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番外編
聖女が世界を救う〜現代〜③
彼女の漫画を読んだ時、今まで抱えていた違和感の全てが繋がった気がした。
もやがかかったように、言葉に表せなかった、この苦しい感覚。思い出したいものがあるのに、頭のどこかで引っかかって思い出せない。
彼女の漫画が、それら全てを解決してくれたのだ。
彼女…クリスティアと連絡を取るのは容易だった。
待ち合わせをして初めて会った日、一瞬であの頃に戻ったようだった。人目を引く端正な容姿は相変わらずだ。それと、どこか楽しそうに人を見る目も変わらない。
「あなたが一番会いたいと願っている人に、私も会いたいの。そのために、今まで漫画を描いてきたんだから」
「…そうか」
「私が既に彼女の居場所を知っていると思ったんでしょうけど、残念ね。だけどそれは私も同じ。あなたくらい地位が高い人だったら、その権力を使ってとっくに彼女を見つけているのかと思ったわ。あの頃みたいにね。…その反応だと、まだみたいね」
明らかに残念そうな表情を浮かべ、コーヒーを口にする。
「まるであの頃の生活を再現したような内装ね」
あたりを見渡して、クリスティアはポツリと呟いた。
「君の作品を読んで、思い出したんだ。まるでヨーロッパのお城を表現したようだと宿泊客にも好評だよ」
これは、建前だ。
もしかしたら、彼女が来るかもしれない。
その時に、全てを思い出してくれるかもしれない。
わずかな希望に賭けたのだ。
「仕方ないわね。それじゃあ、私がマルスティアを見つけたら、その時はこのカフェで再会することにするわ」
「いいのか?」
「その代わり、その時はここのカフェ代金と宿泊費を無料にしてちょうだいね?」
漫画を読んで、全てを思い出した私のように、きっと彼女も漫画を読めば思い出すだろう。
まるでもうすぐにでも会えるかのような口ぶりに、期待してしまう。
「…会える見込みがあるのか?」
「もう知ってるでしょうけど、今度サイン会をするの。きっと、その時に会えるはずよ。さて、と」
クリスティアは立ち上がり、席を立つ。
「漫画の原稿の締め切りがあるから、もう行くわね。じゃあまた、近いうちに会いましょう…ルカ様」
*****
〝ルカ様〟
〝ルカ皇太子様〟
言葉が頭の中で反芻する。
隣に立っている人物に再び目を向けると、嬉しそうな、なんとも言えない表情で私を見つめていた。
私も、同じ気持ちだった。
一瞬で、あの頃に戻ったようだ。
「どうしてウエイターの格好なの?」
「この方が、自然に話しかけやすいだろうと思って…」
クリスティアが訊ねると、バツの悪そうな表情で、ウエイター…いや、ルカは視線を下に向けた。
一方のクリスティアは楽しそうだ。
二人は既にこの世界でも知り合いのようだった。
どこか懐かしさも感じつつ、モヤっとした感情が生まれるのがわかる。
以前も、そうだった。
クリスティアとルカは婚約者だったから。
当時の胸の痛みが、再び疼くのを感じて苦しくなった。
ルカ様。
ルカ皇太子様。
私はずっと、あなたのことを…
「さて、と。話したいことがたくさんあるんだけど、まずは腹ごしらえさせてくれないかしら?うわっ、何このタルト。美味しそう!私も同じものを頼むわ」
「わかった。ショートケーキもこだわって作ってるから食べてみたらいい」
ルカは別のウエイターを呼び、タルトとショートケーキ、コーヒーを注文した。
「ショートケーキが美味しいの?」
「あぁ。材料を厳選して作らせてるんだ。クリームにもこだわってる」
「よく知ってるのね。さすがは後継者だわ」
その言葉に驚いて、マルスティアは思わずルカを凝視してしまう。
その視線に、少し照れたように「このホテルは私の家族が経営してるんだ」と教えてくれた。
このホテル…後継者ってもしかして、◎◎グループの…?
とんでもない経営グループだ。
ルカ様は、生まれ変わっても世界が違う方なのね。本当に、すごいお方だわ。
もやがかかったように、言葉に表せなかった、この苦しい感覚。思い出したいものがあるのに、頭のどこかで引っかかって思い出せない。
彼女の漫画が、それら全てを解決してくれたのだ。
彼女…クリスティアと連絡を取るのは容易だった。
待ち合わせをして初めて会った日、一瞬であの頃に戻ったようだった。人目を引く端正な容姿は相変わらずだ。それと、どこか楽しそうに人を見る目も変わらない。
「あなたが一番会いたいと願っている人に、私も会いたいの。そのために、今まで漫画を描いてきたんだから」
「…そうか」
「私が既に彼女の居場所を知っていると思ったんでしょうけど、残念ね。だけどそれは私も同じ。あなたくらい地位が高い人だったら、その権力を使ってとっくに彼女を見つけているのかと思ったわ。あの頃みたいにね。…その反応だと、まだみたいね」
明らかに残念そうな表情を浮かべ、コーヒーを口にする。
「まるであの頃の生活を再現したような内装ね」
あたりを見渡して、クリスティアはポツリと呟いた。
「君の作品を読んで、思い出したんだ。まるでヨーロッパのお城を表現したようだと宿泊客にも好評だよ」
これは、建前だ。
もしかしたら、彼女が来るかもしれない。
その時に、全てを思い出してくれるかもしれない。
わずかな希望に賭けたのだ。
「仕方ないわね。それじゃあ、私がマルスティアを見つけたら、その時はこのカフェで再会することにするわ」
「いいのか?」
「その代わり、その時はここのカフェ代金と宿泊費を無料にしてちょうだいね?」
漫画を読んで、全てを思い出した私のように、きっと彼女も漫画を読めば思い出すだろう。
まるでもうすぐにでも会えるかのような口ぶりに、期待してしまう。
「…会える見込みがあるのか?」
「もう知ってるでしょうけど、今度サイン会をするの。きっと、その時に会えるはずよ。さて、と」
クリスティアは立ち上がり、席を立つ。
「漫画の原稿の締め切りがあるから、もう行くわね。じゃあまた、近いうちに会いましょう…ルカ様」
*****
〝ルカ様〟
〝ルカ皇太子様〟
言葉が頭の中で反芻する。
隣に立っている人物に再び目を向けると、嬉しそうな、なんとも言えない表情で私を見つめていた。
私も、同じ気持ちだった。
一瞬で、あの頃に戻ったようだ。
「どうしてウエイターの格好なの?」
「この方が、自然に話しかけやすいだろうと思って…」
クリスティアが訊ねると、バツの悪そうな表情で、ウエイター…いや、ルカは視線を下に向けた。
一方のクリスティアは楽しそうだ。
二人は既にこの世界でも知り合いのようだった。
どこか懐かしさも感じつつ、モヤっとした感情が生まれるのがわかる。
以前も、そうだった。
クリスティアとルカは婚約者だったから。
当時の胸の痛みが、再び疼くのを感じて苦しくなった。
ルカ様。
ルカ皇太子様。
私はずっと、あなたのことを…
「さて、と。話したいことがたくさんあるんだけど、まずは腹ごしらえさせてくれないかしら?うわっ、何このタルト。美味しそう!私も同じものを頼むわ」
「わかった。ショートケーキもこだわって作ってるから食べてみたらいい」
ルカは別のウエイターを呼び、タルトとショートケーキ、コーヒーを注文した。
「ショートケーキが美味しいの?」
「あぁ。材料を厳選して作らせてるんだ。クリームにもこだわってる」
「よく知ってるのね。さすがは後継者だわ」
その言葉に驚いて、マルスティアは思わずルカを凝視してしまう。
その視線に、少し照れたように「このホテルは私の家族が経営してるんだ」と教えてくれた。
このホテル…後継者ってもしかして、◎◎グループの…?
とんでもない経営グループだ。
ルカ様は、生まれ変わっても世界が違う方なのね。本当に、すごいお方だわ。
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