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第11話 新しい婚約相手の問題※エドモンド視点
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エドモンドが、屋敷に新たな住人が到着するという報せを受けたのは、包帯を巻き終えた直後のことだった。
「エレノア・ヴァンローゼ様がまもなく到着されます」
執事のパーカーがそう告げた時、エドモンドはただ頷くだけだった。代わりの婚約相手。ヴィヴィアンの姉。正直なところ、彼は気が進まなかった。
怪我をした騎士を世話するために、屋敷で滞在する予定らしい。必要ないけれど、仕方なく受け入れる。今は、他家との余計なやり取りを増やしたくない。
新しい婚約相手という人物には屋敷で滞在してもらいながら、極力接触は避ける。そう思って、最初の対面だけ行うことになった。
「連れてきてくれ。対面は必要最低限に」
部屋まで連れて来る前に、彼女は身なりを整えるために時間が必要だという報告があった。侍女長の判断で、新しい衣装に着替えさせたらしい。
少し会うだけで、そんな必要はないと思ったエドモンドだが、とりあえず待った。
ノックの音がして、扉が開いた。彼女が入ってきた瞬間、エドモンドは心の中で「なるほど」と思った。
小柄で痩せた体。だが、凛とした佇まい。淡い青のドレスに身を包み、髪も丁寧に整えられているが、それでもどこか不安げな表情。
「初めまして、エレノア・ヴァンローゼと申します」
彼女の声は小さいながらも、しっかりとしていた。エドモンドは、じっと彼女を見つめた。ヴィヴィアンの影すら見えない。かつての婚約者とはまったく異なる雰囲気に、彼は少し驚いた。
ヴィヴィアンは常に華やかだった。派手好きで周囲の注目を集め、会話を支配し、人を惹きつける術を心得ていた。対して彼女の姉――エレノアは静かだった。控えめで、だがその静けさの中に、何か深いものを感じた。
「なるほど」
思わず言葉が漏れた。
「君は、妹には似ていないようだね」
彼女は少し驚いたような表情を見せたが、すぐに落ち着いた。
「そ、そうでしょうか?」
彼女の反応にも興味が湧いた。自分が妹と異なることを認識しているようだが、それを肯定も否定もしない慎重さ。そして、その痩せた体。
食事を共にすると決めたのは、少し会話してみて興味を覚えたから。彼女がどんな人物なのか、もう少し知りたいと思ったエドモンド。そして、彼女に食事を与えたいという思いもあった。
食事の間、彼女の様子を観察した。最初は遠慮がちだったが、次第に美味しそうに食べる姿。そして「美味しい!」と思わず声を漏らした後の、恥ずかしそうな表情。
それはヴィヴィアンならば絶対に見せない素直さだった。ヴィヴィアンは常に計算していた。どう振る舞えば、周囲にどう映るか。彼女の一挙手一投足は演技だった。
対してエレノアは、そんな演技を知らないのか、あるいは必要としないのか。彼女の反応は素直で、飾り気がなかった。とても新鮮な気持ちになるエドモンド。
「エドモンド様、お時間よろしいでしょうか」
エレノアとの対面が終わって少し時間が経った頃、パーカーが書類を持って執務室に現れた。
「どうした?」
「はい。実は、エレノア様について気になる報告がいくつか」
パーカーは声を落とし、近づいてきた。
「彼女は、ヴァンローゼ家で虐待を受けていた可能性があります」
「どういうことだ?」
「侍女長からの報告によりますと、屋敷に訪れた当初、平民だと間違えてしまいそうなほど質素な服装、伴も連れず一人で待っており、滞在するための荷物も最低限しか持ってきていない。そんな扱いを受けていたそうです」
パーカーの言葉は、エドモンドの心に重くのしかかった。
「彼女のために用意した衣装や部屋も、初めは恐る恐る『借りてもよいのか』と過剰に尋ねたそうです。まるで、何かを与えられることに慣れていないかのように」
「そんな……!」
エドモンドは思わず立ち上がった。怒りが込み上げてきた。そのような扱いを受けるなど、信じがたい。
ヴァンローゼ家で何があったのか。ヴィヴィアンと会っていた時、彼は何も気づかなかった。健康な世継ぎを産む妻を求め、家柄と美貌だけを見ていたから。その背後に潜む問題を見抜けなかった。
そんな自分に腹が立つ。
「とにかく、彼女のことはなるべく手厚くもてなしてやってくれ。特別の配慮をして、屋敷で過ごす時間を良いものだと感じられるように」
エドモンドの指示に従い、パーカーは静かに頷いた。
「それから、ヴァンローゼ家を調べてくれ。向こうにバレないよう、慎重に」
パーカーは丁寧に頭を下げた。
「承知しました。早速、調査を始めます」
今すぐエレノアの問題に取り掛かりたい気持ちはあるが、騎士としての職務もある。王国への義務を果たしてから、彼女の問題に取り組まなければならない。
「今は申し訳ないが、必ず何とかする」
そう独り言ちながら、エドモンドは書類に向き直った。目の前にある仕事を早く終わらせるために集中する。急げば失敗する。だからこそ慎重に、しかし全力を尽くして。
「エレノア・ヴァンローゼ様がまもなく到着されます」
執事のパーカーがそう告げた時、エドモンドはただ頷くだけだった。代わりの婚約相手。ヴィヴィアンの姉。正直なところ、彼は気が進まなかった。
怪我をした騎士を世話するために、屋敷で滞在する予定らしい。必要ないけれど、仕方なく受け入れる。今は、他家との余計なやり取りを増やしたくない。
新しい婚約相手という人物には屋敷で滞在してもらいながら、極力接触は避ける。そう思って、最初の対面だけ行うことになった。
「連れてきてくれ。対面は必要最低限に」
部屋まで連れて来る前に、彼女は身なりを整えるために時間が必要だという報告があった。侍女長の判断で、新しい衣装に着替えさせたらしい。
少し会うだけで、そんな必要はないと思ったエドモンドだが、とりあえず待った。
ノックの音がして、扉が開いた。彼女が入ってきた瞬間、エドモンドは心の中で「なるほど」と思った。
小柄で痩せた体。だが、凛とした佇まい。淡い青のドレスに身を包み、髪も丁寧に整えられているが、それでもどこか不安げな表情。
「初めまして、エレノア・ヴァンローゼと申します」
彼女の声は小さいながらも、しっかりとしていた。エドモンドは、じっと彼女を見つめた。ヴィヴィアンの影すら見えない。かつての婚約者とはまったく異なる雰囲気に、彼は少し驚いた。
ヴィヴィアンは常に華やかだった。派手好きで周囲の注目を集め、会話を支配し、人を惹きつける術を心得ていた。対して彼女の姉――エレノアは静かだった。控えめで、だがその静けさの中に、何か深いものを感じた。
「なるほど」
思わず言葉が漏れた。
「君は、妹には似ていないようだね」
彼女は少し驚いたような表情を見せたが、すぐに落ち着いた。
「そ、そうでしょうか?」
彼女の反応にも興味が湧いた。自分が妹と異なることを認識しているようだが、それを肯定も否定もしない慎重さ。そして、その痩せた体。
食事を共にすると決めたのは、少し会話してみて興味を覚えたから。彼女がどんな人物なのか、もう少し知りたいと思ったエドモンド。そして、彼女に食事を与えたいという思いもあった。
食事の間、彼女の様子を観察した。最初は遠慮がちだったが、次第に美味しそうに食べる姿。そして「美味しい!」と思わず声を漏らした後の、恥ずかしそうな表情。
それはヴィヴィアンならば絶対に見せない素直さだった。ヴィヴィアンは常に計算していた。どう振る舞えば、周囲にどう映るか。彼女の一挙手一投足は演技だった。
対してエレノアは、そんな演技を知らないのか、あるいは必要としないのか。彼女の反応は素直で、飾り気がなかった。とても新鮮な気持ちになるエドモンド。
「エドモンド様、お時間よろしいでしょうか」
エレノアとの対面が終わって少し時間が経った頃、パーカーが書類を持って執務室に現れた。
「どうした?」
「はい。実は、エレノア様について気になる報告がいくつか」
パーカーは声を落とし、近づいてきた。
「彼女は、ヴァンローゼ家で虐待を受けていた可能性があります」
「どういうことだ?」
「侍女長からの報告によりますと、屋敷に訪れた当初、平民だと間違えてしまいそうなほど質素な服装、伴も連れず一人で待っており、滞在するための荷物も最低限しか持ってきていない。そんな扱いを受けていたそうです」
パーカーの言葉は、エドモンドの心に重くのしかかった。
「彼女のために用意した衣装や部屋も、初めは恐る恐る『借りてもよいのか』と過剰に尋ねたそうです。まるで、何かを与えられることに慣れていないかのように」
「そんな……!」
エドモンドは思わず立ち上がった。怒りが込み上げてきた。そのような扱いを受けるなど、信じがたい。
ヴァンローゼ家で何があったのか。ヴィヴィアンと会っていた時、彼は何も気づかなかった。健康な世継ぎを産む妻を求め、家柄と美貌だけを見ていたから。その背後に潜む問題を見抜けなかった。
そんな自分に腹が立つ。
「とにかく、彼女のことはなるべく手厚くもてなしてやってくれ。特別の配慮をして、屋敷で過ごす時間を良いものだと感じられるように」
エドモンドの指示に従い、パーカーは静かに頷いた。
「それから、ヴァンローゼ家を調べてくれ。向こうにバレないよう、慎重に」
パーカーは丁寧に頭を下げた。
「承知しました。早速、調査を始めます」
今すぐエレノアの問題に取り掛かりたい気持ちはあるが、騎士としての職務もある。王国への義務を果たしてから、彼女の問題に取り組まなければならない。
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