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第10話「愛か、宿命か――彼の告白」
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「……知っていた」
ラッセルの静かな肯定は、俺の心に深く、そして冷たく突き刺さった。
やはり、そうだったのか。
彼の執着も、愛情も、すべてはこの呪いを解くためだったのか。
俺は、彼の目的のためのただの道具に過ぎなかったのか。
絶望と裏切られたという思いで、目の前が真っ暗になりそうだった。
「どうして……どうして、黙っていたんだ」
絞り出した声は、自分でも驚くほど震えていた。
ラッセルは、苦しげに顔を歪めると俺の手をそっと握った。
その手は、ひどく冷たかった。
「言えるはずがなかった。お前に、そんな宿命を背負わせているなどと……。私が呪われているせいで、お前の運命まで歪めてしまった。それが、どれほど恐ろしかったか……」
彼の声には、深い後悔と苦悩が滲んでいた。
「私は、物心ついた頃からこの呪いのことを聞かされて育った。ヴァレンティン家の長子は、短命の呪いにかかっていると。そして、その呪いを解くには、『忠臣の家系に生まれ、後天的にΩになる者』を番にするしかない、と」
ラッセルは、ゆっくりと語り始めた。
「最初は、ただの言い伝えだと思っていた。だが、成長するにつれてこの身体はどんどん蝕まれていった。医者にも、原因は分からない。……その頃だ。お前と出会ったのは」
彼の紫紺の瞳が、遠い過去を見つめている。
「お前は、いつも私の側にいてくれた。私の病弱さも、気難しい性格も、すべて受け入れてただ真っ直ぐに忠誠を誓ってくれた。いつしか私は、お前という存在に救われるようになっていたんだ。呪いを解くためじゃない。ただ、レオンハルト、お前自身を心の底から愛してしまった」
「……」
「だが、お前はβだった。私のこの想いは、決して届かない。絶望したよ。でも、同時に心のどこかで願ってしまったんだ。もし、言い伝えが本当なら、お前がその運命のΩなのではないかと」
それは、あまりにも身勝手な願いだ。
だが、死の淵をさまよう彼にとっては唯一の希望の光だったのだろう。
「お前が十八になる年、私の呪いは一気に進行した。余命はいくばくもないと医者に告げられた。もう、終わりだと思った。その時だ。お前の身体に、変化が現れ始めたのは」
彼の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「嬉しかった。……ああ、本当に、嬉しかったんだ。これで助かる、と。だが、それ以上に恐ろしかった。お前を、私の呪いに巻き込んでしまうことが。お前は、ただ私を守りたいだけなのに私は、お前を利用して生き永らえようとしている。その罪悪感に、押し潰されそうだった」
だから、彼は病弱なαの仮面を被り俺を力ずくで縛り付けたのだ。
俺に選択の余地を与えず、すべてを自分の責任にするために。
「お前が私を憎んでも構わない。道具だと思われても仕方ない。それでも、私は生きたかった。お前と、一緒に。この先も、ずっと……」
彼の告白は、俺が想像していたものとは全く違っていた。
そこにあったのは、打算や利用しようという考えではない。
ただ、愛する人と共に生きたいと願う切実で、痛々しいほどの想いだった。
俺は、握られた彼の手を強く握り返した。
「……馬鹿だな、あんたは」
「レオン……?」
「なんで、もっと早く言ってくれなかったんだ。俺があんたのためにΩになったんだとしたら、それは本望だ。俺の存在意義は、昔も今もあんたを守ることなんだから」
そうだ。
形は変わった。
主従の立場も逆転した。
だが、根底にある想いは何も変わっていない。
俺は、この人のために存在している。
「俺は、道具なんかじゃない。あんたの番だろ。あんたを生かすためなら、なんだってする。儀式でもなんでも、やってやる」
俺の言葉に、ラッセルは驚いたように目を見開いた。
そして、その瞳から堰を切ったように涙が溢れ出した。
彼は、子供のように声を上げて泣きじゃくった。
ずっと一人で抱え込んできた恐怖や罪悪感、そのすべてを吐き出すように。
俺は、そんな彼をただ強く、強く抱きしめた。
「大丈夫だ、ラッセル。俺がいる。もう、一人じゃない」
呪いも、宿命も、二人でなら乗り越えられる。
いや、乗り越えてみせる。
夜が明け、ラッセルの嗚咽が止まる頃、俺たちの間には以前よりもっと強く、そして確かな絆が生まれていた。
「日記には、真の番となるための儀式についても書かれていた。準備が必要だ」
「ああ、分かっている。だが、その前に邪魔な虫を掃除しなければならないな」
ラッセルの瞳に、再び冷たい光が宿る。
彼が何に気づいているのか、俺にはすぐに分かった。
このタイミングで俺が呪いのことを知ったのは、偶然ではない。
誰かが、意図的に俺を書庫の奥へと導いたのだ。
おそらく、俺たちの仲を裂きヴァレンティン家の弱体化を狙う者の仕業だろう。
「相手が誰であろうと、容赦はしない。私たちの未来を邪魔する者は、すべて排除する」
愛する人を守るため、彼は再び冷徹な支配者となる。
そして俺は、その隣で彼と共に戦うことを誓った。
ラッセルの静かな肯定は、俺の心に深く、そして冷たく突き刺さった。
やはり、そうだったのか。
彼の執着も、愛情も、すべてはこの呪いを解くためだったのか。
俺は、彼の目的のためのただの道具に過ぎなかったのか。
絶望と裏切られたという思いで、目の前が真っ暗になりそうだった。
「どうして……どうして、黙っていたんだ」
絞り出した声は、自分でも驚くほど震えていた。
ラッセルは、苦しげに顔を歪めると俺の手をそっと握った。
その手は、ひどく冷たかった。
「言えるはずがなかった。お前に、そんな宿命を背負わせているなどと……。私が呪われているせいで、お前の運命まで歪めてしまった。それが、どれほど恐ろしかったか……」
彼の声には、深い後悔と苦悩が滲んでいた。
「私は、物心ついた頃からこの呪いのことを聞かされて育った。ヴァレンティン家の長子は、短命の呪いにかかっていると。そして、その呪いを解くには、『忠臣の家系に生まれ、後天的にΩになる者』を番にするしかない、と」
ラッセルは、ゆっくりと語り始めた。
「最初は、ただの言い伝えだと思っていた。だが、成長するにつれてこの身体はどんどん蝕まれていった。医者にも、原因は分からない。……その頃だ。お前と出会ったのは」
彼の紫紺の瞳が、遠い過去を見つめている。
「お前は、いつも私の側にいてくれた。私の病弱さも、気難しい性格も、すべて受け入れてただ真っ直ぐに忠誠を誓ってくれた。いつしか私は、お前という存在に救われるようになっていたんだ。呪いを解くためじゃない。ただ、レオンハルト、お前自身を心の底から愛してしまった」
「……」
「だが、お前はβだった。私のこの想いは、決して届かない。絶望したよ。でも、同時に心のどこかで願ってしまったんだ。もし、言い伝えが本当なら、お前がその運命のΩなのではないかと」
それは、あまりにも身勝手な願いだ。
だが、死の淵をさまよう彼にとっては唯一の希望の光だったのだろう。
「お前が十八になる年、私の呪いは一気に進行した。余命はいくばくもないと医者に告げられた。もう、終わりだと思った。その時だ。お前の身体に、変化が現れ始めたのは」
彼の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「嬉しかった。……ああ、本当に、嬉しかったんだ。これで助かる、と。だが、それ以上に恐ろしかった。お前を、私の呪いに巻き込んでしまうことが。お前は、ただ私を守りたいだけなのに私は、お前を利用して生き永らえようとしている。その罪悪感に、押し潰されそうだった」
だから、彼は病弱なαの仮面を被り俺を力ずくで縛り付けたのだ。
俺に選択の余地を与えず、すべてを自分の責任にするために。
「お前が私を憎んでも構わない。道具だと思われても仕方ない。それでも、私は生きたかった。お前と、一緒に。この先も、ずっと……」
彼の告白は、俺が想像していたものとは全く違っていた。
そこにあったのは、打算や利用しようという考えではない。
ただ、愛する人と共に生きたいと願う切実で、痛々しいほどの想いだった。
俺は、握られた彼の手を強く握り返した。
「……馬鹿だな、あんたは」
「レオン……?」
「なんで、もっと早く言ってくれなかったんだ。俺があんたのためにΩになったんだとしたら、それは本望だ。俺の存在意義は、昔も今もあんたを守ることなんだから」
そうだ。
形は変わった。
主従の立場も逆転した。
だが、根底にある想いは何も変わっていない。
俺は、この人のために存在している。
「俺は、道具なんかじゃない。あんたの番だろ。あんたを生かすためなら、なんだってする。儀式でもなんでも、やってやる」
俺の言葉に、ラッセルは驚いたように目を見開いた。
そして、その瞳から堰を切ったように涙が溢れ出した。
彼は、子供のように声を上げて泣きじゃくった。
ずっと一人で抱え込んできた恐怖や罪悪感、そのすべてを吐き出すように。
俺は、そんな彼をただ強く、強く抱きしめた。
「大丈夫だ、ラッセル。俺がいる。もう、一人じゃない」
呪いも、宿命も、二人でなら乗り越えられる。
いや、乗り越えてみせる。
夜が明け、ラッセルの嗚咽が止まる頃、俺たちの間には以前よりもっと強く、そして確かな絆が生まれていた。
「日記には、真の番となるための儀式についても書かれていた。準備が必要だ」
「ああ、分かっている。だが、その前に邪魔な虫を掃除しなければならないな」
ラッセルの瞳に、再び冷たい光が宿る。
彼が何に気づいているのか、俺にはすぐに分かった。
このタイミングで俺が呪いのことを知ったのは、偶然ではない。
誰かが、意図的に俺を書庫の奥へと導いたのだ。
おそらく、俺たちの仲を裂きヴァレンティン家の弱体化を狙う者の仕業だろう。
「相手が誰であろうと、容赦はしない。私たちの未来を邪魔する者は、すべて排除する」
愛する人を守るため、彼は再び冷徹な支配者となる。
そして俺は、その隣で彼と共に戦うことを誓った。
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