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第2話 計画された罠
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「イザベラ、来てくれ!」
ロデリック様が会場の奥に向かって手を振った。そのことに驚く私。
あの子は今夜、この会場には招いていないけれど。
だけど、彼女は当然というようにやってきた。妹のイザベラ・アルトヴェールが、豪華なドレスを着て、この会場で誰よりもおしゃれして目立とうとしている。深紅のベルベットドレスに宝石をこれでもかと散りばめた首飾り——明らかに今夜の雰囲気に合わない、悪趣味なほど派手な装いで。招待もされていないのに、まるで主役気取り。
できることなら、今すぐ追い返したい。会場の参加者たちが困惑の表情を浮かべているのが見える。当然よね。招待状に記載のない人物が、堂々と会場に現れたのだから。セキュリティはどうなっているの?
「どうしてイザベラが、会場に来ているの?」
私が問いかけると、ロデリック様が当たり前のことだというように答える。まるで私が愚かな質問をしたとでも言いたげに、肩をすくめながら。
「俺が招いた」
「どうして」
「お前に言い逃れをさせないために。この場所で、皆にちゃんと知ってもらうために」
勝手なことをする。事前の打ち合わせで、もちろんイザベラを会場に入れるなんて話は聞いていない。これは計画的に隠されていたということね。私が知らないところで、密かに準備されていた罠。完全に計画された陰謀だったというわけ。
私の胸に怒りが湧き上がる。苦労して準備してきたパーティーを、こんな茶番劇の舞台にするなんて。招待した貴族の皆様に対して、どれほど失礼なことか。
「お姉様、今日こそ認めてもらいますよ! 私の功績を横取りしたことについてを」
突然現れて、そんな事を言う妹。私を断罪するように、勝ち誇った表情で。
「……どういう意味? 私がいつ、横取りしたというの?」
私は冷静さを保つよう努めた。こんな状況でも、貴族令嬢としての品格を失うわけにはいかない。周囲の視線が痛いほど突き刺さるが、動揺を見せるわけにはいかない。
「今日のパーティーだって、私のアイデアを丸パクリしてるでしょ? 会場の装飾は、私が前にイメージしていたのと同じよ。白と金のカラーコーディネート、バラとカスミソウの組み合わせ——全部私が考えたのよ! 提供している料理だって、前に私がアドバイスしたもの。あの特製ソースのローストビーフ、季節野菜のテリーヌ、それから音楽だってそう。あの弦楽四重奏の選曲、私が提案したじゃない! それをお姉様は、何も言わず全部を自分の手柄にした。アイデアを出したはずの私のことを一切表には出さず、全部自分で用意したって顔して!」
イザベラの声は次第に大きくなり、会場に響き渡った。彼女の指摘は具体的で、まるで事実であるかのように聞こえる。だけど――
いつ、私は妹からアドバイスを受けたというのだろう。
社交パーティーに関わることは、イザベラとは今まで一度も話し合ったことはない。それは機密事項もあるから、身内であっても絶対に漏らしたりしない。参加者リスト、予算配分、スケジュール——どれも外部に漏れれば大問題になる情報ばかり。
かなり気をつけて、徹底している。彼女がどんなにパーティーに興味を示していたとしても、どんなにしつこく質問してきても、絶対に情報を渡さなかった。
それなのに、イザベラは私にアドバイスしたと嘘をつき、アイデアを盗んだと主張する。
「証言者もいるわよ!」
イザベラが手を振ると、会場の隅から数人の若い女性が現れた。四人の女性たちは、イザベラの取り巻きらしい華やかな装いをしている。
彼女たちは明らかに緊張しており、視線を泳がせながらイザベラの顔色を窺っている。というか、見覚えのない子たち。この子たちも勝手に会場に入ってきたというのかしら。ロデリック様が警備に指示して、無断で会場に入れてしまったの?
これじゃあ、警備の不手際を責められても言い訳できない大問題。今夜の会場に来てくれた参加者たちが指摘してきたら、どうにもできないというのに。会場には、王国有数の名門貴族の方々が参加してくれているというのに。婚約破棄云々より、主催者としての責任問題。頭の痛い問題を次々と起こしてくれる。
もう嫌。本当に、心の底からうんざりする。
私のことなどお構いなしに、イザベラが友人たちに問いかけた。演技がかった仕草で。
「ねぇ、あなた達。私が以前、お話したことあるでしょ? いつか、こういう手法を使いたいって相談したことがある。社交パーティーを開催したら、こういうことをしたいって言ったことがあるでしょ? それが今、眼の前で勝手に利用されているの。私の夢を、お姉様が横取りして……」
彼女の声が震えて見せる。まるで被害者のように。
「はい。イザベラ様から聞いたことがあります。イザベラ様が思いついたっていう、素敵なアイデアの数々を」
取り巻きの女性の一人が、それが事実であると答える。イザベラは満足そうに友人たちを見回した。
「ね? 他の子たちも聞いたことがあるでしょ? 私のオリジナルアイデアについてを、ずっと昔に」
友人たちは一斉に頷く。指揮者の合図に合わせるかのように。その動きが余りにも機械的で、芝居がかっているように感じた。
「そうです」「確かに聞きました」「イザベラ様のアイデアでした」
口々に証言する女性たち。
「そういうことだ。早く認めるんだ、セラフィナ。お前がイザベラから功績を奪ったという事実を!」
ロデリック様が得意満面で言い放った。
完全に包囲された状況。計画的で組織的な罠。そして私の完全な孤立を狙っている。
周囲の貴族たちが、この一連の茶番劇を見ていた。ざわめきが会場に広がり、扇子の後ろで囁き合う声が聞こえてくる。華やかな社交パーティーは、いつの間にか公開処刑の場と化していた。
ロデリック様が会場の奥に向かって手を振った。そのことに驚く私。
あの子は今夜、この会場には招いていないけれど。
だけど、彼女は当然というようにやってきた。妹のイザベラ・アルトヴェールが、豪華なドレスを着て、この会場で誰よりもおしゃれして目立とうとしている。深紅のベルベットドレスに宝石をこれでもかと散りばめた首飾り——明らかに今夜の雰囲気に合わない、悪趣味なほど派手な装いで。招待もされていないのに、まるで主役気取り。
できることなら、今すぐ追い返したい。会場の参加者たちが困惑の表情を浮かべているのが見える。当然よね。招待状に記載のない人物が、堂々と会場に現れたのだから。セキュリティはどうなっているの?
「どうしてイザベラが、会場に来ているの?」
私が問いかけると、ロデリック様が当たり前のことだというように答える。まるで私が愚かな質問をしたとでも言いたげに、肩をすくめながら。
「俺が招いた」
「どうして」
「お前に言い逃れをさせないために。この場所で、皆にちゃんと知ってもらうために」
勝手なことをする。事前の打ち合わせで、もちろんイザベラを会場に入れるなんて話は聞いていない。これは計画的に隠されていたということね。私が知らないところで、密かに準備されていた罠。完全に計画された陰謀だったというわけ。
私の胸に怒りが湧き上がる。苦労して準備してきたパーティーを、こんな茶番劇の舞台にするなんて。招待した貴族の皆様に対して、どれほど失礼なことか。
「お姉様、今日こそ認めてもらいますよ! 私の功績を横取りしたことについてを」
突然現れて、そんな事を言う妹。私を断罪するように、勝ち誇った表情で。
「……どういう意味? 私がいつ、横取りしたというの?」
私は冷静さを保つよう努めた。こんな状況でも、貴族令嬢としての品格を失うわけにはいかない。周囲の視線が痛いほど突き刺さるが、動揺を見せるわけにはいかない。
「今日のパーティーだって、私のアイデアを丸パクリしてるでしょ? 会場の装飾は、私が前にイメージしていたのと同じよ。白と金のカラーコーディネート、バラとカスミソウの組み合わせ——全部私が考えたのよ! 提供している料理だって、前に私がアドバイスしたもの。あの特製ソースのローストビーフ、季節野菜のテリーヌ、それから音楽だってそう。あの弦楽四重奏の選曲、私が提案したじゃない! それをお姉様は、何も言わず全部を自分の手柄にした。アイデアを出したはずの私のことを一切表には出さず、全部自分で用意したって顔して!」
イザベラの声は次第に大きくなり、会場に響き渡った。彼女の指摘は具体的で、まるで事実であるかのように聞こえる。だけど――
いつ、私は妹からアドバイスを受けたというのだろう。
社交パーティーに関わることは、イザベラとは今まで一度も話し合ったことはない。それは機密事項もあるから、身内であっても絶対に漏らしたりしない。参加者リスト、予算配分、スケジュール——どれも外部に漏れれば大問題になる情報ばかり。
かなり気をつけて、徹底している。彼女がどんなにパーティーに興味を示していたとしても、どんなにしつこく質問してきても、絶対に情報を渡さなかった。
それなのに、イザベラは私にアドバイスしたと嘘をつき、アイデアを盗んだと主張する。
「証言者もいるわよ!」
イザベラが手を振ると、会場の隅から数人の若い女性が現れた。四人の女性たちは、イザベラの取り巻きらしい華やかな装いをしている。
彼女たちは明らかに緊張しており、視線を泳がせながらイザベラの顔色を窺っている。というか、見覚えのない子たち。この子たちも勝手に会場に入ってきたというのかしら。ロデリック様が警備に指示して、無断で会場に入れてしまったの?
これじゃあ、警備の不手際を責められても言い訳できない大問題。今夜の会場に来てくれた参加者たちが指摘してきたら、どうにもできないというのに。会場には、王国有数の名門貴族の方々が参加してくれているというのに。婚約破棄云々より、主催者としての責任問題。頭の痛い問題を次々と起こしてくれる。
もう嫌。本当に、心の底からうんざりする。
私のことなどお構いなしに、イザベラが友人たちに問いかけた。演技がかった仕草で。
「ねぇ、あなた達。私が以前、お話したことあるでしょ? いつか、こういう手法を使いたいって相談したことがある。社交パーティーを開催したら、こういうことをしたいって言ったことがあるでしょ? それが今、眼の前で勝手に利用されているの。私の夢を、お姉様が横取りして……」
彼女の声が震えて見せる。まるで被害者のように。
「はい。イザベラ様から聞いたことがあります。イザベラ様が思いついたっていう、素敵なアイデアの数々を」
取り巻きの女性の一人が、それが事実であると答える。イザベラは満足そうに友人たちを見回した。
「ね? 他の子たちも聞いたことがあるでしょ? 私のオリジナルアイデアについてを、ずっと昔に」
友人たちは一斉に頷く。指揮者の合図に合わせるかのように。その動きが余りにも機械的で、芝居がかっているように感じた。
「そうです」「確かに聞きました」「イザベラ様のアイデアでした」
口々に証言する女性たち。
「そういうことだ。早く認めるんだ、セラフィナ。お前がイザベラから功績を奪ったという事実を!」
ロデリック様が得意満面で言い放った。
完全に包囲された状況。計画的で組織的な罠。そして私の完全な孤立を狙っている。
周囲の貴族たちが、この一連の茶番劇を見ていた。ざわめきが会場に広がり、扇子の後ろで囁き合う声が聞こえてくる。華やかな社交パーティーは、いつの間にか公開処刑の場と化していた。
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