50 / 189
神聖アリス教国建国編
50 建国宣言、そうだ迎えに行こう! ナディアス自治領1
しおりを挟む
いよいよ俺達はナディアス自治領を目指し高速神魔動飛行船で出発した。
ナディアス自治領は大陸北西の端にあり漁業が盛んな地域だ。
ただ、四方を山と海に囲まれているため、交易による発展はあまり見込めないという。唯一開けているのは南西方面だが、ここには蛮族が住む荒涼とした土地が広がっているだけだそうだ。
まぁ、詰んでいるとも言える。しかし、それは安全であるとも言えるので、ここに住むのを理解出来ないという訳ではない。
位置的には、ナディアス自治領はキリシス地方の北西に位置するのだが、そこには三千メートルを越えるイエルメス山とオルメス山が立ち塞がっている。
飛行船でこれを超えてもいいのだが、交易路の下見も兼ねて西のオルメス山を南に迂回してキリシス地方西端からナディアス自治領に入ることにした。
眼下には、岩だらけの大地が広がっている。ここは誰の土地でもないとのこと。
俺は、何もない地域を飛行する間に飛行船に搭乗しているメンバーを確認した。
<神聖アリス教国代表団>
神聖アリス教国 国王 リュウジ・アリステリアス
神聖アリス教国 王妃 リリー・アリステリアス
神聖アリス教国 元老院議長 マレス
神聖アリス教国 魔法共生菌特効薬配布プロジェクト リーダー ネム
聖アリステリアス王国 国王 ヒュペリオン・アリステリアス
聖アリステリアス王国 宰相 ウィスリム 他補佐一名
聖アリステリアス王国 近衛自動乗用車隊 五名
王城工事中で暇な執事 バトン リュウジの従者として
王城工事中で暇な旧領主館本館の侍女、メイド三十名
高速神魔動飛行船 スタッフ 三十名
<特別室、上層展望室>
女神アリス
女神ウリス
女神エリス
女神様については、使徒と王様くらいしか認識していない。つまり、秘密である。
俺の姓については嫁の姓「アリステリアス」を継ぐことにした。地球での姓もあるけど使ってないし、いいだろう。
「リュウジ殿、アリステリアスを継いでくれて、嬉しいぞ」とヒュペリオン王。
「ぶっちゃけ、アリステリアスって使徒って事ですからね」
「うむ。そういう意味では、本当の名じゃな」
「はい、他人事とは思えません」
というか、人数はそれなりなのに、まともに外交する気があるのか怪しいメンバーばかりなんだが。
いや、それはもちろん俺の役目なんだけど、俺一人で飛んで行くほうが楽かもな。
* * *
それぞれの思惑はともかく、高速神魔動飛行船の飛行はすこぶる順調だ。
キリシス地方最西端のオルメス山を迂回してから飛行船は進路を北に取った。ここは既にナディアス自治領に入ったと言える。
「まさに北の大地といった感じじゃな」
オルメス山を越えた大地を見て王様がつぶやいた。
「多少、森林はありますが人の気配はありませんね」
荒涼とした景色で寒々とした印象だ。
緯度的には俺達の街とそう違わないのに大違いだ。それだけオルメス山の存在が大きいということか。まぁ、ちょっと前まで水不足だったことを考えれば似たようなものか。
ー ここは、まだいいのよ。これよりさらに西は岩ばかりの土地だから。
アリスが教えてくれた。
ー そうなんだ。
「わたくしもここまで来たのは初めてです」ウィスリムも興味深げに話す。
「私は、初めての外国なので、この景色は忘れないでしょうな」
マレスは、やはりまだちょっと不安そうに言った。
* * *
あまり変化のない景色に飽きた頃、俺たちはナディアス自治領の領都に到着した。
当然、飛行船の発着場などないので街の上空を一周した後、ゆっくり街の正門近くに降下した。
門の前では既に事態を把握した人たちが待ち受けていた。
「女神アリス様の使徒様におかれましては、ご機嫌麗しゅう……」
あれ? 思いっきりバレてる? まぁ、普通に考えて勘違いだろうな、これ。
「私達は、神聖アリス教国の代表団です。親善のため世界を回っています」
勘違いは早めに訂正しておくに限る。
「ああ、そうでしたか」
女神アリスを期待する事情が何かあるのか、ちょっと残念そうだ。確かに、神界から降りてきたようにも見えるしな。
「私は、ナディアス自治領の領主をしておりますボーフェン・ウリウスと申します。ようこそおいでくださいました。これより、ご案内いたします」
女神様の関係者と思ったせいか、領主自ら出迎えてくれたようだ。
* * *
領主の館に着いて領主と役人たちに挨拶を済ませると、今回の訪問目的である『神聖アリス教国建国記念式典への参加と魔法共生菌防衛体制への加入』を要請した。
これに対し式典の参加も防衛体制の参加も快諾してくれた。これほどの技術力を持つ国から招待を受けて寧ろ恐縮しているという対応だった。
早々と訪問の目的が達成して和やかな会談となったので、俺は到着時の領主の対応について聞いてみた。
「女神アリス様の使徒を期待されていたようですが、どうかされたのですか?」
そう言うと、領主は少し躊躇いを見せたが素直に語り始めた。
「我がナディアスは、御覧の通り貧しい土地です。飢饉こそ免れてはおりますが繁栄とはかけ離れた存在です。土地が痩せておりますので作物も十分には育ちません。そのため、いつも待降教会で女神様に豊作を祈願している次第です」
なるほど、願いを叶えに来てくれたと思ったのか。それにしては、普通じゃない感じがしたが。ん? 待降教会?
「こちらの教会では、まだ女神様の降臨を認知していないのですか?」
ふと、マレスが言った。
「ああ、つい古い言い方をしてしまいました。聖アリス教会です」
「そうですか」
聖アリス教会は、元は待降教会と言っていたらしい。
ー ああ、肖像画を持って行ったから名前が変わったのね。
ー 待降教会って、神様の降臨待ちって意味だよね。思いっきりバレてるし。
もう伝わってるのは凄いな。てか、俺たちが思い切り当事者なのに、ちゃんと分かってないってどゆこと?
「確かに、穀類は難しいかも知れませんね。でも、海産物は豊富に見えました。交易が出来れば穀物も手に入るのでは」
俺は領主の館に来る途中で見た街の様子から言った。
「豊富と申されますと?」
領主は不思議そうに言った。思い当たらないようだ。
「ここへ来る途中、毛ガニが沢山捨てられていましたが」
俺がそう言うと、ボーフェンは、しばし考えを巡らしてから言った。
「あ、あれは食べられません。今年は、大量に発生してしまい、みんなで駆除しているところです」
「え? 食べられないの?」
不思議に思って、千里眼とスキャンで調べたが普通に毛ガニだった。
ー ここの土地の人は食べないようね。
アリスがそっと指摘してくれた。
「なるほど、こちらでは食べないのですか」
「えっ? あれは食べられるのですか?」領主は意外そうに言う。
「はい、とても美味しくて、地域によっては非常に高値で取引されています。今が旬で一番おいしい筈です」
「な、なんと」
領主を始め、自治領の役人たちがどよめいた。
もしかして、毛ガニを悪魔の使いか何かと勘違いしてた? まぁ、ありうるな。あの見た目だもんなぁ。まぁ、過去に何かあったのかもしれないが。
「リュウジ殿、わしも毛ガニは知らんが、旨いのか?」
聖アリステリアス王国でも食べないようだ。この世界の常識なのか?
「そうか、結構知らない人居るんだ。じゃぁ、ちょっと料理してみますか」
そう言って、俺はまだ生きている毛ガニを沢山用意してもらい、洗って塩ゆでにして貰った。
* * *
用意された歓迎会の席に移って早々、毛ガニの試食会が始まった。
皆、興味津々である。
「魚を食べるときは何をつけますか?」
俺が聞いたら、魚醤のようなものが出てきたので、まず俺が毛ガニの足を折って食べて見せる。
「うん、旨い。そのままでも旨いが、この魚醤もいいな」
俺の言葉に、領主も恐る恐る食べてみる。
「こ、これは」
領主の反応見て、初めて旨いものを食った時の顔は皆同じだなと思った。幸せな顔だ。
「この、筋みたいなのは、硬いので食べません。あとは柔らかくて誰でも食べられます」
「おお、これは食べたことのない味じゃ」とボーフェン領主。
「うむ。婿殿、これはいけるな」ヒュペリオン王も気に入ったようだ。
「あらっ、美味しい」とニーナ。
「魚醤でも、あと酸っぱい柑橘類の汁をたらしてもいけます」
俺がそう言ったら、厨房にあったらしく持って来てくれた。柚子に似た香りが爽やかでうまかった。
「ほう、これは香りもいいですね。うむ。旨い」
領主も早速真似てみた。既に、躊躇する気はないようだ。つぎつぎと口に運んでいる。
「おおおお、こんな旨いものを我々は捨てていたのか。女神様の好意を無駄にしていたのか!」
領主、涙まで流し始めた。
ー 女神様の好意なの?
ー 知らないわよ?
ー だよな。たぶん、悪魔の使いとか思ってたんじゃないかな?
ー えっ? あ~、そうみたい。
ー なるほど、悪魔だらけか。ちょっと被害妄想入ってる? それで迎えに来たのか。
「これなら、いくらでも食べられるでしょう?」
カニが出ると黙々と食べちゃうもんな~っ。
「確かに」
「これは、体にもいいんですよ。特に子供や年配の人には。骨が丈夫になります」
「おお、本当ですか。それは、素晴らしい」とボーフェン。
ー えっ? 本当なの?
ー なんで知らないんだよ。カルシウム豊富なんだよ。
ー へぇ~。
結局、俺以外は全員初めて食べたようだが、あっという間に無くなってしまった。
そりゃ、宴会なのに無言で食べてしまうほどのものだからなぁ。ウィスリムさんなど、口に入れるたびに頷いてたし。
「この分だと、他にも商品になるものがありそうですね」ウニとかな。
「美味しいものを教えていただいたのは有難いのですが、我々には貴国のような空を飛ぶ機械はありません。高く売れると言っても、あのような魔道具を使っての交易が出来ないのが残念なところです」とボーフェン。
確かに、領主の言うのも分かる。
「そうですね、小さい飛行艇もあるので商人は来れるでしょうが、コストはかかってしまいますからね」
そう言って、俺は来る途中に見て来た険しい峠道を思い出していた。あれがある限り、コストは掛かってしまう。
ん?
「リュウジ、また何か思い付いたのかえ?」とリリー。鋭いな。
「婿殿、また途方もない事をしでかすのか?」なんか、親子して酷いじゃないの?
「もしや」マレスさんは思い当たった模様。
普通ですよ普通。常識人ですもん。あ、常識使徒だった。
ナディアス自治領は大陸北西の端にあり漁業が盛んな地域だ。
ただ、四方を山と海に囲まれているため、交易による発展はあまり見込めないという。唯一開けているのは南西方面だが、ここには蛮族が住む荒涼とした土地が広がっているだけだそうだ。
まぁ、詰んでいるとも言える。しかし、それは安全であるとも言えるので、ここに住むのを理解出来ないという訳ではない。
位置的には、ナディアス自治領はキリシス地方の北西に位置するのだが、そこには三千メートルを越えるイエルメス山とオルメス山が立ち塞がっている。
飛行船でこれを超えてもいいのだが、交易路の下見も兼ねて西のオルメス山を南に迂回してキリシス地方西端からナディアス自治領に入ることにした。
眼下には、岩だらけの大地が広がっている。ここは誰の土地でもないとのこと。
俺は、何もない地域を飛行する間に飛行船に搭乗しているメンバーを確認した。
<神聖アリス教国代表団>
神聖アリス教国 国王 リュウジ・アリステリアス
神聖アリス教国 王妃 リリー・アリステリアス
神聖アリス教国 元老院議長 マレス
神聖アリス教国 魔法共生菌特効薬配布プロジェクト リーダー ネム
聖アリステリアス王国 国王 ヒュペリオン・アリステリアス
聖アリステリアス王国 宰相 ウィスリム 他補佐一名
聖アリステリアス王国 近衛自動乗用車隊 五名
王城工事中で暇な執事 バトン リュウジの従者として
王城工事中で暇な旧領主館本館の侍女、メイド三十名
高速神魔動飛行船 スタッフ 三十名
<特別室、上層展望室>
女神アリス
女神ウリス
女神エリス
女神様については、使徒と王様くらいしか認識していない。つまり、秘密である。
俺の姓については嫁の姓「アリステリアス」を継ぐことにした。地球での姓もあるけど使ってないし、いいだろう。
「リュウジ殿、アリステリアスを継いでくれて、嬉しいぞ」とヒュペリオン王。
「ぶっちゃけ、アリステリアスって使徒って事ですからね」
「うむ。そういう意味では、本当の名じゃな」
「はい、他人事とは思えません」
というか、人数はそれなりなのに、まともに外交する気があるのか怪しいメンバーばかりなんだが。
いや、それはもちろん俺の役目なんだけど、俺一人で飛んで行くほうが楽かもな。
* * *
それぞれの思惑はともかく、高速神魔動飛行船の飛行はすこぶる順調だ。
キリシス地方最西端のオルメス山を迂回してから飛行船は進路を北に取った。ここは既にナディアス自治領に入ったと言える。
「まさに北の大地といった感じじゃな」
オルメス山を越えた大地を見て王様がつぶやいた。
「多少、森林はありますが人の気配はありませんね」
荒涼とした景色で寒々とした印象だ。
緯度的には俺達の街とそう違わないのに大違いだ。それだけオルメス山の存在が大きいということか。まぁ、ちょっと前まで水不足だったことを考えれば似たようなものか。
ー ここは、まだいいのよ。これよりさらに西は岩ばかりの土地だから。
アリスが教えてくれた。
ー そうなんだ。
「わたくしもここまで来たのは初めてです」ウィスリムも興味深げに話す。
「私は、初めての外国なので、この景色は忘れないでしょうな」
マレスは、やはりまだちょっと不安そうに言った。
* * *
あまり変化のない景色に飽きた頃、俺たちはナディアス自治領の領都に到着した。
当然、飛行船の発着場などないので街の上空を一周した後、ゆっくり街の正門近くに降下した。
門の前では既に事態を把握した人たちが待ち受けていた。
「女神アリス様の使徒様におかれましては、ご機嫌麗しゅう……」
あれ? 思いっきりバレてる? まぁ、普通に考えて勘違いだろうな、これ。
「私達は、神聖アリス教国の代表団です。親善のため世界を回っています」
勘違いは早めに訂正しておくに限る。
「ああ、そうでしたか」
女神アリスを期待する事情が何かあるのか、ちょっと残念そうだ。確かに、神界から降りてきたようにも見えるしな。
「私は、ナディアス自治領の領主をしておりますボーフェン・ウリウスと申します。ようこそおいでくださいました。これより、ご案内いたします」
女神様の関係者と思ったせいか、領主自ら出迎えてくれたようだ。
* * *
領主の館に着いて領主と役人たちに挨拶を済ませると、今回の訪問目的である『神聖アリス教国建国記念式典への参加と魔法共生菌防衛体制への加入』を要請した。
これに対し式典の参加も防衛体制の参加も快諾してくれた。これほどの技術力を持つ国から招待を受けて寧ろ恐縮しているという対応だった。
早々と訪問の目的が達成して和やかな会談となったので、俺は到着時の領主の対応について聞いてみた。
「女神アリス様の使徒を期待されていたようですが、どうかされたのですか?」
そう言うと、領主は少し躊躇いを見せたが素直に語り始めた。
「我がナディアスは、御覧の通り貧しい土地です。飢饉こそ免れてはおりますが繁栄とはかけ離れた存在です。土地が痩せておりますので作物も十分には育ちません。そのため、いつも待降教会で女神様に豊作を祈願している次第です」
なるほど、願いを叶えに来てくれたと思ったのか。それにしては、普通じゃない感じがしたが。ん? 待降教会?
「こちらの教会では、まだ女神様の降臨を認知していないのですか?」
ふと、マレスが言った。
「ああ、つい古い言い方をしてしまいました。聖アリス教会です」
「そうですか」
聖アリス教会は、元は待降教会と言っていたらしい。
ー ああ、肖像画を持って行ったから名前が変わったのね。
ー 待降教会って、神様の降臨待ちって意味だよね。思いっきりバレてるし。
もう伝わってるのは凄いな。てか、俺たちが思い切り当事者なのに、ちゃんと分かってないってどゆこと?
「確かに、穀類は難しいかも知れませんね。でも、海産物は豊富に見えました。交易が出来れば穀物も手に入るのでは」
俺は領主の館に来る途中で見た街の様子から言った。
「豊富と申されますと?」
領主は不思議そうに言った。思い当たらないようだ。
「ここへ来る途中、毛ガニが沢山捨てられていましたが」
俺がそう言うと、ボーフェンは、しばし考えを巡らしてから言った。
「あ、あれは食べられません。今年は、大量に発生してしまい、みんなで駆除しているところです」
「え? 食べられないの?」
不思議に思って、千里眼とスキャンで調べたが普通に毛ガニだった。
ー ここの土地の人は食べないようね。
アリスがそっと指摘してくれた。
「なるほど、こちらでは食べないのですか」
「えっ? あれは食べられるのですか?」領主は意外そうに言う。
「はい、とても美味しくて、地域によっては非常に高値で取引されています。今が旬で一番おいしい筈です」
「な、なんと」
領主を始め、自治領の役人たちがどよめいた。
もしかして、毛ガニを悪魔の使いか何かと勘違いしてた? まぁ、ありうるな。あの見た目だもんなぁ。まぁ、過去に何かあったのかもしれないが。
「リュウジ殿、わしも毛ガニは知らんが、旨いのか?」
聖アリステリアス王国でも食べないようだ。この世界の常識なのか?
「そうか、結構知らない人居るんだ。じゃぁ、ちょっと料理してみますか」
そう言って、俺はまだ生きている毛ガニを沢山用意してもらい、洗って塩ゆでにして貰った。
* * *
用意された歓迎会の席に移って早々、毛ガニの試食会が始まった。
皆、興味津々である。
「魚を食べるときは何をつけますか?」
俺が聞いたら、魚醤のようなものが出てきたので、まず俺が毛ガニの足を折って食べて見せる。
「うん、旨い。そのままでも旨いが、この魚醤もいいな」
俺の言葉に、領主も恐る恐る食べてみる。
「こ、これは」
領主の反応見て、初めて旨いものを食った時の顔は皆同じだなと思った。幸せな顔だ。
「この、筋みたいなのは、硬いので食べません。あとは柔らかくて誰でも食べられます」
「おお、これは食べたことのない味じゃ」とボーフェン領主。
「うむ。婿殿、これはいけるな」ヒュペリオン王も気に入ったようだ。
「あらっ、美味しい」とニーナ。
「魚醤でも、あと酸っぱい柑橘類の汁をたらしてもいけます」
俺がそう言ったら、厨房にあったらしく持って来てくれた。柚子に似た香りが爽やかでうまかった。
「ほう、これは香りもいいですね。うむ。旨い」
領主も早速真似てみた。既に、躊躇する気はないようだ。つぎつぎと口に運んでいる。
「おおおお、こんな旨いものを我々は捨てていたのか。女神様の好意を無駄にしていたのか!」
領主、涙まで流し始めた。
ー 女神様の好意なの?
ー 知らないわよ?
ー だよな。たぶん、悪魔の使いとか思ってたんじゃないかな?
ー えっ? あ~、そうみたい。
ー なるほど、悪魔だらけか。ちょっと被害妄想入ってる? それで迎えに来たのか。
「これなら、いくらでも食べられるでしょう?」
カニが出ると黙々と食べちゃうもんな~っ。
「確かに」
「これは、体にもいいんですよ。特に子供や年配の人には。骨が丈夫になります」
「おお、本当ですか。それは、素晴らしい」とボーフェン。
ー えっ? 本当なの?
ー なんで知らないんだよ。カルシウム豊富なんだよ。
ー へぇ~。
結局、俺以外は全員初めて食べたようだが、あっという間に無くなってしまった。
そりゃ、宴会なのに無言で食べてしまうほどのものだからなぁ。ウィスリムさんなど、口に入れるたびに頷いてたし。
「この分だと、他にも商品になるものがありそうですね」ウニとかな。
「美味しいものを教えていただいたのは有難いのですが、我々には貴国のような空を飛ぶ機械はありません。高く売れると言っても、あのような魔道具を使っての交易が出来ないのが残念なところです」とボーフェン。
確かに、領主の言うのも分かる。
「そうですね、小さい飛行艇もあるので商人は来れるでしょうが、コストはかかってしまいますからね」
そう言って、俺は来る途中に見て来た険しい峠道を思い出していた。あれがある限り、コストは掛かってしまう。
ん?
「リュウジ、また何か思い付いたのかえ?」とリリー。鋭いな。
「婿殿、また途方もない事をしでかすのか?」なんか、親子して酷いじゃないの?
「もしや」マレスさんは思い当たった模様。
普通ですよ普通。常識人ですもん。あ、常識使徒だった。
60
あなたにおすすめの小説
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する
うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。
そして、ショック死してしまう。
その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。
屋敷を逃げ出すのであった――。
ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。
スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。
さら
ファンタジー
長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。
荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。
一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。
これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる