Vodzigaの日は遠く過ぎ去り。

宮塚恵一

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3.お酒の飲める幸福

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 部活の朝練は、思っていたよりもハードだった。
 現役時代はこれを当たり前にこなしていたんだもんな、という事実よ。

 先生が私のことを、学生時代は女バレのエースだったんだぞ、なんて女子バレー部員の皆に紹介したものだから変に肩肘を張って困った。
 競技用ボールなんてものを触るのも何年振りだ。中学を卒業してから部活を続ける暇なんてなかったから、それ以来かもしれない。

 部活に精を出す若人たちを眩しく見学しながら、先生との会話も弾んだ。
 今度一緒に飲みに行こう、なんて先生は嬉しそうに私の肩を叩いてくれた。

 正直、お酒は結構嗜む方だ。
 中学時代の恩師と大人になってから酒を酌み交わすのも一つの憧れでもあったし、先生のその申し出にはかなり前向きに返答させてもらった。
 私としては今日でも良かったが、先生の方に用事があったらしい。

 ただ、そんな話をしておいて飲みに行かないというのも、なんだか自分の中で梯子を外されたような気分だったので、コンビニで酒類を買って、宅飲みと洒落込むことにした。

「でもそっか。そうだなあ……」

 酒を飲みながら、少しばかり感慨に耽る。こうして生きている私には、当たり前に成人して、子供の頃にお世話になった大人と一緒に酒を飲む、なんて選択肢がある。
 成人した時も、私はとっくに先輩の年齢なんて追い越しちゃって、いつの間にお酒を飲める歳になったんだな、と涙を流しそうになったものだけど──。

 大怪獣ヴォズィガとの死闘の後。
 倒壊した街の中、私やHERMヘルマの皆は、必死で先輩を探したけど、先輩がその場にいたことを残す痕跡すら見つけられなかった。

 きっとそうなるだろう、という予感はあった。
 作戦概要からして、無茶だった。
 対ヴォズィガ装備|TALARIAタラリアに乗り込むその瞬間から、先輩は自らを道連れにヴォズィガを倒すことをとっくに覚悟していた。

「……私、とっくに大人になっちゃいましたよ、先輩」

 十代だった私達。戦うことを強いられた先輩と私。所謂、普通の青春というものを、経験することなく成長してしまった。
 私はまだ良い。だってこうして生きている。こうしてお酒を飲める幸福を味わえている。でも先輩が失ったのは普通の青春どころじゃない。怪獣に人生そのものを奪われたのに、先輩は十八の若さで、報われないまま消えてしまった。

 ……今日は朝からなんだか、妙に昔のことを思い出す。

「そうだ」

 私はダイニングテーブルに置いた鞄の中から、家の鍵を取り出した。
 今日の朝は一回、鍵がなくて慌てたんだから、ちゃんと玄関にしまっておかないと。

 家の鍵にぶら下がるキーホルダーをギュッと握りしめる。
 ウサギのぬいぐるみキーホルダーだ。
 かなり劣化して塗装も剥がれている。元は鮮やかなピンク色だったはずなのに、今は色がついているんだかついていないんだか判別できないくらい。

 あの日、先輩から預かったこのキーホルダーは今でも大切にしていた。だから鍵を開けてすぐ玄関に置いとけばいいのに、鞄の中とかにわざわざしまっちゃうんだ。
 一度チェーンが外れてキーホルダーをなくしたことがあったけど、その時は半泣きになりながら、一日中探し回ってどうにか見つけたものだ。

 私は家の鍵をちゃんと玄関に置いて、お酒を飲み直した。

 先輩を思い出しながら酒を飲んでいたら、思いの外酔いが回っていることに気付いた。心なしかズキズキと頭痛もする。
 明日も朝早いのだし、今日みたいなことにならないようにさっさと布団に潜ろう。

 そう思って、私はグラスに残っていたハイボールを一気に飲み干すと、就寝準備を始めた。
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