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WlΣ(n+∫Wdt)=inc−Rl
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こちらを見ている。
眼が、こちらを見ているのだ。
蛇に睨まれた蛙のように私は動けない。私は知っている。この眼を呼び出したのは私だから。
WlΣ(n+∫Wdt)=inc-Rl
これが意味することを今、私しか知らない。だから私は自分を助ける手段を持たない。
この思考を、私の発見した公式を元に世界の上層に飛ばせないかと思惑している。
思考文章の物質化、そして身体以外の媒体を利用しない情報伝達。
詰まりはテレパシーの方法については、既に同じ研究室のエル・エドワードの論文にて可能であることを知っている。
だから癪ではあるが、私のこの状況をテレパシーで送ることは可能だ。
故に最期に私の最期の思考を誰かに残せないか、その一心で私は思考する。
壁だ。世界の壁。テクスチャと言い換えても良い。世界は壁/テクスチャに覆われており、かつてはこのテクスチャは人類に観測不可能だった。
しかし、今やテクスチャの研究は一大分野であり、私の編み出した公式
WlΣ(n+∫Wdt)=inc-Rl
これもまた、テクスチャに働きかける物である。
テレパシーもまた、この世界に存在するPSYと呼ばれるテクスチャに、思念を貼り付けることで行われる。
私は現在、入念にテクスチャに思念を貼り付けているところだ。
さて、本題だ。
世界を覆うテクスチャの狭間に潜む、エルムの山猫の話を聞いたことはないか。私を見つめる眼はそれだ。
ビルとビルの隙間には気をつけろ。
そこにはエルムの山猫が住む。正確には、人間の関与し辛い、こうした建物の隙間には、人間の思念が入り込まず、テクスチャの狭間が生まれやすい。
以前ならばエルムの山猫の発生など、数世紀に一度くらいの次元災害だったのだ。
しかし私はあろうことか、純粋な興味の為に、エルムの山猫の棲家を暴いてしまった。
あの公式の実用性を試したくて、だ。
WlΣ(n+∫Wdt)=inc-Rl
壁、テクスチャWlの存在係数は、そのテクスチャによって異なるが、今回私が利用したのはエルムの山猫の伝承が残るエルム村に伝わる童謡に隠されていた物だ。
西暦600年頃には既に、当時の天才がエル・エドワードの見つけた思考の物質化という方法論と私の見つけた公式を合わせた次元伝達方式を編み出していた。
当時、マルジン・ウィスルトと呼ばれた彼の賢人は、三千年以上前の人間であるにも関わらず、テクスチャの存在を知り、童謡にその存在を伝える因子を残したのだ。
敬服という他ないだろう。かつて魔法と呼ばれたそれは、実際の所、高度な次元公式によって編まれた科学であった。今や忘れ去られた技術だが、その時代の賢人は、テクスチャを利用し、その研究結果を今に残している。
続きだ。
任意の座標nまでのパターンに、世界Wを時間tで積分した値を加え続けよ。
これは次元公式の基礎でもあるが、そこに多次元よりこの世界Wを観測する観測者として、公式の使用者は定着する。
それはこの世界で起きる事実incから現実Rlを除いた物を生み出す。
簡単に言えば、この公式は、伝説の存在でしかなかったものを、任意にこの世界に存在し得るものとして固着させてしまうのだ。
例えばドラゴン。例えば妖精。例えば巨人。例えば怪獣。
空想上の存在を、最初からこの世界にあるモノとして固着する公式。
私は、エルムの山猫に対してそれを使用した。
エルムは田舎街だった。子供の頃、私はエルムの山猫の伝承にビクつきながらも、その伝承に限らず、妖精や龍、巨人や小人と言った伝説に魅せられたものだ。
だから私が最初にこの公式を使用するなら、初めはエルムの山猫と決めていた。エルムの山猫こそ、私の研究のルーツだからだ。
──もう時間はない。山猫の牙までが、ビルの隙間から現れた。
人が見逃してしまう家や町の隙間。
そこには悪魔が住むんだよ。エルムの山猫という悪魔だ。
……さて最初に私にそれを教えてくれたのは誰であったか。
──否。否否否否否否否否否否否否!
違う!
エルムの山猫だって!?
そんな伝承はこの世に存在しない。
私がエイプリルフールに、教え子を揶揄う為に作ったでっち上げだ!
歴史も伝統もない。
ただの私の戯言だ。
WlΣ(n+∫Wdt)=inc-Rl
嗚呼……私はなんてことを。この公式は、伝説だけではない。
たかがホラ話ですら現実にしてしまう! そんな! そんなものがこの世界に知られれば、世界の壁どころか、世界そのものが曖昧模糊なものとして消えてしまう!
私が間違っていた!
決してこの公式を使用するな。この公式を使えば、全てのホラが現実になる。しかし、これは破滅へ導く悪魔の手だ。
この思考は既に物質化してしまった。
WlΣ(n+∫Wdt)=inc-Rl
WlΣ(n+∫Wdt)=inc-Rl
WlΣ(n+∫Wdt)=inc-Rl
違う! 違う違う違う違う違う!
忘れろ! そんなものは!!
どこかの誰か。この思考パターンを受け取った君だ。
この思考は永遠に破棄してくれ。私は、私は世界を壊したくは
眼が、こちらを見ているのだ。
蛇に睨まれた蛙のように私は動けない。私は知っている。この眼を呼び出したのは私だから。
WlΣ(n+∫Wdt)=inc-Rl
これが意味することを今、私しか知らない。だから私は自分を助ける手段を持たない。
この思考を、私の発見した公式を元に世界の上層に飛ばせないかと思惑している。
思考文章の物質化、そして身体以外の媒体を利用しない情報伝達。
詰まりはテレパシーの方法については、既に同じ研究室のエル・エドワードの論文にて可能であることを知っている。
だから癪ではあるが、私のこの状況をテレパシーで送ることは可能だ。
故に最期に私の最期の思考を誰かに残せないか、その一心で私は思考する。
壁だ。世界の壁。テクスチャと言い換えても良い。世界は壁/テクスチャに覆われており、かつてはこのテクスチャは人類に観測不可能だった。
しかし、今やテクスチャの研究は一大分野であり、私の編み出した公式
WlΣ(n+∫Wdt)=inc-Rl
これもまた、テクスチャに働きかける物である。
テレパシーもまた、この世界に存在するPSYと呼ばれるテクスチャに、思念を貼り付けることで行われる。
私は現在、入念にテクスチャに思念を貼り付けているところだ。
さて、本題だ。
世界を覆うテクスチャの狭間に潜む、エルムの山猫の話を聞いたことはないか。私を見つめる眼はそれだ。
ビルとビルの隙間には気をつけろ。
そこにはエルムの山猫が住む。正確には、人間の関与し辛い、こうした建物の隙間には、人間の思念が入り込まず、テクスチャの狭間が生まれやすい。
以前ならばエルムの山猫の発生など、数世紀に一度くらいの次元災害だったのだ。
しかし私はあろうことか、純粋な興味の為に、エルムの山猫の棲家を暴いてしまった。
あの公式の実用性を試したくて、だ。
WlΣ(n+∫Wdt)=inc-Rl
壁、テクスチャWlの存在係数は、そのテクスチャによって異なるが、今回私が利用したのはエルムの山猫の伝承が残るエルム村に伝わる童謡に隠されていた物だ。
西暦600年頃には既に、当時の天才がエル・エドワードの見つけた思考の物質化という方法論と私の見つけた公式を合わせた次元伝達方式を編み出していた。
当時、マルジン・ウィスルトと呼ばれた彼の賢人は、三千年以上前の人間であるにも関わらず、テクスチャの存在を知り、童謡にその存在を伝える因子を残したのだ。
敬服という他ないだろう。かつて魔法と呼ばれたそれは、実際の所、高度な次元公式によって編まれた科学であった。今や忘れ去られた技術だが、その時代の賢人は、テクスチャを利用し、その研究結果を今に残している。
続きだ。
任意の座標nまでのパターンに、世界Wを時間tで積分した値を加え続けよ。
これは次元公式の基礎でもあるが、そこに多次元よりこの世界Wを観測する観測者として、公式の使用者は定着する。
それはこの世界で起きる事実incから現実Rlを除いた物を生み出す。
簡単に言えば、この公式は、伝説の存在でしかなかったものを、任意にこの世界に存在し得るものとして固着させてしまうのだ。
例えばドラゴン。例えば妖精。例えば巨人。例えば怪獣。
空想上の存在を、最初からこの世界にあるモノとして固着する公式。
私は、エルムの山猫に対してそれを使用した。
エルムは田舎街だった。子供の頃、私はエルムの山猫の伝承にビクつきながらも、その伝承に限らず、妖精や龍、巨人や小人と言った伝説に魅せられたものだ。
だから私が最初にこの公式を使用するなら、初めはエルムの山猫と決めていた。エルムの山猫こそ、私の研究のルーツだからだ。
──もう時間はない。山猫の牙までが、ビルの隙間から現れた。
人が見逃してしまう家や町の隙間。
そこには悪魔が住むんだよ。エルムの山猫という悪魔だ。
……さて最初に私にそれを教えてくれたのは誰であったか。
──否。否否否否否否否否否否否否!
違う!
エルムの山猫だって!?
そんな伝承はこの世に存在しない。
私がエイプリルフールに、教え子を揶揄う為に作ったでっち上げだ!
歴史も伝統もない。
ただの私の戯言だ。
WlΣ(n+∫Wdt)=inc-Rl
嗚呼……私はなんてことを。この公式は、伝説だけではない。
たかがホラ話ですら現実にしてしまう! そんな! そんなものがこの世界に知られれば、世界の壁どころか、世界そのものが曖昧模糊なものとして消えてしまう!
私が間違っていた!
決してこの公式を使用するな。この公式を使えば、全てのホラが現実になる。しかし、これは破滅へ導く悪魔の手だ。
この思考は既に物質化してしまった。
WlΣ(n+∫Wdt)=inc-Rl
WlΣ(n+∫Wdt)=inc-Rl
WlΣ(n+∫Wdt)=inc-Rl
違う! 違う違う違う違う違う!
忘れろ! そんなものは!!
どこかの誰か。この思考パターンを受け取った君だ。
この思考は永遠に破棄してくれ。私は、私は世界を壊したくは
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