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私がこんな話をしなければいけなくなったのは、目の前にいる酔っぱらいのせいだ。
「なあ、頼むよ!一生のお願いだ!」
私の目の前で土下座せんばかりの体勢を取っているのは、がっしりとした体型の大男だ。周りから、店の中でいったい何事だと思われていることだろう。さらに、この男はとんでもない有名人だった。
私が暮らしている地方都市では知る人も少ないだろうが、私の目の前にいる男、セオドア・エルドレッドは、王都ですべての精霊使いを従える部隊長である。少なくとも、その辺の居酒屋で土下座をするような身分ではない。万が一にも、周囲にバレたらと思うとぞっとする。
「…………エルドレッド様。そういうことはおやめ下さい、と言っているじゃないですか」
「おまえが俺の頼みを聞いてくれたら、いつでもやめてやるよ」
だいたい、『エルドレッド様』って何なんだよ、と彼はぶつぶつと呟いていた。
「どうせ分かりました、と言ったら『帰って来い』と言うんでしょう」
彼が最初にこの店に来たのは、私が引退してから1ヶ月と経たない日ののことだった。押したり引いたり、とにかく精霊使いとして復帰しろという一点張りで、ほぼ毎日のように押しかけてくるのには辟易したものだ。
彼は私が断り続けても3ヶ月は店に通い続けていたが、それ以降ぱったりと姿を見せなくなった。そして、半年ほどの間を空けて、今彼は再び私の目の前にいる。
「どうせ帰って来いと言ったって、『嫌だ』と言うんだろう。今日はそういう頼みじゃねえよ」
「じゃあ何なんですか。私のことは放っておいて下さいって言ったでしょう」
「お前なあ……誰がこの店を紹介したと思ってるんだ。誰にも言うなって言うから、ちゃんと黙ってるだろ。ちょっとくらい簡単な頼み事を聞いてくれたっていいじゃねえか、エリカ」
「今はその名前で呼ばないでください。あなたの関係者だと思われたら困ります」
「こんなとこで誰も聞いてねえだろ!」
「今は『リカ』です」
「……ああ、もう、面倒臭えな!分かったよ、リカでいいんだろ」
「もちろん、エルドレッド様には感謝してますよ。でも、それとこれとは話が別です。……それで、具体的な用件は?」
「だからお前に、ある男の更生を頼みたいんだよ」
「ある男、って誰のことです?」
「この街の警護師団で働いてる男だよ」
私はこの街で暮らしているが、ただの居酒屋の店員だ。王立軍であろうと地方の警護師団であろうとそんな場所に知り合いがいるわけがない。
ただでさえ、精霊にかかわる場所には近寄らないようにしているのだ。
「私は多分、その人と知り合いじゃありませんよ。だいたい、更生って何なんです」
「知り合いだなんて言ってないだろ。今、うちの隊に引き抜きを考えてるんだよ」
「地方の誰だか分からない、更生が必要な青年をですか?」
「お前はよく分かってるだろ!人手不足なんだよ、人手不足!」
ただ、とりあえず才能があるのは確かだ、とエルドレッドは続けた。話を聞くに、その青年は周囲からの嫉妬ややっかみで上手くいかず、やる気を失っている状態らしい。
このまま引き抜きをかけても周囲の人間が納得するわけもなく、余計に状態は悪化するだろう。そういった、無駄なゴタゴタを避けた上で、円満に人事を終えたいというのが目的のようだった。
人手不足に関しては、自分が彼の部隊から離れた手前もあって、突っ込むのはやめておいた。
「なあ、頼むよ!一生のお願いだ!」
私の目の前で土下座せんばかりの体勢を取っているのは、がっしりとした体型の大男だ。周りから、店の中でいったい何事だと思われていることだろう。さらに、この男はとんでもない有名人だった。
私が暮らしている地方都市では知る人も少ないだろうが、私の目の前にいる男、セオドア・エルドレッドは、王都ですべての精霊使いを従える部隊長である。少なくとも、その辺の居酒屋で土下座をするような身分ではない。万が一にも、周囲にバレたらと思うとぞっとする。
「…………エルドレッド様。そういうことはおやめ下さい、と言っているじゃないですか」
「おまえが俺の頼みを聞いてくれたら、いつでもやめてやるよ」
だいたい、『エルドレッド様』って何なんだよ、と彼はぶつぶつと呟いていた。
「どうせ分かりました、と言ったら『帰って来い』と言うんでしょう」
彼が最初にこの店に来たのは、私が引退してから1ヶ月と経たない日ののことだった。押したり引いたり、とにかく精霊使いとして復帰しろという一点張りで、ほぼ毎日のように押しかけてくるのには辟易したものだ。
彼は私が断り続けても3ヶ月は店に通い続けていたが、それ以降ぱったりと姿を見せなくなった。そして、半年ほどの間を空けて、今彼は再び私の目の前にいる。
「どうせ帰って来いと言ったって、『嫌だ』と言うんだろう。今日はそういう頼みじゃねえよ」
「じゃあ何なんですか。私のことは放っておいて下さいって言ったでしょう」
「お前なあ……誰がこの店を紹介したと思ってるんだ。誰にも言うなって言うから、ちゃんと黙ってるだろ。ちょっとくらい簡単な頼み事を聞いてくれたっていいじゃねえか、エリカ」
「今はその名前で呼ばないでください。あなたの関係者だと思われたら困ります」
「こんなとこで誰も聞いてねえだろ!」
「今は『リカ』です」
「……ああ、もう、面倒臭えな!分かったよ、リカでいいんだろ」
「もちろん、エルドレッド様には感謝してますよ。でも、それとこれとは話が別です。……それで、具体的な用件は?」
「だからお前に、ある男の更生を頼みたいんだよ」
「ある男、って誰のことです?」
「この街の警護師団で働いてる男だよ」
私はこの街で暮らしているが、ただの居酒屋の店員だ。王立軍であろうと地方の警護師団であろうとそんな場所に知り合いがいるわけがない。
ただでさえ、精霊にかかわる場所には近寄らないようにしているのだ。
「私は多分、その人と知り合いじゃありませんよ。だいたい、更生って何なんです」
「知り合いだなんて言ってないだろ。今、うちの隊に引き抜きを考えてるんだよ」
「地方の誰だか分からない、更生が必要な青年をですか?」
「お前はよく分かってるだろ!人手不足なんだよ、人手不足!」
ただ、とりあえず才能があるのは確かだ、とエルドレッドは続けた。話を聞くに、その青年は周囲からの嫉妬ややっかみで上手くいかず、やる気を失っている状態らしい。
このまま引き抜きをかけても周囲の人間が納得するわけもなく、余計に状態は悪化するだろう。そういった、無駄なゴタゴタを避けた上で、円満に人事を終えたいというのが目的のようだった。
人手不足に関しては、自分が彼の部隊から離れた手前もあって、突っ込むのはやめておいた。
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