薄暗い闇の先に

瀬間諒

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17話 謝罪

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 ベッドに横たわり肘をついて半身を起こしているザッカスの顔に、枕はぼすっと音を立てて当たり落ちる。
 顔を真っ赤にさせて、息を荒げて憤る五十鈴は、ザッカスを涙目になってひとしきり睨む。

 その様はまるで仔猫が毛を逆立ててシャーーッ!と怒る姿と重なる。
 呆気に取られて、言葉も無く睨んでくる五十鈴を見ていたザッカスは、小さくプッと吹き出し、彼女からの顔を背けて声を出さずに、肩を大きく揺らして笑い始める。

 笑い声こそしないが、ザッカスが大笑いしている事に気づいた五十鈴は、へなへなと床に座り込んで、がっくりと項垂れて両手で顔を覆い自分のした行為を恥じる。
 悪いのは肩を揺らして笑っている男なのだが、自分がした事は褒められる様な行いではない。
 キレたとはいえ、あまりにも大人げが無い。
 そして、相手は自分が仕えると決めた主人。

 指の隙間からザッカスをうかがい見れば、笑いはまだ止まらない様だった。



「…すみません…言い過ぎましたし、やり過ぎました…」 
 


 正座に居直して頭を下げて、素直に謝る。
 漸く込み上げくる笑いがおさまったザッカスは、思いの寄らない謝罪の言葉に、背けていた顔を頭を下げてたままの五十鈴に向けた。



「否、悪ふざけが過ぎたようだ。悪かった」



 ベッドから降りると、ザッカスは五十鈴の元に歩み寄り、その手を取って立たせる。
 自分を見つめる闇色の瞳が、今までにない優しげなものに見えて、一瞬どきりとし目を伏せて視線を外す。



「まだ許してませんけど……ああいう事は、私じゃなくて、その気がある人にやって下さい」

「考えておこう」

「や、そこは流れ的に、わかったって返事するところですよ?」

「そんな流れなど俺は知らん」

「わかったって言って下さい」

「断る」

「言って下さい」

「断る」

「………」

「断る」



 口を尖らしてムッとする五十鈴は、気づいた。完全に揶揄われている事に。 
 はぁ…と、盛大な溜息を吐く。



「 身を整えたら、顔を洗って下に行け。お前が下に行ったら食事が出るよう頼んである」

「ザッカス様は一緒に行かないんですか?」

「気にしないでいい」

「はぁ…、わかりました」



 話を強引に切り替えられた感は否めないものの、朝ご飯となればそれはまた別の事で、また五十鈴のお腹の虫が騒ぎだす前に、五十鈴はあたふたと服を着る。

 そういえば、ザッカスはいつ食事をしているのだろうか。昨日はお酒しか飲んでない様に思えたのだが…。
 自分と同じく身なりを整えている姿を見て、首を傾げる。


 五十鈴が下に降りて、カウンターに座るとマスターが、厳つい顔ににこやかな笑顔を浮かべて迎えてくれた。
 「笑顔には笑顔で返す」がモットーな五十鈴は当然笑顔を返すと、マスターが何故か上機嫌になり、黒パンと芋が入ったシチューを出してきてた。ついでにオレンジの様な柑橘系の実を1つ、オマケだと言われたのでありがたく頂いた。


 朝食を食べ終わった頃、ザッカスが階段を降りてきた。
 五十鈴が食べ終わったのを確認すると、カウンターのマスターに銀貨を1枚投げ渡した。



「フードを被れ、これからギルドに行くぞ」



 頭の中へとザッカスの声が響いた。
 言いつけを守り、マントのフードを目深に被ると、慌ててドアへと向かうその後ろ姿を追う。







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