元精霊使いのささやかなミッション

RIO

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「…………で、なんで私なんですか?」

「そういうの、得意だろ?」

「あなたは私をなんだと思ってるんですか?」

「そりゃ『王国一、優秀な精霊使い』だろ。それ以外に何かあるのか?あ、もちろん、お前が戻ってくるならこの話はナシだ。どっちがいい?」

 地方師団で働く青年を焚きつけて王立軍に送り込むか、お前が戻るかどちらでもいい、とエルドレッドは言った。

 念のため、彼の言う『王国一、優秀な精霊使い』はとんでもない買いかぶりだ。この男は、私のことを何か誤解している。どちらかと言えば、その名目は彼にふさわしいものだった。

「私が戻るはずもないと、分かってて言ってます?それに、あなたの頼みを聞く必要なんて……」

「だから!来年からエマが産休なんだよ!スティールは手一杯だし、誰が仕事をやるんだ?だいたい、この人手不足の原因はだな……」

 かつての同僚の名前を出されて、私は少し現場の状況を想像してしまった。

 どう考えても手が回るようには思えなかったし、来年からの混乱状態と、産休もそこそこに即座に呼び出しを受けるエマの姿が思い浮かんでしまい、『お断りします』という言葉は喉の奥で止まったまま、出てこない。

 そして、人手不足になったのは主に私が辞めたからだと知っている分、エルドレッドにこれ以上喋らせたくはなかった。

「…………その青年が、今年中にあなたの部隊に行けばいいんですね?」

「やる気になったのか?」

「断ったら、何を言われるか分からないので。というか、エマに無理はさせないでくださいよ」

「別に、無理矢理呼び出してるわけじゃねえよ。だいたい、分かってるだろ。あいつは、まだお前が戻ってくるって……」

「あー!もういいです!……で、私は何をしたらいいんです?」

「もうこっちの関係者には話をつけてあるから、明日から行ってくれればいい。要は、その男が周りに認められて『あー、これは引き抜きがあってもおかしくない』って状態になってくれたらいいんだよ。簡単だろ?」

 誰だかも知らない青年を周囲に認めさせて、ついでに本人にもやる気になってもらうなんて、簡単な話ではないと思う。しかも、今年中ということは、残り3ヶ月と少ししかない。

 ただ、現在エルドレッドの部隊に残っているのはほとんど私が引っ張り込んだ人材だった。彼が、『こういうのは得意だろう』と言うのもそれほど見当違いではない。

 いくら彼がそういう複雑な作業が苦手だとは言え、余計な仕事をせずに本人に任せておけばよかったと後悔してはみるものの、すでに手遅れだった。

「まあ、お前がやる気になってくれてよかったよ!もしどうしても無理だって言うなら、穏便に話が進められなかっただろうからな」

「……穏便に?」

「一応言っておくけどな。ばっくれて適当に済ませようとか思うなよ?失敗したら、お前の居場所はあの人に報告するぞ」
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