薄い彼女/多重世界の旅人シリーズⅠ

りゅう

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12 共感定期便2

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「おう、良く来たな!」

 そう言って未来で俺を迎えたのは、ボスの神海意次だった。やっぱりな。

「こんにちは。意次さんで安心しました」
「なんだ、心配してくれたのか?」意次は面白そうに言った。うん、俺の心配だけど。

「いらっしゃい!」神海希美も声を掛けてきた。

 希美は笑顔で迎えてすぐ奥に引っ込んだ。お茶の用意をしてくれるんだろう。十年経ってるとは思えないくらい綺麗だった。

「あれ? そういえばなんで俺、事務所にいるんだろ?」
「うん? 聞いてないか? 龍一は、うちに就職したんだよ」

 なんだって~っ?

「他の会社の内定が出てなかったかな?」ちょっと抵抗してみる。
「そうなのか? もうずっとうちの社員だぞ? 正式な共感エージェントだ」

 あ、あれか。アレで、社員になったのか? まぁ、嫌なら別の会社に行ってた筈だよな。って、ここで言ってても仕方ないが。

「それでだ。最初の共感定期便に来た時に、共感起動装置を渡す決まりになっている」と意次は続けた。
「はい、そう聞きました」

 ちょっと俺は緊張した。どんな物が出て来るんだろう。

「そうだな。で、めでたく最新版に更新された」なに?
「どゆこと?」

「知らなかったと思うが、共感起動装置は既に実装されてたんだ。『遷移解除』とかのコマンドが動いていただろう?」
「た、確かに」
「共感トリガーがうまくいけばインストールされる」

「ああ、なるほど」

 そういうことか。今宮麗華の起動装置を使ってるんだとばかり思っていた。違ったんだ。そういや、共感って近くにいるだけでできるよな。Wi-fiみたいだな。

「ちゃんと、使えてるってことだ」と意次は言った。

 そう言えば、未来の俺の事いろいろ知ってる筈だよな。社員だし。

「これからも、よろしくね!」

 そんなことを言いながら希美はお茶とスイーツを出してくれた。

「恐れ入ります」
「まぁ、初々しいわね!」

 そう言って、希美は自分のデスクに戻っていった。まぁ、新しいのは中身だけだけどね。

「で、一応共感起動装置の説明をしておくが、人間の意識表面に装着する機能拡張みたいなものだと思ったら間違いない」

 意次は、なんかすごい事言い出した。

「意識表面に機能拡張ですか」

 意識表面って、確か脳の一部だよな。
 映像や音などの外界からの情報が全て集まる場所のことだ。人間の意識は、ここに集まった情報を元に判断したり記憶したりすると聞いた。

「そうだ。記憶じゃなく意識表面だ。だから、ここに遷移して来た時点、つまり意識を共有した時点でアップデートされたわけだ」

 確かに、共感遷移すると未来と過去の意識が重なるからな。ここに、機能拡張があるなら更新も可能だろう。

「記憶じゃないんですね?」
「ああ、そうだ。記憶というのは意識表面の情報を分析した結果だ。だが意識表面にあるのは生の情報そのものだ」

「意識表面には……生の情報がある?」

「そうだ。目で見た映像、耳で聞いたもの、五感で感じたもの全てだ」

「なるほど。確かに生の情報ですね」

「そうだな。それが集まった場所が意識表面だ。しかし記憶には生データは無い」

「そうなんですか?」

「そうだ、例えば記憶に映像そのものは入っていない。特長を分析したデータが入っているだけだ。特長さえ残っていれば十年後の顔でも判別できる」

「なるほど。面影って奴ですね」
「そうだ。で、その意識表面に共感能力の制御装置をインストールしているんだ」

「なんか、凄いですね。でも、消えたりしそうですが」
「おお、鋭いな。その通りだ。消えることがある。寝たくらいじゃ消えないがな」

「消えたらどうするんですか?」
「その時のために、バディがいる」
「バディから移す?」
「そうだ。今も共感しているだろ? 共感すると意識表面の一部を共有するんだ」

 確かに今宮麗華が共感状態で見守ってる筈だ。

「なるほど。って、あれ? じゃぁ、麗華はバディになる前に俺と共感したってことか!」
「うん? そうなのか? 普通、断ってからバディにする筈だが」
「ああ、確かに特別な関係を……要求されたかも?」

 よく覚えてないが、一族の話もしてたな。

「だ、大丈夫か?」

 俺が思案していると、意次は心配そうな顔をした。
 しかし、確かに詳細は言ってないが、それ以上に大事な覚悟を要求されてはいた。まぁ、俺を未来に送るにはあれしかなかったけどな。
 使わなければそのうち消えるものだし、問題ないか。

「はい。大丈夫です」

「そうか。バディは大事にしろよ」

 そう言って、意次はちらっと希美を見た。

「はい。ちなみにバディがいないとき一人で遷移するとどうなるんですか?」
「いや、それは止めとけ。必ずバディと一緒だ。別世界に分離してしまうかも知れないからな。バディが一緒にいれば世界が分離しても一緒にいられるが、一人で分離すると離れ離れになってしまう」

 意次は真剣な表情で言った。

「あくまで、お前が分離の原因を作った場合だがな。そうでなければ大丈夫だ」

 意次はそう言って、ちょっと笑った。

 なるほど。俺が分離の原因を作ると、俺もろとも世界が分離するわけか。そうするとバディを元の世界に置き去りにしてしまうわけだ。
 あれっ? 俺だけ分離するのか? 彼女の一族は運命共同体だよな?

「もしかして、俺だけ分離する?」

「そうだ。お前は普通に別の世界にも存在しているからな。俺たちのいる世界から弾き出されやすい」

 なるほど。俺は普通に世界を移動しちゃう存在の筈だからな。
 あれ? でも神海一族と接触した俺は一人しかいない筈だよな。となると、どこに弾き出されるんだろう?

「俺って、消されそうですね」

「それは、俺にもわからん。もしかすると記憶が消えるだけかも知れない」

 それって過去改変? 全部なかったことになるのか? 神海一族とも、今宮麗華とも会わなかったことに? それって、やっぱり今の自分が消えるのと一緒だよな?

 やばい、これはやばいぞ。
 俺自身が忘れたら打つ手はない。
 完全に今宮麗華と別れることになる。さすがに、それは嫌だ。
 必ずバディで遷移することにしよう。

 それはともかく、今日の共感定期便ではっきりしたことがある。
 俺は今宮麗華と別れないってことだ。
 つまり神海一族と運命共同体になるってことだ。もちろん、既に決めていたことだが未来の俺も心変わりはしていなかった。
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