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8.先輩、遊びに行きましょう。
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HERMでまず要求されたのは、私が持つ眼を、有効に使うことだった。
先輩に及ばずとも、先輩と同じことができるように訓練をさせられた。
怪獣討伐が可能な人間が一人から二人になる。これはかなり劇的な変化だ。
逆に、二人もの特異な人材を同時に失うようなことも避けなくてはならない。先輩も言っていたが、私は先輩のバックアップとして、先輩に何かあった時に即座に戦力になれることを求められていた。
また私には、怪獣の出現ポイントを捜索する仕事もあった。
世界中を撮影する人工衛星からの映像を見せられ、怪獣の出現する前触れがないかを調べる。
そして前触れが見つかればHERMは既に怪獣が出現しているのかを調査する為、現地に斥候を放つことになるので、その様子をモニターを通じて確認する。
私が来るまでは、この怪獣捜索から討伐の全てを先輩が毎日行っていたと言うのだから正気の沙汰ではない。
とは言え先輩も、最初から怪獣を殺す戦場に足を踏み入れていたわけではないらしい。
12歳の少女を最初から危険な怪獣災害現場に投入するわけにはいかない、という道義的な理由というより、世界に一例しか存在しない怪獣に対抗し得る手段である以上、何としてでも守り抜かねば、という打算も大きかったんだろう。
HERMの持つ兵器は、怪獣を殺す為のモノでこそなかったが、先輩の意志を直接伝える遠隔操作マスタ/スレーヴ型のロボットや、派遣した隊員との視覚共有システムなど、先輩の眼を安全圏から利用する最新機器が豊富に取り揃えられていた。
シャッガイ領域から吊るされた糸は、たとえモニター越しであろうとも先輩の観測を挟むことで切断可能となる。そのことはHERM設立前の初期段階で検証されており、そのサポートの為の武装こそがHERMの用意した対怪獣兵器だった。
対怪獣兵器とは呼んでいたものの、欺瞞が過ぎる。
だって、用意された機器は最高級で最先端でも、先輩や私の持つ眼がなければ怪獣を倒せないことに変わりはない。
それに結局、怪獣との戦いを幾度も経て怪獣災害現場では、それらの兵装が無駄になることも多々あった。
「シャッガイ領域内で、通信機器の制御が効かなくなる、怪獣の発生する妨害電波や粒子によって、巫女の眼を封じられる。そうした事例は珍しくない。蜚蠊駆除の為、街中に殺虫剤を大量に撒いたら薬剤耐性が付いた、みたいなもんだ。怪獣対策を講ずれば、怪獣もまた我々に抵抗する」
博士はいつもの投げやりな口調で自身も開発に協力した対怪獣兵器が無駄になってしまう嘆きを、忌々しげに語っていた。
HERMも怪獣の妨害にも耐え得る新兵器の開発を進め、抵抗する怪獣に対象しようとしたが、そんな環境下で先輩は冷たい口調で呟いたそうだ。
「わたしが出た方が早い」
事実、先輩は自身を戦場に投入し、目覚ましい戦果を挙げた。それからはHERMの動きも、先輩が怪獣相手に自らの力を十二分に発揮できる対怪獣兵器の開発にシフトしたらしい。
私の場合は、当然先輩のようにいきなり戦場に降り立つわけにも行かず、まずは先輩が初期に使用していた対怪獣兵器の使用訓練を強いられた。先輩は「怪獣の相手はわたし一人で充分」と憚らなかったが、HERMとしてはそうもいかない。
先輩を投入しつつ、訓練を繰り返して私も怪獣討伐を一人でも満足に行える兵士に育て上げること。それが私がHERMに入隊した直後から目下の目標だった。
HERM基地内で、先輩と私が言葉を交わす機会は始め、専ら訓練中くらいのものだった。
先輩が独りで戦うことを望んでいたし、HERMも基本的には、英雄に他ならない先輩の意向を尊重していたと言うのもある。
だが、私はそれが気に食わなかった。
何が気に食わなかったのかと言えば、自分でもよくわからない。けれど、私は愚かにも先輩を私自身と重ねて考えていた。
HERMの人間は、最早慣れてしまったのか、思考を放棄したのか知らないが、先輩が苦しくないわけがない、と思った。
自分一人だけに人類の命運が乗っかっている。その役割を放棄するわけにもいかない。だから戦い続ける。そしてそんな役割は自分だけで充分だと嘯く。
冗談じゃない。そんなことあってたまるか、と、ずっと思っていたことを、私はある日爆発させた。
怪獣は、一度怪獣討伐が済んでからは暫く出現しない。だから、怪獣討伐後の数日間は、先輩にとっては貴重な休息期間となっていたそうだ。
シャッガイ領域の構築に時間が掛かるのが原因ではないかと、博士やHERMは仮説を立てていた。
とは言えそれは経験則であり、先輩の休憩中は、私が怪獣捜索の任を与えられるのが常になっていた。だが、構うことなく、私は博士を通じて上層部に掛け合い、怪獣討伐直後に休暇に入ろうとしていた先輩の私室に突入した。
HERM基地内にある先輩の部屋は、殺風景という言葉以外の何と形容することもできなかった。
白い壁紙に囲まれた部屋に、奥にただ設置されただけの簡素なベッド。机もあったが、置かれているのは報告書を書く為の資料や筆記具、それに自身の扱う兵器の設計図や説明文を印刷した書類など、怪獣討伐の仕事に必要なものばかりで、本や漫画などの私物は一つも存在しない。
「先輩、遊びに行きましょう」
自分がどんな口調で言ったのが正直定かではない。ただ、緊張と興奮でその時私の心臓はバクバクと高速で駆動していたことと、ベッドに座って私の唐突な言葉に呆けていた顔の先輩の滑稽さ。
それだけは未だに昨日のことのように思い出せるのだった。
先輩に及ばずとも、先輩と同じことができるように訓練をさせられた。
怪獣討伐が可能な人間が一人から二人になる。これはかなり劇的な変化だ。
逆に、二人もの特異な人材を同時に失うようなことも避けなくてはならない。先輩も言っていたが、私は先輩のバックアップとして、先輩に何かあった時に即座に戦力になれることを求められていた。
また私には、怪獣の出現ポイントを捜索する仕事もあった。
世界中を撮影する人工衛星からの映像を見せられ、怪獣の出現する前触れがないかを調べる。
そして前触れが見つかればHERMは既に怪獣が出現しているのかを調査する為、現地に斥候を放つことになるので、その様子をモニターを通じて確認する。
私が来るまでは、この怪獣捜索から討伐の全てを先輩が毎日行っていたと言うのだから正気の沙汰ではない。
とは言え先輩も、最初から怪獣を殺す戦場に足を踏み入れていたわけではないらしい。
12歳の少女を最初から危険な怪獣災害現場に投入するわけにはいかない、という道義的な理由というより、世界に一例しか存在しない怪獣に対抗し得る手段である以上、何としてでも守り抜かねば、という打算も大きかったんだろう。
HERMの持つ兵器は、怪獣を殺す為のモノでこそなかったが、先輩の意志を直接伝える遠隔操作マスタ/スレーヴ型のロボットや、派遣した隊員との視覚共有システムなど、先輩の眼を安全圏から利用する最新機器が豊富に取り揃えられていた。
シャッガイ領域から吊るされた糸は、たとえモニター越しであろうとも先輩の観測を挟むことで切断可能となる。そのことはHERM設立前の初期段階で検証されており、そのサポートの為の武装こそがHERMの用意した対怪獣兵器だった。
対怪獣兵器とは呼んでいたものの、欺瞞が過ぎる。
だって、用意された機器は最高級で最先端でも、先輩や私の持つ眼がなければ怪獣を倒せないことに変わりはない。
それに結局、怪獣との戦いを幾度も経て怪獣災害現場では、それらの兵装が無駄になることも多々あった。
「シャッガイ領域内で、通信機器の制御が効かなくなる、怪獣の発生する妨害電波や粒子によって、巫女の眼を封じられる。そうした事例は珍しくない。蜚蠊駆除の為、街中に殺虫剤を大量に撒いたら薬剤耐性が付いた、みたいなもんだ。怪獣対策を講ずれば、怪獣もまた我々に抵抗する」
博士はいつもの投げやりな口調で自身も開発に協力した対怪獣兵器が無駄になってしまう嘆きを、忌々しげに語っていた。
HERMも怪獣の妨害にも耐え得る新兵器の開発を進め、抵抗する怪獣に対象しようとしたが、そんな環境下で先輩は冷たい口調で呟いたそうだ。
「わたしが出た方が早い」
事実、先輩は自身を戦場に投入し、目覚ましい戦果を挙げた。それからはHERMの動きも、先輩が怪獣相手に自らの力を十二分に発揮できる対怪獣兵器の開発にシフトしたらしい。
私の場合は、当然先輩のようにいきなり戦場に降り立つわけにも行かず、まずは先輩が初期に使用していた対怪獣兵器の使用訓練を強いられた。先輩は「怪獣の相手はわたし一人で充分」と憚らなかったが、HERMとしてはそうもいかない。
先輩を投入しつつ、訓練を繰り返して私も怪獣討伐を一人でも満足に行える兵士に育て上げること。それが私がHERMに入隊した直後から目下の目標だった。
HERM基地内で、先輩と私が言葉を交わす機会は始め、専ら訓練中くらいのものだった。
先輩が独りで戦うことを望んでいたし、HERMも基本的には、英雄に他ならない先輩の意向を尊重していたと言うのもある。
だが、私はそれが気に食わなかった。
何が気に食わなかったのかと言えば、自分でもよくわからない。けれど、私は愚かにも先輩を私自身と重ねて考えていた。
HERMの人間は、最早慣れてしまったのか、思考を放棄したのか知らないが、先輩が苦しくないわけがない、と思った。
自分一人だけに人類の命運が乗っかっている。その役割を放棄するわけにもいかない。だから戦い続ける。そしてそんな役割は自分だけで充分だと嘯く。
冗談じゃない。そんなことあってたまるか、と、ずっと思っていたことを、私はある日爆発させた。
怪獣は、一度怪獣討伐が済んでからは暫く出現しない。だから、怪獣討伐後の数日間は、先輩にとっては貴重な休息期間となっていたそうだ。
シャッガイ領域の構築に時間が掛かるのが原因ではないかと、博士やHERMは仮説を立てていた。
とは言えそれは経験則であり、先輩の休憩中は、私が怪獣捜索の任を与えられるのが常になっていた。だが、構うことなく、私は博士を通じて上層部に掛け合い、怪獣討伐直後に休暇に入ろうとしていた先輩の私室に突入した。
HERM基地内にある先輩の部屋は、殺風景という言葉以外の何と形容することもできなかった。
白い壁紙に囲まれた部屋に、奥にただ設置されただけの簡素なベッド。机もあったが、置かれているのは報告書を書く為の資料や筆記具、それに自身の扱う兵器の設計図や説明文を印刷した書類など、怪獣討伐の仕事に必要なものばかりで、本や漫画などの私物は一つも存在しない。
「先輩、遊びに行きましょう」
自分がどんな口調で言ったのが正直定かではない。ただ、緊張と興奮でその時私の心臓はバクバクと高速で駆動していたことと、ベッドに座って私の唐突な言葉に呆けていた顔の先輩の滑稽さ。
それだけは未だに昨日のことのように思い出せるのだった。
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