幸せな空

ベル

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間違え

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「由佳子さん」



優しい声で目がさめる。



「あ....サキさん。あれ、すみません。私寝てました?」



ほんの少しの間だけ、目を閉じたつもりだった。



パシャッ.....



足元に、水が当たるのがわかった。



「え?ここ...」



「由佳子さん。私、間違えていたみたいです」



「え....?」



どういう意味か、わからない。


サキさんは、戸惑う私を落ち着かせるように、穏やかな口調で続けた。



「由佳子さん。あなたはまだ、この世界に来るには早すぎました」



「どういう、ことですか?」



「由佳子。あなたは元の世界に戻りなさい」



「おばあちゃん....」



気づくと、隣に祖母がいた。


いつものように、にこにこ笑顔で私を見つめる。


私、人としての人生を終えたからここにいるんじゃないの?


どういうこと?


戻るって、どこに?



「まだここに来るには早過ぎたの。由佳子、あなたはまだまだ人としての人生が残ってる。だから、元の世界に帰りなさい」



「私、もう人生を終えたんじゃないの?」



「よく、考えてみて。あなたの寿命はまだまだ残ってるの。それに、さっきからあなたをずっと呼んでいる人がいるのよ」



そして、祖母はぎゅっと私を抱きしめた。



「久しぶりにあなたと会えて、本当に嬉しかった。こんなに成長したあなたと、こうして話せて、抱きしめられる。こんなに幸せな事はないわ」



不意に、涙が溢れた。


戻れば、元の世界に帰れば、祖母とはもう会えない。


それがわかったから。



「嫌だっ.....なんで戻れなんて言うの?戻るなら、おばあちゃんも一緒に戻ろう?」



震える声で祖母に訴える。



「由佳子」



体を離し、祖母はにっこりと笑う。



「あなたはもう分かっているでしょう?それは出来ないの。いくらこの世界が自由で何でもできる世界だとしても、それは出来ない」



「でもっ....」



「おばあちゃんね、あなたが私の孫として産まれてきてくれて、本当に嬉しかった。それに、こうして成長したあなたと会えるなんて。幸せ者よ。心配しなくても、また会えるわ」



気がつくと、この世界に来た時の船に乗っていた。



「おばあちゃん!!!」



「由佳子、心配しないで。私はここで幸せに過ごしてるの。だから、あなたはあなたの人生をしっかりと生きて。絶対よ。あと.....」






由佳子を乗せた船が、どんどん小さくなって.....


やがて、光に包まれて消えていった。



この世界に、悲しみは存在しない。

あるのは、幸福な気持ちだけ。



「うふふっ.....おかしいわねぇっ.....、どうして....こんなに、涙が溢れるのかしらね」



祖母は、微笑みながら、由佳子が消えていく方を眺めて静かに涙を流した。



「サキさん。あなたは、本当にあの子を想っているのね」



「.....何のことですか?」



「あの子は元々、本当にこの世界にくるかもしれなかった。それを変えたのはあなたでしょう?それに、良かったの?あの子に伝えたい事があったんじゃないの?」



溢れる涙を拭いながら、祖母はそっとサキさんを見た。



「いいんです。私は、由佳子さんの守護霊ですから」



まるで自分の子どもを見つめるように、サキさんは由佳子が消えていった方を眺めた。


そして、すっ....と輝く光の玉へと姿を変える。



「あの子の事、お願いしますね」



祖母の言葉に応えるように、光の玉はくるくると祖母の周りを周り、やがて光の方へ消えていった。
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