17 / 33
夢と現実
しおりを挟む
目を開けると、真っ白な天井が目に入った。
頭がぼーっとする。
どこからともなくすーっと感覚が戻ってくる。
遠くの方で、鳥の鳴き声が聞こえる。
朝日がさんさんと、私を照らしているようだ。
......私は何をしていたんだろうか。
「由佳子っ....!?」
「.....?お母さん?」
手に持っていた荷物を放り出し、母が私をぎゅうっと抱きしめた。
「.....っ、よか、....った。」
泣きながら私を抱きしめる母を、私はぼんやりと眺めた。
私、何をしていたんだっけ....?
「うん、どこも異常はないようですね。念の為検査をしてもよろしいですか?」
「はい、よろしくお願いします」
「意識が戻って良かったですね。......実を言うと、かなり心配でしたから。本当に良かった。頑張ったね」
「あ....はい。ありがとうございます」
「....っ、ありがとうございます」
先生が私に笑顔でそう言った。
母はその声に涙声で答え、深々と頭を下げた。
私はその光景を、まだ整理できない頭でぼんやりと見つめていた。
その日私は色々な検査を行い、結果が出るまで入院することになった。
「ほんとに、心臓が止まるかと思ったんだぞ」
母から私が意識が戻ったと連絡を受け、父も仕事を切り上げて駆けつけてくれた。
話を聞くと、私はお風呂で意識を失い、数日間目を覚まさなかったという。
大学を卒業して、フリーランスで絵の仕事をしていた私は、仕事の都合もあり一人暮らしを始めた。
始めてすぐの時は全く仕事がなく困っていた事もあり、どんな仕事も全力でをモットーに取り組んだ。
そのおかげで徐々に仕事が増えて来たが、仕事がない事への恐怖心を覚えてしまった私は、かなり無理をして多くのことを引き受けていた為、無理が祟ったのだろう。
たまたまその日は母が食事を作りにマンションに来てくれていた。
いくら待ってもお風呂から上がってこない私を心配した母が、お風呂場を確認し、意識を失った私を発見したという訳だ。
私が意識を取り戻すまでの間、母はつきっきりで病院にいたそうだ。
十分に寝ていなかったのだろう。
母の目には、ひどいくまができていた。
「由佳子、しばらく仕事は休みなさい。無理をするんじゃないぞ。ほら、母さんも寝ていないんだから今日は帰るぞ」
そう私に告げ、ふらふらな状態の母を連れて父は病室をあとにした。
私は、何か夢を見ていた気がする。
けれど、それがどのような夢だったのか、全く思い出せない。
「あっ、そうだった!!!」
父に仕事は休めと言われたばかりだったが、個展の絵の仕事が入っていたのを思い出した。
慌てて携帯で日付を確認すると、とっくに締め切りの日を過ぎていた。
しかし不思議な事に、相手先からの着信履歴がない。
普通なら、絵が届いていないのだから締め切り前に連絡が来るはずなのに。
「坂下さんですか!意識が戻ったんですね、あーー、本当によかったです。心配していたんですよ」
病室を出て急いで電話をすると、私の意識が戻ったことに安心したような声で相手の担当者が答えた。
「すみません、絵の締め切りが既に過ぎてしまっていてご迷惑を....」
「何言ってるんですかー!その絵ならとっくにいただいてますよ。それにしても、さすが坂下さんですね。クオリティが素晴らしくて驚きました」
担当者からは、意外な答えが返ってくる。
「え....?」
どういう事だろう。
絵はまだ制作途中だったはず。
相手先の担当者は続けて言った。
「スタッフもみんな言ってましたよ、この絵を見たら心が落ち着くって。まるで天国を再現した絵みたいだって」
「天国....?」
「これは個展で人気でますよ!体調が落ち着いたら、坂下さんもぜひいらしてください!」
電話を切り、頭を整理する。
長い時間意識を失っていたから、記憶も一緒に飛んでいってしまったのだろうか。
もしかすると、仕事を掛け持ちしていたから別の仕事とごっちゃになっているのかもしれない。
「意識が戻ったんだね」
病室に戻ると、同じ病室で隣にいるおじいさんに話しかけられた。
とても品がよく、ダンディーという言葉がぴったりな雰囲気だ。
「あ、はい。さっき目が覚めたんです」
そう言った瞬間、私のお腹がグーーーーっと鳴った。
恥ずかしさで顔が真っ赤になる。
「ははっ、元気になったようで良かったよ」
それから、特にすることが無かった私はそのおじいさんとしばらくの間談笑した。
そのおじいさんは木下 渉さんといい、定年退職をするまで営業マンとして働いていたそうだ。
退職後は趣味で始めたカメラを持って、色々な場所で写真を撮っているという。
「写真を撮るのに良いスポットがあってね。そこで一人夢中で写真を撮っていたら、段差に気づかなくて転んでしまったんだ。それでこの有様だよ。妻には心配をかけてしまって」
手にギプスを付け、木下さんは苦笑いをした。
腕以外特に悪い箇所はないが、高齢のため、万が一を考えて入院する事になったそうだ。
側にある机には、奥さんが置いていったのだろう、綺麗な花が飾られていた。
しばらくたわいもない話しをしていると、男の人が病室に入ってきた。
その人物を見て、驚く。
相手も私に気づいたのか、驚いた声をあげた。
「坂下じゃないか!お前こんなところで何してるんだ」
高校時代、お世話になった担任の木下先生だった。
頭がぼーっとする。
どこからともなくすーっと感覚が戻ってくる。
遠くの方で、鳥の鳴き声が聞こえる。
朝日がさんさんと、私を照らしているようだ。
......私は何をしていたんだろうか。
「由佳子っ....!?」
「.....?お母さん?」
手に持っていた荷物を放り出し、母が私をぎゅうっと抱きしめた。
「.....っ、よか、....った。」
泣きながら私を抱きしめる母を、私はぼんやりと眺めた。
私、何をしていたんだっけ....?
「うん、どこも異常はないようですね。念の為検査をしてもよろしいですか?」
「はい、よろしくお願いします」
「意識が戻って良かったですね。......実を言うと、かなり心配でしたから。本当に良かった。頑張ったね」
「あ....はい。ありがとうございます」
「....っ、ありがとうございます」
先生が私に笑顔でそう言った。
母はその声に涙声で答え、深々と頭を下げた。
私はその光景を、まだ整理できない頭でぼんやりと見つめていた。
その日私は色々な検査を行い、結果が出るまで入院することになった。
「ほんとに、心臓が止まるかと思ったんだぞ」
母から私が意識が戻ったと連絡を受け、父も仕事を切り上げて駆けつけてくれた。
話を聞くと、私はお風呂で意識を失い、数日間目を覚まさなかったという。
大学を卒業して、フリーランスで絵の仕事をしていた私は、仕事の都合もあり一人暮らしを始めた。
始めてすぐの時は全く仕事がなく困っていた事もあり、どんな仕事も全力でをモットーに取り組んだ。
そのおかげで徐々に仕事が増えて来たが、仕事がない事への恐怖心を覚えてしまった私は、かなり無理をして多くのことを引き受けていた為、無理が祟ったのだろう。
たまたまその日は母が食事を作りにマンションに来てくれていた。
いくら待ってもお風呂から上がってこない私を心配した母が、お風呂場を確認し、意識を失った私を発見したという訳だ。
私が意識を取り戻すまでの間、母はつきっきりで病院にいたそうだ。
十分に寝ていなかったのだろう。
母の目には、ひどいくまができていた。
「由佳子、しばらく仕事は休みなさい。無理をするんじゃないぞ。ほら、母さんも寝ていないんだから今日は帰るぞ」
そう私に告げ、ふらふらな状態の母を連れて父は病室をあとにした。
私は、何か夢を見ていた気がする。
けれど、それがどのような夢だったのか、全く思い出せない。
「あっ、そうだった!!!」
父に仕事は休めと言われたばかりだったが、個展の絵の仕事が入っていたのを思い出した。
慌てて携帯で日付を確認すると、とっくに締め切りの日を過ぎていた。
しかし不思議な事に、相手先からの着信履歴がない。
普通なら、絵が届いていないのだから締め切り前に連絡が来るはずなのに。
「坂下さんですか!意識が戻ったんですね、あーー、本当によかったです。心配していたんですよ」
病室を出て急いで電話をすると、私の意識が戻ったことに安心したような声で相手の担当者が答えた。
「すみません、絵の締め切りが既に過ぎてしまっていてご迷惑を....」
「何言ってるんですかー!その絵ならとっくにいただいてますよ。それにしても、さすが坂下さんですね。クオリティが素晴らしくて驚きました」
担当者からは、意外な答えが返ってくる。
「え....?」
どういう事だろう。
絵はまだ制作途中だったはず。
相手先の担当者は続けて言った。
「スタッフもみんな言ってましたよ、この絵を見たら心が落ち着くって。まるで天国を再現した絵みたいだって」
「天国....?」
「これは個展で人気でますよ!体調が落ち着いたら、坂下さんもぜひいらしてください!」
電話を切り、頭を整理する。
長い時間意識を失っていたから、記憶も一緒に飛んでいってしまったのだろうか。
もしかすると、仕事を掛け持ちしていたから別の仕事とごっちゃになっているのかもしれない。
「意識が戻ったんだね」
病室に戻ると、同じ病室で隣にいるおじいさんに話しかけられた。
とても品がよく、ダンディーという言葉がぴったりな雰囲気だ。
「あ、はい。さっき目が覚めたんです」
そう言った瞬間、私のお腹がグーーーーっと鳴った。
恥ずかしさで顔が真っ赤になる。
「ははっ、元気になったようで良かったよ」
それから、特にすることが無かった私はそのおじいさんとしばらくの間談笑した。
そのおじいさんは木下 渉さんといい、定年退職をするまで営業マンとして働いていたそうだ。
退職後は趣味で始めたカメラを持って、色々な場所で写真を撮っているという。
「写真を撮るのに良いスポットがあってね。そこで一人夢中で写真を撮っていたら、段差に気づかなくて転んでしまったんだ。それでこの有様だよ。妻には心配をかけてしまって」
手にギプスを付け、木下さんは苦笑いをした。
腕以外特に悪い箇所はないが、高齢のため、万が一を考えて入院する事になったそうだ。
側にある机には、奥さんが置いていったのだろう、綺麗な花が飾られていた。
しばらくたわいもない話しをしていると、男の人が病室に入ってきた。
その人物を見て、驚く。
相手も私に気づいたのか、驚いた声をあげた。
「坂下じゃないか!お前こんなところで何してるんだ」
高校時代、お世話になった担任の木下先生だった。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる