「ときめかない」ものなど捨てておしまいなさい

megane-san

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21. グリモード家の暗躍

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 ガイは失恋後、竜人族長に誘われて、1か月ほど竜人族の住む世界へ視察に行くことになり、レイ達はガイの見送りに竜の滝側まで来ていた。

「ガイ、1ヶ月といわずゆっくりして失恋を癒してこいよ」

「ガイ様、番様がいらっしゃるかもしれませんからね。しっかりと周りを見てきてくださいね」

「お前達、ガイの傷をえぐるようなことを言うのはどうかと思うぞ」

ガイは苦笑いしながら三人に手を振り、竜の滝裏から消えていった。


ガイが竜人族の世界へ行ってから1か月が経とうという頃、国王からクリスティーナに、至急でレイと一緒に王宮に来るようにと連絡が入った。レイがグリモード家の屋敷まで迎えに来ると、レイはクリスティーナを連れてすぐに王宮に転移し、そして王宮に着くと入口で待ち構えていた宰相がレイ達を国王の私室に案内した。

「失礼いたします。レイノルド殿下が到着されました」

宰相に続いて部屋に入ると、「挨拶はいい。忙しいところ急に呼び出して悪いな。ネズミに動きが出たから知らせておいた方が良いと思ってな」

侍従がお茶をテーブルに並べると、国王はすぐに人払いをした。

「うちのネズミはどの家でしたか?」

「サヴィル侯爵家だ」

(サヴィル侯爵家って、ローラ様の元婚約者の家よね……)

「サヴィル侯爵が、ダリオン国の王妃に接触を図っていると報告が入った。すでに侯爵は王妃と面会したらしいが、どうやらサヴィル侯爵から王妃に企みの打診をしたらしい。その内容が、レイ、お前を消してガーラ国の改革をストップさせ、クリスティーナ嬢をダリオン国の王太子妃にする計画だということだ」

「私を消す?どうやって……」

「特級魔術師のレイを消すことを王妃に打診したんだ。奴には何らかの勝算があるんだろう。こちらでも奴を探るが、レイ、注意して過ごすように。当分の間、王宮ではなくグリモード家に身を隠すのがいいだろう。たぶんこの国で一番安全な場所だ」

「兄上、わかりました。情報をありがとうございます」


レイと一緒にグリモード家の屋敷に戻ると、セバスとギルバートが玄関ホールで二人を待っていた。

「レイ様、お話は伺っております。お部屋を準備させていただきましたのでゆっくりお寛ぎください」

「セバス、すまないな。しばらく世話になる。ウィリアム殿に挨拶をしたいのだが……」

(レイは、クリスティーナとの婚約が決まった後、グリモード男爵と夜遅くまで呑み明かし、『レイ』『ウィリアム』と呼び合う仲となっていた)

「旦那様は先ほどダリオン国へ向かいました。旦那様からレイ様へお手紙をお預かりしております」

レイは、受け取った手紙をすぐに開けて読んだ後、何故か目を見開いて手紙を再度読み返していた。

「師匠、なんて書いてあったんですか?」

「ウィリアム殿は、ダリオン国の王妃に会いに行ったらしい。暗殺を企む者に直接会いに行くなんて、君達のお父上は凄いな!さすがグリモード家だよ」

「旦那様は王妃の欲しがっている物を山のように持っていかれました」

「なるほど、王妃にサヴィル侯爵の企みにのっても利は無いと思わせる作戦だな。上手い戦略だ」

クリスティーナは、さすがお父様、動きが早いわと感心ながら「お母様は?」とセバスに尋ねた。

「奥様は研究室に籠られました。戦いに備えて大量の最上級ポーションを作ると意気込んでいらっしゃいます。奥様の作る最上級ポーションは、欠損までも治せる素晴らしいものですからね」

(お母様も気合入ってるわね。レイ様の暗殺を企てるなんて、うちにケンカ売ってるようなものよ。ケンカ上等、倍返しよ!)

「セバス、夫妻にお礼を伝えてくれ。私個人のために皆には世話をかける」

「何をおっしゃっているんですか、レイ様。近い将来、クリスティーナ様の旦那様になられる方、となればレイ様はグリモード家の家族の一員でございます。家族を守るのは当然でございます」

「セバス……、ありがとう」と、レイはしんみりした顔で礼を言った。

「師匠、何を弱気になってるんだよ。えっ、待てよ、ってことは、師匠は俺の弟!」

「お兄様、馬鹿な事言ってないで、こちらもあらゆる状況を想定して対策を練りましょう。向こうの尻尾が見えたら、逆に先手を打てるように、隙なくいきますわよ」



数時間前のグリモード家では……

「セバス、話は以上だ。3日後にダリオン国の王妃を訪れる旨の手紙を王妃宛に送ってくれ。今から、うちの高速船でダリオン国に向かう。船には王妃が欲しがりそうな物を山ほど積んでおいてくれ」

「3日後ですか?高速船であれば、明朝の日が昇る前には港に到着いたしますが……」

「宰相もこの企みに関わっているようだから、先に侯爵家を潰す手筈を整える」

「かしこまりました。ノアを同行させます」


♢*♢*♢*♢*♢*

ダリオン国の王妃がバラの咲き誇る庭園でお茶をしていると、美丈夫な侍従が手紙をもってやってきた。

「王妃様、前グリモード伯爵からお手紙が届きました」

「まあ!前グリモード伯爵からですって!娘を差し出す気になったのかしら?」

王妃は手紙を読むと、蛇のような目をニンマリとさせながら、美しい侍従の手を取った。

「前グリモード伯爵が、この国を出る時に挨拶が出来なかったお詫びに、私への貢ぎ物をたくさん持ってくるらしいわ。これからはこの国に商会が無くても、私の欲しい物はなんでも送ってくれるって書いてあるわ」

侍従は王妃の手の甲を優しく撫でながら、美しい顔で微笑んだ。

「それはようございました。それではサヴィル侯爵からの打診を受ける必要は無くなりましたね。伯爵の娘を王太子妃に迎えなくても、前グリモード伯爵から何でも手に入るのであれば、面倒なことなど引受けることはありませんからね。そんな無駄なことに時間を割いていては、私と王妃様の時間が無くなってしまいますから」

「ジュリアーノ、その通りね。サヴィル侯爵からのお話はお断りするわ。宰相に伝えておいてちょうだい」

「王妃様、畏まりました。宰相に伝えて参ります。王妃様、それでは後程……」

王妃は数年前から少しづつ国王に毒を盛り、数ヶ月前から国王は寝たきりとなり言葉も発することが出来ない状態になっていた。そして王妃は美しい容姿を持つ侍従を側に侍らせ、政は全て宰相のバルア侯爵が取り仕切っていた。



「宰相、王妃様の侍従が王妃様からの言伝を預かっていると面会に来ておりますが……」

宰相補佐官が、ドアをノックして宰相の執務室に入ると、宰相のバルア侯爵は青い顔をして部屋を右往左往していた。

「さ、宰相……、どうされました。侍従には、面会を断りましょうか?」

「いや、大丈夫だ。こちらに来てもらってくれ」

バルア侯爵は、以前から秘密裏に行っていた人身売買が、隣国の騎士団に取引の現場を抑えられたと仲介人から明け方に報告があり、元締めのバルア侯爵の名前が暴かれるのではないかとびくびくしながら今後の対策を練っていたところだった。

「宰相、失礼いたします」

王妃の侍従が入室すると、宰相は卑しい者を見るように「王妃からの言伝は?」とだけ言って、ソファにドサッと腰を下ろした。

「サヴィル侯爵からの打診はお断りするようにとのことでございます」

「はぁっ!何だと!サヴィル侯爵からの打診を受ける代わりに、『フィリオの粉』を大量に入手して隣国へ流す予定だったのに……。今日は全てが上手くいかん」

「フィリオの粉とは、サヴィル侯爵領で栽培された植物から採れる麻薬でしたね」

「あぁ、それを隣国で広めて、国力を激減させるつもりだったのだが……。余計なことを聞くな。さっさと部屋を出て行け」

「承知いたしました」王妃の侍従は、薄い微笑みを浮かべて、宰相の執務室を出て行った。

宰相のバルア侯爵は、ソファに座って膝を細かく揺らしながらブツブツと呟いた。

「サヴィル侯爵とは、王妃を通さず直接取引をするか……。この国と魔法契約を結んでいる魔術師が欲しいんだったな。そんなものと交換なら安い話だ」


 


「おはよう~!」 
 
クリスティーナ達が朝食をとっていると、一週間前にダリオン国に行った父が帰国し、笑顔でダイニングルームに入ってきた。

「お父様、お帰りなさいませ!お怪我等はされていませんか?」

「ハハハッ!全く無傷だ。すべて上手く事が運んだよ。ダリオン国の王妃はサヴィル侯爵と共謀することをやめた。宰相はこれからどう動くか監視が必要だがね」

「それは良かったです!」

レイは話を聞いた後、立ち上がってウイリアムの前まで行くと頭を下げた。

「ウイリアム殿、世話をかけた。ありがとう」

父がその場にいた全員に視線を送ると、家族全員と執事そして従業員達が父の後ろにサッと並び、父に倣ってレイに深く頭を下げた。

「レイ様は、クリスを守るために娘と婚約してくださいました。レイ様が狙われたのもこのことが原因の一つでしょう。レイ様を危険な状況に巻き込んでしまったこと、グリモード家一同、心よりお詫びいたします」
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