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44 マリ王女の願い
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突然、マリ王女が俺たちに願い事があると言い出した。
「お嬢様、まずは朝食をお召し上がりください」
侍女は持ってきた朝食を勧めた。そういえば、俺たちもまだだ。
「お客様の分も用意しています」とメイ。
「ありがとうメイ、気が利くわね」
メイはテーブルに軽い食事を並べていった。
流石にハワイ、南国のフルーツ満載の朝食だ。窓の外には、明るい朝の光が降り注いでいた。
* * *
「私の国、ハワイ王国は太平洋の中央にあり、約二千キロメートルに渡る長大な国家です」
朝食の後、お茶を飲みながらマリ王女は話し出した。
「つまり、日本国と並ぶ太平洋に於ける二大国家です。そして、どちらも大陸国家からの圧迫に悩まされています」
「なるほど」
「ですが、長く続く寒冷化のため大陸側にも余力がなく、なんとか難を逃れている状態とも言えます」
あれ? これって日本と連邦にしたいとかの話になるのかな? 部屋の備品などを見るに、あまり近代化された世界とも思えないが、どんな世界なのか全く知らない状態で俺たちに出来ることはないだろう。
「あ、俺たちに日本との橋渡しになれとかは無理ですよ?」
「えっ? いえ。もちろん、そのようなことは言いません。それは、既に国王が話を進めております」
「そうですか」俺は、ちょっとほっとした。
「お願いは、その国王陛下の事です」
マリ王女は、俺を真正面から見て言った。
「実は、このところ国王の体調がすぐれません。心労が重なったためと思いますが、ついに床に伏してしまいました」
なるほど。
「医者が言うには肺病とのことです」
王女は、自分も苦しそうに言った。
「手立てはないと」
肺病と言ってもいろいろだが、この世界では大変だろう……って、あれ? レジンが抗生物質作ったよな?
「レジン?」
「ええ、まだ結晶のまま持っています。どうも、世界Sと同じ状況のようですね」
そういえば、寒冷化が続いていると言ったな。
「もしかして、世界Sに戻って来たのか?」
「なに? まことか?」思わずツウ姫も入って来た。
「いや、それは後だ。今はマリ王女の話だ」
「わかったのじゃ」
「あの! もしや、何か手立てをお持ちなのでしょうか?」
マリ王女は、椅子から乗り出して期待を込めた目で聞いて来た。もともと、それを期待しての話だとは思う。
「まだ、分かりませんね。レジン?」
「ええ。国王を見てからでないとお答えできません」
「分かりました。では、すぐに会っていただきましょう」
「メイ、母様の所にこれから参りますと伝えてきて」
「畏まりました」
侍女は、すぐに部屋を出て行った。
待っている間に改めて部屋を眺めてみると、王女の部屋とはいえ確かに小国の宮殿ではない豪華さだった。
寒冷化しているとは言っていたが窓の外の陽光は明るい。ただ、確かに俺の知っているハワイとはだいぶ違うようだ。しかも、二千キロに及ぶ列島ってなんだ?
* * *
しばらくして侍女が戻って来た。
「王妃様がお待ちです」
王女は、安心したように笑みを浮かべて頷いた。
「では、事情を説明して参りますので、しばらくお待ちください」
王女はそう言うが、この状況を説明できるんだろうかか? 俺がメリスを見るとメリスは頷いて立ち上がった。
「わたしも一緒に参りましょう」
「えっ? ええ、そうですね。わかりました。ではお願いします」
あまりにも突飛な話だからな。マリ王女がおかしくなったと思われる可能性もあるし、衛兵を連れて戻って来ても困る。
「そう言えば、東の王国の事を聞いたことがあるのぉ」ふと、ツウ姫が言った。
「なに? 本当か? やっぱり世界Sなのか? あ、世界識別パターンはどうなってる?」
「ちょっと待ってください」レジンは言って持っていたセルを調べた。
「今あるセルだと、世界Sと同じですね!」レジンが言った。
「まじか」
「まことか!」ツウ姫も前のめりになった。
「だとしたら、ペニシリン製造機が使えるかも知れませんね」
レジンも前のめりだ。結晶のストックも、そうあるわけではないからな。
そんな話をしていたら、マリ王女が戻って来た。
「母様との話は終わりました。別世界という話はしていません。日本国から来た専門家と話しています。これから国王の寝室へお連れします」とマリ王女。そりゃ、そう言うか。
「分かりました。レジン」
「ええ、大丈夫です。すぐに使えるようにしてあります」
マリ王女はレジンとメリスを連れて国王の部屋に向かった。
「それは、仙台で流行っていた病と同じなのか?」
「まだ、はっきりとは分からない。同じなら、あの薬で治る筈だ」
「そうじゃの」
ツウ姫はそう言ってから、ちょっと考えるようにしていた。
「その薬、京の皆にも使ってやりたいものじゃ」ツウ姫は遠い目をして言った。
確かに全国で蔓延していてもおかしくない。
* * *
国王の病気は仙台で流行っていたものに近いものだったようでペニシリンは良く効いた。
国王の容態は翌日には改善し、一週間ほどでほぼ回復した。いたく感謝されたが薬のストックはそれで尽きてしまった。
そこで俺たちは仙台に向けて飛ぶことにした。もちろんペニシリンの補給と世界Sの確認のためだ。
* * *
上空に上がって見るとハワイ王国の様子が良く見えた。
俺の知っていたハワイとはまるで違い、長く連なった島々からなっていた。南は俺の知っていた位置あたりの南国なのだが、火山活動が活発過ぎて人は住んでいないようだ。王宮があるのは列島の中央付近だ。驚くことに北は浅間山と同じ緯度くらいまで続いている。
つまり、北端は南国ではない。
* * *
二時間ほど飛ぶとハワイ王国の最北端に達した。そして、そのまま直進すると仙台へ到達した。何か運命めいたものも感じたが、たまたまだろう。
しかし、そんなことを言いながら到着した俺たちを待っていたのは、世界Sの仙台ではなかった。
そこにノブタダは居なかった。この世界では、ノブタダは流行り病で既に亡くなっていた。世界Sで俺たちが救った頃のことだ。つまり、ここは俺たちが仙台に現れなかった場合の世界ということだ。
そんなわけで仙台は今、政争の真っ只中だった。そんな中に下手に出ていくと勢力争いに巻き込まれかねない。
ここは避けるべきだろう。
「お嬢様、まずは朝食をお召し上がりください」
侍女は持ってきた朝食を勧めた。そういえば、俺たちもまだだ。
「お客様の分も用意しています」とメイ。
「ありがとうメイ、気が利くわね」
メイはテーブルに軽い食事を並べていった。
流石にハワイ、南国のフルーツ満載の朝食だ。窓の外には、明るい朝の光が降り注いでいた。
* * *
「私の国、ハワイ王国は太平洋の中央にあり、約二千キロメートルに渡る長大な国家です」
朝食の後、お茶を飲みながらマリ王女は話し出した。
「つまり、日本国と並ぶ太平洋に於ける二大国家です。そして、どちらも大陸国家からの圧迫に悩まされています」
「なるほど」
「ですが、長く続く寒冷化のため大陸側にも余力がなく、なんとか難を逃れている状態とも言えます」
あれ? これって日本と連邦にしたいとかの話になるのかな? 部屋の備品などを見るに、あまり近代化された世界とも思えないが、どんな世界なのか全く知らない状態で俺たちに出来ることはないだろう。
「あ、俺たちに日本との橋渡しになれとかは無理ですよ?」
「えっ? いえ。もちろん、そのようなことは言いません。それは、既に国王が話を進めております」
「そうですか」俺は、ちょっとほっとした。
「お願いは、その国王陛下の事です」
マリ王女は、俺を真正面から見て言った。
「実は、このところ国王の体調がすぐれません。心労が重なったためと思いますが、ついに床に伏してしまいました」
なるほど。
「医者が言うには肺病とのことです」
王女は、自分も苦しそうに言った。
「手立てはないと」
肺病と言ってもいろいろだが、この世界では大変だろう……って、あれ? レジンが抗生物質作ったよな?
「レジン?」
「ええ、まだ結晶のまま持っています。どうも、世界Sと同じ状況のようですね」
そういえば、寒冷化が続いていると言ったな。
「もしかして、世界Sに戻って来たのか?」
「なに? まことか?」思わずツウ姫も入って来た。
「いや、それは後だ。今はマリ王女の話だ」
「わかったのじゃ」
「あの! もしや、何か手立てをお持ちなのでしょうか?」
マリ王女は、椅子から乗り出して期待を込めた目で聞いて来た。もともと、それを期待しての話だとは思う。
「まだ、分かりませんね。レジン?」
「ええ。国王を見てからでないとお答えできません」
「分かりました。では、すぐに会っていただきましょう」
「メイ、母様の所にこれから参りますと伝えてきて」
「畏まりました」
侍女は、すぐに部屋を出て行った。
待っている間に改めて部屋を眺めてみると、王女の部屋とはいえ確かに小国の宮殿ではない豪華さだった。
寒冷化しているとは言っていたが窓の外の陽光は明るい。ただ、確かに俺の知っているハワイとはだいぶ違うようだ。しかも、二千キロに及ぶ列島ってなんだ?
* * *
しばらくして侍女が戻って来た。
「王妃様がお待ちです」
王女は、安心したように笑みを浮かべて頷いた。
「では、事情を説明して参りますので、しばらくお待ちください」
王女はそう言うが、この状況を説明できるんだろうかか? 俺がメリスを見るとメリスは頷いて立ち上がった。
「わたしも一緒に参りましょう」
「えっ? ええ、そうですね。わかりました。ではお願いします」
あまりにも突飛な話だからな。マリ王女がおかしくなったと思われる可能性もあるし、衛兵を連れて戻って来ても困る。
「そう言えば、東の王国の事を聞いたことがあるのぉ」ふと、ツウ姫が言った。
「なに? 本当か? やっぱり世界Sなのか? あ、世界識別パターンはどうなってる?」
「ちょっと待ってください」レジンは言って持っていたセルを調べた。
「今あるセルだと、世界Sと同じですね!」レジンが言った。
「まじか」
「まことか!」ツウ姫も前のめりになった。
「だとしたら、ペニシリン製造機が使えるかも知れませんね」
レジンも前のめりだ。結晶のストックも、そうあるわけではないからな。
そんな話をしていたら、マリ王女が戻って来た。
「母様との話は終わりました。別世界という話はしていません。日本国から来た専門家と話しています。これから国王の寝室へお連れします」とマリ王女。そりゃ、そう言うか。
「分かりました。レジン」
「ええ、大丈夫です。すぐに使えるようにしてあります」
マリ王女はレジンとメリスを連れて国王の部屋に向かった。
「それは、仙台で流行っていた病と同じなのか?」
「まだ、はっきりとは分からない。同じなら、あの薬で治る筈だ」
「そうじゃの」
ツウ姫はそう言ってから、ちょっと考えるようにしていた。
「その薬、京の皆にも使ってやりたいものじゃ」ツウ姫は遠い目をして言った。
確かに全国で蔓延していてもおかしくない。
* * *
国王の病気は仙台で流行っていたものに近いものだったようでペニシリンは良く効いた。
国王の容態は翌日には改善し、一週間ほどでほぼ回復した。いたく感謝されたが薬のストックはそれで尽きてしまった。
そこで俺たちは仙台に向けて飛ぶことにした。もちろんペニシリンの補給と世界Sの確認のためだ。
* * *
上空に上がって見るとハワイ王国の様子が良く見えた。
俺の知っていたハワイとはまるで違い、長く連なった島々からなっていた。南は俺の知っていた位置あたりの南国なのだが、火山活動が活発過ぎて人は住んでいないようだ。王宮があるのは列島の中央付近だ。驚くことに北は浅間山と同じ緯度くらいまで続いている。
つまり、北端は南国ではない。
* * *
二時間ほど飛ぶとハワイ王国の最北端に達した。そして、そのまま直進すると仙台へ到達した。何か運命めいたものも感じたが、たまたまだろう。
しかし、そんなことを言いながら到着した俺たちを待っていたのは、世界Sの仙台ではなかった。
そこにノブタダは居なかった。この世界では、ノブタダは流行り病で既に亡くなっていた。世界Sで俺たちが救った頃のことだ。つまり、ここは俺たちが仙台に現れなかった場合の世界ということだ。
そんなわけで仙台は今、政争の真っ只中だった。そんな中に下手に出ていくと勢力争いに巻き込まれかねない。
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