがあった。
それは、ラッセルの『病』だ。
彼は相変わらず、時折熱を出して寝込むことがあった。
顔色も優れず、すぐに息を切らす。
呪いが解けたわけではないのだ。
いくら俺が番になったからといって、彼の根本的な病弱さは変わらない。
『本当に、ただの病弱なのだろうか……』
彼のαとしてのフェロモンは、他の誰よりも力強い。
マルティン侯爵を失脚させた知略と行動力も、並大抵のものではない。
それなのに、なぜ身体だけがあれほどまでに脆弱なのか。
そのアンバランスさが、俺にはずっと不可解だった。
ある日、俺は公爵家の書庫の奥深くで古い一冊の書物を見つけた。
それは、ヴァレンティン家の歴史を綴った初代当主直筆の日記だった。
何気なくページをめくっていた俺は、ある記述に目を奪われた。
『王家の血を引く我が一族に、嫉妬深き魔術師が呪いをかけた。その呪いは、代々の当主を蝕み、その命を削るだろう。ただし、月と同じ周期で巡る、運命の星を持つ者と魂を分かち合えば、その呪いは解ける』
呪い。
その言葉に、全身の血の気が引いた。
まさか。
ラッセルの病は、生まれつきのものではなく呪いによるものだというのか。
『月と同じ周期で巡る、運命の星を持つ者』。
それは、おそらくΩのことを指しているのだろう。
Ωのヒートは、月の満ち欠けと連動していると言われているからだ。
だが、おかしい。
ヴァレンティン家は、代々αの伴侶を迎えてきたはずだ。
なぜ、今に至るまで呪いが解けていない?
俺は、さらに日記を読み進めた。
そこには、衝撃的な事実が記されていた。
『呪いを解くためのΩは、ただのΩではならぬ。ヴァレンティン家の者に、生涯の忠誠を誓う血筋より生まれ、そして、天の采配により後天的にΩへと分化した者でなければならない』
生涯の忠誠を誓う血筋。
後天的にΩへ分化した者。
その条件は、完全に俺と一致していた。
シュトラウス家は、代々ヴァレンティン家に仕えてきた。
そして俺は、βからΩへと変化した稀な「遅延分化」の当事者だ。
偶然ではない。
俺がΩになったのは、この呪いを解くために運命づけられていたのだ。
そして、ラッセルは。
『まさか、あいつは……知っていたのか……?』
俺がΩになることを。
そして、それが自分の呪いを解く鍵であることを。
だとしたら、俺がΩに分化した時のあの歓喜に満ちた「ようやく、捕まえた」という言葉の意味もすべて繋がる。
彼は、ただ俺という存在を欲していただけではない。
自分の呪いを解くための『鍵』として、俺を手に入れたかったのだ。
全身から、力が抜けていくようだった。
彼の深い愛情も、執着も、すべては自分のためだったのか。
俺は、ただの生贄だったのか。
書物を抱えたまま、俺はよろよろと書庫を出た。
ラッセルに会って、真実を確かめなければならない。
彼の執務室の扉を開けると、ラッセルは机に向かっていたがひどく顔色が悪く、肩で息をしていた。
「ラッセル……!」
俺が駆け寄ると、彼は力なく微笑んだ。
「ああ、レオンか……すまない、少し、調子が悪くてな」
「呪いのせいなのか」
俺の言葉に、ラッセルの身体がびくりと震えた。
その反応が、すべてを物語っていた。
「……気づいたのか」
「ああ。書庫で、古い日記を見つけた。全部、そこに書いてあった」
俺は、震える声で続けた。
「お前は、知ってたのか。俺がΩになることも、それがお前の呪いを解く鍵だってことも」
ラッセルは、しばらく黙っていたがやがて諦めたように、深く息を吐いた。
「……ああ、知っていた」
その肯定の言葉は、まるで鋭い刃物のように俺の胸を突き刺した。
俺を公然と侮辱する者はいなくなり、ラッセルも以前より穏やかな表情をすることが増えた。
領地経営も軌道に乗り、平和な日々が続いていた。
俺はラッセルの伴侶として、そして領主の補佐として充実した毎日を送っていた。
だが、心のどこかに小さな棘のように引っかかるものがあった。
それは、ラッセルの『病』だ。
彼は相変わらず、時折熱を出して寝込むことがあった。
顔色も優れず、すぐに息を切らす。
呪いが解けたわけではないのだ。
いくら俺が番になったからといって、彼の根本的な病弱さは変わらない。
『本当に、ただの病弱なのだろうか……』
彼のαとしてのフェロモンは、他の誰よりも力強い。
マルティン侯爵を失脚させた知略と行動力も、並大抵のものではない。
それなのに、なぜ身体だけがあれほどまでに脆弱なのか。
そのアンバランスさが、俺にはずっと不可解だった。
ある日、俺は公爵家の書庫の奥深くで古い一冊の書物を見つけた。
それは、ヴァレンティン家の歴史を綴った初代当主直筆の日記だった。
何気なくページをめくっていた俺は、ある記述に目を奪われた。
『王家の血を引く我が一族に、嫉妬深き魔術師が呪いをかけた。その呪いは、代々の当主を蝕み、その命を削るだろう。ただし、月と同じ周期で巡る、運命の星を持つ者と魂を分かち合えば、その呪いは解ける』
呪い。
その言葉に、全身の血の気が引いた。
まさか。
ラッセルの病は、生まれつきのものではなく呪いによるものだというのか。
『月と同じ周期で巡る、運命の星を持つ者』。
それは、おそらくΩのことを指しているのだろう。
Ωのヒートは、月の満ち欠けと連動していると言われているからだ。
だが、おかしい。
ヴァレンティン家は、代々αの伴侶を迎えてきたはずだ。
なぜ、今に至るまで呪いが解けていない?
俺は、さらに日記を読み進めた。
そこには、衝撃的な事実が記されていた。
『呪いを解くためのΩは、ただのΩではならぬ。ヴァレンティン家の者に、生涯の忠誠を誓う血筋より生まれ、そして、天の采配により後天的にΩへと分化した者でなければならない』
生涯の忠誠を誓う血筋。
後天的にΩへ分化した者。
その条件は、完全に俺と一致していた。
シュトラウス家は、代々ヴァレンティン家に仕えてきた。
そして俺は、βからΩへと変化した稀な「遅延分化」の当事者だ。
偶然ではない。
俺がΩになったのは、この呪いを解くために運命づけられていたのだ。
そして、ラッセルは。
『まさか、あいつは……知っていたのか……?』
俺がΩになることを。
そして、それが自分の呪いを解く鍵であることを。
だとしたら、俺がΩに分化した時のあの歓喜に満ちた「ようやく、捕まえた」という言葉の意味もすべて繋がる。
彼は、ただ俺という存在を欲していただけではない。
自分の呪いを解くための『鍵』として、俺を手に入れたかったのだ。
全身から、力が抜けていくようだった。
彼の深い愛情も、執着も、すべては自分のためだったのか。
俺は、ただの生贄だったのか。
書物を抱えたまま、俺はよろよろと書庫を出た。
ラッセルに会って、真実を確かめなければならない。
彼の執務室の扉を開けると、ラッセルは机に向かっていたがひどく顔色が悪く、肩で息をしていた。
「ラッセル……!」
俺が駆け寄ると、彼は力なく微笑んだ。
「ああ、レオンか……すまない、少し、調子が悪くてな」
「呪いのせいなのか」
俺の言葉に、ラッセルの身体がびくりと震えた。
その反応が、すべてを物語っていた。
「……気づいたのか」
「ああ。書庫で、古い日記を見つけた。全部、そこに書いてあった」
俺は、震える声で続けた。
「お前は、知ってたのか。俺がΩになることも、それがお前の呪いを解く鍵だってことも」
ラッセルは、しばらく黙っていたがやがて諦めたように、深く息を吐いた。
「……ああ、知っていた」
その肯定の言葉は、まるで鋭い刃物のように俺の胸を突き刺した。
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