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第1章 姉妹編
第04話 姉妹
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「ハルさんやサキさん、って誰ですか?」
聞こえたのは、誰だか分からない人の名前だった。分からないままにしておきたくないので、香織さんに尋ねる。
「えっと……ハルちゃんはね、あなたの姉よ」
戸惑いながら、説明してくれる香織さん。そうか、姉の名前か。それを誰だと聞かれたら、戸惑ってしまうのも仕方ないよね。聞いた僕が悪かった。
「それから次女のサキちゃん、三女のサアヤちゃん。最後の一人が、ゆうくんよりも年下の妹で四女のアオイちゃん」
記憶では、間違いなく一人っ子だったはず。知らないうちに、三人の姉と一人の妹が出来たらしい。
(いきなり姉妹が出来るなんて、ゲームとかマンガみたいな展開だなコレは……)
「覚えてない?」
「わからないです……ごめんなさい」
記憶には、それらの人物について全く浮かび上がってこなかった。
静寂。気まずいから、なにか話さないといけない。切り出す言葉を考えていると、家の玄関が開く音が聞こえた。
次に廊下を歩く音。誰かが家へと入ってきた。
「あっ、誰か帰ってきたのかしら」
そう言いながら席を立って、扉に向かう香織さん。
「ハルちゃん待って、こっちこっち」
扉を開け、長女のハルさんという、僕の姉だという人物を呼びとめる。
「帰っていたのかい、母さん。……それと、おかえり優」
眼鏡を掛けた、つり目のお姉さんが入ってきた。前半は香織さん、後半は僕に目線を向けて言う。年は20代半ばぐらいだろうか、キリッとした引き締まった表情が印象的だ。
「えっと、ただいま……です」
返事を返すと不可解な表情をしていて眉をひそめるハルと呼ばれた女性。彼女の顔を見て、だんだんと言葉が尻すぼみになる。
香織さんが部屋へ入ってきた女性に近づいて話をしている。部屋にやってきた女性と香織さん、なにを話しているかは聞こえない。
手持ち無沙汰になった僕は、香織さんに入れてもらったお茶を飲みながら、改めてダイニングルームを見回した。意外に汚れている。僕の率直な感想。
床には髪の毛とホコリが目に見えてわかる。何日掃除機を掛けてないんだろうか。台所の脇にいっぱいに入っているゴミ袋が3つ見える。すごく気になる。すぐにでも掃除したい。
いつの間にか話が終わっていて、席につく二人。香織さんは変わらずに、僕の目の前の席に座った。そして眼鏡の女性が、僕の左隣に座る。距離が近い。
「私の事は、分かるかい?」
「あのっ、えっと。……わからないです、ごめんなさい」
迫ってくる美人な顔に戸惑いながら、謝る。見覚えがなかったから、正直に答えるしかない。
「いや、良い。私は、春。季節の春と書いて、春だ」
「佐藤優です、よろしくお願いします」
思わず自己紹介しながらペコッと頭を下げて礼をしてしまったが、よく考えると向こうはこちらをよく知っているだろうから、今の行為は無意味だと思った。それでも迷惑そうな顔もせずに、春さんは笑顔を浮かべた。
「あぁ、よろしく」
とてもキレイな笑顔だった。顔を真っ直ぐ見つめられて、恥ずかしくなった僕は、話題転換を狙って香織さんに話を振る。
「それで他の人は、今どうしてるの?」
「確か、サキちゃんはいつもの部活ね。サアヤちゃんと、アオイちゃんはどうしたのかしら?」
「葵は、卒業式の準備で学校に行っているはずだ。紗綾はわからない」
僕のとっさの問いかけに、顎に手を当てて律儀に考えてくれる香織さん。そして、家族のスケジュールを把握しているらしい春さん。
「春さんは、何をしていたんですか?」
姉という人物を少しでも知っておこうと、勇気を振り絞って質問してみた。
「ん? 私はバイトから帰ってきたところだ。それと私も、母さんと話す時のように普通に話してくれ。それから”お姉ちゃん”と呼んでくれないかい?」
倒れる前はそう呼んでいたのだろうか。もしかしたら緊張している僕に気を利かせて、接しやすくしてくれたのだろうか。
「わかりま……。わかった、春お姉ちゃん」
彼女は家族だそうだから、敬語はおかしいか。そう考えて、普通に話してみる。
「ぐうっ」
春お姉ちゃんは眉の間の皺を深くし呻いて、右手を口に当て明後日の方向に顔を背ける。もしかして不愉快に感じたのだろうか。いきなり気安すぎたかもしれない。
「あの、やっぱり春さんって」
「いやッ! 良い! そのままで良い! お姉ちゃんと呼んでくれ」
瞬時に顔をこちらに向け、間髪入れず鬼気迫るような勢いで言葉を返された。
「えっ、あっ……うん」
妙な迫力に、おかしな返事をすることが精一杯だった。
春お姉ちゃんが落ち着いたのを見計らって、香織さんが言う。
「みんなが帰ってくるまでもう少し時間が掛かりそうね、どうしましょう」
「先に優に部屋を見せよう。もしかしたら、なにか思い出すかもしれない」
「それでいい?ゆうくん」
春さんの提案について、僕に許可を求めてくる。
「うん、部屋を見せて。もしかしたら、それを見てなにか思い出すかも」
「そうね! じゃあ、今から行ってみましょ」
ダイニングルームを出て、三人で並んで階段を登る。そして二階へ上がった。廊下の一番奥へと進んでいく。普通の家の、扉の前に到着した。
「はい、部屋のカギ。病院にいる間は私が管理していたわ。どうぞ」
香織さんから、お尻のポケットから出したカギを渡される。
「ありがとう」
部屋のカギで扉を開けて、中を見る。
(ぐわっ、これ僕の部屋か)
部屋の中を見た瞬間に思わず、心のなかで呻く。
まず目についたのは、扉の正面にある二人掛けの白いソファー。ソファーの上には、ピンクと青の、丸いよくわからないキャラクターのぬいぐるみが二つ。
ソファーの前に薄いピンクのローテーブルに、左側にはベット。掛け布団はこれまたピンクで、キャラクターのプリントされた毛布が上にかぶさっている。右側には、勉強机とタンスに本棚が並んでいる。
これもピンクだ。床には絨毯が敷かれている。これもピンク。窓にはカーテンが掛けられてある。ピンクだ。あまりのピンク具合に目がチカチカしてきた。
「それじゃあ、下で待っているから部屋は自由に見ていてね。何かあったら、すぐに呼んで頂戴。じゃあ、行きましょハルちゃん」
「あぁ、わかった」
香織さんは部屋の中には入らずにそう言って、春お姉ちゃんを伴って階下へと戻っていった。
「ふうっ。落ち着かない部屋だなぁ……」
扉を閉めて、もう一度部屋を見回す。僕の中には全く記憶に無い部屋、意識的には他人の部屋に感じられた。言葉の通り、落ち着かない。とにかく、以前の自分を知るため部屋を探ることにした。
聞こえたのは、誰だか分からない人の名前だった。分からないままにしておきたくないので、香織さんに尋ねる。
「えっと……ハルちゃんはね、あなたの姉よ」
戸惑いながら、説明してくれる香織さん。そうか、姉の名前か。それを誰だと聞かれたら、戸惑ってしまうのも仕方ないよね。聞いた僕が悪かった。
「それから次女のサキちゃん、三女のサアヤちゃん。最後の一人が、ゆうくんよりも年下の妹で四女のアオイちゃん」
記憶では、間違いなく一人っ子だったはず。知らないうちに、三人の姉と一人の妹が出来たらしい。
(いきなり姉妹が出来るなんて、ゲームとかマンガみたいな展開だなコレは……)
「覚えてない?」
「わからないです……ごめんなさい」
記憶には、それらの人物について全く浮かび上がってこなかった。
静寂。気まずいから、なにか話さないといけない。切り出す言葉を考えていると、家の玄関が開く音が聞こえた。
次に廊下を歩く音。誰かが家へと入ってきた。
「あっ、誰か帰ってきたのかしら」
そう言いながら席を立って、扉に向かう香織さん。
「ハルちゃん待って、こっちこっち」
扉を開け、長女のハルさんという、僕の姉だという人物を呼びとめる。
「帰っていたのかい、母さん。……それと、おかえり優」
眼鏡を掛けた、つり目のお姉さんが入ってきた。前半は香織さん、後半は僕に目線を向けて言う。年は20代半ばぐらいだろうか、キリッとした引き締まった表情が印象的だ。
「えっと、ただいま……です」
返事を返すと不可解な表情をしていて眉をひそめるハルと呼ばれた女性。彼女の顔を見て、だんだんと言葉が尻すぼみになる。
香織さんが部屋へ入ってきた女性に近づいて話をしている。部屋にやってきた女性と香織さん、なにを話しているかは聞こえない。
手持ち無沙汰になった僕は、香織さんに入れてもらったお茶を飲みながら、改めてダイニングルームを見回した。意外に汚れている。僕の率直な感想。
床には髪の毛とホコリが目に見えてわかる。何日掃除機を掛けてないんだろうか。台所の脇にいっぱいに入っているゴミ袋が3つ見える。すごく気になる。すぐにでも掃除したい。
いつの間にか話が終わっていて、席につく二人。香織さんは変わらずに、僕の目の前の席に座った。そして眼鏡の女性が、僕の左隣に座る。距離が近い。
「私の事は、分かるかい?」
「あのっ、えっと。……わからないです、ごめんなさい」
迫ってくる美人な顔に戸惑いながら、謝る。見覚えがなかったから、正直に答えるしかない。
「いや、良い。私は、春。季節の春と書いて、春だ」
「佐藤優です、よろしくお願いします」
思わず自己紹介しながらペコッと頭を下げて礼をしてしまったが、よく考えると向こうはこちらをよく知っているだろうから、今の行為は無意味だと思った。それでも迷惑そうな顔もせずに、春さんは笑顔を浮かべた。
「あぁ、よろしく」
とてもキレイな笑顔だった。顔を真っ直ぐ見つめられて、恥ずかしくなった僕は、話題転換を狙って香織さんに話を振る。
「それで他の人は、今どうしてるの?」
「確か、サキちゃんはいつもの部活ね。サアヤちゃんと、アオイちゃんはどうしたのかしら?」
「葵は、卒業式の準備で学校に行っているはずだ。紗綾はわからない」
僕のとっさの問いかけに、顎に手を当てて律儀に考えてくれる香織さん。そして、家族のスケジュールを把握しているらしい春さん。
「春さんは、何をしていたんですか?」
姉という人物を少しでも知っておこうと、勇気を振り絞って質問してみた。
「ん? 私はバイトから帰ってきたところだ。それと私も、母さんと話す時のように普通に話してくれ。それから”お姉ちゃん”と呼んでくれないかい?」
倒れる前はそう呼んでいたのだろうか。もしかしたら緊張している僕に気を利かせて、接しやすくしてくれたのだろうか。
「わかりま……。わかった、春お姉ちゃん」
彼女は家族だそうだから、敬語はおかしいか。そう考えて、普通に話してみる。
「ぐうっ」
春お姉ちゃんは眉の間の皺を深くし呻いて、右手を口に当て明後日の方向に顔を背ける。もしかして不愉快に感じたのだろうか。いきなり気安すぎたかもしれない。
「あの、やっぱり春さんって」
「いやッ! 良い! そのままで良い! お姉ちゃんと呼んでくれ」
瞬時に顔をこちらに向け、間髪入れず鬼気迫るような勢いで言葉を返された。
「えっ、あっ……うん」
妙な迫力に、おかしな返事をすることが精一杯だった。
春お姉ちゃんが落ち着いたのを見計らって、香織さんが言う。
「みんなが帰ってくるまでもう少し時間が掛かりそうね、どうしましょう」
「先に優に部屋を見せよう。もしかしたら、なにか思い出すかもしれない」
「それでいい?ゆうくん」
春さんの提案について、僕に許可を求めてくる。
「うん、部屋を見せて。もしかしたら、それを見てなにか思い出すかも」
「そうね! じゃあ、今から行ってみましょ」
ダイニングルームを出て、三人で並んで階段を登る。そして二階へ上がった。廊下の一番奥へと進んでいく。普通の家の、扉の前に到着した。
「はい、部屋のカギ。病院にいる間は私が管理していたわ。どうぞ」
香織さんから、お尻のポケットから出したカギを渡される。
「ありがとう」
部屋のカギで扉を開けて、中を見る。
(ぐわっ、これ僕の部屋か)
部屋の中を見た瞬間に思わず、心のなかで呻く。
まず目についたのは、扉の正面にある二人掛けの白いソファー。ソファーの上には、ピンクと青の、丸いよくわからないキャラクターのぬいぐるみが二つ。
ソファーの前に薄いピンクのローテーブルに、左側にはベット。掛け布団はこれまたピンクで、キャラクターのプリントされた毛布が上にかぶさっている。右側には、勉強机とタンスに本棚が並んでいる。
これもピンクだ。床には絨毯が敷かれている。これもピンク。窓にはカーテンが掛けられてある。ピンクだ。あまりのピンク具合に目がチカチカしてきた。
「それじゃあ、下で待っているから部屋は自由に見ていてね。何かあったら、すぐに呼んで頂戴。じゃあ、行きましょハルちゃん」
「あぁ、わかった」
香織さんは部屋の中には入らずにそう言って、春お姉ちゃんを伴って階下へと戻っていった。
「ふうっ。落ち着かない部屋だなぁ……」
扉を閉めて、もう一度部屋を見回す。僕の中には全く記憶に無い部屋、意識的には他人の部屋に感じられた。言葉の通り、落ち着かない。とにかく、以前の自分を知るため部屋を探ることにした。
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