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君を守るためなら side ルカ
「これは一体…」
私はオレフィスと共に、被害が大きいと予測される地域へと足を踏み入れた。
森の奥深く、人気が少なく動物たちの多くが暮らす場所だ。マルスティア伯爵令嬢と共に初めて視察として出向いた場所でもある。
辺り一面には食い荒らされた跡があり、おそらく怪物のものだろうと思われる足跡が複数見つかった。
それは、予想を遥かに超えた数だった。太刀打ちできるのか自信がないほど。
「ルカ皇太子、怪物が来ます!」
「戦闘体制に入れ!!」
言い終わらないうちに、とてつもない数の怪物が姿を現した。まるで今まで気配を消していたかのようだった。
私は魔力を溜め込み、一気に先頭の怪物目掛けて撃ち放った。
「キェェェッーーー!」
数体は倒したものの、次々と怪物たちが押し寄せてくる。オレフィスも魔力を剣に封じ込め、次々と怪物を切り倒していく。
騎士たちの中には怪物の数に圧倒されてしまい立ちすくむ者までいた。これだけの数は私も初めてだ、そうなるのも無理はない。だが、申し訳ないが今はそれを気にするほどの余裕がない。あまりにも数が多すぎる。
次々と魔力を放つものの、怪物は減るどころか増えているような気がしてならない。
「ルカ皇太子様、あまりにも数が多すぎます!マルスティア伯爵令嬢様にも応援要請を…」
「ダメだ」
こんな場所に彼女を連れて来れない。伯爵令嬢だからということはもちろんだが、それ以上に彼女を危険に晒すことなどできない。
ただでさえ、この戦いに巻き込んでしまった事を後悔しているというのに。
私が彼女を見つけなければ、きっと彼女は今頃は普通の伯爵令嬢として幸せに暮らしていたはずだ。この国がダメになってしまったとしても、ラープ伯爵家のことだ、別の国でもきっと成功を収めただろう。
私が彼女に協力を依頼しなければ、こんな危険な場所で危険な行為をさせなくても済んだのだ。お互いに知らない者として生き、彼女は令嬢として幸せになり、私はどこかで力尽きていたかもしれない。
だが、それでも。私は彼女と出会えて、関わることができて嬉しいと思ってしまった。最初はただの好奇心だったのに。
姿を見るたびに波打つ心臓が、彼女が美味しそうに食べる姿や楽しそうに笑う姿を見るたびに、何故か嬉しくなるこの気持ちが。もっと見たい、会いたい。そう思ってしまうこの感情が。もう、ずっと前から気付いていたんだ。
怪物はどんどん騎士たちを攻撃していく。その度に私は怪物たちの攻撃を魔力で跳ね返した。騎士たちはまだ私ほどの魔力は持ち合わせていない。なんとか私が守らなければ。
「…ぐぁっ!?」
「オレフィス!!」
その時、怪物が撃ち放った光の玉がオレフィスの肩に直撃した。オレフィスは反動で後ろへと倒れ込む。私はもう一度光の玉を打とうとする怪物に手をかざし、その光の玉をぐっと吸収すると威力を上げて周囲の怪物目掛けて撃ち放った。
次々と怪物たちが倒れていく。
その間にオレフィスへと駆け寄った。
「大丈夫か!?」
「ぅ…油断、しま、した。…申し訳、ありません」
私は応急処置としてオレフィスの肩にタオルを巻きつけ、抵抗するオレフィスを抑えて近くの岩の下へと移動させた。ここなら陰になって怪物には見つかりにくいだろう。
「ここで休んでいろ」
「まだ戦えます」
「ダメだ、ここにいろ」
私はオレフィスを岩陰に隠すと、すぐに怪物の元へと戻った。
必死に戦ってもどんどん増えていく怪物に絶望すらも覚えてしまう。しかしそんな事を思ってもいられない。気を強く持つんだ。
「ルカ皇太子様、もう限界です!」
「怪物が減るどころか増えています!このままでは我々の方が危険です」
騎士たちが次々と倒れ込んでいく。
みな、お互いを守ろうと必死だった。だが怪物たちの力の方が強い。
どうすればいい。
どうすれば守れる。
次の瞬間、ドーーンッと地響きがしたかと思うと、目の前の怪物たちが一斉に倒れ込んでいった。
騎士たちも驚いて戦う手を止める。
…何が起きたんだ?
「大丈夫ですかっ!?」
「マルスティア伯爵令嬢…?」
なぜ、彼女がここに。
マルスティア伯爵令嬢は倒れた騎士たちに手をかざして何かを唱えると、その者の傷がスッと治っていった。
突然の登場に驚いたのも束の間、彼女は次々と騎士たちの手当をしている。
「こちらが心配で瞬間移動で来てくださったんです」
「オレフィス、もう大丈夫なのか?」
「マルスティア様が治してくださったのでこの通り」
オレフィスは笑って肩をぐるぐると回してみせた。
「しかし、マルスティア様は一体何者なのでしょう。完璧な治癒魔法が使えるのは聖女様だけのはずなのに」
「…彼女も聖女なのかもしれないな」
「えぇっ、そんな事ってありえるのですか?一つの国に聖女は一人のはずでは?」
「そうだと思っていたのだが、彼女を見ているとそうではない気がするんだ」
そんな会話をしていると、マルスティア伯爵令嬢が怒った様子で私の方へと近づいてくるのに気付いた。
何だ?どうしたんだ?
「もうっ、何が〝何かあったら呼んでくれ〟ですか!それはこっちのセリフです」
「は…?」
ポカンとする私の横で、オレフィスはクスクスと声を抑えて笑っている。伯爵令嬢に怒られる皇太子の図が面白いようだ。
「心配したんですから。少し様子を見に来たらこんな事になっているし」
「あぁ…すまない」
謝りながらも、彼女の姿を見ただけで嬉しくなってしまう。心配して来てくれたのだと、怒っているのもきっと私のためでもあるのだと思うと余計に。
「私も手伝いますから!」
そういうと、マルスティア伯爵令嬢はサッと身を翻して怪物へと立ち向かっていく。
私はすぐさま彼女を追いかけていった。
***
彼女の協力のおかげで、怪物はほぼ全て片付けることができた。遠くの方からも怪物の気配はするが、ほぼ数体しか残っていないようだ。
騎士たちは全力を出し切ったのか、ほとんど全員ヘロヘロと倒れ込んでいる。
「助かった、本当に感謝している」
そう言って頭を下げると、「顔を上げてください!」とマルスティア伯爵令嬢は慌てたように言った。そんな姿も可愛らしく見える。
「ルカ皇太子様は一人で抱え込みすぎです」
「ははっ、そう見えるか?だが、私は皇太子だからな」
「そうですが…」
ヒュンッ
完全に油断していたのだ。
倒したはずの怪物がまだ生きていて、光の玉を彼女に向けて打っていたとすぐに気づけなかった私の落ち度だ。
私はマルスティア伯爵令嬢をぐっと自分の方へと引き寄せた。魔力を使うよりもその方が確実で早かったから。
君は私の大切な人だ。
君を守れるなら私は何だってする。
「ルカ皇太子様!!!」
「えっ…?」
光の玉を直に受けた私は、そのまま意識を失った。
私はオレフィスと共に、被害が大きいと予測される地域へと足を踏み入れた。
森の奥深く、人気が少なく動物たちの多くが暮らす場所だ。マルスティア伯爵令嬢と共に初めて視察として出向いた場所でもある。
辺り一面には食い荒らされた跡があり、おそらく怪物のものだろうと思われる足跡が複数見つかった。
それは、予想を遥かに超えた数だった。太刀打ちできるのか自信がないほど。
「ルカ皇太子、怪物が来ます!」
「戦闘体制に入れ!!」
言い終わらないうちに、とてつもない数の怪物が姿を現した。まるで今まで気配を消していたかのようだった。
私は魔力を溜め込み、一気に先頭の怪物目掛けて撃ち放った。
「キェェェッーーー!」
数体は倒したものの、次々と怪物たちが押し寄せてくる。オレフィスも魔力を剣に封じ込め、次々と怪物を切り倒していく。
騎士たちの中には怪物の数に圧倒されてしまい立ちすくむ者までいた。これだけの数は私も初めてだ、そうなるのも無理はない。だが、申し訳ないが今はそれを気にするほどの余裕がない。あまりにも数が多すぎる。
次々と魔力を放つものの、怪物は減るどころか増えているような気がしてならない。
「ルカ皇太子様、あまりにも数が多すぎます!マルスティア伯爵令嬢様にも応援要請を…」
「ダメだ」
こんな場所に彼女を連れて来れない。伯爵令嬢だからということはもちろんだが、それ以上に彼女を危険に晒すことなどできない。
ただでさえ、この戦いに巻き込んでしまった事を後悔しているというのに。
私が彼女を見つけなければ、きっと彼女は今頃は普通の伯爵令嬢として幸せに暮らしていたはずだ。この国がダメになってしまったとしても、ラープ伯爵家のことだ、別の国でもきっと成功を収めただろう。
私が彼女に協力を依頼しなければ、こんな危険な場所で危険な行為をさせなくても済んだのだ。お互いに知らない者として生き、彼女は令嬢として幸せになり、私はどこかで力尽きていたかもしれない。
だが、それでも。私は彼女と出会えて、関わることができて嬉しいと思ってしまった。最初はただの好奇心だったのに。
姿を見るたびに波打つ心臓が、彼女が美味しそうに食べる姿や楽しそうに笑う姿を見るたびに、何故か嬉しくなるこの気持ちが。もっと見たい、会いたい。そう思ってしまうこの感情が。もう、ずっと前から気付いていたんだ。
怪物はどんどん騎士たちを攻撃していく。その度に私は怪物たちの攻撃を魔力で跳ね返した。騎士たちはまだ私ほどの魔力は持ち合わせていない。なんとか私が守らなければ。
「…ぐぁっ!?」
「オレフィス!!」
その時、怪物が撃ち放った光の玉がオレフィスの肩に直撃した。オレフィスは反動で後ろへと倒れ込む。私はもう一度光の玉を打とうとする怪物に手をかざし、その光の玉をぐっと吸収すると威力を上げて周囲の怪物目掛けて撃ち放った。
次々と怪物たちが倒れていく。
その間にオレフィスへと駆け寄った。
「大丈夫か!?」
「ぅ…油断、しま、した。…申し訳、ありません」
私は応急処置としてオレフィスの肩にタオルを巻きつけ、抵抗するオレフィスを抑えて近くの岩の下へと移動させた。ここなら陰になって怪物には見つかりにくいだろう。
「ここで休んでいろ」
「まだ戦えます」
「ダメだ、ここにいろ」
私はオレフィスを岩陰に隠すと、すぐに怪物の元へと戻った。
必死に戦ってもどんどん増えていく怪物に絶望すらも覚えてしまう。しかしそんな事を思ってもいられない。気を強く持つんだ。
「ルカ皇太子様、もう限界です!」
「怪物が減るどころか増えています!このままでは我々の方が危険です」
騎士たちが次々と倒れ込んでいく。
みな、お互いを守ろうと必死だった。だが怪物たちの力の方が強い。
どうすればいい。
どうすれば守れる。
次の瞬間、ドーーンッと地響きがしたかと思うと、目の前の怪物たちが一斉に倒れ込んでいった。
騎士たちも驚いて戦う手を止める。
…何が起きたんだ?
「大丈夫ですかっ!?」
「マルスティア伯爵令嬢…?」
なぜ、彼女がここに。
マルスティア伯爵令嬢は倒れた騎士たちに手をかざして何かを唱えると、その者の傷がスッと治っていった。
突然の登場に驚いたのも束の間、彼女は次々と騎士たちの手当をしている。
「こちらが心配で瞬間移動で来てくださったんです」
「オレフィス、もう大丈夫なのか?」
「マルスティア様が治してくださったのでこの通り」
オレフィスは笑って肩をぐるぐると回してみせた。
「しかし、マルスティア様は一体何者なのでしょう。完璧な治癒魔法が使えるのは聖女様だけのはずなのに」
「…彼女も聖女なのかもしれないな」
「えぇっ、そんな事ってありえるのですか?一つの国に聖女は一人のはずでは?」
「そうだと思っていたのだが、彼女を見ているとそうではない気がするんだ」
そんな会話をしていると、マルスティア伯爵令嬢が怒った様子で私の方へと近づいてくるのに気付いた。
何だ?どうしたんだ?
「もうっ、何が〝何かあったら呼んでくれ〟ですか!それはこっちのセリフです」
「は…?」
ポカンとする私の横で、オレフィスはクスクスと声を抑えて笑っている。伯爵令嬢に怒られる皇太子の図が面白いようだ。
「心配したんですから。少し様子を見に来たらこんな事になっているし」
「あぁ…すまない」
謝りながらも、彼女の姿を見ただけで嬉しくなってしまう。心配して来てくれたのだと、怒っているのもきっと私のためでもあるのだと思うと余計に。
「私も手伝いますから!」
そういうと、マルスティア伯爵令嬢はサッと身を翻して怪物へと立ち向かっていく。
私はすぐさま彼女を追いかけていった。
***
彼女の協力のおかげで、怪物はほぼ全て片付けることができた。遠くの方からも怪物の気配はするが、ほぼ数体しか残っていないようだ。
騎士たちは全力を出し切ったのか、ほとんど全員ヘロヘロと倒れ込んでいる。
「助かった、本当に感謝している」
そう言って頭を下げると、「顔を上げてください!」とマルスティア伯爵令嬢は慌てたように言った。そんな姿も可愛らしく見える。
「ルカ皇太子様は一人で抱え込みすぎです」
「ははっ、そう見えるか?だが、私は皇太子だからな」
「そうですが…」
ヒュンッ
完全に油断していたのだ。
倒したはずの怪物がまだ生きていて、光の玉を彼女に向けて打っていたとすぐに気づけなかった私の落ち度だ。
私はマルスティア伯爵令嬢をぐっと自分の方へと引き寄せた。魔力を使うよりもその方が確実で早かったから。
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