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大魔術師モルナ
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実力のある冒険者の中でも珍しいのは、女性が単身で来ることだった。
大体が数名から数十名の団体。稀に一人で来ることはあるが、そのほとんどは男。団体のパーティでも女性の割合は一割か二割だった。
そんな中、珍しく女性が一人だけで宿屋の前に現れた。それを見た水色髪の宿の店主は驚き、思わず喜び飛び跳ねた。
「珍しいですね。相当な実力者ですか?」
「それはこちらのセリフです。私はモルナ。大魔術師にして、大怪盗の子孫です」
「大怪盗。ここに来た方ですと、大怪盗カムラ様が昔いらっしゃいましたね」
「そのカムラが私のご先祖様です」
大きなローブに大きな帽子。見た目は魔術師だが、あらゆる装飾品が凶器に変わる道具だと言うと、店主は顔を引きつって一歩下がった。
「そう警戒しなくても良いです。私は未来を見ることができるのですが、貴女もそれなりの実力者。ここで変に戦って体力を消耗するよりも美味しい料理を食べて回復した方が良いと思います」
「平和主義者で助かります。これまで数回に一度はワタチを見てため息をついていましたから」
そう言うとモルナは椅子に座って、机に置いてあったメニューを開いた。すると何か術を唱え、そして「魚料理」と答えた。
「最近魚料理の注文が多いんですが、流行りなんですか?」
「ここでの過去と未来を見て美味しいと言われた回数が多いのが魚料理だったからです」
「ふむ、特に特別なことはしていませんが、好評なら良かったです。小鉢をおまけにつけますね」
そう言って店主は台所へ行き、魚をさばき始めた。
☆
大怪盗カムラは、大陸随一の大商会であるヘイリンホラン商会や、悪役令嬢などから金品を奪い、その一部をばらまいて名を遺したことで有名である。
そしてそんな大怪盗カムラは突然姿を消し、子孫だけが残されていた。
「ご注文の魚料理です。それとこちらはここへ来た冒険者たちが書き綴っている本になります」
「へえ、大怪盗カムラもここに来てこの本に文字を書き残したのね。料理についても書いているわね」
モルナは本を開くことなく中を把握したようで、店主はその光景に驚いた。
「どうして中身を見なくてもわかるんですか?」
「未来がわかるって言ったでしょう。未来の私はこの本を読み、内容を把握しているの。まあ、欠点として、この魚料理を食べた後に本を読まないと、未来が変わっちゃうんだけどね」
「ダメなんですか?」
「ダメよ。未来は定まっている物なの。未来が崩れた途端に世界が壊れることもあるのよ」
そう断言し、そして魚料理の食事を再開した。そこへ店主がふと黒龍との戦いの結果についても知っているのかと聞いたところ、食事の手を止めた。
「わからないわ」
「わからない?」
「見ていないの。正直怖いの。もしも未来の私が死んでいた場合、どのような気持ちで歩めば良いのかね」
「引き返せば良いのでは?」
「それはダメ。さっきも言ったでしょう。ある程度の未来は定まっているの。私の都合で世界を壊すわけにはいかないわ」
「先ほどワタチと戦わなかった事については?」
「それくらいは些細な未来。それほど影響しないわ」
店主はこれ以上の質問はしない方が良いと判断し、調理器具の洗浄を始めた。
しばらくすると魚料理を食べ終えたモルナは本を開き、先ほど言ったように内容を把握し始めた。内容をじっくり見て、時々口ずさんでいた。
「未来で見た内容をもう一度読むって、どういう感じですか?」
「毎度同じ感想ね。『やっぱりね』って感じ。でも、時々良かったと思うの」
「良かった?」
「嬉しい未来予想は的中すれば当然嬉しいでしょ。外れたことはないけど、それでも毎回不安になるの。私の未来予知がいつか外れるんじゃないかってね」
話しながら本を読む。もしかしたらその状況も『未来予知』で見ていたかもしれない。
「騎士団長マーラック・ホラインドは一般常識で知ってる名前だけど、その子孫でギルド最年少記録を更新したロランも……なかなか凄い宿ね」
「他にも剣聖グランハイツ様もいらっしゃいました。その本は売れば大金になりますね」
「大金というか国宝になるわね。私が保証してあげる。ほら、ここにサインしてあげるわ」
大魔術師にして大怪盗のモルナの名に懸けて、この書物は国宝級の物になると予言する。そう書いて、店主に返した。
「料理はとても美味しかったし、なかなか興味深い本に出合えて良かったわ」
「それは良かったです。それで、今日は泊まりますか?」
「いいえ、もう旅に出るわ。もしもここに残っていたら、未来を変えてしまうからね」
「どういうことですか?」
店主が質問するも、モルナは返事をせず、そのまま席を立ち、店を出た。店主はテーブルの上にある皿などを片付けはじめたが、ふと思った。
「お客様の名前を覚えるのは得意だと自負していますが、先ほどモルナ様がおっしゃった名前の中に、知らない名前があったような気がしますね。気のせいでしょうか」
やがて、いつも通り洞窟から大きな音が鳴り響き、戦いの終わりを告げるのだった。
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