【完結】だからギルドの男は嫌なんです!

在ル在リ

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本編

17 - 1 あの日の夜

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 あの日、私は遅番で十五時に出勤していた。閉店は二十四時。その後、片付けや掃除もあって帰宅はもっと遅くなるのだけど。

 アスター、ロゼ、ディラン、そしてギルド受付のユリアナとハノンが座るテーブル。私はそこに呼ばれて注文を取る度、奢りだと言ってアスターから酒をもらっていた。

「みんな随分飲んでるみたいだけど大丈夫なの? 次ラストオーダーだからね。アスターはもう終わりにしなさいよ」

 注文を受けたお酒のグラスを四つテーブルに運ぶと、お尻に伸びてくるアスターの手を払い除けた。グラスを手にしたのはロゼ以外の四人。ロゼはもう飲食していないのか、テーブルの上に彼の手は見えない。

「何だよ、つれないなサリダ。お前もここに座って飲んでいけば?」
「私はまだ勤務中なのよ」

 そう言いつつも、アスターに渡されたショットグラスをあおる。渡された酒は少し変な甘みのある独特の味。あまり好みではなかった。
 テーブルに目をやると、ロゼとディランがこちらを見ていた。自分の店のお酒なのに、不味そうな顔でもしてしまっただろうか。
 アスターに捕まらないよう距離を取って会話していると、ユリアナとハノンがアスターに話を振って意識を逸らしてくれる。

「ねえアスター聞いてよ~! ディランが来月ランクアップしたらご馳走してくれるんだって」
「お、マジか。四番街のレストラン連れてけよー」
「何でお前を連れてかなきゃなんねえんだよ」

 ディランはランク六の試験を来月受けるらしい。彼は優秀だと聞いているからきっと受かるだろう。ディランは私にも声をかける。

「サリダも来るか?」
「ギルド員とプライベートな付き合いはしないの。お祝いの言葉だけ贈るわ。受かったらね」

 笑顔を浮かべていると、視界が僅かにずれた。普段酔うことはあまりないけれど、先ほどの酒がかなりキツかったのか頭がフワフワしてくる。

「ああ……もう仕事に戻るわね」

 他のテーブルに呼ばれて注文を聞いたり接客をしばらくした後、少しカウンターの奥で休憩しようかと思っていると、後ろから手を取られる。大きく冷たい手。
 視線を腕から肩、首に移し、顔を見上げる。あの男たちの中で一番背の高いロゼ。無口であまり話していなかったが、私の手をつかむのは確かに彼だった。

「すみません、手洗いに連れてってくれませんか」
「珍しいわねロゼ。酔ってるの……?」

 あまり飲んでいるように見えなかったが、普段クールな彼に頼られると何故か気分が上がった。
 彼を店の奥にあるトイレスペースへ案内するが、足取りはしっかりしており、私の手もしっかりと握っている。それより私の方が足取りも重く、ふらついているかもしれない。
 トイレの通路まで来ると、ロゼは何かを服のポケットから出して私の手に握らせた。

「さっき飲まされたでしょう。それ、飲んでおいてください」
「え? なあに、これ……」

 手の中には薄紙に包まれた粉末。
 何の粉?

「アスターが飲ませた酒に恐らく薬が入っています。それは抑制剤。効き目が緩むはずなので、すぐ飲んでください」
「薬って……あなたたち何やってんの!? 他の女の子に変なこととかしてないでしょうね?」

 ロゼにつかまれた手首が一瞬チクリと痛みを感じた。ロゼの指輪か何かが引っかかり、ぷくりと血が浮かぶ。

「すみません、引っかかったみたいです。これで押さえてください。これは後で捨てて構いません」

 ロゼが血のにじんだ腕に白いハンカチを当てた。清潔そうな布に赤い水玉模様ができる。白いハンカチがもったいない。

「……さあトイレはそこよ、行ってらっしゃいな」

 心配する素振りを見せるロゼがトイレに入るまで見送ると、私はすぐに厨房の方へ戻った。

 渡された粉薬も怪しいものだ。何なのだろう、アスターもロゼも。まさか普段から女性に怪しいことをしているんじゃないだろうかと疑った。
 アスターはともかく、ロゼはいつも沈着冷静で馬鹿なことをする男ではないと思っていた。だけどアイツらと絡んでいるから安全とも言いきれない。そう思うと何故か妙に落胆した。

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