幸せな空

ベル

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夢と現実

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目を開けると、真っ白な天井が目に入った。


頭がぼーっとする。
どこからともなくすーっと感覚が戻ってくる。


遠くの方で、鳥の鳴き声が聞こえる。


朝日がさんさんと、私を照らしているようだ。



......私は何をしていたんだろうか。



「由佳子っ....!?」



「.....?お母さん?」



手に持っていた荷物を放り出し、母が私をぎゅうっと抱きしめた。



「.....っ、よか、....った。」



泣きながら私を抱きしめる母を、私はぼんやりと眺めた。


私、何をしていたんだっけ....?





「うん、どこも異常はないようですね。念の為検査をしてもよろしいですか?」



「はい、よろしくお願いします」



「意識が戻って良かったですね。......実を言うと、かなり心配でしたから。本当に良かった。頑張ったね」



「あ....はい。ありがとうございます」



「....っ、ありがとうございます」



先生が私に笑顔でそう言った。

母はその声に涙声で答え、深々と頭を下げた。


私はその光景を、まだ整理できない頭でぼんやりと見つめていた。



その日私は色々な検査を行い、結果が出るまで入院することになった。





「ほんとに、心臓が止まるかと思ったんだぞ」


母から私が意識が戻ったと連絡を受け、父も仕事を切り上げて駆けつけてくれた。


話を聞くと、私はお風呂で意識を失い、数日間目を覚まさなかったという。


大学を卒業して、フリーランスで絵の仕事をしていた私は、仕事の都合もあり一人暮らしを始めた。


始めてすぐの時は全く仕事がなく困っていた事もあり、どんな仕事も全力でをモットーに取り組んだ。


そのおかげで徐々に仕事が増えて来たが、仕事がない事への恐怖心を覚えてしまった私は、かなり無理をして多くのことを引き受けていた為、無理が祟ったのだろう。



たまたまその日は母が食事を作りにマンションに来てくれていた。


いくら待ってもお風呂から上がってこない私を心配した母が、お風呂場を確認し、意識を失った私を発見したという訳だ。



私が意識を取り戻すまでの間、母はつきっきりで病院にいたそうだ。


十分に寝ていなかったのだろう。

母の目には、ひどいくまができていた。



「由佳子、しばらく仕事は休みなさい。無理をするんじゃないぞ。ほら、母さんも寝ていないんだから今日は帰るぞ」



そう私に告げ、ふらふらな状態の母を連れて父は病室をあとにした。



私は、何か夢を見ていた気がする。

けれど、それがどのような夢だったのか、全く思い出せない。



「あっ、そうだった!!!」



父に仕事は休めと言われたばかりだったが、個展の絵の仕事が入っていたのを思い出した。


慌てて携帯で日付を確認すると、とっくに締め切りの日を過ぎていた。


しかし不思議な事に、相手先からの着信履歴がない。

普通なら、絵が届いていないのだから締め切り前に連絡が来るはずなのに。



「坂下さんですか!意識が戻ったんですね、あーー、本当によかったです。心配していたんですよ」



病室を出て急いで電話をすると、私の意識が戻ったことに安心したような声で相手の担当者が答えた。



「すみません、絵の締め切りが既に過ぎてしまっていてご迷惑を....」


「何言ってるんですかー!その絵ならとっくにいただいてますよ。それにしても、さすが坂下さんですね。クオリティが素晴らしくて驚きました」



担当者からは、意外な答えが返ってくる。


「え....?」



どういう事だろう。

絵はまだ制作途中だったはず。



相手先の担当者は続けて言った。



「スタッフもみんな言ってましたよ、この絵を見たら心が落ち着くって。まるで天国を再現した絵みたいだって」



「天国....?」



「これは個展で人気でますよ!体調が落ち着いたら、坂下さんもぜひいらしてください!」



電話を切り、頭を整理する。


長い時間意識を失っていたから、記憶も一緒に飛んでいってしまったのだろうか。


もしかすると、仕事を掛け持ちしていたから別の仕事とごっちゃになっているのかもしれない。





「意識が戻ったんだね」



病室に戻ると、同じ病室で隣にいるおじいさんに話しかけられた。


とても品がよく、ダンディーという言葉がぴったりな雰囲気だ。



「あ、はい。さっき目が覚めたんです」



そう言った瞬間、私のお腹がグーーーーっと鳴った。


恥ずかしさで顔が真っ赤になる。



「ははっ、元気になったようで良かったよ」



それから、特にすることが無かった私はそのおじいさんとしばらくの間談笑した。



そのおじいさんは木下 渉さんといい、定年退職をするまで営業マンとして働いていたそうだ。


退職後は趣味で始めたカメラを持って、色々な場所で写真を撮っているという。



「写真を撮るのに良いスポットがあってね。そこで一人夢中で写真を撮っていたら、段差に気づかなくて転んでしまったんだ。それでこの有様だよ。妻には心配をかけてしまって」



手にギプスを付け、木下さんは苦笑いをした。

腕以外特に悪い箇所はないが、高齢のため、万が一を考えて入院する事になったそうだ。

側にある机には、奥さんが置いていったのだろう、綺麗な花が飾られていた。


しばらくたわいもない話しをしていると、男の人が病室に入ってきた。


その人物を見て、驚く。


相手も私に気づいたのか、驚いた声をあげた。



「坂下じゃないか!お前こんなところで何してるんだ」



高校時代、お世話になった担任の木下先生だった。
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