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とある国の森深く、一人の男が何かを探し求めるように彷徨い歩いていた。
「チッ…なんだよ、強ぇ魔物がいるって話じゃなかったのか?」
男の名はダリル。腕の立つ冒険者として一目置かれていたが、同時に荒々しい性格の為、周囲から遠巻きにもされていた。
しかし、鍛え抜かれ、引き締まった肉体は雄々しく、鋭い目つきながらも整った見目は、色を含んだ欲と羨望の眼差しを向けられることも多く、距離を置かれることにも、ダリルはある種の優越感を味わっていた。
ある日、都の酒場でダリルは気になる話を耳にした。
曰く、都から遠く離れた森の奥深くに、数百年前から強い魔物が住み着き、貴重な鉱山を独り占めしているのだと。
魔物が鉱山を独占して何の意味があるのか、ほぼ手付かずのそこは正に宝の山だろう、その魔物を討伐できたとすれば、きっと一躍有名になれるはず───そんな夢物語のような話を、冒険者達が酔った勢いでやいのやいのと騒いで話していた。
(…面白ぇ話じゃねーか)
話の真偽は分からないが、火の無いところに煙は立たないと言う。なにかしらのお宝か、強い魔物でもいれば面白い…実に短絡的に、楽観的に、口元を笑みの形で歪めると、ダリルは残りの酒を煽った。
酒場で話を聞いた翌日、ダリルは早々に都を発った。
普段から単独で活動していた為、特に止める者もなく、自分の行きたいところへ行き、動きたいように動く。いつもそうしていた。
都から離れ、聞き齧っただけのあやふやな情報を頼りに何日も何日も移動を重ね、それらしい森の奥深くへと躊躇うことなく進んでいく。
道中狩った魔物達もそれなりの強さだったが、ダリルにとっては何の障害にもならなかった。
どんどん深くなる森は、やがて人の立ち入った痕跡すら無い、鬱蒼とした大自然の世界になった。
「ああくそっ…!無駄足だったか?」
確かに出会う魔物は少しずつ強くなっているが、鉱山と呼べるような山も見当たらなければ、それを独占しているらしい魔物も見当たらない。
所詮は酔っ払いの与太話だったか…と、それに踊らされた己の馬鹿さ加減に思わず舌打ちをした時だった。
「……なんだありゃ」
ふと意識を向けた木々の葉が重なるように生い茂った先、まるで人の目から隠すように、ひっそりと空いた空洞が見えた。
引き込まれるように木々を薙ぎ倒し、空洞へと向かえば、そこには岩の山をくり抜いたような大きな洞窟が現れた。
「…なんだ、見るからに怪しいじゃねーか」
そう言いながら、口元は笑っていた。
奥から妙な気配がする。冒険者故の経験からか、それとも野生の勘か。
これまでとは違う雰囲気に身震いすると、ダリルは洞窟の中へと足を踏み入れた。
「オラァッ!」
向かってくる魔物と思しき植物を切り捨て、薙ぎ払いながら、洞窟の奥へ奥へと進んでいく。
(……妙だな)
それなりに大きな魔物の気配は感じるのに、襲ってくるのは雑魚ばかり。あまりの手応えの無さに失望よりも疑念ばかりが募ったが、それでも先に進むことは止めなかった。
真っ暗なはずの洞窟の中は、転々と光を生み出す魔石が埋め込まれ、人工的に作られたものであることは明らかだった。
だが入り口を隠すように鬱蒼と生い茂っていた草木も、人の歩いた形跡も全く無かったことから、長く放置されているのは間違いなかった。
(数百年前から住み着いていると言ってたか?)
ならばこの人工的な造りは数百年前のものだろうか…そんなことを考えながら、徐々に複雑な造りになっていく洞窟の中を進んだ。
分かれ道が多く、まるで迷路のような造りになっているが、勘と気配を頼りに進んでいく。
帰り道に迷わぬ様、壁に傷を付けながら進み、どれほどか歩いた頃だった。
「……扉?」
一目で人工物と分かる大きな扉が目の前に現れた。
気配はその先から感じるが、あまりにも静かな様子に、若干の不安が募った。
引き返そうか進もうか…少しばかり悩みながら、ダリルは進むことを選んだ。
開くか分からぬ扉を押せば、呆気ないほど簡単に扉が開いた。それに拍子抜けしつつ、慎重に中に進めば、そこには広い部屋のような空間が広がっており、中央には『何か』を祀る祭壇のようなものが見えた。
「…なんだありゃ?」
広い空間では、それがなんであるかも遠目では分からなかった。
目を凝らす様に近づけば、数歩進んだところで、突然天井からバシャリと大量の水が降り注いだ。
「…ッ!?ゴホッ、…うぇっ、なんだ!?」
突然のことに辺りを見回し警戒するが、それ以上は何も起きなかった。
急に降り注いだ水に驚き、少しばかり飲み込んでしまったが、おかしな味もしなければ、全身びしょ濡れになった以外、体への異常も無い。
清らかな水だったのか、乾いていた喉は潤ったが、全身を濡らす不快感は最悪だった。
「チッ…!なんなんだ…!」
ぐっしょりと湿る上着の気持ち悪さに顔を顰めつつ、祭壇へと突き進む。
ここまで来て手ブラでは帰れない。半分意地になっていたダリルは、警戒心もなく祀られるように在る『何か』を目指し───絶句した。
「……人…?」
氷のような透明な壁の向こう側、透けるような白い肌に、揺蕩うような長い白金の髪をした美しい人が、眠るように目を閉じたまま佇んでいた。
「……女…じゃ、ないな…」
美しい顔立ちだが、その輪郭も骨格も、線は細いが男のそれだった。それでも見惚れてしまうほど美しい顔立ちを、茫然としながら見つめる。
「……なんだ?これは…此処は、どういう場所だ?」
ぐるりと辺りを見回すが、無機質で殺風景な部屋の中、ポツンと取り残されたようなこの空間だけが、妙な異質さを放っていた。
明らかに人工的なこの空間も、眠るこの人物のことも、もしやあまり関わってはいけない類のものなのでは───ようやく辿り着いた考えに、胸が騒ついた。
(…戻ろう)
長居は良くなさそうだ…そう思いながら、髪から滴る雫が目に入りそうになり、乱暴に腕で拭った。
水を拭った腕を、水滴を振り払うように振るう。その粒が雫となり、眠る人物を閉じ込めた透明な壁にポツリと当たった。
───瞬間、中にいる者の閉じられていた瞳がパチリと開き、美麗な顔が真っ直ぐにこちらを見据えた。
「───!!」
衝撃にも似た驚愕から後ろに飛び退きながら、瞼に隠されていた瞳の色が、人間のソレではない輝きを放っていることに、警戒レベルは一気に跳ね上がった。
(コイツ…!やはり魔物か…!!)
アメジストの中で金粉を弾けさせたような瞳は、人間の瞳としてあり得ない、明らかに異質な色彩だった。
距離を取るように飛び退きながら、腰に携えた剣を手に伸ばそうとした───が、その動きは何者かによって封じられた。
「なっ…!?」
手首と足首に絡まったのは、見覚えのある魔物と思しき植物の蔦。
先ほどまで、剣の一振りで簡単に薙ぎ払えたそれが、今は腕や足にキツく絡みつき、バランスを崩した体が転びそうになる。…が、自身の体は倒れることなく、よろけた体勢のまま宙に浮いた。
「くそっ!んだ、これ…!」
───油断した。
突然の出来事による焦りと、じわじわと全身を締め付けていく蔦に恐怖が募る。
まさか、このまま捻り切られてしまうのでは…そんなことを想像し、ゾッと背筋に悪寒が走った時だった。
「チッ…なんだよ、強ぇ魔物がいるって話じゃなかったのか?」
男の名はダリル。腕の立つ冒険者として一目置かれていたが、同時に荒々しい性格の為、周囲から遠巻きにもされていた。
しかし、鍛え抜かれ、引き締まった肉体は雄々しく、鋭い目つきながらも整った見目は、色を含んだ欲と羨望の眼差しを向けられることも多く、距離を置かれることにも、ダリルはある種の優越感を味わっていた。
ある日、都の酒場でダリルは気になる話を耳にした。
曰く、都から遠く離れた森の奥深くに、数百年前から強い魔物が住み着き、貴重な鉱山を独り占めしているのだと。
魔物が鉱山を独占して何の意味があるのか、ほぼ手付かずのそこは正に宝の山だろう、その魔物を討伐できたとすれば、きっと一躍有名になれるはず───そんな夢物語のような話を、冒険者達が酔った勢いでやいのやいのと騒いで話していた。
(…面白ぇ話じゃねーか)
話の真偽は分からないが、火の無いところに煙は立たないと言う。なにかしらのお宝か、強い魔物でもいれば面白い…実に短絡的に、楽観的に、口元を笑みの形で歪めると、ダリルは残りの酒を煽った。
酒場で話を聞いた翌日、ダリルは早々に都を発った。
普段から単独で活動していた為、特に止める者もなく、自分の行きたいところへ行き、動きたいように動く。いつもそうしていた。
都から離れ、聞き齧っただけのあやふやな情報を頼りに何日も何日も移動を重ね、それらしい森の奥深くへと躊躇うことなく進んでいく。
道中狩った魔物達もそれなりの強さだったが、ダリルにとっては何の障害にもならなかった。
どんどん深くなる森は、やがて人の立ち入った痕跡すら無い、鬱蒼とした大自然の世界になった。
「ああくそっ…!無駄足だったか?」
確かに出会う魔物は少しずつ強くなっているが、鉱山と呼べるような山も見当たらなければ、それを独占しているらしい魔物も見当たらない。
所詮は酔っ払いの与太話だったか…と、それに踊らされた己の馬鹿さ加減に思わず舌打ちをした時だった。
「……なんだありゃ」
ふと意識を向けた木々の葉が重なるように生い茂った先、まるで人の目から隠すように、ひっそりと空いた空洞が見えた。
引き込まれるように木々を薙ぎ倒し、空洞へと向かえば、そこには岩の山をくり抜いたような大きな洞窟が現れた。
「…なんだ、見るからに怪しいじゃねーか」
そう言いながら、口元は笑っていた。
奥から妙な気配がする。冒険者故の経験からか、それとも野生の勘か。
これまでとは違う雰囲気に身震いすると、ダリルは洞窟の中へと足を踏み入れた。
「オラァッ!」
向かってくる魔物と思しき植物を切り捨て、薙ぎ払いながら、洞窟の奥へ奥へと進んでいく。
(……妙だな)
それなりに大きな魔物の気配は感じるのに、襲ってくるのは雑魚ばかり。あまりの手応えの無さに失望よりも疑念ばかりが募ったが、それでも先に進むことは止めなかった。
真っ暗なはずの洞窟の中は、転々と光を生み出す魔石が埋め込まれ、人工的に作られたものであることは明らかだった。
だが入り口を隠すように鬱蒼と生い茂っていた草木も、人の歩いた形跡も全く無かったことから、長く放置されているのは間違いなかった。
(数百年前から住み着いていると言ってたか?)
ならばこの人工的な造りは数百年前のものだろうか…そんなことを考えながら、徐々に複雑な造りになっていく洞窟の中を進んだ。
分かれ道が多く、まるで迷路のような造りになっているが、勘と気配を頼りに進んでいく。
帰り道に迷わぬ様、壁に傷を付けながら進み、どれほどか歩いた頃だった。
「……扉?」
一目で人工物と分かる大きな扉が目の前に現れた。
気配はその先から感じるが、あまりにも静かな様子に、若干の不安が募った。
引き返そうか進もうか…少しばかり悩みながら、ダリルは進むことを選んだ。
開くか分からぬ扉を押せば、呆気ないほど簡単に扉が開いた。それに拍子抜けしつつ、慎重に中に進めば、そこには広い部屋のような空間が広がっており、中央には『何か』を祀る祭壇のようなものが見えた。
「…なんだありゃ?」
広い空間では、それがなんであるかも遠目では分からなかった。
目を凝らす様に近づけば、数歩進んだところで、突然天井からバシャリと大量の水が降り注いだ。
「…ッ!?ゴホッ、…うぇっ、なんだ!?」
突然のことに辺りを見回し警戒するが、それ以上は何も起きなかった。
急に降り注いだ水に驚き、少しばかり飲み込んでしまったが、おかしな味もしなければ、全身びしょ濡れになった以外、体への異常も無い。
清らかな水だったのか、乾いていた喉は潤ったが、全身を濡らす不快感は最悪だった。
「チッ…!なんなんだ…!」
ぐっしょりと湿る上着の気持ち悪さに顔を顰めつつ、祭壇へと突き進む。
ここまで来て手ブラでは帰れない。半分意地になっていたダリルは、警戒心もなく祀られるように在る『何か』を目指し───絶句した。
「……人…?」
氷のような透明な壁の向こう側、透けるような白い肌に、揺蕩うような長い白金の髪をした美しい人が、眠るように目を閉じたまま佇んでいた。
「……女…じゃ、ないな…」
美しい顔立ちだが、その輪郭も骨格も、線は細いが男のそれだった。それでも見惚れてしまうほど美しい顔立ちを、茫然としながら見つめる。
「……なんだ?これは…此処は、どういう場所だ?」
ぐるりと辺りを見回すが、無機質で殺風景な部屋の中、ポツンと取り残されたようなこの空間だけが、妙な異質さを放っていた。
明らかに人工的なこの空間も、眠るこの人物のことも、もしやあまり関わってはいけない類のものなのでは───ようやく辿り着いた考えに、胸が騒ついた。
(…戻ろう)
長居は良くなさそうだ…そう思いながら、髪から滴る雫が目に入りそうになり、乱暴に腕で拭った。
水を拭った腕を、水滴を振り払うように振るう。その粒が雫となり、眠る人物を閉じ込めた透明な壁にポツリと当たった。
───瞬間、中にいる者の閉じられていた瞳がパチリと開き、美麗な顔が真っ直ぐにこちらを見据えた。
「───!!」
衝撃にも似た驚愕から後ろに飛び退きながら、瞼に隠されていた瞳の色が、人間のソレではない輝きを放っていることに、警戒レベルは一気に跳ね上がった。
(コイツ…!やはり魔物か…!!)
アメジストの中で金粉を弾けさせたような瞳は、人間の瞳としてあり得ない、明らかに異質な色彩だった。
距離を取るように飛び退きながら、腰に携えた剣を手に伸ばそうとした───が、その動きは何者かによって封じられた。
「なっ…!?」
手首と足首に絡まったのは、見覚えのある魔物と思しき植物の蔦。
先ほどまで、剣の一振りで簡単に薙ぎ払えたそれが、今は腕や足にキツく絡みつき、バランスを崩した体が転びそうになる。…が、自身の体は倒れることなく、よろけた体勢のまま宙に浮いた。
「くそっ!んだ、これ…!」
───油断した。
突然の出来事による焦りと、じわじわと全身を締め付けていく蔦に恐怖が募る。
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