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27話 誤解
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正気に戻った五十鈴は、ザッカスの肩に手をやり離れようとするが、そうさせてはさせて貰えず、大人しく首に腕を回し直し、すがりついたままでいる。
パニック発作で錯乱した事は、五十鈴自身よくわかっている。
原因のきっかけになったのはザッカスだが、その彼に醜態を晒して迷惑をかけてしまった事に後ろめたさに、互いの顔を合わせないこの体勢は、恥ずかしいながらも都合が良かった。
身体が冷えないようにと、時折湯を背中にかけてくれている。
「少しは落ち着いたか?」
「はい…すみません…でした」
「もう少し、そのままでいろ」
「……何も聞かないんですね…」
「聞いたところで、どうにかなるものじゃあるまい」
ザッカスの言いようは冷たいが、それは五十鈴の心情を察しての言葉で、彼女にはそれがよくわかっていた。
「まいったなぁ……本当に困っちゃう…」
「どうした?」
「何でもないです」
泣きたいような笑いたいような自分でもよくわからない気持ちが溢れて、巻きつけていた腕を首から解いて、濡れているザッカスの顔を両手で挟み、その唇に自分の唇を合わせた。
五十鈴の行動に、驚いたのか双眸が見開く。
小さな皺がある目元や口元にも、唇を当てていく。
細い指先が無精髭のあごをなぞる。
「煽っているのか?」
そういうつもりはないが、そう取られてもおかしくない事をしている自分の行為に、顔を真っ赤に染め上げて何も言わずに、再び唇を相手の唇へと合わせる。
ふと、ザッカスの闇色の瞳がじっと自分を冷たく見つめているだけな事に気づく。
馬鹿な事をして、きっと軽い女だと呆れられたのだと思った五十鈴は、恋愛未経験で恋人などいた事など無いのにと、心の中で自嘲する。
「誰彼構わずこういう事をするのか?」
「……ザッカス様がそう見えるなら、そうなんでしょうね」
血の気が引く気がした。
ナイフで心臓を抉られたかの様に胸の奥が痛い。
一時的に溢れ出た感情だけからの行為ではなかったが、ザッカスには、やはり自分に欲情した軽い女としか思われていなかった。
違うと否定したところで、信じて貰える程の信頼関係も出来ていない。何よりお互いの事を知らなさ過ぎていた。
だから、肯定でも否定でもない曖昧な返事しか出来なかった。
「どうかしてました…何やってんだろ、私。違う人を選んでやります。あ、やっぱり好き人にしないとですよね」
自分の中のありったけの自尊心を奮い立たせて、自分なりに目一杯の笑みを浮かべ、ザッカスを見れば、両目を閉じ眉間に皺を寄せ、片手を自分の額に当てて唸り始める。
「何故そうなる……言い方が悪かったのか……何がいけなかった…どこを間違えた…」
離れようとする五十鈴を逃がさないとばかりに、背中に回している腕に力を入れ、ぶつぶつと独りごちる。
何を言っているのか意味がわからない五十鈴は、密着している互いの胸が更に押し付けられ困惑する。
「…好きな男がいるのか?」
「私が誰を好きとかは、ザッカス様には関係ないことで…」
「ダメだ。お前に触れていいのは、俺だけだ。好きな男であろうと他の誰であろうとダメだ。どうにも我慢ならん。だから、ああいうのも俺だけだ」
「ああいうのって…」
「わからんのか…」
じれったそうにまた唸ると、五十鈴の顎先に手を添えると、柔らかい唇に自分の唇を押し当てた。
「わかったか?」
ザッカスからの触れるだけのキスをされ、自分の唇に手を当て、小さく頷く。
それを確認すると、深い溜息を吐いて五十鈴を横抱きに抱き直し、自分の背中へと右腕を回させ頭を首元に添えさせる。
「俺は言葉足らずで、言いようも悪い。表情もあまりない。お前に妙な誤解をさせたかもしれんが、お前をはしたない女とは思っておらん。ただ少しばかり驚いただけだ。まさかお前から口付けてくるとは思わなかったからな。俺はお前に惹かれている。それが恋情なのかただの肉欲なのかはわからんが、気の迷いではなく惹かれているのは、確かだ。その身体を愛でて快楽でとろとろに蕩かし愉悦で喘ぎ泣かして、自ら俺を求めさせたくなる。今もそうしたくて堪らんのだが…まぁ、それはいつでも出来るか…」
「も、いいです…わ、わかりましたから…もう喋らないで……それと…そこ…触らないで…」
ザッカスの事を誤解して、1人で勝手に傷ついていた自分を恥じると同時に、身体に響く様な低い声で紡ぐあからさまな言葉と先程から自分の胸に手を添え胸の尖りを撫でいる親指の腹に、頭の中が沸騰しそうになる。
天然エロにも程がある…親指の動きはワザとだろうが、今しがた言われた言葉は思った事をそのままに口にしたのはわかる。
「どうした…あぁ、感じて濡れ…」
プツリと五十鈴の中の何が切れた。
ザッカスの言葉が終わらないうちに、身体を起こして、ザッカスの頰を派手な音を立てて平手打ちをした。
辺りにその音が響く。
そして、頭がくらくらとし目眩と共にザッカスの腕の中に倒れる。
あ…これ、あかんやつ…のぼせた…。
意識が薄れる中、ザッカスが自分の名を呼ぶのが微かに聞こえたような気がした。
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いつも読んで下さりありがとうございます。
多忙により更新が遅れております。
ご容赦下さいませm(__)m
パニック発作で錯乱した事は、五十鈴自身よくわかっている。
原因のきっかけになったのはザッカスだが、その彼に醜態を晒して迷惑をかけてしまった事に後ろめたさに、互いの顔を合わせないこの体勢は、恥ずかしいながらも都合が良かった。
身体が冷えないようにと、時折湯を背中にかけてくれている。
「少しは落ち着いたか?」
「はい…すみません…でした」
「もう少し、そのままでいろ」
「……何も聞かないんですね…」
「聞いたところで、どうにかなるものじゃあるまい」
ザッカスの言いようは冷たいが、それは五十鈴の心情を察しての言葉で、彼女にはそれがよくわかっていた。
「まいったなぁ……本当に困っちゃう…」
「どうした?」
「何でもないです」
泣きたいような笑いたいような自分でもよくわからない気持ちが溢れて、巻きつけていた腕を首から解いて、濡れているザッカスの顔を両手で挟み、その唇に自分の唇を合わせた。
五十鈴の行動に、驚いたのか双眸が見開く。
小さな皺がある目元や口元にも、唇を当てていく。
細い指先が無精髭のあごをなぞる。
「煽っているのか?」
そういうつもりはないが、そう取られてもおかしくない事をしている自分の行為に、顔を真っ赤に染め上げて何も言わずに、再び唇を相手の唇へと合わせる。
ふと、ザッカスの闇色の瞳がじっと自分を冷たく見つめているだけな事に気づく。
馬鹿な事をして、きっと軽い女だと呆れられたのだと思った五十鈴は、恋愛未経験で恋人などいた事など無いのにと、心の中で自嘲する。
「誰彼構わずこういう事をするのか?」
「……ザッカス様がそう見えるなら、そうなんでしょうね」
血の気が引く気がした。
ナイフで心臓を抉られたかの様に胸の奥が痛い。
一時的に溢れ出た感情だけからの行為ではなかったが、ザッカスには、やはり自分に欲情した軽い女としか思われていなかった。
違うと否定したところで、信じて貰える程の信頼関係も出来ていない。何よりお互いの事を知らなさ過ぎていた。
だから、肯定でも否定でもない曖昧な返事しか出来なかった。
「どうかしてました…何やってんだろ、私。違う人を選んでやります。あ、やっぱり好き人にしないとですよね」
自分の中のありったけの自尊心を奮い立たせて、自分なりに目一杯の笑みを浮かべ、ザッカスを見れば、両目を閉じ眉間に皺を寄せ、片手を自分の額に当てて唸り始める。
「何故そうなる……言い方が悪かったのか……何がいけなかった…どこを間違えた…」
離れようとする五十鈴を逃がさないとばかりに、背中に回している腕に力を入れ、ぶつぶつと独りごちる。
何を言っているのか意味がわからない五十鈴は、密着している互いの胸が更に押し付けられ困惑する。
「…好きな男がいるのか?」
「私が誰を好きとかは、ザッカス様には関係ないことで…」
「ダメだ。お前に触れていいのは、俺だけだ。好きな男であろうと他の誰であろうとダメだ。どうにも我慢ならん。だから、ああいうのも俺だけだ」
「ああいうのって…」
「わからんのか…」
じれったそうにまた唸ると、五十鈴の顎先に手を添えると、柔らかい唇に自分の唇を押し当てた。
「わかったか?」
ザッカスからの触れるだけのキスをされ、自分の唇に手を当て、小さく頷く。
それを確認すると、深い溜息を吐いて五十鈴を横抱きに抱き直し、自分の背中へと右腕を回させ頭を首元に添えさせる。
「俺は言葉足らずで、言いようも悪い。表情もあまりない。お前に妙な誤解をさせたかもしれんが、お前をはしたない女とは思っておらん。ただ少しばかり驚いただけだ。まさかお前から口付けてくるとは思わなかったからな。俺はお前に惹かれている。それが恋情なのかただの肉欲なのかはわからんが、気の迷いではなく惹かれているのは、確かだ。その身体を愛でて快楽でとろとろに蕩かし愉悦で喘ぎ泣かして、自ら俺を求めさせたくなる。今もそうしたくて堪らんのだが…まぁ、それはいつでも出来るか…」
「も、いいです…わ、わかりましたから…もう喋らないで……それと…そこ…触らないで…」
ザッカスの事を誤解して、1人で勝手に傷ついていた自分を恥じると同時に、身体に響く様な低い声で紡ぐあからさまな言葉と先程から自分の胸に手を添え胸の尖りを撫でいる親指の腹に、頭の中が沸騰しそうになる。
天然エロにも程がある…親指の動きはワザとだろうが、今しがた言われた言葉は思った事をそのままに口にしたのはわかる。
「どうした…あぁ、感じて濡れ…」
プツリと五十鈴の中の何が切れた。
ザッカスの言葉が終わらないうちに、身体を起こして、ザッカスの頰を派手な音を立てて平手打ちをした。
辺りにその音が響く。
そして、頭がくらくらとし目眩と共にザッカスの腕の中に倒れる。
あ…これ、あかんやつ…のぼせた…。
意識が薄れる中、ザッカスが自分の名を呼ぶのが微かに聞こえたような気がした。
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