多重世界の旅人/多重世界の旅人シリーズII

りゅう

文字の大きさ
42 / 52

42 マクガイP

しおりを挟む
 その日、マクガイチームは朝から外出せず研究棟の中にいた。
 その日と言っても地球時間の事だ。ガニメデの一日は地球時間だと一週間と長い。
 マクガイチームはこの日、新しい掘削ポイントを試す予定だったが、いつまでたってもぐずぐずしていた。

「そうだ! 仕事も区切りが付いたので、ちょっと記念撮影をしようか?」

 マクガイが怪しい事を言い出した。一区切りついたのは俺たちのチームだが。

「いや。ほら、生活棟の拡張で温泉施設を作ったじゃないか。これは絶対後で評価されると思うんだ。完成した直後の映像を残さないのはもったいないだろう?」とマクガイが言う。

 そうなのか? って、誰が評価するんだ? 確かにストレス解消にはなるとは思うが。

「まぁ、そうだな」
「じゃ~っ。ほら、発案者と一緒に写そう!」と妙に張り切るマクガイ。
「それでは、私がカメラを担当します」

「いやアスモ。副隊長がカメラマンって変だろう! 俺が撮ってやるよ」
「いや、ダメだ。リュウは絶対入れ。ああ~じゃ、三脚立てよう」とマクガイ。

 妙にフットワークが軽い。

「それじゃ、私がナレーションを入れましょう」
「ユウナ、それは後でいいからインタビューしてインタビュー」とユメノが突っ込みを入れる。

「あ、そうか。えっへん。では、リュウさんにお伺いします。どうして、温泉を作ろうと思ったんですか?」
「あ? お前が『温泉があれば、毎日シャワーを好きなだけ使える』とか言ったからだけど?」
「えっ。私? こういう場合どうするの?」

「お前に聞くんじゃないの?」
「そうですね。では、私に誰かインタビューして」
「いや、違うから! リュウに聞くの!」ユメノが更に突っ込む。

「え~っ、そうだった。ええと、なんで温泉が出たんでしょう?」
「お前らが、ボーリングで温泉を掘り当てたんじゃん」
「あ~っ、そうでした」

 もうグダグダだ。やっつけ本番でまともに出来る筈もない。

「もう、どうしたらいいの~?」知らんがな。

 それからも、彼方此方で記念撮影したりビデオ撮影した。

「これが、飛翔モードです。スペーススーツもここまで来ました!」

 エアロックの前でビデオショッピングみたいな事言ってる。これ、CMなの? 売り込みたいの?

「お前ら、なんか怪しいな。何のつもりだ? いい加減に吐け」

「ほら、マクガイがわざとらしいからバレたじゃない」

 ここで、ユメノの泣きが入った。いや、全員わざとらしいけど。

「すまん。いや、お前らが転移していなくなったら、俺たちはこの状況を説明できないと思ってな」

 さすがに諦めたのか汎用棟に戻るとマクガイが白状した。

「説明できない?」

「そうだ。別世界人が現れて温泉作ってくれましたなんて、普通に説明して信じてくれると思うか?」

「それ、お前の言い方がおかしいから」
「そうだが、結局はそう言うことだからな?」
「そうかなぁ」

「説明のために、なるべく転移を遅らせて欲しいけど、無理なら今の状況を説明するビデオ取るしかないと思ったんだ」とマクガイが釈明した。

「そうそう、私たちは目の前に居るから信じるしかないけど、居なかったら誰も信じないと思う」とユメノ。確かに、それはそうだな。

「そうか、じゃぁ風呂壊すか」

 少し考えて俺が応じた。

「それはやめて。絶対やめて。これはガニメデに必要。これないと、もうやっていけない気がする」とユウナ。

 ユウナの本気の顔を始めて見た気がする。

「そうね。これは必要よ」とユメノも賛成する。
「これは、このまま名所にすべきよ」ユウナは、ちょっと壊れ始めてるかも知れない。

「確かに、俺たちが居なくなると微妙な物になるんだな。別世界人が作ったとか言う割には中途半端な気がするし。お前らでも頑張れば十分作れそうだしな」

「えっ? いや、そんなことはないと思うぞ」予想外の展開にマクガイ、ちょっと戸惑う。
「じゃ~っ、ここの人間が逆立ちしても出来ないようなものを残しておけば、みんな信じるんじゃないか?」

「オーパーツみたいな?」アスモ、やや不安な顔。
「そ、そ~でしょうか?」とユメノ。
「そうかもしれませんね」ユウナは棒読みで言った。思考停止しているかも。

「あ、これはヤバいパターンでしょうか?」レジンが言う。
「うん、何か企んでる気がする」メリスも気付く。
「遂に来たの?」ユリ、なにそれ。
「これが、全ての原因のような気がするのですが?」シナノがあらぬことを言う。
「うん、これよね」とセリー。
「うむ。転移の素なのじゃ」とツウ姫。なにその調味料みたいなやつ。
「お前らなぁ」

 まぁ、転移する気満々だけど?

「で、どうすんの?」
「ん? 普通に重力加速器を作っておく」

「え? でもそれはここで作るのは難しいのでは?」カストが言う。

「それは世界Lの重力加速器だ。世界ゼロの物だったら出来ると思う」
「ああ、あの大型の。確かに、出来るかも知れませんね」

 レジンがカストに説明していた時のやり取りから言ってみたのだが、当たっていたようだ。
 レジンがこう言う時は、必ず出来る。

「なに? 出来るのか?」

 マクガイ、流石に驚いて詰め寄って来る。いや、俺じゃないから。作るのレジンだから。

「出来てしまうんですか?」とアスモ。
「出来ちゃうの?」とユメノ。
「出来ちゃいそう!」とユウナ。何がだよ!

 まぁ、世界Lより進んでる点も多い世界だし出来ない筈はないか。
 ここガニメデで作れるかどうかだけの筈だ。もっとも、本当に出来なくてもいいと思う。設計図があれば俺たちが居た十分な証拠になるだろう。回転しない生活棟は憧れだから、そのうち完成させるに違いない。

  *  *  *

 それから、俺たちは重力加速器の設計と製作に時間を使った。
 もちろん、多重世界通信機の作り方も残しておく。転移発光セルは出来ているし特にこの世界でやるべきタスクはもう残っていない。

 そして、設計が終わり製作に入った翌日に俺たちは転移した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

合成師

盾乃あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...