薄い彼女/多重世界の旅人シリーズⅠ

りゅう

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1 タイムリープで就職先を決める

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 俺、神岡龍一かみおかりゅういちは、ある日タイムリープすることになった。

 いや、別に世界を救うためでもなんでもない。ちょっと10年先の自分を見てくるだけだ。10年先の未来でも『就職先が存在しているか』を確認するために。
 もちろんとんでもない事を言っているのは分かっている。

 説明しよう。

 俺はもうすぐ大学四年になる。そして就職先選びで苦労していた。
 あちこちから会社案内を集めてはいるが、どれを見てもなかなか決められなかった。何故なら、その会社が将来に渡って存在すると確信が持てなかったからだ。
 会社が儲かるかどうかはともかく、少なくとも存在くらいしていてほしい。もし近い将来に倒産でもされたら目も当てられないからな。
 だが、就職先の将来のことなんて大学4年生には分からないというのも事実。分かるようなら起業するよ。

 やっぱり、唯の学生が未来を予測するなんて限界あるよな?
 そんなことを言ったら、それを聞いていた俺の彼女が言った。

「実は私、予知能力があるの」

 彼女のその一言で、俺の未来は全く違ったものになってしまった。

 ありえない就職活動で。
 
  *  *  *

 その時は、何かの冗談を言ってるんだと思った。
 しかし、彼女が語ったのは、まさにオカルトまがいの話だった。それを大真面目に言うのだ。

 ともかく話を聞いてみると、彼女が言うのは正確には『予知能力』というより『タイムリープ』のことだった。
 彼女はタイムリープすることが出来るので未来を知ることができるというわけだ。
 もし自分の行く会社の将来に自信が持てないなら、タイムリープして未来の会社を見てくればいいと言う。

 確かにな。便利な時代だな!
 いやいや、いくらなんでもそんなわけないだろ!

 彼女は、そんな怪しいことを言うやつだったか?
 いや、むしろ古風というくらい常識的で真面目なタイプだったと思う。少なくとも俺はそう認識していた。
 その彼女が本気で言う話なので無下には出来ない。無下には出来ないんだが、簡単に信用する訳にもいかない。


 そんなわけで、俺はタイムリープをしてみることにした。
 彼女がタイムリープしたのでは疑わしいと言ったら、俺がタイムリープすることもできるという。
 俺自身が体験できるなら信用できるしやってみてもいいと思った。てか是非やりたい!

 まぁ、やって出来なくて当たり前。出来たら、そのとき考えよう。

 付き合いを。

  *  *  *

「いい? 始めるわよ」

 俺の恋人今宮麗華いまみやれいかが俺の横で寝そべったまま言った。
 シングルベッドなので、ちょっと窮屈だ。

「痛いことはやめてくれ」

「何言ってんのよ! そんなことしないわよ!」

「ほんとかよ。絶対怪しいし」
「私のこと信じてないの?」

「いや、信じる信じる。これから信じる」本当だったらな。
「早く信じてね」
「なかなか難しいな」

「もう。体には触れないから安心して」
「精神がやばいのか?」
「精神もやばくないわよ。安全よ。たぶん」
「おいっ」
「それは、龍一次第よ」

「ほんとかよ。わかった。じゃ、やってくれ」

「うん。じゃ、いくわよ! 『共感トリガー』!」

 ふわっと何かに包まれたような感じがした。

「うん。やっぱり、うまく行きそう」

 麗華は安心したような声で言った。ダメな可能性もあったのか?

「後は自分でやってね!」

「分かった」

 そこで、あらかじめ麗華に教えられたコマンドを思い出す。
 この能力はコマンドを使って操作する。
 『呪文』とか『おまじない』じゃないらしい。変わらんと思うけど。

「帰るときは、『遷移解除』だからね。忘れないでよ!」

「分かってる。じゃ『遷移トリガー』」

 俺はタイムリープを開始するコマンドを唱えた。
 このタイムリープは『共感遷移』と言うらしい。『遷移トリガー』とはつまりタイムリープ開始って意味だ。

 すると、ふわっと浮いた気がして目の前が暗転した。
 それは目を閉じたようなものではない。全く何も見えない真の暗闇だった。

  *  *  *

 暗転はしたが、気を失ったわけじゃない。
 あちこちを眺めまわしても何も見えないので見回しているのかどうかも定かでない。

 そして突然、暗闇が消えたと思ったら、今度は情報の流れの中にいた。
 情報の流れというか色んなシーンが高速で流れていく感じだ。ビデオの早送りのようなものだ。
 こういうのを『走馬灯のように』と言うのかもしれないと思った。
 これが自分の過去なら俺がやばいことになってる筈だが、そこには俺の記憶にないものが流れていた。
 そう、これは俺の未来の情報だ。
 凄い速さで流れていくので、細かいことは分からない。

 その情報の奔流の中で俺は十年先を目指した。
 十年先に自分がどうなるかを知りたいんだからな。先へ先へと意識を飛ばしていく。なんとなく、考えるだけで未来へ飛ぶことができた。

 そして、この辺だろうかと気を緩めると会話が聞こえるようになった。

「残業ばっかりで嫌になるよな~っ」
「ほんとだぜ。給料、遅れ気味だしよ~っ」

 なんか、やばそうな会話をしている。
 どうも、俺は居酒屋で同僚と飲んでいるようだ。

「明日の緊急会議で何が出てくるかだな~」

 酒の席の会話じゃ埒が明かないと思った俺は、少し先へ行くことにした。

 翌日なので、コマ送りをするように進む。
 すると、そこは次の日の会社の会議室だった。

 そして、その会議の議題はというと、なんと『会社の倒産』だった。
 そこでは重役たちによる謝罪会見と倒産に至った経緯の説明が続いていた。

 やっぱりかよ。心配したとおりだなと思った。その意味では、俺こそ未来予知できてる気もする。
 それはともかく、この会議は過去から来た俺が聞いても全く意味がないものだった。
 ここまで分かったなら十分だ。とっとと帰ろうと思った。この会社に就職することはないからな!

 帰ろうと思ったが、せっかく未来に来たなら何か見ておこうと思った。
 よくある未来の情報で利益を得るような話も面白いが、一番の関心事と言えばやっぱり未来の自分が誰と付き合っているかだよな?
 当然、麗華と付き合ってるんだよな? 俺は確認しようと思った。思ってしまった。
 まぁ、別に見るなと言われているわけではないし、鶴が機織りしてるなんてことはないだろう。

 だが、時間を逆再生してみて驚いた。麗華が出てこないのだ!

 俺はちょっと焦った。なんで麗華と別れてるんだろうと思った。そんなわけないよな? 別の誰かと付き合ってるのか? だが、そんな気配もない。
 俺に相応しい女はいないのか? そんなことを考えていたら突然目の前に女らしいものが見えた。

  *  *  *

「あれ?」

 俺はベッドで寝ていた。
 横を見ると、そこには今宮麗華ではない女がいた。
 誰だこいつ?

 誰なのか全く分からなかった。まぁ、目を閉じている女の横顔を判別するのは難しい。

 でも、よく見るとどこかで見たことがある。

 「ん? おはよう、りゅういち」

 俺が動いたせいか、目覚めたその女は柔らかく笑って言った。

 それで思い出した。
 信じられないが、彼女は上条絹かみじょうきぬだった。
 大学一年だったころに好きだった女だ。当時、二人はいい感じだったが、そのあと麗華と知り合ってそれきりになってしまった。

「これから、説明会だっけ?」

 目覚めた絹は、まだ眠そうに言った。

「説明会?」

「会社の説明会でしょ?」

 彼女は、そう言うとベッドの脇にあるテーブルを指した。そこには会社案内が置かれていた。
 そうだ、確かに夕べ彼女とその話をしていた。
 だが、その会社というのは、さっき倒産した会社だった。いや、正しくは十年後だが。

「ああ、その会社はやめる」

「また、そんなこと言って!」

「いいんだよ。その会社は、ヤバいんだ」

「どうしてわかるの?」

「さっき、知り合いから聞いた」未来の俺だけど。

「ほんと?」

「ああ。今日はお前といることにする」

「そう。じゃ、大好きな公園でお弁当しましょ!」

「そうだな。そうするか!」

「嬉しい!」

 俺も嬉しいよ。そう思って、彼女を抱き寄せようと思ったら暗転した。

  *  *  *

「いつまで、やってんの? 『遷移解除』忘れたの?」

 俺は、元のベッドで目が覚めた。
 今宮麗華が呼び戻したようだ。

<今宮麗華>


<上条絹>


イラスト:AIアニメジェネレーターにて生成。
https://perchance.org/ai-anime-generator
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