Vodzigaの日は遠く過ぎ去り。

宮塚恵一

文字の大きさ
9 / 23

8.先輩、遊びに行きましょう。

しおりを挟む
 HERMヘルマでまず要求されたのは、私が持つ眼を、有効に使うことだった。

 先輩に及ばずとも、先輩と同じことができるように訓練をさせられた。

 怪獣討伐が可能な人間が一人から二人になる。これはかなり劇的な変化だ。

 逆に、二人もの特異な人材を同時に失うようなことも避けなくてはならない。先輩も言っていたが、私は先輩のバックアップとして、先輩に何かあった時に即座に戦力になれることを求められていた。

 また私には、怪獣の出現ポイントシャッガイ領域を捜索する仕事もあった。
 世界中を撮影する人工衛星からの映像を見せられ、怪獣の出現する前触れがないかを調べる。
 そして前触れが見つかればHERMヘルマは既に怪獣が出現しているのかを調査する為、現地に斥候を放つことになるので、その様子をモニターを通じて確認する。

 私が来るまでは、この怪獣捜索から討伐の全てを先輩が毎日行っていたと言うのだから正気の沙汰ではない。

 とは言え先輩も、最初から怪獣を殺す戦場に足を踏み入れていたわけではないらしい。
 12歳の少女を最初から危険な怪獣災害現場に投入するわけにはいかない、という道義的な理由というより、世界に一例しか存在しない怪獣に対抗し得る手段である以上、何としてでも守り抜かねば、という打算も大きかったんだろう。

 HERMヘルマの持つ兵器は、怪獣を殺す為のモノでこそなかったが、先輩の意志を直接伝える遠隔操作マスタ/スレーヴ型のロボットや、派遣した隊員との視覚共有システムなど、先輩の眼を安全圏から利用する最新機器が豊富に取り揃えられていた。

 シャッガイ領域から吊るされた糸は、たとえモニター越しであろうとも先輩の観測を挟むことで切断可能となる。そのことはHERMヘルマ設立前の初期段階で検証されており、そのサポートの為の武装こそがHERMヘルマの用意した対怪獣兵器だった。

 対怪獣兵器とは呼んでいたものの、欺瞞が過ぎる。
 だって、用意された機器は最高級で最先端でも、先輩や私の持つ眼がなければ怪獣を倒せないことに変わりはない。

 それに結局、怪獣との戦いを幾度も経て怪獣災害現場では、それらの兵装が無駄になることも多々あった。

「シャッガイ領域内で、通信機器の制御が効かなくなる、怪獣の発生する妨害電波や粒子によって、巫女ミディアムの眼を封じられる。そうした事例は珍しくない。蜚蠊ゴキブリ駆除の為、街中に殺虫剤を大量に撒いたら薬剤耐性が付いた、みたいなもんだ。怪獣対策を講ずれば、怪獣もまた我々に抵抗する」

 博士はいつもの投げやりな口調で自身も開発に協力した対怪獣兵器が無駄になってしまう嘆きを、忌々しげに語っていた。

 HERMヘルマも怪獣の妨害にも耐え得る新兵器の開発を進め、抵抗する怪獣に対象しようとしたが、そんな環境下で先輩は冷たい口調で呟いたそうだ。

「わたしが出た方が早い」

 事実、先輩は自身を戦場に投入し、目覚ましい戦果を挙げた。それからはHERMヘルマの動きも、先輩が怪獣相手に自らの力を十二分に発揮できる対怪獣兵器の開発にシフトしたらしい。

 私の場合は、当然先輩のようにいきなり戦場に降り立つわけにも行かず、まずは先輩が初期に使用していた対怪獣兵器の使用訓練を強いられた。先輩は「怪獣の相手はわたし一人で充分」と憚らなかったが、HERMヘルマとしてはそうもいかない。

 先輩を投入しつつ、訓練を繰り返して私も怪獣討伐を一人でも満足に行える兵士に育て上げること。それが私がHERMヘルマに入隊した直後から目下の目標だった。

 HERMヘルマ基地内で、先輩と私が言葉を交わす機会は始め、専ら訓練中くらいのものだった。

 先輩が独りで戦うことを望んでいたし、HERMヘルマも基本的には、英雄に他ならない先輩の意向を尊重していたと言うのもある。

 だが、私はそれが気に食わなかった。

 何が気に食わなかったのかと言えば、自分でもよくわからない。けれど、私は愚かにも先輩を私自身と重ねて考えていた。

 HERMヘルマの人間は、最早慣れてしまったのか、思考を放棄したのか知らないが、先輩が苦しくないわけがない、と思った。
 自分一人だけに人類の命運が乗っかっている。その役割を放棄するわけにもいかない。だから戦い続ける。そしてそんな役割は自分だけで充分だと嘯く。

 冗談じゃない。そんなことあってたまるか、と、ずっと思っていたことを、私はある日爆発させた。

 怪獣は、一度怪獣討伐が済んでからは暫く出現しない。だから、怪獣討伐後の数日間は、先輩にとっては貴重な休息期間となっていたそうだ。

 シャッガイ領域の構築に時間が掛かるのが原因ではないかと、博士やHERMヘルマは仮説を立てていた。
 とは言えそれは経験則であり、先輩の休憩中は、私が怪獣捜索の任を与えられるのが常になっていた。だが、構うことなく、私は博士を通じて上層部に掛け合い、怪獣討伐直後に休暇に入ろうとしていた先輩の私室に突入した。

 HERMヘルマ基地内にある先輩の部屋は、殺風景という言葉以外の何と形容することもできなかった。
 
 白い壁紙に囲まれた部屋に、奥にただ設置されただけの簡素なベッド。机もあったが、置かれているのは報告書を書く為の資料や筆記具、それに自身の扱う兵器の設計図や説明文を印刷した書類など、怪獣討伐の仕事に必要なものばかりで、本や漫画などの私物は一つも存在しない。

「先輩、遊びに行きましょう」

 自分がどんな口調で言ったのが正直定かではない。ただ、緊張と興奮でその時私の心臓はバクバクと高速で駆動していたことと、ベッドに座って私の唐突な言葉にほうけていた顔の先輩の滑稽さ。
 それだけは未だに昨日のことのように思い出せるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...