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第9話 前向きに
ウィンターフェイド家での暮らしが始まって一週間が過ぎた。
毎朝、カーテンを開ける侍女。目を覚まして起き上がると「おはようございます、エレノア様」という穏やかな声が聞こえてくる。朝食前の準備をしてから、朝日が差し込む明るい部屋に移動。そこに用意されている暖かな朝食を頂く。
これまでの人生で、こんなに心地よい朝を迎えたことがあっただろうか。
私に与えられた部屋は、ヴァンローゼ家で暮らしてきた私の部屋よりも広くて、美しく整えられていた。壁にはタペストリーが掛けられ、床には柔らかな絨毯が敷かれている。窓からは庭園の景色が一望でき、朝と夕方には鮮やかな光景を楽しめた。
それに何より、嫌がらせをする人がいない。侍女たちは丁寧で優しく、私の存在を尊重してくれる。心の奥底で警戒していた私だけど、すぐ安心感が芽生えていった。ここは、とても安全な場所。そんなに気を張らなくても大丈夫。
ただ一つ気がかりなのは、エドモンド様と会えていないこと。初日以来、彼の姿を見ていない。事前に言われていた通りだけど、やはり不安だ。
「エドモンド様はお元気なのですか?」
気になっていたことを、事情を知っていそうな執事に思い切って聞いてみた。
「はい、大丈夫です。王国騎士としての職務がありますので、書類仕事などで忙しくされていますよ」
全身包帯の姿を思い出す。あれほどの怪我を負っていながら、仕事を続けるなんて。騎士の仕事は、とても大変なのね。私の胸に、彼を支えたいという気持ちが強く芽生えた。
そんなある日、自室に本が運び込まれて山積みにされていた。これは、一体。
「エレノア様、ご要望だった本の用意が出来ました」
「こんなに!?」
エドモンド様と対面したときにお願いしたこと。本当に叶えてくれた。でも私は、数冊程度を頼んだつもりだったけれど、予想していたよりも多かった。用意された本は何百冊もある。こんなに多くは読み切れない!
「屋敷には書庫もあります。そちらにも本を置いているので、自由に出入りしてくれて大丈夫です。エドモンド様から許可を頂いています」
案内されて見に行ってみると、とても立派な書庫があった。貴重な書物がずらりと並んでいた。古典文学から哲学、歴史、科学、医学、さらには騎士道や武術についての専門書まで、様々なジャンルの本が揃っていた。
自分なんかが、こんな貴重な場所に出入りを許されて良いのだろうか。
これだけ良くしてもらったから。何か自分にできることはないのか。考えながら日々を過ごす。
私は用意してもらった本や書庫に置いてある貴重な本を読みあさっていた。歴史書から始めて、次第に騎士道や王国の法律、さらには医学や治療法の本まで手を伸ばすようになった。特に怪我の治療や薬草学に興味を持った。ここから得られる知識で、どうにか役に立てないか。
「エレノア様、お時間よろしいでしょうか」
「はい」
読書の手を止め、話しかけてきた執事に答える。なにか大事な話があるようだ。
「もし望まれるのでしたら、各分野の教育係を用意することも可能です」
私は驚いて目を見開いた。
「教育係……ですか?」
「はい。貴女がより深く学びたいと思われる分野があれば、適切な教師を招くことができます」
彼の提案に私は思わず身を乗り出した。これは自分を高める絶好の機会だ。知識を磨いておけば、エドモンド様の役に立てるようになるかもしれない。
「はい! お願いします」
私の答えに執事が満足そうに頷いた。
「どのような分野をご希望ですか?」
「医学と治療法……それから、王国の歴史と騎士団のことについても学びたいです」
私は少し考えてから、答えた。必要だと思うことを。
「医学ですか」
「はい。怪我や病気を治す知識があれば、エドモンド様の役に立てるかもしれないと思って」
「わかりました。最適な教師を手配いたします」
それから数日後、私の新しい生活が始まった。
午前中は屋敷付きの医師から医学の基礎を学び、午後は元宮廷学者から王国の歴史と政治を教わる。夕方には騎士団の退役指導官から、騎士団の組織や作法について話を聞いた。空いた時間に、淑女としてのマナーや礼儀作法に関する勉強も忘れない。
どの先生も熱心に教えてくれて、絶対に無駄には出来ないと思った。
ヴァンローゼ家でも教育は受けていたけれど、必要最低限だけ。こんなに集中して色々なことを学ぶのは初めてで、とても大変だった。一日の終わりには、頭がパンクしそうなほど情報で満たされた。でも不思議と、そんな日々が充実していた。大変だけど、頑張ることが出来た。
夜、部屋の窓から星空を見上げながら、私は考えた。これまでの人生で、こんなに前向きに何かに取り組んだことがあっただろうか。
エドモンド様の姿は今も見えないが、彼の気遣いは私の周りに溢れている。この恩を返すため、そして自分自身のためにも、今できることに全力を注ごう。
窓から見える夜空には、無数の星が瞬いていた。まるで私の小さな希望を照らすかのように。
毎朝、カーテンを開ける侍女。目を覚まして起き上がると「おはようございます、エレノア様」という穏やかな声が聞こえてくる。朝食前の準備をしてから、朝日が差し込む明るい部屋に移動。そこに用意されている暖かな朝食を頂く。
これまでの人生で、こんなに心地よい朝を迎えたことがあっただろうか。
私に与えられた部屋は、ヴァンローゼ家で暮らしてきた私の部屋よりも広くて、美しく整えられていた。壁にはタペストリーが掛けられ、床には柔らかな絨毯が敷かれている。窓からは庭園の景色が一望でき、朝と夕方には鮮やかな光景を楽しめた。
それに何より、嫌がらせをする人がいない。侍女たちは丁寧で優しく、私の存在を尊重してくれる。心の奥底で警戒していた私だけど、すぐ安心感が芽生えていった。ここは、とても安全な場所。そんなに気を張らなくても大丈夫。
ただ一つ気がかりなのは、エドモンド様と会えていないこと。初日以来、彼の姿を見ていない。事前に言われていた通りだけど、やはり不安だ。
「エドモンド様はお元気なのですか?」
気になっていたことを、事情を知っていそうな執事に思い切って聞いてみた。
「はい、大丈夫です。王国騎士としての職務がありますので、書類仕事などで忙しくされていますよ」
全身包帯の姿を思い出す。あれほどの怪我を負っていながら、仕事を続けるなんて。騎士の仕事は、とても大変なのね。私の胸に、彼を支えたいという気持ちが強く芽生えた。
そんなある日、自室に本が運び込まれて山積みにされていた。これは、一体。
「エレノア様、ご要望だった本の用意が出来ました」
「こんなに!?」
エドモンド様と対面したときにお願いしたこと。本当に叶えてくれた。でも私は、数冊程度を頼んだつもりだったけれど、予想していたよりも多かった。用意された本は何百冊もある。こんなに多くは読み切れない!
「屋敷には書庫もあります。そちらにも本を置いているので、自由に出入りしてくれて大丈夫です。エドモンド様から許可を頂いています」
案内されて見に行ってみると、とても立派な書庫があった。貴重な書物がずらりと並んでいた。古典文学から哲学、歴史、科学、医学、さらには騎士道や武術についての専門書まで、様々なジャンルの本が揃っていた。
自分なんかが、こんな貴重な場所に出入りを許されて良いのだろうか。
これだけ良くしてもらったから。何か自分にできることはないのか。考えながら日々を過ごす。
私は用意してもらった本や書庫に置いてある貴重な本を読みあさっていた。歴史書から始めて、次第に騎士道や王国の法律、さらには医学や治療法の本まで手を伸ばすようになった。特に怪我の治療や薬草学に興味を持った。ここから得られる知識で、どうにか役に立てないか。
「エレノア様、お時間よろしいでしょうか」
「はい」
読書の手を止め、話しかけてきた執事に答える。なにか大事な話があるようだ。
「もし望まれるのでしたら、各分野の教育係を用意することも可能です」
私は驚いて目を見開いた。
「教育係……ですか?」
「はい。貴女がより深く学びたいと思われる分野があれば、適切な教師を招くことができます」
彼の提案に私は思わず身を乗り出した。これは自分を高める絶好の機会だ。知識を磨いておけば、エドモンド様の役に立てるようになるかもしれない。
「はい! お願いします」
私の答えに執事が満足そうに頷いた。
「どのような分野をご希望ですか?」
「医学と治療法……それから、王国の歴史と騎士団のことについても学びたいです」
私は少し考えてから、答えた。必要だと思うことを。
「医学ですか」
「はい。怪我や病気を治す知識があれば、エドモンド様の役に立てるかもしれないと思って」
「わかりました。最適な教師を手配いたします」
それから数日後、私の新しい生活が始まった。
午前中は屋敷付きの医師から医学の基礎を学び、午後は元宮廷学者から王国の歴史と政治を教わる。夕方には騎士団の退役指導官から、騎士団の組織や作法について話を聞いた。空いた時間に、淑女としてのマナーや礼儀作法に関する勉強も忘れない。
どの先生も熱心に教えてくれて、絶対に無駄には出来ないと思った。
ヴァンローゼ家でも教育は受けていたけれど、必要最低限だけ。こんなに集中して色々なことを学ぶのは初めてで、とても大変だった。一日の終わりには、頭がパンクしそうなほど情報で満たされた。でも不思議と、そんな日々が充実していた。大変だけど、頑張ることが出来た。
夜、部屋の窓から星空を見上げながら、私は考えた。これまでの人生で、こんなに前向きに何かに取り組んだことがあっただろうか。
エドモンド様の姿は今も見えないが、彼の気遣いは私の周りに溢れている。この恩を返すため、そして自分自身のためにも、今できることに全力を注ごう。
窓から見える夜空には、無数の星が瞬いていた。まるで私の小さな希望を照らすかのように。
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