11 / 11
第11話 墓暴き
しおりを挟む
目を覚まして直ぐに、自分のすべきことを理解した。
懐かしい感覚。身体の全てが自分の思い通りに動くような。
「國彦!」
ラチカが鉄棒を投げた。
鉄棒の鈍い光沢に、國彦の顔が映る。何も変わっていない。だが、その腕が、甲殻類のような外骨格に覆われていた。
アダムスーツの一部が、國彦の腕に装着されている。
特別サービスだ。
一瞬見た夢での言葉を思い出す。
あの神擬が、世界の因果に、少しだけ融通を効かせてくれたのだろう。
國彦は男に鉄棒を振り下ろす。男は先程と同様に脅威の反射神経でそれを受け止めたが、國彦はその隙を見て、アダムの拳を握る。
「喰らえ」
國彦は渾身の力で、男の鳩尾を真っ直ぐ、激しく打擲した。
倉庫内に、衝撃音が響く。
男は大きく宙に浮く。
「跳躍」
國彦はそれでもまだ姿勢を立て直そうとする男に向けて跳躍し。
「拳」
間髪入れず、再度打撃を加えた。
再び男の身体が宙を舞う。
男はゆっくりとラチカの近くに落ちていく。
「はんッ」
ラチカは鼻で笑うと、腕を支柱にして下半身を浮かせた。
「この糞野郎!」
ラチカは落ちて来る男を、腱を切られていない方の脚で蹴り落とす。
それが決定打となった。
男は完全に意識を失い、沈黙した。
「あんたそれ」
ラチカは脚を引き摺りながら、國彦の元へ向かった。
「ああ」
國彦は小さく頷いた。
オルムとドンナーの戦いは、セーブデータの上書き合戦のようなものだとゲームに例えた大河の言葉を、國彦は思い出した。
「クリアボーナスみたいなもんだな。お前の怪力と一緒だ」
「んだそりゃ」
ラチカが怪訝そうに眉を顰めた
それから少し沈黙して、嫌なことを思い出したとばかりに顔も顰める。
「あんたが倒れた後、文句言ってやったんだ」
「文句?」
「ドンナーのクソッタレに。こんな中途半端な世界に放り出しやがってって」
國彦は噴き出した。
「俺も同じことを言った」
さて、と。國彦は倒れた男の腕を落ちていた縄で縛り付けた。
倉庫に駆けつけた時、既に気絶していた女の服を探り、携帯電話を見つけると、警察に電話した、
「暴行事件です。場所は──」
それだけ言って通話中のまま地面に携帯電話を放り、ラチカに手を差し伸べる。
ラチカもその手を握り、國彦の肩を借りて、倉庫を出た。
それから一部で、まことしやかな噂が流れるようになるまで、そう時間は掛からなかった。
鬼の腕を持つ男と、人並み外れた怪力を持つ女の二人組の、英雄の噂が。
懐かしい感覚。身体の全てが自分の思い通りに動くような。
「國彦!」
ラチカが鉄棒を投げた。
鉄棒の鈍い光沢に、國彦の顔が映る。何も変わっていない。だが、その腕が、甲殻類のような外骨格に覆われていた。
アダムスーツの一部が、國彦の腕に装着されている。
特別サービスだ。
一瞬見た夢での言葉を思い出す。
あの神擬が、世界の因果に、少しだけ融通を効かせてくれたのだろう。
國彦は男に鉄棒を振り下ろす。男は先程と同様に脅威の反射神経でそれを受け止めたが、國彦はその隙を見て、アダムの拳を握る。
「喰らえ」
國彦は渾身の力で、男の鳩尾を真っ直ぐ、激しく打擲した。
倉庫内に、衝撃音が響く。
男は大きく宙に浮く。
「跳躍」
國彦はそれでもまだ姿勢を立て直そうとする男に向けて跳躍し。
「拳」
間髪入れず、再度打撃を加えた。
再び男の身体が宙を舞う。
男はゆっくりとラチカの近くに落ちていく。
「はんッ」
ラチカは鼻で笑うと、腕を支柱にして下半身を浮かせた。
「この糞野郎!」
ラチカは落ちて来る男を、腱を切られていない方の脚で蹴り落とす。
それが決定打となった。
男は完全に意識を失い、沈黙した。
「あんたそれ」
ラチカは脚を引き摺りながら、國彦の元へ向かった。
「ああ」
國彦は小さく頷いた。
オルムとドンナーの戦いは、セーブデータの上書き合戦のようなものだとゲームに例えた大河の言葉を、國彦は思い出した。
「クリアボーナスみたいなもんだな。お前の怪力と一緒だ」
「んだそりゃ」
ラチカが怪訝そうに眉を顰めた
それから少し沈黙して、嫌なことを思い出したとばかりに顔も顰める。
「あんたが倒れた後、文句言ってやったんだ」
「文句?」
「ドンナーのクソッタレに。こんな中途半端な世界に放り出しやがってって」
國彦は噴き出した。
「俺も同じことを言った」
さて、と。國彦は倒れた男の腕を落ちていた縄で縛り付けた。
倉庫に駆けつけた時、既に気絶していた女の服を探り、携帯電話を見つけると、警察に電話した、
「暴行事件です。場所は──」
それだけ言って通話中のまま地面に携帯電話を放り、ラチカに手を差し伸べる。
ラチカもその手を握り、國彦の肩を借りて、倉庫を出た。
それから一部で、まことしやかな噂が流れるようになるまで、そう時間は掛からなかった。
鬼の腕を持つ男と、人並み外れた怪力を持つ女の二人組の、英雄の噂が。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる