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8話

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 ジーロさんが戻って来るまで、のんびり待つしかない。
 お茶を啜りながらボケ~としていると、団長様が俺を見ていた。
 間抜け面をしてたかなと思って、照れ隠しに笑って誤魔化す。


「ドーン君、これを売ればかなりまとまった額になるが…これからどうするつもりなんだ?」


 どうするも何も、そりゃセーフハウスでのんびり暮らしますよ。
 その為にもちゃんとした身分証は欲しいからなぁ…。


「そうですね、新しい身分証も欲しいので、こちらの街に移住しようかと思います。街の外れにでも小さな家が買えるなら…」
 

 家を買って移動魔法陣で、セーフハウスと繋げれば便利。
 やっぱ住み慣れたセーフハウスがいいし、あそこは今は亡き仲間たちとの思い出の場所だもんな。


「そうか…じゃ、この街に残るのか…では」


 団長様が話が途切れた。
 ジーロさんが、戻って来たからだ。ジーロさんの手に小箱があった。きっと俺にその中身の物を見せたくて取りに行ってたんだろうな。


 「大変お待たせ致しました」


 軽く一礼してソファーに座ると、テーブルに小箱を置いて蓋を取り、光沢のある布の上に置かれた1枚の燻んで色褪せた金貨を取り出して古金貨の隣に置いた。


「ジーロ殿、それはアデリア古金貨では?」

「はい、左様でございます。私が持って参りましたのはアデリア古金貨であり、アンティークとして一般的に出回っている物で、価値は白金貨5枚でございます」


 俺は2枚の古金貨は敢えて裏面を上にして置いてある事に気づいた。そして、俺がやらかした事にも気づいた。
 だからジーロさんがあんな質問をしたのかと納得しつつ、冷汗が額に滲む。
 ここは知らぬ存ぜぬで押し通す事にしようと決めた。


「2つの古金貨を見比べて頂いてもよろしゅうございますか?」


 俺よりも団長様が前のめりの姿勢で、見比べて始めた。俺はもうわかっているので、今更見比べる必要もなかったが、何も知らないポーズで少しだけ前屈みになる。


「こちら裏面を上しております。同じ絵柄で世界樹の葉が浮き彫りにされております。そして表面ですが…ご覧下さいませ」


 白い手袋をつけたジーロさんの指が2枚を同時に裏返した。
 団長様の口から「あっ」と声が漏れる。
 俺は自分がやらかした事に目眩がしそうになった。


「このように絵柄が全く違うのです。こちらの一般的に出回っている方はアデリア聖殿が浮き彫りされておりますが、ドーン様がお持ちの方は…約500年前にアデリア大陸全土を統一された英雄ドーンの横顔が浮き彫りされております」


 俺は叫んでこの場から逃げ出したい気持ちになるが、必死になって我慢してジーロさんの話の続きを聞く。


「英雄ドーンと言えば、謎多き人物として有名でございます。偉業を成したにも拘らず、英雄ドーンの顔はどの文献や絵画にも描かれておりません。アデリア大陸統一記念に発行されたこの古金貨に唯一英雄ドーンの顔が浮き彫りされているのです。記念発行なので数は少なく、私もこの商いを始めて50年を過ぎますが1度だけ目にした事がございます。アンティークとしての価値もさることながら歴史的価値も高く、白金貨50枚と査定させて頂きました。オークションに出せば倍以上の価値になってもおかしくはありません」

 数が少ないのは記念発行だけじゃないんですよ、ジーロさん。
 発行数を減らせと当時のアデリア国王を半ば脅して限定2000枚に抑えさせたんですよ。
 更に出回った時に血盟員総出で回収しまっくたんですよ。
 だから数が少ないのは当たり前なんですよ。
 いや、だって恥ずかしいじゃん!!
 とんだ羞恥プレイだったよ…はぁ。

「英雄ドーンの横顔をよくご覧下さい。ドーン様に似ておられませんでしょうか?」

「あぁ、確かに似ているな…と言うか瓜二つではないか?」

 こらぁ!おっさん!要らん事を言うでないわ!

「そうですか?私如きが英雄ドーンに似ているとは正直思えません」

「ドーン様、私が思いますに…ドーン様は英雄ドーンの末裔ではございませんでしょうか?家名が同じでお顔も同じとは偶然にしては重なり過ぎかと。こちらの古金貨をお持ちなのも納得出来ます」
 
 末裔じゃないっす…本人っす。

「英雄ドーンの末裔となれば、それ相応の身分は約束されるはずだ」


 団長様の言葉に、ジーロさんは同意して静かに頷く。
 それ相応の身分は爵位だと直ぐにわかる。
 俺は実のところ既に爵位持ちだ。団長様と同じ男爵。領地は要らなかったけどセーフハウスの場所だけは確保しておきたかったので、セーフハウス周辺一帯を領地とした。ほぼ鬱蒼とした森林で人が住めるような場所ではないから領地運営しなくていいので超楽ちんだ。
 公の地図上では誰も所有していない危険未開域のグレーゾーンにして貰っている。
 俺の大切なセーフハウスがある領地を踏み荒らさるのは嫌だから、領地の確認も兼ねて代々のアデリア国王とは秘密裏に書簡で年2回はやり取りしている。
 

「例えそうであっても、末裔である証拠にはなりません。私には関係ありません。私はただの流浪の民です。私は静かに暮らしたいだけです」

 ホント俺は静かに暮らすだけで満足なんだよ。

 
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