元精霊使いのささやかなミッション

RIO

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 私は、目の前に浮かんでいる光球を、そのまま手で掴んだ。エリックはぎょっとした顔でその様子を見ている。

「ちょっと待って下さいね。外しますから」

 精霊が外れない場合、暴発だけでなく無駄に体力を奪われる可能性がある。話し合いでもしていれば別だが、こうやって勝手に取り付いたままというのはよくない。

 しかも、あのドラゴン退治のときに何をやったのか分からないけれど、光球の色は再び黒ずんできていた。このままにしておくには問題があるだろう。



 光の球は、抵抗もなくするりと私の手に収まった。元々抵抗する気はなかったのだろう。

 できればこんなことをしたくはなかったが、おかしな形でエルドレッドがかかわっている可能性がある以上、早々にエリックを王都に送り込む必要がありそうだった。3ヶ月も訪問を待っていたら、何が起きるか分からない。

「ねえ、本当に君、何なの?」

 エリックの疑問はもっともなことだった。使えなかったはずの精霊は何故かまともになって急に取り付いてくるし、専門の魔術師を呼んで対処する必要もなくなっている。不審に思っても仕方がない。

 ただ、ダインの場合はどうせ専門の魔術師が来ようとも解決するとは思えなかった。時間がない以上、そんなものを待っている場合ではない。

「────助手ですよ」

「…………王都だと、それが普通だって言うわけ?」

「まあ、そんなものですね」

 彼が私の言葉を信用したようには見えなかった。その辺りは仕方がないかもしれない。

「……君は、きちんと説明するって言ったよね」

「正直なところ、私は依頼を受けただけなんですよね。エリックさんにその気があるなら、連れてくるようにって」

 私はなんだか、無理に彼を王都に連れて行かなくてもいいような気になっていた。エルドレッドの動きはよく分からず、それに付き合っている方が余計なことに巻き込まれるような気がしたからだ。

 彼が行きたいというなら早々に彼を王都に送って姿を消す、気乗りしない場合は今すぐここから姿を消す方がよさそうだ。

「なんで君が、そんな依頼を受けなきゃいけないんだ?」

「…………まあ、私も査定されている最中みたいなものというか……」

「なんで俺を連れて行くことが査定に関わるんだよ」

「それは言ってる人に聞いてくださいよ。ただ、無理に王都に行ってくれとは言いませんけど」

「王都の人間っていうのはそんなに暇なのか?わざわざ俺のところに来るくらいなら、もうちょっと身近に人材はいるだろ?」

「それが案外、いないんですよ」

「…………そんなことあるのか?」

「あるんです。……まあ、何日か考えてみてください。ただ、エリックさんの場合、ここにいても近々問題が出てくると思いますよ」

 今回のことで、一時的にエリックの立場は改善するかもしれない。ただ、近いうちにこの部隊は彼をもてあますだろう。上層部にも信じてもらえないような結果を残したのだから、適切な配置がどこなのかも分からない。

「昨日から散々呼び出されてるんだから、もう問題は起こってるよ」

 それはそうかもしれない。

「次の定期審査は来週でしたっけ?」

 私はエリックに訊ねた。今回のことで彼の評価が変わったとはいえ、彼の実質的な成績は以前と比べて落ちている。その点を改善しておかないと、彼が王都に行くと言ったとしても後々問題があるだろう。

 手っ取り早く成績を更新するには、実務を伴う審査で結果を残すのが確実だった。

「そうだけど……それがどうかしたのか?」

「それまでに、これは私が調整しておきますね。使える精霊がいないと困るでしょう?」

 おそらく、他の精霊使いがダインを使いこなせるとは思えない。そして、今回何があったか判断するためにもエリックに他の精霊をあてがうことはないだろう。まず、エリックからは精霊が外れなかったことになっている。代わりを準備したところでどうしようもない。

「それはそうだけど。まさかまた、君は」

 また君は倒れるようなことをやるのか、と彼は続けようとしたのかもしれない。ただ、私は彼の言葉を遮るしかなかった。

 私の手の上で、ダインが騒ぎ出したからだ。一体、いつまで無視しているんだ、と。それだけならよいのだが、手の上の光球は形を変え始めていた。

「ごめんなさい、エリックさん。ちょっと今日は出ていってもらっていいですか!」

「──え!?ちょっと、どういう」

 とりあえず扉を閉めて、適当な言い訳を続ける。後で説明するだとか、ちょっと今は手が離せないだとか。部屋の鍵をかけたことで、エリックは諦めたようだった。

 そのときにはすでに部屋の中に煙が広がっていて、次に私が視線を向けたときには窓辺に少年が立っていた。

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