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1 気付いたら、カプセルの中にいた
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その日、俺リュウ(32歳)は仕事の仲間に誘われて紅葉狩りをしていた。
俺が務める会社の創立記念日に慰安旅行があり、その帰りに誘われたのだ。
普通ならさっさと家に帰るところだが、ついうっかり浅間山の遊歩道にヒカリゴケがあることを教えてしまった。それで案内役を頼まれたというわけだ。
口は災いの元だよな。
「リーダー、その貴重な苔は何処にあるんですか?」
リーダーというのは俺のことだ。プライベートでリーダー呼びは止めてほしい。
「ちょっと待て。確か、この辺に……」
俺は遊歩道を歩きながら、ときどき溶岩の割れ目を覗き込んでヒカリゴケを探した。
このコケはちょっと環境が変わるだけで生育できなくなる絶滅危惧種だ。そのため以前と同じ場所で見付けられるとは限らない。
そんな風にしてしばらく探していたが、なんとか岩の隙間に黄緑色に光るヒカリゴケらしきものを見つけた。綺麗に光を反射している。確か、こんな奴だ。
『ヒカリゴケ』と聞くとホタルのように発光すると思いがちだが、これはそうじゃない。単に効率よく光を反射するだけだ。普通は光を吸収するだけの植物が、なんで大切な光を反射するようになったのか。そこには進化の謎が隠されているような気がする。
そんなことを考えながら少し見とれていたら、その苔は突然黄色く発光し始めた。
いやいや、そんな筈はない。この苔は発光なんてしない。
しかし目の前の苔は明らかに発光していた。まるでLEDのように。
怪訝に思った俺は、さらに岩の奥を覗き込んだ。
「ホタル?」
その言葉を最後に、俺の意識は途切れてしまった。
微かに仲間が俺を呼ぶ声が聞こえた気がする。
* * *
気が付くと俺は固い床に寝ていた。
ついさっきまで浅間の遊歩道にいた筈だが、どうも意識を失っていたようだ。
ちょっと状況がわからない。
ともかく、俺は起き上がって周りを見回した。周囲は、全面ガラスのようなもので覆われていた。
天井からの白い光が妙に眩しく外は暗かった。俺の足元にはさっき見ていたような溶岩が転がっている。
どうもここは救護施設ではないらしい。ベッドもない。
そう。俺は円筒形のカプセルの中に閉じ込められていた。
「なんだ! ここは!」
思わず俺は叫んでいた。
* * *
天井の照明が明るすぎるせいで判り難かったが、カプセルの周りには人がいた。
いたというか、何人も中を覗き込んでいた。
しかも、全員が驚愕していた。
「こっ、これはどういうことだ!」年配風の男が叫んだ。
「なんで人間がいるんだ? 地底人か?」別の男が怪しいことを言う。
「ちょっとどうなってるのよ。普通の人間じゃない!」隣の女が、声を荒げる。
「そ、そんなこと言われても」若い男が委縮している。
「また、設定値を間違えたのねトウヤ! いい加減にしてよ!」もう一人の若い女が叱責した。
覗き込んでいる人間は口々に勝手なことを言っているが、俺はそんなことはどうでも良かった。俺には差し迫った大きな問題があるのだ。
「おい! つべこべ言ってないで、こっから出せ!」
俺は閉所恐怖症なのだ。
* * *
「いや、すまなかった。本当に申し訳ない」
カプセルの周りにいた人間のリーダーだという男が俺に謝罪した。
あれこれと、よく分からない検査をされた後でだ。
なんでこんな扱いをされているのか見当も付かない。
怪しい組織に拉致されたのか?
てか、極秘情報とか持ってないぞ?
とりあえず、拷問とかはされていない。
「人間を転移させるつもりは無かったんだ」
男はしれっと、凄いことを言った。『転移』って、あれだよな?
「転移? ここは転移の施設なのか?」
魔法陣なんてなかった筈だが?
いや、あったとしても本当に転移なんて出来ないか。
もしかして、この男はマッドサイエンティストなのか?
そういえば、どことなく怪しい気がする。
まぁ、それにしては真新しい奇麗な施設だが。
「そうだ。ここでは空間転移の研究をやっている。まだ始まったばかりだが既に空間転移の実験に成功している」
ホワンと名乗ったこの男は自慢げに言った。
「今回も、地中深くから岩石を取り出す予定だった」
いつもは地下から岩石を取り出しているようだ。
地殻の調査でもしているのか? 今回も、地表のものだが確かに岩石の転移には成功している。
ただ、俺というおまけ付きだが。おまけのほうが高額だから違法だと思うぞ。
「俺は、遊歩道にいた筈なんだが?」
「いや、全く面目ない。どうして座標計算が狂ったのか分からないが、完全にこちらの落ち度だ」
ホワンは本当に済まなそうに言った。
「体に異常は見られないようだが、最高レベルの補償をさせてもらうので勘弁してほしい。空間保安局から正式な謝罪と補償金が出るだろう」
さらにホワンはディスプレイの検査結果を見ながらそう付け加えた。
俺は聞きなれない言葉に戸惑った。
「空間保安局って何だ?」
「うん?」
「聞いたことがない」
「なんだと?」
俺は『空間保安局』なんて聞いたことがなかった。
しかし、この施設は誰もが知る国の機関『空間保安局』の研究所だという。
自分たちは空間転移研究所第一研究室の研究員だと言うのだ。少なくとも、この男はそう主張した。
怪しい奴は常に自信満々なものだな。
俺が務める会社の創立記念日に慰安旅行があり、その帰りに誘われたのだ。
普通ならさっさと家に帰るところだが、ついうっかり浅間山の遊歩道にヒカリゴケがあることを教えてしまった。それで案内役を頼まれたというわけだ。
口は災いの元だよな。
「リーダー、その貴重な苔は何処にあるんですか?」
リーダーというのは俺のことだ。プライベートでリーダー呼びは止めてほしい。
「ちょっと待て。確か、この辺に……」
俺は遊歩道を歩きながら、ときどき溶岩の割れ目を覗き込んでヒカリゴケを探した。
このコケはちょっと環境が変わるだけで生育できなくなる絶滅危惧種だ。そのため以前と同じ場所で見付けられるとは限らない。
そんな風にしてしばらく探していたが、なんとか岩の隙間に黄緑色に光るヒカリゴケらしきものを見つけた。綺麗に光を反射している。確か、こんな奴だ。
『ヒカリゴケ』と聞くとホタルのように発光すると思いがちだが、これはそうじゃない。単に効率よく光を反射するだけだ。普通は光を吸収するだけの植物が、なんで大切な光を反射するようになったのか。そこには進化の謎が隠されているような気がする。
そんなことを考えながら少し見とれていたら、その苔は突然黄色く発光し始めた。
いやいや、そんな筈はない。この苔は発光なんてしない。
しかし目の前の苔は明らかに発光していた。まるでLEDのように。
怪訝に思った俺は、さらに岩の奥を覗き込んだ。
「ホタル?」
その言葉を最後に、俺の意識は途切れてしまった。
微かに仲間が俺を呼ぶ声が聞こえた気がする。
* * *
気が付くと俺は固い床に寝ていた。
ついさっきまで浅間の遊歩道にいた筈だが、どうも意識を失っていたようだ。
ちょっと状況がわからない。
ともかく、俺は起き上がって周りを見回した。周囲は、全面ガラスのようなもので覆われていた。
天井からの白い光が妙に眩しく外は暗かった。俺の足元にはさっき見ていたような溶岩が転がっている。
どうもここは救護施設ではないらしい。ベッドもない。
そう。俺は円筒形のカプセルの中に閉じ込められていた。
「なんだ! ここは!」
思わず俺は叫んでいた。
* * *
天井の照明が明るすぎるせいで判り難かったが、カプセルの周りには人がいた。
いたというか、何人も中を覗き込んでいた。
しかも、全員が驚愕していた。
「こっ、これはどういうことだ!」年配風の男が叫んだ。
「なんで人間がいるんだ? 地底人か?」別の男が怪しいことを言う。
「ちょっとどうなってるのよ。普通の人間じゃない!」隣の女が、声を荒げる。
「そ、そんなこと言われても」若い男が委縮している。
「また、設定値を間違えたのねトウヤ! いい加減にしてよ!」もう一人の若い女が叱責した。
覗き込んでいる人間は口々に勝手なことを言っているが、俺はそんなことはどうでも良かった。俺には差し迫った大きな問題があるのだ。
「おい! つべこべ言ってないで、こっから出せ!」
俺は閉所恐怖症なのだ。
* * *
「いや、すまなかった。本当に申し訳ない」
カプセルの周りにいた人間のリーダーだという男が俺に謝罪した。
あれこれと、よく分からない検査をされた後でだ。
なんでこんな扱いをされているのか見当も付かない。
怪しい組織に拉致されたのか?
てか、極秘情報とか持ってないぞ?
とりあえず、拷問とかはされていない。
「人間を転移させるつもりは無かったんだ」
男はしれっと、凄いことを言った。『転移』って、あれだよな?
「転移? ここは転移の施設なのか?」
魔法陣なんてなかった筈だが?
いや、あったとしても本当に転移なんて出来ないか。
もしかして、この男はマッドサイエンティストなのか?
そういえば、どことなく怪しい気がする。
まぁ、それにしては真新しい奇麗な施設だが。
「そうだ。ここでは空間転移の研究をやっている。まだ始まったばかりだが既に空間転移の実験に成功している」
ホワンと名乗ったこの男は自慢げに言った。
「今回も、地中深くから岩石を取り出す予定だった」
いつもは地下から岩石を取り出しているようだ。
地殻の調査でもしているのか? 今回も、地表のものだが確かに岩石の転移には成功している。
ただ、俺というおまけ付きだが。おまけのほうが高額だから違法だと思うぞ。
「俺は、遊歩道にいた筈なんだが?」
「いや、全く面目ない。どうして座標計算が狂ったのか分からないが、完全にこちらの落ち度だ」
ホワンは本当に済まなそうに言った。
「体に異常は見られないようだが、最高レベルの補償をさせてもらうので勘弁してほしい。空間保安局から正式な謝罪と補償金が出るだろう」
さらにホワンはディスプレイの検査結果を見ながらそう付け加えた。
俺は聞きなれない言葉に戸惑った。
「空間保安局って何だ?」
「うん?」
「聞いたことがない」
「なんだと?」
俺は『空間保安局』なんて聞いたことがなかった。
しかし、この施設は誰もが知る国の機関『空間保安局』の研究所だという。
自分たちは空間転移研究所第一研究室の研究員だと言うのだ。少なくとも、この男はそう主張した。
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