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第七章
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しおりを挟む「ねぇ、起きて。お願い……」
そんな声が聞こえて、私は目が覚めた。
優しくて懐かしくて、心が温もりに満たされるような声だった。
ぼやけていた視界が、次第にクリアになってくる。
その姿を見た瞬間、目頭が一気に熱くなるのがわかった。
「お……お母さん」
私がそう発するも、目の前に座り込む母はこちらを見向きもしなかった。まるで声が届いていないかのように。
「絵美……ねぇ、起きてちょうだい……お願いよ……」
わあっと泣き崩れたその場所は、お母さんと二人で暮らしたあの家の、私のベッドの前だった。
穏やかな顔で眠る、もう一人の私を前に母は何度も声をかけている。
「ねえ、お母さん。私はここにいるよ。ねえ、気づいてよ、お母さん!」
私も声を張るものの、数メートルの距離もないのに届かない思いがもどかしくて、私も堪らず涙が溢れた。
「どうして……どうしてそっちを選んだのよ絵美。お母さんのことなんて考えず、あなたはそのまま生きていてくれたら良かったのに……」
母の呟きに、私は思考が停止する。
どういうことだろう。リセットされた世界のはずなのに、まるでやり直しのことを言っているような言葉だった。
「どういうこと?」
すると背後から温かい気配が現れた気がして、振り向く。そこには予想通り、天使おじさんが母を見下ろすように立っていた。
「ねえ、どういうことなの? やり直しは、私が選んだんでしょ? お母さんは一体何を言ってるの?」
私は天使おじさんに詰め寄った。彼はしばらく何も答えず、床に溶けるほど悲しみにのまれた母をただ見つめるのみだった。
「ねえってば! どうして何も教えてくれないのよ!」
私は拳を作り、彼の胸を思い切り叩いた。よくわからない存在に、こんなにも怒りを顕にできる自分にも驚く。
それでも言葉にできないこの感情を抑えることはできなかったのだ。
「やり直すことを選んだのはお前だ。だが、やり直し自体を最初に強く望んだのは、彼女の方だ」
低い声で、天使おじさんは呟く。その言葉で、なぜか走馬灯のようにあの日初めて天使おじさんに会った時のことを思い出した。
「お母さんが、やり直したいって?」
「そうだ。自分の身を犠牲にしてでも、お前に生きていてほしいと、強く願っていた。だから私は、お前の元へとやって来たのだ」
真実を聞き、私は膝の力が抜け落ちる。母はどこまでも、私を愛してくれていたのだ。
自分を犠牲にしてでも私に生きていてほしかったなんて。
「なんで……どうしてそこまで……」
あんなにも反抗的で、喧嘩ばかりで、素行不良な娘だったのに。嫌われたって当然なほどの行いをしてきたはずなのに。
自分の過去が憎たらしくて堪らなかった。
「ねえ、お願い。一度だけで良いから、お母さんと話をさせて」
今度は縋りつくように、天使おじさんに頼み込んだ。我ながら都合の良い奴だと考えるも、そんなことを言って我慢できる問題じゃない。
話がしたい。謝りたい。そして、何より伝えたいことがあるのだ。
天使おじさんは考え込むように口を閉ざす。マスクで表情が読み取れないため、何を考えているのか、さっぱりわからなかった。
「本来はそう簡単に許される行為ではないのだぞ……」
天使おじさんがそう言った途端、急に泣きじゃくっていた母は口を閉ざし、体の緊張が抜けたように私のベッドへと突っ伏した。
何が起きたのかわからず、母に駆け寄ろうとするも、天使おじさんの手が、すっとその道を塞ぐ。
すると、まるで幽体離脱をしたかのように、半透明になったもう一人の母が、母の体から離れるようにして立ち上がったのだ。
「眠らせただけだ。今彼女は夢を見ているのだよ」
その声が届いたのだろう。半透明の母はゆっくりとこちらに顔を向けた。
私と視線がしっかりと交わる。
一体いつぶりだろう。母とまともに視線を合わせるのは。
ただ目を合わせ、互いに存在を認識できるだけでも、心の底から嬉しかった。
やっと会えた。会いたかった。
言葉にならない思いが、また視界を濡らしていく。
「お母さん……」
「絵美……?」
わあっと頬に光る川を作りながら、私たちは抱き合った。
半透明でも、すり抜けることはなく、しっかりと温もりを感じる。
よく見ると、自分自身の腕も、向こう側の景色が透けていた。
「どうして……どうして死んでしまったの……。私はあなたのために生きていたのに……。仕事だって料理だって、何だって絵美のためだった。あなたの為ならどんなに辛くても頑張れたのに……」
母の心の叫びが、胸に深く突き刺さる。痛くて苦しくて、子供が親に対する言動のうち、最も許されない行為をしてしまったのだと実感した。
「お母さん……ごめんなさい。大嫌いなんて言ってごめんなさい。たくさんお母さんのことを傷つけて……本当にごめんなさい」
母の背中の服をぎゅっと握りしめた。母も思いが手に表れるかのように、より一層強く私のことを抱きしめる。
苦しくはなかった。安心感で包まれていた。
「お母さんの方こそ、本当にごめんね。絵美のこと、考えれば考えるほど、空回りして、本当に大切なことを何も伝えられていなかった。絵美を失って、ようやく気づいたの……」
母は少し離れて、私の顔を見つめた。きっと、涙でぐちゃぐちゃになって、人に見せられる状態ではない。
それでも母は、抱きしめながら、右手でそっと私の涙を拭いながら笑ってくれた。
「絵美は本当に可愛い。何物にも代えられない私のたった一人の子……」
微笑みながらも、また表情が歪む。唇が震えていた。耐えきれない現実に、目を背けたくて仕方がないのだろう。
それは、私も一緒だ。
こんなにも悲しい顔をさせたいわけじゃなかった。私だって、母に生きていてほしかったのだ。
「まだ全然足りないわ……。絵美と全然関われていない。まだ卒業式も行けていない、大学の入学式だって、成人式だって、結婚式だってそう。一緒に歳をとりたかった。まだまだ一緒にやりたいこといっぱいあった。まだこの先もずっと機会があると思い込んでいたのに……。絵美の未来が見たかった……。代われるものなら代ってあげたい……」
悔しそうに、ぎゅっと目を瞑りながら俯く母の手は、これでもかというほど力強く、そして震えていた。
それほどまでに、母は私のことを愛してくれていたなんて。
生きているうちに気づきたかった。それを噛み締めながら、二人でずっと生きていきたかった。
それでも、もう時の流れに逆らうことはできないから。
今伝えられることを、言わなくては。
私も体を屈ませ、母の目を見つめた。
「お母さんは一度、代わってくれたよ。お母さんがやり直しを望んでくれなかったら、私はきっと、ずっとお母さんを嫌いなままで、大好きな人たちにも別れを伝えることができずに、人生を終えていたと思う。勝手に大人になったような気分でいたけれど、お母さんの愛情にも気づくこともできないくらい、私はまだまだ子供だった。でも、お母さんのお陰で、私はたくさんの大切なことに気づくことができたよ。本心をそのまま言葉にする大切さも、人との関わりも、人生を全力で生きる大切さも、お母さんの数え切れないほどの大きな愛も……」
母は言葉が出ないほどに、私を見つめて泣いていた。そんな涙が頬を伝い、床に落ちる。落ちたところに染みはできず、そのまま蒸発するように消えていった。
「絵美……私はね、あなたさえ生きていてくれたら何でも良かったのよ。もちろん、幸せになってほしいからこそ、色々口出しすることは多かったと思う。でもね、例え自分の命に替えても絵美が生きていてくれたらそれで良かったの。お父さんが事故で死んじゃって、私も死んでやろうかと思ったこともあったわ。それでも、絵美がいたから思い留まれたの。何があっても、この子を絶対に守るって決めたの。それなのに……守ってあげられなくてごめんなさい……」
澄み切った言葉が、体温とともに私の中に染み込んでくるのがわかる。
今までたくさん守ってもらった。もう充分すぎるほどだ。一人で子供を育てるということは、並大抵の人ができるわけではない。
私のことを必死に守り、育ててくれた母の愛は、計り知れない。
本当に心から感謝の思いで満ちていた。
「ゴソッ……」
不意にベッドの掛け布団から音がした。見ると、眠りについた母が、ぎゅっと布団を掴んでいる。
すると目の前にあった母の体の色が、先程よりも徐々に薄くなっていくのがわかった。
きっと、もうすぐ時間なのだろう。
私はもう一度、母を抱きしめた。
「お母さんは、もう充分すぎるほど私を大切に守ってくれたよ。本当に……今まで育ててくれて、一緒に生きてくれてありがとう。お母さんの子供として生まれてくることができて、私は幸せだよ……。私はこれからもお母さんの傍に居るから。見えなくても傍に居るから! だから生きて、いっぱいいっぱい幸せを探して。いつかお母さんが土産話を持ってきてくれることを、楽しみにしてるからね……」
何かに気がついたかのように顔を上げる母。目に焼きつけるように、瞳の奥をじっと見つめ合う。
今度は私が、お母さんを守る番だ。
キラキラと朝露が蒸発していくように、母の体が薄くなる。
最後にこれだけは、伝えるんだ。
私は息を吸い、感情を表に出す。
母が名づけてくれたように、最高に美しい、絵に描いたような“微笑みに溢れた人生”を表現して。
「お母さん、大好き──!」
母の体が光に照らされた無数の泡のように、キラキラと輝いて見えなくなる。
まるで魔法が解けたような感覚で、部屋一面に広がった輝き。
それが少し落ち着いた瞬間、眠っていた母は、ハッと目を開け、体を起こして辺りを見回した。
「絵美……?」
当然、私と目が合うことはなかった。母は安らかに眠る私を見つめ、手を握る。
「会いに来てくれたのね……。お母さんも、絵美のこと……大好きよ」
心の水瓶が満ち溢れていくような感覚だった。
次第に、部屋全体が白く輝き出す。私も夢から覚める時間なのかもしれない。
心も体も、心地よく力が抜けていき、重力に逆らって浮上する。
隣には天使おじさんがしっかりと手を握ってくれていた。
天井をすり抜け、空の世界に放たれる。太陽が真上に見えた。
世界は美しかった。家も、マンションも、公園も、ビルも、学校も、山々も、写真や動画で見るよりもずっと輝いていた。
そんな世界で、高羅と麻仲に焦点が当たる。別々の学校にいながらも、窓際に座る彼らは、友達と楽しそうに笑っていた。
きっと、私が死んだことなど、この世界ではまだ知らないのだろう。
生前のこの世界であれば、高羅は私の死を知ったところで涙すらしないかもしれない。
それでも良い。高羅が笑って生きてくれたらそれで良い。
それに、やり直した世界で育んだ関係性を、私は覚えているから。
「守ってやれなくてすまなかった」
ふと、隣から低い声が聞こえた。そちらを見ると、相変わらず鳥のような嘴つきのマスクが若干下の方を向いている。
「事故が起きた時、守ってやれなくて、本当にすまなかった。ずっとお前たちを見守っていたのに、間に合わなかった。ただ、お前たちの関係が悪いまま死ぬことだけは、どうしても避けたくてな……。だから私にできたことはあれが精一杯だったんだ……」
そうだ、ずっと不思議だったのだ。初対面の頃から、ずっと温かさに包まれて安心していたのは、天の使いだからだと思っていた。でも、どこかでこの安心感を知っているような気がしてならなかった。
「もしかして……」
無重力の世界で、私はぐんと天使に近づき、マスクに触れる。
天使は抵抗することなく、俯いていた。
そっと力を加え、仮面を剥がす。少しずつ肌の質感が太陽に照らされて現れてきた。
頬に残る皺。薄い髭。伏せていた瞳が開き、私と目が合った。
それはまるで鏡を見ている気がするほど、私とそっくりな目をしていたのだ。
「お父さん……?」
ふと、そんな言葉が口から出ていた。記憶の中では一切覚えていないものの、いつかの写真で見たことがある顔。
その人は、静かに首を縦に降ろした。
やはりそうだった。私は自然と涙が零れる。
「良いんだよ、お父さん。ずっと見守ってくれてありがとう……」
二歳の頃に亡くなったことは知っていたが、あまり詳しくは聞いたことがなく、ずっと母と二人で生きてきたと思っていた。
だがきっと、父もずっと見えない世界から私たちの傍にいてくれていたのだろう。
「これからはさ、二人でお母さんのこと、見守っていこう?」
すると、父の表情が曇り、浮上を止める。
もちろんその答えは、イエスと決まっているものだと思っていたため、空の世界で私は一気に孤独感に包まれたような気分になった。
「お父さん?」
私が持っていたマスクを、父はそっと受け取り、顔につけ直す。
消えていく表情は、懺悔を表しているかのようだった。
「私もそうしたい。だが、恐らくそれはできないのだ」
低く寂しい声だった。なぜできないと言うのだろう。今まで散々、守ってくれてきただろうに。そんな掟でもあるのだろうか。
「どうして? 私一人で何とかやっていけってこと?」
父は黙る。マスクによって見えない感情が、煩わしかった。
「私は、地獄にいかなければならないのだ」
その言葉は、冗談ではないとすぐに察することができた。
だが、意味がわからない。こんなにも優しくて温かい人が、地獄に落ちなければならないなんて。
「なんで? 意味がわからないよ。じゃあ私だけ天国に行って、お父さんは地獄に行って、お母さんはこの世に残るの? みんなバラバラで過ごせってこと? そんなの誰が決めたのよ」
心が凍えていくように寂しくなる。父がいたから、安心してここまで来れたのだ。
言葉はなくとも、傍にいてくれる安心感が、何よりも心強かったのに。
父の着ている白いマントが風に吹かれて、バサバサと揺れた。
「そういう約束なのだ。二人が後悔なく別れられるよう、やり直しの選択を与えてもらった代償だ。お前には、また寂しい思いをさせることになってしまって、申し訳ないと思っている。だが、例え自分が地獄に落ちるとしても、やり直しをして、こうして二人が納得した別れを迎えられたこと、私は一切悔やんではいない」
父の強い思いが、言葉の節々から伝わってきた。顔を上げた父は、マスク越しでも、信念を持って見つめてきているのがわかる。
私たちのために、自分の身を犠牲にしてまで、やり直しをさせてくれた父の優しさを身に染みて感じた。
父も母も、ずっと私を愛してくれていたのだ。
家族がこんなにも温かいものだったなんて、知らなかった。
それでも、こんなにも誰かのためを思える人が地獄に落ちるだなんて。そんなこと耐えられない。何とかできないのだろうか。
「誰が地獄に落ちろと言った?」
空中にいるにも関わらず、遥か上の世界から、エコーがかかったマイクを通して語られたような声が聞こえた。
それはこれまでとは比べ物にならないほどに穏やかな心地になれる声で、全身が包み込まれるようなものだった。
声の降ってきた方を振り向くと、眩しい太陽が、ただ私たちに向かって光を浴びせていた。
私も父も、吸い寄せられるようにその光を見つめる。
「どういうことでしょうか」
父はマスクを外し、光に向かって尋ねた。するとまた、全身にエネルギーを降り注ぐかの如く、優しい声が聞こえる。
「地獄に落ちても良いと思うほどの覚悟があるのかと尋ねただけだ。そなたの家族を思う優しい心はわかっている。私が許可をしたのだ。地獄に落ちる必要はない。傍にいてあげなさい。娘のためにも、妻のためにも。そして己のためにも──」
春風のように、心地良い温かさを含んだ風が、強く吹き荒れ、私はぎゅっと目を瞑る。
もう一度、瞼を開けて見上げた太陽は、元の地球を照らす光となっていた。
「ああ……ありがとうございます……」
マスクを外した父の目からは、光に照らされた涙がいく筋も流れていた。
本当は、人生をやり直すなんて、許されざる行為なのだろう。
それを望んでくれた母、打診してくれた父、許可をしてくれた神様のような光の存在、やり直しを選んだ自分。
一つても欠けていれば、今この穏やかな感情はなかったはずだ。
世の中の全てに感謝の気持ちが芽生えてくる。
「お父さん、私、これからたくさんの人に今までの感謝を返していけるようにする。だから、お母さんが来るまで、一緒に待っていようね」
手を取り合い、昇って行く先はきっと温かい天の国なのだろう。
お父さんが見守ってくれたように、私もたくさんの人たちを守れる人でありたい。
例え気づかれなくても良い。月日が経って、いつかこの場所に誰かが来た時に、何かを察してもらえたらそれで良い。
これまでの感謝を、言葉と行いで返していくんだ。
私は目を閉じ、強く心に誓った。
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