テキーラ・ウルフが死んだ。

宮塚恵一

文字の大きさ
7 / 12

#7 経過報告

しおりを挟む
「それで、首尾はどうだ」
 アジトに戻ると、ウルフレディが入り口で待っていた。
 普段のレザースーツで、髪の毛の赤いメッシュも染め直していた。
 少しだけ残念だな、などとどうでもいいことを思う。
「幾つか心当たりを回ったが、これってもんはな。それよりもあんたに言いたいことが」
「裏切り者は既に粛清した」
 ウルフレディは首筋に血管が浮き出るほどに歯がみした。
「すまなかったな。お前の邪魔をしてしまった。今はもう、魚の餌だ。流石にウルフの跡目を狙って、内部でも各々のパワーバランスが揺らいでいる」
「なるほど、流石だな」
「そら」
 ウルフレディは厚い封筒の束を俺に押し付けた。
「中に五百万ある。迷惑料だ。手付金も兼ねて二千万をお前の口座に既に振り込んである。後で暇な時にでも確認しろ」
「こうも先手を取られると言うことがねえな。あー、そんだけ金があんならちょっと明日確認してえことがあるな」
「なんだ?」
「とりあえず入れ」
 俺はけたたましい叫びをあげるアジトの扉を開け、ウルフレディを中に招き入れた。

「まずはジェイク・フィールドマスターのところに行ってな」

「元ヒーローのやってるバーか」

「空振り。良い情報は入ってこなかった」

「ふむ」
「中堅のヒーローまでならあそこに行きゃ大抵は関係してるから、事件に一介のヒーローが関わってるとかはなさそうだな。次は陳のところな」
「聞いている。それでウチの裏切り者を見つけ出さなければならなくなったんだ」

「こっちもシロ。マフィア関連でもピンと来るもんなし。大抵はここまで足を運べばなんかもんなんだがな。何もなし。ついでに帰り際に情報屋イトナミのところにも寄った」

「そこも空振りか?」
「微妙だな……。少しもんがあったから、事件に関係するような情報をイトナミが持っていそうではあるんだが、それを引き出すことも難しい」

「相変わらず、使いづらそうな能力だ」

 ウルフレディは部屋の奥にあるソファにどさりと座った。

「それで、確認したいことというのは?」

「話の流れが速いんだあんたは」
「こんな対応をするのはお前だけだ。他に探偵や殺し屋を雇ったなら違う。身内を人質にした手荒い渉外なり、それこそ拷問も視野に入れる。だが、お前相手にそれは無駄だろう。それに普通、調査の依頼をした時は理路整然とした報告を受けるものだが、お前の話を聞いてもこちらに実がない。ならばさっさと話は進めるに限る」

 さっぱりしている。確かに俺もこの女傑の本気の拷問を受けなくても良いのは有り難いことだし、素直に話を進めることにしよう。

「さっきも言ったが、当然というか、一介のヒーローの関与の可能性は低い。だからまずは大ボスを、と思って意を決して陳のところに行ったんだ」
「よく入れたな。私なら間違いなく、あの楼閣に足を踏み入れたら蜂の巣になっている。そういうところはお前が羨ましい」
「お前が行ったらまず間違いなく戦争勃発だ。あれは半分陳が招き入れてくれたのもあるが。陳の関与もシロ。奴にあっても何にも

 俺は部屋の奥からウイスキーを取り出し、グラスに氷の上から注ぐ。

「飲むか?」
「私はやめておこう。構わず飲め」
「んじゃ遠慮なく」

 俺はぐいっとウイスキーをあおり、一息ついた。

「陳の関与がねえんなら、少なくとも銀狼組の大きな敵対組織は何も関わってねえってことだろ。なら、残る可能性は」

「内部犯。これは私が否定しよう。裏切り者を見抜けかった分際で何を、と言われても仕方がないが、少なくともウルフの周りで身内が手を出すような可能性はないし、あったとしても私が許さない」
「だろうな」

「となると、クソ傭兵どもザ・ロワイヤルか」

「せめて職業ヒーローと呼べ」
 マスターとの会話でも少し話したザ・ロワイヤルの関与。彼らが関係しているのであれば、マフィアや中堅ヒーローの集まるようなところで収穫がないのは道理だ。

 ザ・ロワイヤルは職業ヒーローを派遣するヒーロー派遣会社だ。だが、紅ヤマトを含め、古いヒーローやマスターのバーに集まるようなヒーロー達の活動は基本ボランティア。
 だからこそのヒーローだと誇る者もいるが、そうではなく、必要な現場に必要な人材を、を売り文句に、依頼のあった場所に登録された職業ヒーローを派遣する組織、それがザ・ロワイヤル。

「金を積まれれば何でもする。そこのところはお前と変わらんな」
「そう言うな。実際、奴らなら国も関与するような極秘任務を請け負うことも少なくないし、登録ヒーローには守秘義務もある。ウルフの暗殺が、秘密裏に奴らが請け負ったものだと考えるのは自然だろう」
「お前にしては的確な推理だ。そうか、それで傭兵どもを呼びたいわけだな」
 本当に話が早い。
「さっきは言わなかったが、一応昼間にザ・ロワイヤルのビルまでは行ったんだ。社長と面会できないか、とな。無理だったが」
「お前のような奴がアポイントも何もなしには無理だろう。あそこのボスのスケジュールは30年先まで埋まっていると言うぞ。だが、ならば」

 ザ・ロワイヤルのサービスの一つ、緊急出動。然るべき手続きを行うことで、誰でも在籍するうちのトップヒーローを呼び出せる。
 条件をつければ、本当にトップを指名して呼び出すことも不可能ではない。そのためには莫大な依頼料が必要になるが。

「手付金を調査費として躊躇なく投資すると。ふん、真面目だな」
「黙ってろ。それくらいしかもう打つ手が思いつかねえだけだ」
「そうか。よし、ならば私も行こう」
「はあ?」
「お前だと緊急出動の条件付けに弾かれるかもしれんだろうに。だが私なら、表では貿易会社の取締役の顔もあるし、格には問題あるまい」
「秒でウルフレディって奴らにはわかるだろうが」
「それならそれでいい。社内で『ウルフレディが緊急出動の依頼をしている』と情報がまわれば、依頼をするまでもなく、取引の場に大物を引っ張り出せるかもわからんだろう」
 ウルフレディはその艶やかな顔をにやりと歪めた。
「お前には今回迷惑をかけた借りがあるからな。その返しだ」
「……あんた、自分の関与がもうバレてるから吹っ切れて楽しくなってるだろ」
「それがどうした?」
 ウルフレディは俺のところまでカツカツと歩いてきて、飲みかけのウイスキーを一気に飲み干した。

「明日、朝の8時に車を出す。お前はここで待っていたらいい」

 そう言って、ウルフレディは小さく手を振ってアジトの出口の扉を開けた。

「それとこの扉の立て付けも直しておけ。煩くて敵わん」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

俺をフッた女子に拉致されて、逃げ場のない同棲生活が始まりました

ちくわ食べます
恋愛
大学のサークル飲み会。 意を決して想いを告げた相手は、学内でも有名な人気女子・一ノ瀬さくら。 しかし返ってきたのは―― 「今はちょっと……」という、曖昧な言葉だった。 完全にフラれたと思い込んで落ち込む俺。 その3日後――なぜか自分のアパートに入れなくなっていた。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...