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祖父と祖母②
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祖母の父の怒りは相当なものだった。
争う声で目覚めた祖父は、ズキズキと痛む頬と頭を押さえた。
頭がぼんやりとする。
一体、何が起こったんだろうか。
『二度と取引はせんからな!!!』
祖母の父の怒鳴り声で、ようやく祖父は我にかえった。
『あのっ....ほんとにすんませんでした!!!!』
『正一.....』
扉を開けてすぐに祖父は土下座をした。
頭を恐る恐るあげると、怒りに満ちた表情で祖母の父は祖父を睨みつけ、その側で女将さんが涙目で俯いている。
その前には、必死で頭を下げる両親の姿があった。
「その光景は、今でも忘れられん。わしはなんて事をしてしまったんだろうと、ようやく事の重大さを思い知った。まだ高校生で、頭もそんなにようなかったからなぁ....」
しみじみと、祖父は言う。
今の時代には考えられない世界だが、昔は男女の交際を禁じる学校もあったという。
しかも、祖母は老舗旅館の一人娘。
それはそれは、祖母の父の怒りは凄まじかったそうだ。
その後、祖父と祖母が会うことは許されず、それどころか旅館は祖父の野菜を一切仕入れてくれなくなった。
それだけでもかなりの痛手だったが、祖母の父は「祖父の農家とは取引をするな」と周囲に働きかけていた為、収入がみるみるうちに激減してしまった。
『父ちゃんごめん.....俺のせいだ』
何度も謝る父を、祖父の父は黙って見た。少しの沈黙の後、祖父にこう言った。
『喜美子ちゃんの事、本気で好きやったんか?』
『え....?』
『本気やったんかと聞いとる』
祖父は、小さく頷いた。
すると、祖父の父は「そうかそうか」と嬉しそうに笑った。
『なぁに、お前が謝る事やない。謝るんは父ちゃんの方や。お前の恋愛を妨げてしもうて、申し訳ないなぁ』
『そんな事っ.....』
『お前は心配せんでいい。父ちゃんな、これでも人脈はあるんやから』
そう言うと、祖父の父はちょっと出かけてくると言い、いつもより正装をして出ていった。
『正一、あんたは何も心配する事ないんやからね』
そう言って、祖父の母はにっこりと微笑んだ。
数日後、祖父の父は隣町の市場に野菜の配達に行った。
祖父の父の旧友が隣町の大きな市場の責任者で、そこの一角で販売してもらえることになったのだ。
それに加えて、祖父の母は料理の腕前がピカイチだった。
傷んだ野菜を調理し、お惣菜として売り出した所、飛ぶように売れていった。
だから言っただろうと、祖父の父は誇らしげに笑った。
それから数ヶ月が経った。
祖父は、みんなが寝静まった後、縁側でぼんやりと祖母の旅館の方を眺めていた。
もう、随分姿を見ていない。
あの子は、元気なんだろうか。
あの日を境に、お手伝いさんを雇って住む場所も高校も変えたのではないか、という噂すら上がっていた。
....会いたい。
でも、俺にはそんな資格はない。
『まだ、あの子の事好きなんね?』
『母ちゃん....起きてたん』
祖父の母は、微笑みながら祖父の隣に座った。
『そんなに好きなら、そのままでいい』
『え....?』
『みんな、同じ人間なんやから。確かに、あの子とうちでは身分が違いすぎるかもしれんけど、人を好きになる事に身分も何も関係ないんよ』
『母ちゃん....』
『私と父ちゃんは元々幼なじみでね。私の方が昔っから父ちゃんの事大好きやったから、もうずーーっと、「父ちゃんとしか結婚せん!」って小さい頃から言いよったんよ』
そしたら叶ったわ、といたずらっ子のように笑う。
『正一。あんたは良い子よ。母親やからとか、そんなん関係なくこんなに良い子はおらんと思う!』
『....やめ。恥ずかしい』
『ふふっ。だからね正一。あんたは何も悪くない。恥じる事も、後悔する事も、何にも無いんよ』
ポンポン、と背中を叩く。
その優しい叩き方とは裏腹に、祖父の母の言葉は力強かった。
『好きなもんは、仕方ないんよ。好きなんやからどうしようもない。堂々としとき!....あんたは私の自慢の息子なんやから』
『....ん』
祖父は、目に溜まる涙が祖父の母にバレないよう、流れる星空を眺めていた。
争う声で目覚めた祖父は、ズキズキと痛む頬と頭を押さえた。
頭がぼんやりとする。
一体、何が起こったんだろうか。
『二度と取引はせんからな!!!』
祖母の父の怒鳴り声で、ようやく祖父は我にかえった。
『あのっ....ほんとにすんませんでした!!!!』
『正一.....』
扉を開けてすぐに祖父は土下座をした。
頭を恐る恐るあげると、怒りに満ちた表情で祖母の父は祖父を睨みつけ、その側で女将さんが涙目で俯いている。
その前には、必死で頭を下げる両親の姿があった。
「その光景は、今でも忘れられん。わしはなんて事をしてしまったんだろうと、ようやく事の重大さを思い知った。まだ高校生で、頭もそんなにようなかったからなぁ....」
しみじみと、祖父は言う。
今の時代には考えられない世界だが、昔は男女の交際を禁じる学校もあったという。
しかも、祖母は老舗旅館の一人娘。
それはそれは、祖母の父の怒りは凄まじかったそうだ。
その後、祖父と祖母が会うことは許されず、それどころか旅館は祖父の野菜を一切仕入れてくれなくなった。
それだけでもかなりの痛手だったが、祖母の父は「祖父の農家とは取引をするな」と周囲に働きかけていた為、収入がみるみるうちに激減してしまった。
『父ちゃんごめん.....俺のせいだ』
何度も謝る父を、祖父の父は黙って見た。少しの沈黙の後、祖父にこう言った。
『喜美子ちゃんの事、本気で好きやったんか?』
『え....?』
『本気やったんかと聞いとる』
祖父は、小さく頷いた。
すると、祖父の父は「そうかそうか」と嬉しそうに笑った。
『なぁに、お前が謝る事やない。謝るんは父ちゃんの方や。お前の恋愛を妨げてしもうて、申し訳ないなぁ』
『そんな事っ.....』
『お前は心配せんでいい。父ちゃんな、これでも人脈はあるんやから』
そう言うと、祖父の父はちょっと出かけてくると言い、いつもより正装をして出ていった。
『正一、あんたは何も心配する事ないんやからね』
そう言って、祖父の母はにっこりと微笑んだ。
数日後、祖父の父は隣町の市場に野菜の配達に行った。
祖父の父の旧友が隣町の大きな市場の責任者で、そこの一角で販売してもらえることになったのだ。
それに加えて、祖父の母は料理の腕前がピカイチだった。
傷んだ野菜を調理し、お惣菜として売り出した所、飛ぶように売れていった。
だから言っただろうと、祖父の父は誇らしげに笑った。
それから数ヶ月が経った。
祖父は、みんなが寝静まった後、縁側でぼんやりと祖母の旅館の方を眺めていた。
もう、随分姿を見ていない。
あの子は、元気なんだろうか。
あの日を境に、お手伝いさんを雇って住む場所も高校も変えたのではないか、という噂すら上がっていた。
....会いたい。
でも、俺にはそんな資格はない。
『まだ、あの子の事好きなんね?』
『母ちゃん....起きてたん』
祖父の母は、微笑みながら祖父の隣に座った。
『そんなに好きなら、そのままでいい』
『え....?』
『みんな、同じ人間なんやから。確かに、あの子とうちでは身分が違いすぎるかもしれんけど、人を好きになる事に身分も何も関係ないんよ』
『母ちゃん....』
『私と父ちゃんは元々幼なじみでね。私の方が昔っから父ちゃんの事大好きやったから、もうずーーっと、「父ちゃんとしか結婚せん!」って小さい頃から言いよったんよ』
そしたら叶ったわ、といたずらっ子のように笑う。
『正一。あんたは良い子よ。母親やからとか、そんなん関係なくこんなに良い子はおらんと思う!』
『....やめ。恥ずかしい』
『ふふっ。だからね正一。あんたは何も悪くない。恥じる事も、後悔する事も、何にも無いんよ』
ポンポン、と背中を叩く。
その優しい叩き方とは裏腹に、祖父の母の言葉は力強かった。
『好きなもんは、仕方ないんよ。好きなんやからどうしようもない。堂々としとき!....あんたは私の自慢の息子なんやから』
『....ん』
祖父は、目に溜まる涙が祖父の母にバレないよう、流れる星空を眺めていた。
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