君が選ぶやり直し

氷高 ノア

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第一章

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 騒然とした店内で、独特な塩辛い揚げ物の匂いが鼻腔をくすぐる。放課後のファストフード店は、私たちと同じように制服を着た学生で溢れ返っていた。
「え!? 彼氏ができた!?」
 向かいに座る、セーラー服を着た彼女が突然叫んだ。賑わいを見せていた店内でも、何事かと言うように、周りの人々は一瞬会話を止めて、私たちの席に視線を集める。
「馬鹿! 麻仲まなか、声が大きいって!」
 人差し指を口元の前に立てて、静かにするよう合図を送る。せっかく耳打ちして伝えたのに、全く意味がなかった。
 彼女は周囲の状況に気づき、口に手を当てて視線の先にペコペコと頭を下げるも、興奮を抑えられないのか、すぐに満面の笑みを浮かべてきた。
「おめでとう! やったじゃん。前言ってた人だよね?」
 まるで自分のことのように喜びながら彼女は言った。
 周囲の視線は戻り、先程の賑やかな店内へと戻る。
 私もずっと話したかったことを、ようやく共有することができた嬉しさで、顔を手で覆いながら何度も首を縦に振った。
「そうなの! もうね、めちゃくちゃ頑張ってアピールした! その甲斐あって、この前告白したらオッケー貰えたの!」
 きゃーっと二人で盛り上がる。こんなに友達との会話が楽しいと思えるのは久々だ。やはり幼なじみだからこそだろうか。
 私は熱くなった顔を冷ますように、首元のブラウスを掴み、パタパタと揺らした。
「本当、絵美えみの努力勝ちだね。何だっけ、高身長イケメンで、優しくてスポーツもできて頭も良い同級生だったかな? そんなのよく捕まえられたね」
 感心した様子で、彼女は買ってきたシェイクのストローを咥えて啜り上げる。
 私も同時にオレンジジュースを一本口に運んだ。
「そうそう! 毎日隣のクラスに行って話したり、部活の応援にも行って、とにかく好きってアピール頑張ったもん! 本当にかっこいいし、世界一大好き!」
 高校に入ってすぐ、隣のクラスの男の子に私は一目惚れをした。情報を集め、同じ委員会に入ることから接点を持ち、少しずつ会話をするようになっていった。きっかけは外見に過ぎなかったが、知れば知るほど、彼の中身も好きになり、気づけばしつこいくらいのアピールをしている私がいたのだ。
 そんな自分だったのに、よく付き合えたなと今でも思う。大好きな人が私の彼氏だなんて、もはや毎日が夢心地で、本当は夢なのではないかと朝起きる度に焦る日々がしばらく続いたほどだった。
 そんな話を聞いた麻仲は、安堵した表情を浮かべ、ソファの背に思い切り体を預けた。
「良かった。東高校はやめて、北高校行くって聞いた時は正直心配したけど、何だかんだで幸せそうじゃん」
 ははっと軽い笑みを顔に貼り付け、私はハンバーガーを口に詰め込んだ。
 そういう事にしておこうと思う。
 別に不幸なわけではない。大好きな彼氏はできたし、いじめられているわけでもない。
 ただ時折、自分が嘗て志望していた学校を受けていたら、どうなっていたのだろうと想像する。
 北高校は県内でも少し偏差値が高めの進学校だ。その分、校則が厳しいため、真面目な生徒が多い。
 元々髪色が明るかったり、癖毛の子は入学してすぐに保護者同伴の上、地毛登録をしておかなければ、髪を染めた人として校則違反に当たる。
 アルバイトも基本は禁止で、家庭に事情がある子だけが申請をし、許可を得た上でアルバイトができるのだ。
 化粧はもちろん、眉毛を書くことすら禁止。スカートの丈は膝下、ブラウスのボタンは一番上まで留めること。
 一般的な校則もあるだろうが、それを皆嫌な顔一つせず、徹底して守っているのだ。
 正直なところ、入学前から窮屈さを感じてはいた。そして案の定、そんな校則を律儀に守る人たちは、私と相性があまり良くない。
 東高校は、北高校に比べて偏差値は少し下がるが、もっと自由で伸び伸びと楽しい校風だと、オープンスクールの時に感じた。そんなところが魅力的で、初めて行きたいと思える学校だった。
 それをなぜ、北高校に変えたか。理由はただ一つだった。
「まあ今も色々大変だろうけど、絵美ママに感謝だね」
 麻仲はそう言って、再びシェイクを手に取り、勢いよく飲んだ。
 確かに、その通りではある。お母さんが決めたこの道は、間違ってはいなかったのだろう。
 それでも、どうしても正解だとは思えなくて、麻仲の言葉に同意を示すことはできなかった。
「ねぇ、今日何時までいける?」
 私は話題を逸らすように、ポテトをつまみながら言った。
 急に変わった話の内容に違和感を感じることなく、彼女は答える。
「うーん、まあ夜ご飯もあるし、七時くらいかな。でも、絵美は確か門限六時だよね? 六時に解散する?」
「いや、七時にしよ。話したいこといっぱいあるし!」
 私がそう言うと、麻仲は一言「おけ」と呟いて、指でグッドサインを送ってきた。
 わかっていても、何も聞かないでくれることが有難い。
 それから私たちは日が暮れるまで、食べ物をつまみながら、談笑を続けることになった。
 この時間がずっと続けば良いのにと、くだらない話に笑い合いながら思った。
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