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祖父と祖母④
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家から20分程自転車を漕いだ場所にある山の少し奥まった場所に、岩穴がある。
そこは祖父が幼い頃から遊んでいた遊び場で、土地の神様がいるとされている場所だった。
祖母と会っていた頃、祖父は秘密の場所だと言って祖母に案内した事がある。
その時に、誰にも邪魔されずに会えるこの場所で、お互いの誕生日を祝おうと約束したのだ。
全速力で自転車を漕ぎ、息を切らせながらその場所に着き、自転車のライトを照らすと、寒さに身を縮めた祖母がいた。
コートを着てマフラーをぐるぐる巻きにしているが、この吹雪の中だ。
生きているかさえ心配で、身が凍りそうだった。
『正一くん.....』
祖父は自転車を蹴飛ばすようしにて降り、祖母の元まで駆け寄った。
そして、押し黙ったまま自分が着ていたダウンを祖母に着せる。
祖母を見つけた安堵の気持ちと、こんな遅い時間までこの吹雪の中待たせてしまった自分への苛立ち。
祖母は、約束を覚えてくれていたのだ。
そして、こんな吹雪の中でこうして待ってくれていた。
それも、自分のせいで....
言葉に出来ず、祖父は何も言えなかった。
そのまま、しばらくの間沈黙が続いた。
『....ごめんなさい』
ポツリと、祖母が沈黙を破った。
『みんな、今頃私の事探しるんよね?分かってる。こんな事しても、迷惑かけるだけだって事も』
『.......』
『でも....どうしても会いたかったの。今まで会いたくても、どう頑張ってもずっと会えなかったんよ。今日、お誕生日でしょ?一緒にお祝いしたかったの』
震える声でそう言うと、祖母は袋を祖父に渡した。
中身は、濃い青と淡い青が重なるように編まれた、手編みのマフラーだった。
無言の祖父の首元に、祖母はマフラーをそっと巻いた。
『うん....正一くんには、この青色が似合う』
涙目になりながら微笑む祖母を、祖父は堪らずぎゅっと抱きしめた。
『ごめん......ありがとう』
声が震える。
これが寒さのせいではない事はわかっていた。
祖父は、ポケットに入っていたマッチで火をつけ、側にあった木々を使って焚火を作った。
その側で2人で寄り添いながら、今まであった出来事を、些細な事もすべて話した。
今まで会えなかった分、それを必死で埋めるかのように。
『.....帰ろうか』
どれだけ時間が経っただろうか。
祖父は再度ダウンを祖母にしっかりと着込ませ、自転車の後ろに乗せた。
家に帰ると、近所の人や警察の人、旅館の従業員が総出で祖父たちを迎えた。
祖母の母は安堵で安心したように泣きじゃくり、ふらふらと倒れ込んだところを祖父の母に抱き抱えられていた。
祖父の父は、力強い目で祖父を見た。
そして、静かに頷いた。
祖父は、凄い剣幕の祖母の父に殴られそうになったが、祖母がそれを止めた。
『殴るなら私を殴って!!この人傷つけたら一生許さんから』
『喜美子....っ、お前....』
今まで決して怒る事なく、従順だった娘に初めて反抗され、祖母の父は驚いていた。
それから、祖父は毎日のように祖母の旅館に通い続けた。
〝喜美子さんと会うことを許して欲しい〟
祖父は必死で頭を下げたという。
「あの頃は必死じゃった。また、あの吹雪の日のように喜美子が無茶な事をせんか心配でなぁ。まぁ、わしが喜美子と会いたかったからでもあるんじゃが」
照れ臭そうに微笑む祖父だったが、私は改めて祖父と祖母がどれだけお互いを想っていたかを知り、少し羨ましくもあった。
今のように、携帯などがない時代で、お互いの連絡手段すらない。
もどかしかったに違いない。
そして、そんな日々が半年ほど過ぎようとした頃、ようやく祖母の父から会うことを許された。
『毎日毎日来られても迷惑だ!もう好きにしろっ』
ぶっきらぼうにそう言い放ったそうだが、女将さんはそれをふふっと笑いながら見ていた。
『あの人は昔から不器用な人でねぇ。あんな言い方しとるけど、正一くんの事認めてくれたみたい』
それから程なくして、祖父と祖母はお互いの両親公認で付き合うことになった。
近所の誰もが驚いていた。
〝あの老舗旅館のお嬢様と、農家の息子が付き合っている。しかも両家公認で!〟
このような噂で持ちきりになった。
事件が起きたのは、その数日後の事だった。
そこは祖父が幼い頃から遊んでいた遊び場で、土地の神様がいるとされている場所だった。
祖母と会っていた頃、祖父は秘密の場所だと言って祖母に案内した事がある。
その時に、誰にも邪魔されずに会えるこの場所で、お互いの誕生日を祝おうと約束したのだ。
全速力で自転車を漕ぎ、息を切らせながらその場所に着き、自転車のライトを照らすと、寒さに身を縮めた祖母がいた。
コートを着てマフラーをぐるぐる巻きにしているが、この吹雪の中だ。
生きているかさえ心配で、身が凍りそうだった。
『正一くん.....』
祖父は自転車を蹴飛ばすようしにて降り、祖母の元まで駆け寄った。
そして、押し黙ったまま自分が着ていたダウンを祖母に着せる。
祖母を見つけた安堵の気持ちと、こんな遅い時間までこの吹雪の中待たせてしまった自分への苛立ち。
祖母は、約束を覚えてくれていたのだ。
そして、こんな吹雪の中でこうして待ってくれていた。
それも、自分のせいで....
言葉に出来ず、祖父は何も言えなかった。
そのまま、しばらくの間沈黙が続いた。
『....ごめんなさい』
ポツリと、祖母が沈黙を破った。
『みんな、今頃私の事探しるんよね?分かってる。こんな事しても、迷惑かけるだけだって事も』
『.......』
『でも....どうしても会いたかったの。今まで会いたくても、どう頑張ってもずっと会えなかったんよ。今日、お誕生日でしょ?一緒にお祝いしたかったの』
震える声でそう言うと、祖母は袋を祖父に渡した。
中身は、濃い青と淡い青が重なるように編まれた、手編みのマフラーだった。
無言の祖父の首元に、祖母はマフラーをそっと巻いた。
『うん....正一くんには、この青色が似合う』
涙目になりながら微笑む祖母を、祖父は堪らずぎゅっと抱きしめた。
『ごめん......ありがとう』
声が震える。
これが寒さのせいではない事はわかっていた。
祖父は、ポケットに入っていたマッチで火をつけ、側にあった木々を使って焚火を作った。
その側で2人で寄り添いながら、今まであった出来事を、些細な事もすべて話した。
今まで会えなかった分、それを必死で埋めるかのように。
『.....帰ろうか』
どれだけ時間が経っただろうか。
祖父は再度ダウンを祖母にしっかりと着込ませ、自転車の後ろに乗せた。
家に帰ると、近所の人や警察の人、旅館の従業員が総出で祖父たちを迎えた。
祖母の母は安堵で安心したように泣きじゃくり、ふらふらと倒れ込んだところを祖父の母に抱き抱えられていた。
祖父の父は、力強い目で祖父を見た。
そして、静かに頷いた。
祖父は、凄い剣幕の祖母の父に殴られそうになったが、祖母がそれを止めた。
『殴るなら私を殴って!!この人傷つけたら一生許さんから』
『喜美子....っ、お前....』
今まで決して怒る事なく、従順だった娘に初めて反抗され、祖母の父は驚いていた。
それから、祖父は毎日のように祖母の旅館に通い続けた。
〝喜美子さんと会うことを許して欲しい〟
祖父は必死で頭を下げたという。
「あの頃は必死じゃった。また、あの吹雪の日のように喜美子が無茶な事をせんか心配でなぁ。まぁ、わしが喜美子と会いたかったからでもあるんじゃが」
照れ臭そうに微笑む祖父だったが、私は改めて祖父と祖母がどれだけお互いを想っていたかを知り、少し羨ましくもあった。
今のように、携帯などがない時代で、お互いの連絡手段すらない。
もどかしかったに違いない。
そして、そんな日々が半年ほど過ぎようとした頃、ようやく祖母の父から会うことを許された。
『毎日毎日来られても迷惑だ!もう好きにしろっ』
ぶっきらぼうにそう言い放ったそうだが、女将さんはそれをふふっと笑いながら見ていた。
『あの人は昔から不器用な人でねぇ。あんな言い方しとるけど、正一くんの事認めてくれたみたい』
それから程なくして、祖父と祖母はお互いの両親公認で付き合うことになった。
近所の誰もが驚いていた。
〝あの老舗旅館のお嬢様と、農家の息子が付き合っている。しかも両家公認で!〟
このような噂で持ちきりになった。
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