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34話

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 グティエレス家の人々は俺が思った以上に歓迎してくれて、使用人仲間で殆ど歓迎会的なお茶会までしてくれた。場所は厨房だったけど俺的には豪華な部屋よりも厨房の方が人の生活感が感じられて良かった。
 やっぱ、何より皆んなのその気持ちが嬉しくて仕方なかったんだ。
 でも、使用人仲間だけの筈が何故だかアルベルトさんがしれっと参加して楽しそうに皆んなと談笑していた。
 エディさんにこっそり聞いたら、意外とさみしがり屋でこういう集まりには都合が合えば必ず参加するらしい。それじゃ使用人同士で主人への愚痴とか言えないんじゃないかって聞いたら、「旦那様に愚痴なんかないです。言いたい事があれば皆直接言いますから」と、あっけらかんとして言われた。
 家族同様に扱っているのかなとは思っていたけど、本当にそうだった。
 お貴族様にしてはかなり珍しいよな。
 
 
 火傷の痕が無くなった事もアルベルトさんから説明があったのか、誰1人理由とか聞いてこなかった。
 ただダフネさんがソソっと寄って来て「火傷が無くて本当に良かったです」と、こっそり耳打ちしてきたぐらいだった。
 ダフネさん…もとい、ダフネちゃんは可愛い。俺にもし娘がいるとしたらダフネちゃんみたいな可愛い子だったらなと思ってしまうぐらいだ。




 グティエレス家に来て1カ月程経った。

 俺のグティエレス家での1日の流れと言えば…。


 AM4:30 転移魔法陣で繋げたセーフハウスで起床
               セーフハウスの庭園と畑の世話
               自己鍛錬

 AM6:30 朝食
               身支度

 AM7:00 グティエレス家に出勤
               トマスさん夫妻・マルセロさんの手伝い

 PM12:00 トマスさん夫妻宅で昼食
                 休憩

 PM15:00 フリオさん・イネスさんの手伝い

 PM19:00 グティエレス邸の厨房で夕食

 PM20:00 セーフハウスに帰宅
                 自己鍛錬
                 入浴

 PM23:00 就寝


 ざっとこんな感じだ。
 なかなか規則正しい良い流れだと自画自賛してしまう。

 いくらグティエレス家に勤める事になってもセーフハウスの管理は疎かにする気はないし、自己鍛錬は習慣に近いけどするとしないとではその日のコンディションが微妙に違うから、ほぼ欠かさずやっている。


 グティエレス家での仕事も殆ど雑多な手伝いだけなんだけど、もっぱら力仕事が多い。
 ドライアドの1件で、俺が怪力の持ち主だと思われているぽいけど、若い男ってのがマルセロさんしかいないから自ずとから力仕事が回ってくるみたいだ。
 それはそれで別に問題はない。
 前世では運動の類いは一切禁止されていたせいもあってか、今生の俺は見た目によらず身体を動かすのは好きだし、前世の記憶が蘇ってからは更に嬉しさまで感じている。
 汗と泥に塗れる事にも抵抗もないよ。


 500年前は小さな国が入り乱れての戦争ばかりで時代の流れで生きる為に戦い、厄災をもたらす魔物討伐でも戦っていたっけ…。ずっと戦いに明け暮れてたよなぁ。
 元々そういうコンセプトのゲーム内容だから仕方ないんだけど。
 それから500年間セーフハウスに引き篭もり静かな生活をしてたけど、こうした穏やかな普通の人としての生活も悪くない。むしろ、楽しいぐらいだ。


 2週間が過ぎたところで、トマスさん夫妻から意外な申し出があった。
 昼食を一緒に食べて欲しいという事だった。
 断る理由がある訳でもないけどお邪魔するのはどうかと思い躊躇していると、マリアさんからどうしてもと請われて承諾してからは、毎日トマスさん夫妻宅で昼食をしている。

 最初の昼食の後、マリアさんが後片付けで席を立った時にトマスさんから申し出の理由を話してくれた。
 トマスさん夫妻には家出した息子がいるらしく、その息子が家出した時の歳と俺が同じぐらいで被って見えるそうだった。
 マリアさんが息子さんの事を思い出して気落ちしているのを見兼ねてトマスさんがマリアさんに俺を昼食に誘ってみるのはどうかと持ちかけたらしい。
 俺が息子さんの代わりにはならないとは思うけど、それでマリアさんの気持ちが癒されるならと、改めてトマスさんに昼食を一緒に食べる事を承諾した。

 超親不孝な俺が今更って感じだけど、トマスさん夫妻に親孝行のほんのちょっとな真似事しても…養父オヤジ、いいよな。
 
 

 マルセロさんはちょっと気弱でボンヤリしてるところがある純朴そのものな好青年だ。俺より少し上の26歳だそうだ。
 厩番としてアルベルトさんの愛馬ともう2頭の3頭の世話をしている。
 初めて手伝いに入った時、俺が馬の世話をした事がないと思ったのか、初心者にでもわかりやすいようにとお手本を見せて手振り身振りを入れて丁寧に教えてくれた。その時の姿が馬が好き好きで堪らないのがもろ分かりで、ついつい微笑んでしまうぐらいだ。

 毎日の手伝いをしながら話をしている内に知った事は、マルセロさんは近くのパン屋の次男坊でエディさんとは幼馴染み。
 根掘り葉掘り聞くのは俺の性には合わないので自分からは何も聞かないが、マルセロさんがたまに溢す言葉の端々にから察するに、エディさんの事が好きらしい。
 俺がちょくちょくエディさんと話をしていてるのを気にしているぽかった。
 妙な誤解をされるのは厄介なので、エディさんやダフネちゃんは仕事仲間であって恋愛対象として見れないとさり気なく言っておいた。
 しかし、あのエディさんに恋心を寄せるとは…マルセロさん怖い物知らずなのか、あるいは器がデカイのか…。

 まぁ、頑張れっ!マルセロさん。



 フリオさんは俺に対してどことなく遠慮をしている気がする。
 俺が進んで手伝いを申し出でても、1度は必ずやんわりとお断りをされてしまうが、俺がめげずに申し出るので渋々…って感じだ。
 気にかけてよく声をかけてくれているから、嫌われている感じではないんだよな…。
 アルベルトさんから俺について何か聞いているのかな?
 でも聞いたところで、遠慮する必要がどこにもないような。
 思い切ってイネスさんにそれとなく聞いてみると、何故だか困ったような顔をし苦笑いをされて何も答えてはくれなかった。
 イネスさんの側にいたダフネちゃんも同じように苦笑いをしているだけだった。
 ならば、ここはエディさんにと思い、イネスさんとダフネちゃんの気になる苦笑いの事も踏まえてストレートに聞いてみた。
 エディさんは苦笑いではなく悪い顔をして含み笑いを俺に向けて「いずれわかりますよ」とだけ答えただけだった。

 超気になるんですけどー!!

 

 夕食は基本グティエレス邸で食べる事になっている。
 アルベルトさんが急な仕事や用事で食事を済ませて帰る事は多々あるので19時までにアルベルトさんが帰宅しなければ、厨房でイネスさん親子とフリオさんの4人で食べている。
 やっぱりイネスさんの作る料理は美味しい。マリアさんの料理も美味しいんだけど、イネスさんのは別格だ。
 思えばこのひと月アルベルトさんと食事をしたのは3回ぐらいだ。邸内でもあまり姿も見てない気がする。

 思った以上に多忙な人だったみたいだ。

              

 グティエレス家での暮らしは本当に楽しい。
 人じゃない俺がいつまでこの暮らしが続けられるかわからないけど、今はこの暮らしを大切にしたいと思っているんだ。








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