奪った後で、後悔するのはあなたです~私から婚約相手を奪って喜ぶ妹は無能だった件について~

キョウキョウ

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第41話 証拠の出現※イザベラ視点

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 誰もが私を見ている。疑いの目で。非難の目で。軽蔑の目で。なにか言って、この状況から抜け出さないと。どうすれば。

 私が動けないでいた時、会場の扉が勢いよく開いた。

 会場の雰囲気が一瞬で変わった。威圧感のある雰囲気が、会場全体を包み込む。

 現れたのは、ヴァンデルディング公爵家の当主、ロデリックの父親だった。深い紺色のコートを纏い、胸には公爵家の紋章を輝かせている。彼が多数の従者を引き連れて、会場に入ってきた。従者たちも皆、厳格な表情をしている。

 え、なんで。

 当主様は、パーティーに招待していなかった。息子の婚約者のパーティーとはいえ、わざわざ来ていただくほどのものではないと思っていたから。それに、当主様は普段、このようなパーティーには顔を出されない方だ。

 でも、来てくれた。

 駆けつけてくれたんだ。きっと、この状況を収めるために。

 糾弾されて、どうしようもなくて、でも……。

 公爵は、会場の中央に立った。私に向けられていた視線が、そっちに移る。誰も、何も言わない。私を糾弾していた公爵未亡人も、周囲の貴族たちも、皆が息を潜めて当主様を見つめている。

 ただ、静寂だけがあった。重く、張り詰めた空気。

「申し訳ないが」

 低く、重い声が響く。会場全体に届く、絶対的な声。

「本日のパーティーは、終了させて頂く」

 当主様の終了の宣言。私を守るために、パーティーを終わらせてくれるんだ。これ以上、糾弾されないように。ああ、よかった。本当に、よかった。

「皆、解散してくれ。今夜の謝罪は、後日、正式にヴァンデルディング公爵家より行わせて頂く」

 有無を言わさぬ口調。冷たく、絶対的な命令。議論の余地を与えない、圧倒的な権威。

 そう言われた参加者たちは、一瞬顔を見合わせた。

 不満そうな表情。何か言いたそうな顔。でも、誰も反論しない。公爵家当主の言葉に、簡単に逆らえる者などいない。

 私に対する追及も、有耶無耶になってくれた。

「まあ、続けられる状況でもないしな」
「それにしても、酷いパーティーだった」

 小声で囁きながら、参加者たちは順番に並んで出口へ向かう。諦めたような、呆れたような表情で。

 去り際、何人もが私を見た。冷ややかな目で。

 でも、もう大丈夫。当主様が守ってくれるから。心強い。もう、これ以上追及されることはないわ。

 会場から人が消えていくのを見届ける。

 足音が遠ざかる。一人、また一人と、参加者が去っていく。
 
 そして、静寂。

 助かった。

 本当に、助かった。心臓の鼓動が、少しずつ落ち着いてくる。

 残ったのは当主様と、ロデリックと、スタッフたち。そして、私。会場には、もう外部の人間はいない。

 当主様が私を見た。厳しい目。冷たい目。何かを見透かすような、鋭い視線。

「君は、私と一緒に来なさい」

 今後の対応について話し合うのかも。どう謝罪をするか、どう事態を収めるのか。私は頷いて、彼に従う。ここは素直に従うべきだわ。

「ロデリック、お前もだ」

 ロデリックも、呼ばれた。彼は無言で頷いた。表情が硬い。さっきから、ずっと黙っている。

 当主様が歩き出したので、私も後に続いた。その横に、ロデリックも並ぶ。それが少し気まずい。彼は、ずっと私を見ようともしない。

 会場を出る。

 深紅のシルクドレスは汗で張り付いて不快だったけれど、着替える時間はなさそうかしら。化粧は崩れ、髪は乱れているし、髪飾りも重い。できれば直したいけれど、話し合いが先なのね。流石に、「着替えたいので待ってください」なんて言えない。

 屋敷に戻ってきた。ヴァンデルディング公爵家の荘厳な屋敷。当主様の書斎に案内される。そこまで、ずっと無言だった。誰も何も喋らない。足音だけが、静かに響いている。助けてもらったと思ったけれど、なんだかちょっと雰囲気が違うような。

 これから、今後の話し合いを行うと思ったけれど、何かが違う。おかしい。

 書斎に入る。広く、重厚な部屋。壁一面に本が並んでいて、中央には大きな机がある。

 当主様が椅子に座る。私とロデリックは立たされたまま。疲れているのに、座るようにという指示がないから、立たされている。勝手に座ったらマズイわよね。でも、座りたい。話し合いは、このまま行うのかしら。

「説明してもらおうか」

 公爵の声が、部屋に響いた。会場で聞いたとの同じような、低く重い声。

「今夜の惨事について」

 惨事。 どこから見られていたのか。どこまで知っているのか。どう説明するべきか。私は悪くないと分かってもらえるように、どう話したらいいか。考えがまとまらないうちに、ロデリックが勝手に話し始めた。

 会場に来た参加者が予想以上に多数だったこと。受付でトラブルがあり、名簿の確認に時間がかかったこと。会場内に招いた人数も多くて、キャパシティを超えてしまったこと。挨拶回りの時間が足りず、半分ぐらい後回しにしてしまったこと。会場が暑く、息苦しく、体調不良者が出たこと。そして、花火の事件について。予定外のタイミングで花火が上がり、参加者がパニックになったこと。

 ペラペラと、勝手に話す。もうちょっと、ちゃんと状況を理解してもらいたいから口を挟もうとしたが、当主様の視線で止められた。まだ話すな、という無言の合図。

 ロデリックからの視点で語られる今夜の事件。それじゃあ誤解されるかも。私が悪いみたいに聞こえる。違うのに。色々と都合の悪い状況が重なり続けただけで、私は悪くないのに。ヒヤヒヤしながら、黙って待つ。自分が説明する番を。

 ちゃんと、事情を説明しなければ。

 ようやく、ロデリックの説明が終わった。彼は、深く息をついて黙った。

 次は私の番だ、と思って口を開こうとしたけれど、当主様が手を上げて止めた。え、私の話は聞いてくれないの? ちゃんと説明したいのに。

「イザベラ嬢」

 名前を呼ばれて、背筋が伸びる。

「今夜のパーティーは、君が計画を考えたのか?」
「は、はい!」

 私は即座に答えた。もちろん、私が考えたわ。

「ですが、スタッフとの連携に齟齬があって。色々と情報伝達にミスがあったから、問題が発生しただけです。原因は分かっているので、そこを修正すれば、次はもっと上手くいきます」

 私は訴える。私は悪くない。計画通りに動いてくれないスタッフが悪いの。ちゃんと指示を守らなかったから。情報伝達にミスがあった。そこが、大きな問題であると把握している。そこを直せば、次はきっと!

 ちゃんと説明した。けれど、当主様の視線は厳しい。全く変わらない。冷たく、鋭い目で私を見つめている。

 もっと詳細を説明しなければ。ちゃんと理解してもらわないと。さらに説明を加えようとした時、私の眼の前に何かが置かれた。

 ドサリという重い音。

「これを模倣して、計画を立てたのではないか?」
「そ、それは!?」

 私の眼の前に出されたのは、お姉様の計画書や資料の数々だった。分厚いノート、詳細な図表、タイムテーブル、装飾の配置図、スタッフの手配表。それは、私が部屋に隠して保管していたはずなのに。どうして、当主様の手に渡っているの!?

 血の気が引く。頭が真っ白になる。

 なんで。なんで、ここにあるのよ。
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