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36 ガニメデ日本基地調査隊
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その後、簡易ベッドを片付けてミーティングルームにした。
ここでは空間が貴重だ。何一つ無駄なものはない。宇宙はそういう場所だからな。
この日本基地の近くには別の国の基地もあり、電源などのインフラは相互に融通し合ったりしているそうだ。この世界、ガニメデが宇宙開発のフロンティアなのだ。
確かに小さい円形の窓の外には荒涼とした景色の先に別の国の基地も見えていた。もちろん、その先には巨大な木星が浮いている。
そしてここに日本の調査隊員六名全員が集合していた。
「まず、こちらのメンバーから紹介しよう」とマクガイが話始めた。
本来、六名で使う汎用ルームだけに十二名が入ると狭かった。
そんなことを気にしている人間はいないようだが。
「まず俺、マクガイだ。第五次調査隊の隊長をしている」なるほど。そうだろうな。
「それから、副隊長のアスモだ」
指差した先には細身の男がいた。マクガイが筋肉質なのとは対称的だった。
「アスモです。よろしく」俺は目礼した。
「次に、同じく副隊長のユメノ」目鼻立ちのはっきりした女だった。
「ユメノです。よろしくね!」
「メカ担当のカスト」ちょっと無骨な印象の男だ。
「カストだ。メカ以外にソフトウェアも担当してる。よろしくな」有能そうだ。
「生活、生命維持と医療担当のモトキ」健康そうだが色白の男だ。
「モトキです。よろしく」
「同じく、生活、生命維持、医療担当のユウナ」こちらは小柄な女だ。
「ユウナです。よろしくお願いします」
「以上が日本チームだ」
そういって、マクガイがこちらを見た。仕方ない。俺が紹介するか。
「俺はリュウ。こことは違う世界、『世界ゼロ』の空間転移実験に巻き込まれて多重世界を彷徨っている」
マクガイ以外のメンバーも知ってはいるようだが、驚きが表情に表れていた。
「俺の居た世界、世界R以外に世界ゼロ、世界L、世界Sと三つの世界へ行った。この世界は四つ目だ。転移する原因はまだ不明だ」
俺の説明に、思わず驚く声が漏れるが、話を邪魔する気はないらしい。
「多重世界を渡り歩くうちに、俺と一緒に転移する人間が出来た。これも理由は分からない」
そう断ってから、俺たちのメンバーを向いた。
「まずは最初に行った世界ゼロから、メリスとユリの二人だ」
「メリスです。リュウの恋人です。よろしくお願いします」
「ユリです。リュウの本当の恋人です。よろしくね」おい。空気読め!
こういう場合、俺はどうすればいいんだ?
「つ、次の世界Lからはレジン、シナノ、セリーの三人だ」
「レジンです。生体医療機器を研究していました。よろしく」うん。頼もしい奴だ。
「ほう」思わずモトキが気になったのか声が漏れた。
「シナノです。リュウの恋人予備軍です。よろしくお願いします」おいっ。
「セリーよ。リュウの恋人予備軍その2です。よろしく」なにこれ、俺の試練なの?
これは、あれだ。張り合っているわけじゃなくて、研究者として転移理由を冷静に分析しているんだと思う。うん、絶対そうだ。そうに違いない。そうでなくては困る。
「こっほん。だたし、最後に行った世界Sでは仲間は増えていない。それも理由は不明だ」
ー あ~っ、あ~っ。もし。聞こえるかえっ? 恋人予備軍の候補、右大臣藤原忠義が娘ツウじゃ。聞こえるじゃろ? とっとと、迎えに来んか!
「ツウ姫!」
突然、俺が大声を出したので、調査隊のみんながびっくりした。俺たちの通信は聞こえていないので仕方ない。
「すみません。世界Sからも転移した人がいました。荒野に取り残されているようです。すぐ救助出来ますか?」
「なんと。それはすまん、すぐに向かおう!」とマクガイが応じた。
救助隊は、マクガイ、アスモ、ユウナ、それに俺が加わり、急いで探査車に乗り込んだ。
まずは、スーツの通信機でツウ姫が無事なのは確認した。話を聞くと、どうも岩陰というか谷に落ち込んでいたようだ。
* * *
「気づいて谷から飛び出しても、誰も居ないので困っていたのじゃ。声が聞こえてほっとしたぞ」
新型の多重世界通信機が使えず、通常の通信機では谷底で通じずメンバー確認が正常に出来なかったようだ。つまり、この世界はさらにレアな世界という訳だ。
「なるほど」
それにしてもツウ姫寝すぎ。
* * *
ツウ姫を迎えに行ってバタバタしてしまったが、再びミーティングルームに戻って来た。
「すまない。更にメンバーが増えてしまった」俺は謝罪した。
「だ、大丈夫だ。たぶん」
マクガイは、ちょっと焦った様子で言った。自信ないのか? やばいのか?
それから、一時間ほどかけて、おおよその経緯を話して聞かせた。
「信じられない話だが、お前の話を信じる以外にこの状況を説明する方法は無さそうだな」
マクガイは俺たちを質問攻めにした後、諦めたように言った。重力の小さいガニメデなのに体が重そうだ。
「確かに、それが最も合理的ですからね。いえ、他の方法など思い付きませんが」アスモも同意か。
「そうね。女性が多いのが気になるけど」とユメノ。あ~っ、俺も気になる。
「むしろ、メカニックが居ないのが残念だ。まぁ、メカが殆どないのは分かるが」メカ担当のカストが言った。
そういえば、メカと言ってもスーツの高機能ベルトしかないからな。まぁ、俺たちはチームというより寄せ集めだけど。
「レジンさんの生体医療機器研究には興味があります。是非スーツについても情報交換しましょう」モトキが言った。
「そう。旧式スーツかと思ったら意外と機能が豊富みたいだし面白い。それ生体フィルムよね?」ユウナも興味があるようだ。
「そうです」
レジンは、すぐに仲間が出来そうだ。
「それで、どうする? 地球に連絡して救助船を確保してもらうことは出来ると思うが」マクガイが俺を見て言った。
「ああ、それはどうかな? 輸送船を手配出来たとしても簡単ではないでしょう?」
簡単ではないだろうし、恐らくそんなに長くいられないと思う。
「そうだな。最新の宇宙船でも三か月はかかる」とマクガイ。三か月で木星まで来れるのは凄い。
「今までの経験からすると、その救助船がガニメデに到着する前に俺たちは転移してしまうと思う」
「そうなのか」
「今までの経験だとだが」
「そうか」
「それまで俺たち六……七人がここで世話になることは可能だろうか?」
ここが大事な点だ。可能なのか?
マクガイはしばらく考えていたあと言った。
「まず、スペーススーツと同等なスーツを持っていることが大きい。先ほど聞いたスーツの機能からして酸素の心配はないようだな」
「大丈夫だ」
横でレジンも頷いている。
「水や食料は完全循環システムになっているので足りなくなることはない」
そう聞いて俺はとりあえずほっとした。そこが最も大事なところだ。
「ただし、人数が増えると循環システムに負荷がかかる。だが、幸い今は人員を補充する前で、既に二倍以上の十五人に対応できるシステムになっているので問題はない。居住スペースは未完成だが、これは建設を急げばなんとかなるだろう」
「それは有り難い」
「一緒に手伝ってもらう必要があるが大丈夫か?」
「もちろんだ。恐らく外での作業も出来るだろう」
俺は言ってからレジンを見た。
「大丈夫でしょう」とレジン。
「それは頼もしい」とマクガイ。
「そういえば、さっき谷から飛び出したと言っていたが、どういうことだ?」
メカ担当のカストが不思議そうに言った。
「ああ、俺たちの防護スーツには飛翔モードがあって飛べるんだ」
俺がツウ姫に代わって応えた。
「なに? 本当か? 何かエンジンが付いてるのか?」
「重力加速器が付いています」レジンが答えた。
「なんだって? それは、凄いな。それは、こっちの世界よりも進んでる!」とカスト。
「そうですか? 宇宙開発は、私たちの世界より進んでいるようですが」とレジン。俺もそう思った。
「そうか、面白そうだな。後でゆっくり話を聞かせてくれ」
カストは俄然興味が出てきたようだ。技術分野では開発時期に多少の前後はあるだろう。
「分かりました」
「うん、なかなか頼もしいな。じゃ、リュウチームとマクガイチームと言うことでいいか?」
レジンたちのやり取りをみてマクガイも安心したようだ。
「結構だ」
「よし、これから我々は仲間だ。よろしく頼む」
「こちらこそ。よろしく」
ひとり時代遅れの奴がいるけどな。まぁ、何とかなるだろう。
やっと、和やかに会話が出来るようになった。
ここでは空間が貴重だ。何一つ無駄なものはない。宇宙はそういう場所だからな。
この日本基地の近くには別の国の基地もあり、電源などのインフラは相互に融通し合ったりしているそうだ。この世界、ガニメデが宇宙開発のフロンティアなのだ。
確かに小さい円形の窓の外には荒涼とした景色の先に別の国の基地も見えていた。もちろん、その先には巨大な木星が浮いている。
そしてここに日本の調査隊員六名全員が集合していた。
「まず、こちらのメンバーから紹介しよう」とマクガイが話始めた。
本来、六名で使う汎用ルームだけに十二名が入ると狭かった。
そんなことを気にしている人間はいないようだが。
「まず俺、マクガイだ。第五次調査隊の隊長をしている」なるほど。そうだろうな。
「それから、副隊長のアスモだ」
指差した先には細身の男がいた。マクガイが筋肉質なのとは対称的だった。
「アスモです。よろしく」俺は目礼した。
「次に、同じく副隊長のユメノ」目鼻立ちのはっきりした女だった。
「ユメノです。よろしくね!」
「メカ担当のカスト」ちょっと無骨な印象の男だ。
「カストだ。メカ以外にソフトウェアも担当してる。よろしくな」有能そうだ。
「生活、生命維持と医療担当のモトキ」健康そうだが色白の男だ。
「モトキです。よろしく」
「同じく、生活、生命維持、医療担当のユウナ」こちらは小柄な女だ。
「ユウナです。よろしくお願いします」
「以上が日本チームだ」
そういって、マクガイがこちらを見た。仕方ない。俺が紹介するか。
「俺はリュウ。こことは違う世界、『世界ゼロ』の空間転移実験に巻き込まれて多重世界を彷徨っている」
マクガイ以外のメンバーも知ってはいるようだが、驚きが表情に表れていた。
「俺の居た世界、世界R以外に世界ゼロ、世界L、世界Sと三つの世界へ行った。この世界は四つ目だ。転移する原因はまだ不明だ」
俺の説明に、思わず驚く声が漏れるが、話を邪魔する気はないらしい。
「多重世界を渡り歩くうちに、俺と一緒に転移する人間が出来た。これも理由は分からない」
そう断ってから、俺たちのメンバーを向いた。
「まずは最初に行った世界ゼロから、メリスとユリの二人だ」
「メリスです。リュウの恋人です。よろしくお願いします」
「ユリです。リュウの本当の恋人です。よろしくね」おい。空気読め!
こういう場合、俺はどうすればいいんだ?
「つ、次の世界Lからはレジン、シナノ、セリーの三人だ」
「レジンです。生体医療機器を研究していました。よろしく」うん。頼もしい奴だ。
「ほう」思わずモトキが気になったのか声が漏れた。
「シナノです。リュウの恋人予備軍です。よろしくお願いします」おいっ。
「セリーよ。リュウの恋人予備軍その2です。よろしく」なにこれ、俺の試練なの?
これは、あれだ。張り合っているわけじゃなくて、研究者として転移理由を冷静に分析しているんだと思う。うん、絶対そうだ。そうに違いない。そうでなくては困る。
「こっほん。だたし、最後に行った世界Sでは仲間は増えていない。それも理由は不明だ」
ー あ~っ、あ~っ。もし。聞こえるかえっ? 恋人予備軍の候補、右大臣藤原忠義が娘ツウじゃ。聞こえるじゃろ? とっとと、迎えに来んか!
「ツウ姫!」
突然、俺が大声を出したので、調査隊のみんながびっくりした。俺たちの通信は聞こえていないので仕方ない。
「すみません。世界Sからも転移した人がいました。荒野に取り残されているようです。すぐ救助出来ますか?」
「なんと。それはすまん、すぐに向かおう!」とマクガイが応じた。
救助隊は、マクガイ、アスモ、ユウナ、それに俺が加わり、急いで探査車に乗り込んだ。
まずは、スーツの通信機でツウ姫が無事なのは確認した。話を聞くと、どうも岩陰というか谷に落ち込んでいたようだ。
* * *
「気づいて谷から飛び出しても、誰も居ないので困っていたのじゃ。声が聞こえてほっとしたぞ」
新型の多重世界通信機が使えず、通常の通信機では谷底で通じずメンバー確認が正常に出来なかったようだ。つまり、この世界はさらにレアな世界という訳だ。
「なるほど」
それにしてもツウ姫寝すぎ。
* * *
ツウ姫を迎えに行ってバタバタしてしまったが、再びミーティングルームに戻って来た。
「すまない。更にメンバーが増えてしまった」俺は謝罪した。
「だ、大丈夫だ。たぶん」
マクガイは、ちょっと焦った様子で言った。自信ないのか? やばいのか?
それから、一時間ほどかけて、おおよその経緯を話して聞かせた。
「信じられない話だが、お前の話を信じる以外にこの状況を説明する方法は無さそうだな」
マクガイは俺たちを質問攻めにした後、諦めたように言った。重力の小さいガニメデなのに体が重そうだ。
「確かに、それが最も合理的ですからね。いえ、他の方法など思い付きませんが」アスモも同意か。
「そうね。女性が多いのが気になるけど」とユメノ。あ~っ、俺も気になる。
「むしろ、メカニックが居ないのが残念だ。まぁ、メカが殆どないのは分かるが」メカ担当のカストが言った。
そういえば、メカと言ってもスーツの高機能ベルトしかないからな。まぁ、俺たちはチームというより寄せ集めだけど。
「レジンさんの生体医療機器研究には興味があります。是非スーツについても情報交換しましょう」モトキが言った。
「そう。旧式スーツかと思ったら意外と機能が豊富みたいだし面白い。それ生体フィルムよね?」ユウナも興味があるようだ。
「そうです」
レジンは、すぐに仲間が出来そうだ。
「それで、どうする? 地球に連絡して救助船を確保してもらうことは出来ると思うが」マクガイが俺を見て言った。
「ああ、それはどうかな? 輸送船を手配出来たとしても簡単ではないでしょう?」
簡単ではないだろうし、恐らくそんなに長くいられないと思う。
「そうだな。最新の宇宙船でも三か月はかかる」とマクガイ。三か月で木星まで来れるのは凄い。
「今までの経験からすると、その救助船がガニメデに到着する前に俺たちは転移してしまうと思う」
「そうなのか」
「今までの経験だとだが」
「そうか」
「それまで俺たち六……七人がここで世話になることは可能だろうか?」
ここが大事な点だ。可能なのか?
マクガイはしばらく考えていたあと言った。
「まず、スペーススーツと同等なスーツを持っていることが大きい。先ほど聞いたスーツの機能からして酸素の心配はないようだな」
「大丈夫だ」
横でレジンも頷いている。
「水や食料は完全循環システムになっているので足りなくなることはない」
そう聞いて俺はとりあえずほっとした。そこが最も大事なところだ。
「ただし、人数が増えると循環システムに負荷がかかる。だが、幸い今は人員を補充する前で、既に二倍以上の十五人に対応できるシステムになっているので問題はない。居住スペースは未完成だが、これは建設を急げばなんとかなるだろう」
「それは有り難い」
「一緒に手伝ってもらう必要があるが大丈夫か?」
「もちろんだ。恐らく外での作業も出来るだろう」
俺は言ってからレジンを見た。
「大丈夫でしょう」とレジン。
「それは頼もしい」とマクガイ。
「そういえば、さっき谷から飛び出したと言っていたが、どういうことだ?」
メカ担当のカストが不思議そうに言った。
「ああ、俺たちの防護スーツには飛翔モードがあって飛べるんだ」
俺がツウ姫に代わって応えた。
「なに? 本当か? 何かエンジンが付いてるのか?」
「重力加速器が付いています」レジンが答えた。
「なんだって? それは、凄いな。それは、こっちの世界よりも進んでる!」とカスト。
「そうですか? 宇宙開発は、私たちの世界より進んでいるようですが」とレジン。俺もそう思った。
「そうか、面白そうだな。後でゆっくり話を聞かせてくれ」
カストは俄然興味が出てきたようだ。技術分野では開発時期に多少の前後はあるだろう。
「分かりました」
「うん、なかなか頼もしいな。じゃ、リュウチームとマクガイチームと言うことでいいか?」
レジンたちのやり取りをみてマクガイも安心したようだ。
「結構だ」
「よし、これから我々は仲間だ。よろしく頼む」
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