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52 多重世界の旅人 (完)
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翌日の明け方、予想通り俺たちは転移した。
ツウ姫たちを除いて、ひとまず全員が自分の世界に戻ったのだ。もちろん、多重世界通信機はちゃんと機能していた。通信で繋がっているので別々の世界に分かれたような感じはあまりしなかった。
ー ほんとに、元に戻れて逆に驚いたわよ! 着いたのは南の島だったけどね。研究所に帰った時のホワンの顔ったらなかった!
メリスがやや興奮気味に言った。
ー あ、それはこちらのホワンもそうでした。まるで幽霊を見るような目で見られました。
レジンでもちょっと驚いたようだ。
ー そうそう。マナブやトウカも本物か~とか言ってべたべた触ってくるし。実験で何か変なものでも見たのかしらね。
メリスは、ちょっと嫌そうな声で言った。
ー こちらも同じですね。ホワンやマナブやトウカって、もしかして二つの世界を共有してたりするのかな?
レジンが、こんな怪しいことを言うのは帰った安心感からなのか?
ー ドッペルゲンガーだからな。
ー ふふ。可能性ですけどね。
ー しかし、君と僕はちょっと違うよねレジン。
ー ああ、ルジンさんですか。お話はリュウさんから聞いています。会うのが楽しみです。
ー あれ? そうなの? ちょっと何言われたか心配だな。
ー だいじょ~ぶ、誉めてましたよ。
ー なんだか不安だなぁ。
ー ああ、でも貸し一つとか。
ー あ~、リュウさんバラしてる。ひどい~っ。
ー 誰が誰なのかわからんのじゃ。
これはツウ姫だ。声を聴いたこと無いから尚更だな。
ー 私もわかりませぬ。
これはツウ姫2か。
ー いや、名前を言わないと分からないよ。あれ? これ話者の判別機能とか無理かな?
ー レジンです。分かりました。善処します。
プログラムは、既に通信で更新できる。世界を超えた初めてのアップデートになりそうだな!
ー え~、クイズみたいで面白かったのに~。私は誰でしょうとか。
ユリは、ひとりクイズで遊んでた模様。
ー お前ら多重世界通信機でアホな会話してんじゃね~よ。宇宙人に笑われるぞ~。
ー あら、リュウがあんなこと言ってる。
ー 一番非常識な奴がそんなこと言ってもね~。ていうか、宇宙人聞いてると思う?
メリス、それ冗談なんだけど。
ー 宇宙人より別世界人のほうが多いんじゃない?
ユリ、だから宇宙人は冗談だって。地球の多重世界なんだから。たぶん。
ー 別世界人の宇宙人だと思う。
ー なにそれ、わけわからん。
ー あ~別世界人の宇宙人さん、聞いてますか~っ? リュウと、どっちが非常識ですか~っ。
ユリが悪ノリしてる。
ー お前ら、言いたい放題だな。っていうか、日本語で聞くのかよ。
ー 何語でも一緒でしょ?
ー そうだけど。日本語で返されたら怖いだろ?
ー それ、宇宙人じゃないし。
アホな会話は続いた。
* * *
それにしても、自分の世界に帰ってみると、やはり俺は社会から弾き出されていた。
会社は当然のようにクビだったし住んでいた住宅も支払いが滞って追い出されていた。いや、この世界から消えていたのでそうなったのだが、実際に直面してみるとちょっとショックだ。
社会は想定外のことには対応できないのだ。
ただ、そうなってみると、ここは何が何でも帰らなくちゃいけないような世界でもないのかも知れないと思えて来た。俺の中でタガが外れたような感じがした。
そして気が付いた。別世界の孤島に放り出されたのと何も変わらない状況だと。
それで思った。もう一度別世界へ行ってみようかと。
今度は自分から行ってみたいと思った。後ろ向きではない前向きな多重世界の旅は、どんな旅になるんだろう。俺には、ものすごく魅力的な旅に思えてきた。
別に研究者になりたいわけでは無い。
俺は単に、もっと別の世界を見てみたいのだ。そこには、未来があり過去があった。未来に無い未来、過去にない過去もあった。
俺にとってそれは驚きの連続だった。だが、それでも多重世界全体から見れば、ほんの一部なのだ。ごく近傍の世界を見たに過ぎないのだ。
もちろん冒険をしたいわけでもない。
ただ、もっと自分に合った世界があるかもしれないと思ったのだ。その世界は不可能なおとぎ話の世界ではない。可能なものなら全てある。微妙に違う世界が沢山存在するのだ。
多くの魅力的な世界があり、そしてその世界を歩き回る力を得た。なら、行かないほうがおかしいんじゃないか? そう、思った。
もちろんハイリスクだ。パッケージツアーでは無いのだ。道しるべもない。誰も保証などしてくれない。誰かを巻き込んでいいような旅でもない。
当然、それは一人旅になるだろう。
* * *
そしてある日、俺は南の島に立っていた。
そう、自分の意思で転移したのだ。目の前にはどこまでも光る海が広がっていた。やはり俺の旅はここから始めるべきだと思った。
そして、当然のように多重世界通信機は反応していなかった。つまり、ここは初めて来た世界だということだ。
「ちょっと確率風が強かったかな?」
もちろん、確率風なんて俺が作った言葉でしかない。
誰も知らないし、あるかどうかも怪しいものだ。が、あると仮定してみると面白い。無数の世界の間を風が吹き抜けていくのだ。
いったい俺はどれだけ飛ばされたんだろう?
空は青く澄み渡っていた。
問題ない。少なくとも、この地球は正常に機能している。それなら旅を続けられると思う。
携帯食は持って来たし水は作れる。当分は、この島でゆっくりするのも悪くない。
「そこで、黄昏てるのはリュウではないか?」
無人島の筈なのに聞き覚えのある声がして俺は振り向いた。てか、黄昏てないし!
「ツウ姫!」
「こんな事だろうと思ったのじゃ」
そんなことを言いながらツウ姫は森の中から現れた。
「お前、なんでいるんだよ。っていうか、母親はどうした?」
「うん? 母上には、ツウ姫2がおるからな。一人いれば十分じゃ。それに」
「それに?」
「わらわは、まだお主の側仕えのままじゃからな」
ツウ姫は、悪戯っぽい目でそう言った。
ツウ姫たちを除いて、ひとまず全員が自分の世界に戻ったのだ。もちろん、多重世界通信機はちゃんと機能していた。通信で繋がっているので別々の世界に分かれたような感じはあまりしなかった。
ー ほんとに、元に戻れて逆に驚いたわよ! 着いたのは南の島だったけどね。研究所に帰った時のホワンの顔ったらなかった!
メリスがやや興奮気味に言った。
ー あ、それはこちらのホワンもそうでした。まるで幽霊を見るような目で見られました。
レジンでもちょっと驚いたようだ。
ー そうそう。マナブやトウカも本物か~とか言ってべたべた触ってくるし。実験で何か変なものでも見たのかしらね。
メリスは、ちょっと嫌そうな声で言った。
ー こちらも同じですね。ホワンやマナブやトウカって、もしかして二つの世界を共有してたりするのかな?
レジンが、こんな怪しいことを言うのは帰った安心感からなのか?
ー ドッペルゲンガーだからな。
ー ふふ。可能性ですけどね。
ー しかし、君と僕はちょっと違うよねレジン。
ー ああ、ルジンさんですか。お話はリュウさんから聞いています。会うのが楽しみです。
ー あれ? そうなの? ちょっと何言われたか心配だな。
ー だいじょ~ぶ、誉めてましたよ。
ー なんだか不安だなぁ。
ー ああ、でも貸し一つとか。
ー あ~、リュウさんバラしてる。ひどい~っ。
ー 誰が誰なのかわからんのじゃ。
これはツウ姫だ。声を聴いたこと無いから尚更だな。
ー 私もわかりませぬ。
これはツウ姫2か。
ー いや、名前を言わないと分からないよ。あれ? これ話者の判別機能とか無理かな?
ー レジンです。分かりました。善処します。
プログラムは、既に通信で更新できる。世界を超えた初めてのアップデートになりそうだな!
ー え~、クイズみたいで面白かったのに~。私は誰でしょうとか。
ユリは、ひとりクイズで遊んでた模様。
ー お前ら多重世界通信機でアホな会話してんじゃね~よ。宇宙人に笑われるぞ~。
ー あら、リュウがあんなこと言ってる。
ー 一番非常識な奴がそんなこと言ってもね~。ていうか、宇宙人聞いてると思う?
メリス、それ冗談なんだけど。
ー 宇宙人より別世界人のほうが多いんじゃない?
ユリ、だから宇宙人は冗談だって。地球の多重世界なんだから。たぶん。
ー 別世界人の宇宙人だと思う。
ー なにそれ、わけわからん。
ー あ~別世界人の宇宙人さん、聞いてますか~っ? リュウと、どっちが非常識ですか~っ。
ユリが悪ノリしてる。
ー お前ら、言いたい放題だな。っていうか、日本語で聞くのかよ。
ー 何語でも一緒でしょ?
ー そうだけど。日本語で返されたら怖いだろ?
ー それ、宇宙人じゃないし。
アホな会話は続いた。
* * *
それにしても、自分の世界に帰ってみると、やはり俺は社会から弾き出されていた。
会社は当然のようにクビだったし住んでいた住宅も支払いが滞って追い出されていた。いや、この世界から消えていたのでそうなったのだが、実際に直面してみるとちょっとショックだ。
社会は想定外のことには対応できないのだ。
ただ、そうなってみると、ここは何が何でも帰らなくちゃいけないような世界でもないのかも知れないと思えて来た。俺の中でタガが外れたような感じがした。
そして気が付いた。別世界の孤島に放り出されたのと何も変わらない状況だと。
それで思った。もう一度別世界へ行ってみようかと。
今度は自分から行ってみたいと思った。後ろ向きではない前向きな多重世界の旅は、どんな旅になるんだろう。俺には、ものすごく魅力的な旅に思えてきた。
別に研究者になりたいわけでは無い。
俺は単に、もっと別の世界を見てみたいのだ。そこには、未来があり過去があった。未来に無い未来、過去にない過去もあった。
俺にとってそれは驚きの連続だった。だが、それでも多重世界全体から見れば、ほんの一部なのだ。ごく近傍の世界を見たに過ぎないのだ。
もちろん冒険をしたいわけでもない。
ただ、もっと自分に合った世界があるかもしれないと思ったのだ。その世界は不可能なおとぎ話の世界ではない。可能なものなら全てある。微妙に違う世界が沢山存在するのだ。
多くの魅力的な世界があり、そしてその世界を歩き回る力を得た。なら、行かないほうがおかしいんじゃないか? そう、思った。
もちろんハイリスクだ。パッケージツアーでは無いのだ。道しるべもない。誰も保証などしてくれない。誰かを巻き込んでいいような旅でもない。
当然、それは一人旅になるだろう。
* * *
そしてある日、俺は南の島に立っていた。
そう、自分の意思で転移したのだ。目の前にはどこまでも光る海が広がっていた。やはり俺の旅はここから始めるべきだと思った。
そして、当然のように多重世界通信機は反応していなかった。つまり、ここは初めて来た世界だということだ。
「ちょっと確率風が強かったかな?」
もちろん、確率風なんて俺が作った言葉でしかない。
誰も知らないし、あるかどうかも怪しいものだ。が、あると仮定してみると面白い。無数の世界の間を風が吹き抜けていくのだ。
いったい俺はどれだけ飛ばされたんだろう?
空は青く澄み渡っていた。
問題ない。少なくとも、この地球は正常に機能している。それなら旅を続けられると思う。
携帯食は持って来たし水は作れる。当分は、この島でゆっくりするのも悪くない。
「そこで、黄昏てるのはリュウではないか?」
無人島の筈なのに聞き覚えのある声がして俺は振り向いた。てか、黄昏てないし!
「ツウ姫!」
「こんな事だろうと思ったのじゃ」
そんなことを言いながらツウ姫は森の中から現れた。
「お前、なんでいるんだよ。っていうか、母親はどうした?」
「うん? 母上には、ツウ姫2がおるからな。一人いれば十分じゃ。それに」
「それに?」
「わらわは、まだお主の側仕えのままじゃからな」
ツウ姫は、悪戯っぽい目でそう言った。
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