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30. エピローグ
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「師匠~、おはぎを持ってきましたよ~。」
「おぉ~クロエ、ナイスタイミングじゃ!ちょうど休憩をしようと思っておったところじゃ」
ブラウン辺境伯国に新しく出来た学院は、多種多様な生徒が入学して賑やかな様子を見せていた。冒険者として各国を周っていた者や、ヴァンパイア国の魔具研究所で研究をしていたがロアから科学の知識を学ぶために入学してきた者、ずっと農業をしていたがフリーズドライ工場に収穫した野菜を持ってくようになって実は土魔法が使えることが分かって学院に入りたいと熱心に入学を希望して来た者など、年齢も国籍も関係なく様々な生徒で活気づいていた。
「クロエ、魔王宮での生活はどうじゃ?まぁ、クロエは毎日のようにこちらには来ておるがの」レイは、おはぎを美味しそうに口に入れながらクロエに訊ねた。
「師匠、実は私、今度は缶詰作りにトライしているんです。完成したら師匠に見てもらいますね」
「缶詰か!そこは儂も気が付かなかった。フリーズドライの他に缶詰が作れるようになればもっと色んな保存食が作れるの~。楽しみじゃ!」
クロエは新魔王として魔国の魔王宮にメイと一緒に住むようになったが、魔王としての仕事は特には無かった。魔王は魔国の象徴としての存在であり、魔王が使うお金は過去の魔王達が魔道具開発で得た多額の特許使用料がギルドから振り込まれており、クロエは何もしなくても十分に暮らすことが出来た。しかしクロエは次の魔王のために新しい特許を取ろうと、缶詰め制作に取り組んでいた。缶詰めの缶を上手く作ることが出来ればフリーズドライの他にももっと保存食の幅が広がると、魔の森に住んでいるドワーフ族の鍛冶職人と一緒に試作を繰り返していた。
「ルカも元気にしてるか?ルカも毎日のようにこの学院に来てロアの講義を受けているようじゃが、儂には全く顔を見せにこんのじゃ」レイは緑茶を飲みながら、2個目のおはぎに手をのばしていた。
「ルカも元気にしていますよ。今は、師匠の調査を引き継いで、魔の森にある瘴気が発生する泉を調べています。先日、泉の水を抜いてみて分かったことなんですが、泉の底に化学変化を起こした魔石があったんです。どうやら瘴気が発生する原因はその魔石のようで、どうして化学変化を起こしたのか、今2人で調べているところなんです」
「ほう、魔石の化学変化か……。今度、儂にもその魔石を見せてくれんか?久しぶりに儂も魔の森へ行ってみようかのぉ~。しかし、クロエとルカが仲良くやっているようで良かった。そうじゃ、結婚式の準備は進んでおるか?」
「はい。ウエディングドレスももう少しで仕上がりそうですし、3か月後の結婚式には間に合いそうです。あっ、今度ルカと一緒に、師匠に結婚式の招待状をお渡ししに来ますね。師匠は私とルカが尊敬する大好きなお爺様ですから、一番にお渡ししたくて」
「そうか嬉しいのぉ。ひ孫の魔術指導もしなくてはならんから長生きせねばの~」レイはニコニコと笑いながら3個目のおはぎを口に入れていた。
* * *
クロエとルカの婚姻式は、クロエ達が闇魔法を修行したシルバーズ侯爵家別荘近くにある湖の側で、身内だけで行うことにした。湖の側にはクロエの作った様々な料理がテーブルに並び、天候が悪くなっても魔獣が来ても大丈夫なように、会場の周りには虹色の結界が張られていた。
会場にはすでにブラウン辺境伯家、シルバーズ侯爵家、魔国の族長とその家族達が集まっていた。
「おっ、主役が到着したようじゃ」
クロエはルカのエスコートで会場に転移してきた。クロエはこの世界では珍しい真っ白なマーメイド型のウエディングドレスに、妖精族のミハエルが作ってくれたクリスタルの花冠を付けていた。ルカも真っ白な燕尾のスーツに、クリスタルの花飾りを胸元のポケットに入れてクロエとお揃いのモチーフを付けていた。そしてドラゴン族の双子が、新郎新婦の前を花びらを撒きながら、神父役のレイの前まで2人を案内した。
「クロエ、綺麗じゃぞ」レイは暖かい眼差しで2人を見ていた。
「よし、婚姻の宣誓を始めるぞ。新郎ルカは、ここにいるクロエを悲しみ深い時も喜びに充ちた時も共に過ごし愛を持って互いに支えあうことを誓いますか?」
「はい。誓います」
「クロエ、貴方もまたここにいるルカを悲しみ深い時も喜びに充ちた時も共に過ごし愛を持って互いに支えあうことを誓いますか?」
「はい。誓います」
「それでは誓いのキスを」
クロエは隣にいるルカを見上げると、いつも無表情なルカが笑顔でクロエを見つめていることに驚き、唖然とルカを見ていた。(えっ!ルカが笑ってる!)
……と、クロエがルカの笑顔に驚いている間に、誓いのキスは終わってしまっていた……。(えっ~!ちょっと、誓いのキス、いつ終わったの~!)
クロエが「はははっ……(涙)」と遠い目になっていると、皆が拍手をしながら2人の周りに集まって祝福してくれた。
妖精族が音楽を奏でると、ルカはクロエの手を引いてファーストダンスをみんなの前で披露した。そしてその後は皆もダンスをしたりクロエの料理を堪能したりして楽しい時間を過ごし、披露パーティも終わりかけると、みんなは2人に挨拶してそれぞれ転移して帰途についた。
そしてクロエとルカだけが残り、湖の畔に2人で座って月あかりが映る水面を眺めていた。
「ねぇ、ルカ。私達これから何をしていったらいいんだろ。結婚して、仕事して、子供産んで……、そしてこの世界の寿命を終える……」
「俺はさ、生まれてすぐから暗部として育てられたから、小さい時は喜びっていうのが良くわからなかった。仕事が成功したら、自分の努力が報われた気持ちにはなったけど、嬉しいとか楽しいとかいう感情が理解出来なかったんだ。だけどクロエと修行した3年間は俺の中で楽しいと感じた時間だった。クロエは、人のために誰かのためにって動くのがクセになってるだろ。したかったらしてもいいとは思うけど、しなくてもいいんだ。ただクロエが喜びや楽しさを感じることをしていけばいいだけ。それだけでいいんだ」
「私、ドワーフ達と缶詰試作してる時、時間を忘れるほど熱中してた……。料理を作ってる時も、色々工夫したりするのが凄く楽しくて、そして食べてくれる人がいるのも嬉しい。そうか……、そういうのを集めて行ったら、凄くワクワクして楽しく生きて行けるね。ありがとうルカ。ルカとこうして一緒に居られることも嬉しいしドキドキする。私、幸せだ……」
「俺も、クロエと会えて良かった。よし、俺も熱中できる楽しいもの集めるわ。そうとなったら魔王宮に帰って、化学変化した魔石の分析をするぞ。あれすんげー楽しいんだ。ロイにも分析結果急かされてるしな。行くぞクロエ」
(えっ!ちょっと待って!今日は結婚式して、その後は初夜ってやつなんじゃないの~!)
ルカは、遠い目になったクロエの手を引いて立ち上がると「初夜は忘れてないから心配するな」と耳元で囁き、魔王宮へ転移して行った。
* * *
そして2年後、クロエは出産を迎えた。
「オンギャ~~~!」元気な赤子の産声が魔王城中に響き渡った。
「クロエ様、元気な女の子です」メイが赤ちゃんをお包みに包んでルカに手渡した。
ルカは大量の涙を流しながら、生まれたばかりの赤ん坊の顔をじっと見つめていた。
「クロエ……、何だかこの子、俺をガン見した後に呆れた顔で見てるんだけど。なんでかな?」
クロエはふと嫌な予感を覚えたが、その予感を振り切るように頭を振り、話を変えて「名前は何にする?」とルカに微笑んだ。
数年後、その子が転生したロアだということが暴露されることになるのだが、今は誰も知らない……。
「おぉ~クロエ、ナイスタイミングじゃ!ちょうど休憩をしようと思っておったところじゃ」
ブラウン辺境伯国に新しく出来た学院は、多種多様な生徒が入学して賑やかな様子を見せていた。冒険者として各国を周っていた者や、ヴァンパイア国の魔具研究所で研究をしていたがロアから科学の知識を学ぶために入学してきた者、ずっと農業をしていたがフリーズドライ工場に収穫した野菜を持ってくようになって実は土魔法が使えることが分かって学院に入りたいと熱心に入学を希望して来た者など、年齢も国籍も関係なく様々な生徒で活気づいていた。
「クロエ、魔王宮での生活はどうじゃ?まぁ、クロエは毎日のようにこちらには来ておるがの」レイは、おはぎを美味しそうに口に入れながらクロエに訊ねた。
「師匠、実は私、今度は缶詰作りにトライしているんです。完成したら師匠に見てもらいますね」
「缶詰か!そこは儂も気が付かなかった。フリーズドライの他に缶詰が作れるようになればもっと色んな保存食が作れるの~。楽しみじゃ!」
クロエは新魔王として魔国の魔王宮にメイと一緒に住むようになったが、魔王としての仕事は特には無かった。魔王は魔国の象徴としての存在であり、魔王が使うお金は過去の魔王達が魔道具開発で得た多額の特許使用料がギルドから振り込まれており、クロエは何もしなくても十分に暮らすことが出来た。しかしクロエは次の魔王のために新しい特許を取ろうと、缶詰め制作に取り組んでいた。缶詰めの缶を上手く作ることが出来ればフリーズドライの他にももっと保存食の幅が広がると、魔の森に住んでいるドワーフ族の鍛冶職人と一緒に試作を繰り返していた。
「ルカも元気にしてるか?ルカも毎日のようにこの学院に来てロアの講義を受けているようじゃが、儂には全く顔を見せにこんのじゃ」レイは緑茶を飲みながら、2個目のおはぎに手をのばしていた。
「ルカも元気にしていますよ。今は、師匠の調査を引き継いで、魔の森にある瘴気が発生する泉を調べています。先日、泉の水を抜いてみて分かったことなんですが、泉の底に化学変化を起こした魔石があったんです。どうやら瘴気が発生する原因はその魔石のようで、どうして化学変化を起こしたのか、今2人で調べているところなんです」
「ほう、魔石の化学変化か……。今度、儂にもその魔石を見せてくれんか?久しぶりに儂も魔の森へ行ってみようかのぉ~。しかし、クロエとルカが仲良くやっているようで良かった。そうじゃ、結婚式の準備は進んでおるか?」
「はい。ウエディングドレスももう少しで仕上がりそうですし、3か月後の結婚式には間に合いそうです。あっ、今度ルカと一緒に、師匠に結婚式の招待状をお渡ししに来ますね。師匠は私とルカが尊敬する大好きなお爺様ですから、一番にお渡ししたくて」
「そうか嬉しいのぉ。ひ孫の魔術指導もしなくてはならんから長生きせねばの~」レイはニコニコと笑いながら3個目のおはぎを口に入れていた。
* * *
クロエとルカの婚姻式は、クロエ達が闇魔法を修行したシルバーズ侯爵家別荘近くにある湖の側で、身内だけで行うことにした。湖の側にはクロエの作った様々な料理がテーブルに並び、天候が悪くなっても魔獣が来ても大丈夫なように、会場の周りには虹色の結界が張られていた。
会場にはすでにブラウン辺境伯家、シルバーズ侯爵家、魔国の族長とその家族達が集まっていた。
「おっ、主役が到着したようじゃ」
クロエはルカのエスコートで会場に転移してきた。クロエはこの世界では珍しい真っ白なマーメイド型のウエディングドレスに、妖精族のミハエルが作ってくれたクリスタルの花冠を付けていた。ルカも真っ白な燕尾のスーツに、クリスタルの花飾りを胸元のポケットに入れてクロエとお揃いのモチーフを付けていた。そしてドラゴン族の双子が、新郎新婦の前を花びらを撒きながら、神父役のレイの前まで2人を案内した。
「クロエ、綺麗じゃぞ」レイは暖かい眼差しで2人を見ていた。
「よし、婚姻の宣誓を始めるぞ。新郎ルカは、ここにいるクロエを悲しみ深い時も喜びに充ちた時も共に過ごし愛を持って互いに支えあうことを誓いますか?」
「はい。誓います」
「クロエ、貴方もまたここにいるルカを悲しみ深い時も喜びに充ちた時も共に過ごし愛を持って互いに支えあうことを誓いますか?」
「はい。誓います」
「それでは誓いのキスを」
クロエは隣にいるルカを見上げると、いつも無表情なルカが笑顔でクロエを見つめていることに驚き、唖然とルカを見ていた。(えっ!ルカが笑ってる!)
……と、クロエがルカの笑顔に驚いている間に、誓いのキスは終わってしまっていた……。(えっ~!ちょっと、誓いのキス、いつ終わったの~!)
クロエが「はははっ……(涙)」と遠い目になっていると、皆が拍手をしながら2人の周りに集まって祝福してくれた。
妖精族が音楽を奏でると、ルカはクロエの手を引いてファーストダンスをみんなの前で披露した。そしてその後は皆もダンスをしたりクロエの料理を堪能したりして楽しい時間を過ごし、披露パーティも終わりかけると、みんなは2人に挨拶してそれぞれ転移して帰途についた。
そしてクロエとルカだけが残り、湖の畔に2人で座って月あかりが映る水面を眺めていた。
「ねぇ、ルカ。私達これから何をしていったらいいんだろ。結婚して、仕事して、子供産んで……、そしてこの世界の寿命を終える……」
「俺はさ、生まれてすぐから暗部として育てられたから、小さい時は喜びっていうのが良くわからなかった。仕事が成功したら、自分の努力が報われた気持ちにはなったけど、嬉しいとか楽しいとかいう感情が理解出来なかったんだ。だけどクロエと修行した3年間は俺の中で楽しいと感じた時間だった。クロエは、人のために誰かのためにって動くのがクセになってるだろ。したかったらしてもいいとは思うけど、しなくてもいいんだ。ただクロエが喜びや楽しさを感じることをしていけばいいだけ。それだけでいいんだ」
「私、ドワーフ達と缶詰試作してる時、時間を忘れるほど熱中してた……。料理を作ってる時も、色々工夫したりするのが凄く楽しくて、そして食べてくれる人がいるのも嬉しい。そうか……、そういうのを集めて行ったら、凄くワクワクして楽しく生きて行けるね。ありがとうルカ。ルカとこうして一緒に居られることも嬉しいしドキドキする。私、幸せだ……」
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(えっ!ちょっと待って!今日は結婚式して、その後は初夜ってやつなんじゃないの~!)
ルカは、遠い目になったクロエの手を引いて立ち上がると「初夜は忘れてないから心配するな」と耳元で囁き、魔王宮へ転移して行った。
* * *
そして2年後、クロエは出産を迎えた。
「オンギャ~~~!」元気な赤子の産声が魔王城中に響き渡った。
「クロエ様、元気な女の子です」メイが赤ちゃんをお包みに包んでルカに手渡した。
ルカは大量の涙を流しながら、生まれたばかりの赤ん坊の顔をじっと見つめていた。
「クロエ……、何だかこの子、俺をガン見した後に呆れた顔で見てるんだけど。なんでかな?」
クロエはふと嫌な予感を覚えたが、その予感を振り切るように頭を振り、話を変えて「名前は何にする?」とルカに微笑んだ。
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