異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう

文字の大きさ
108 / 189
南北大陸編

108 南北大陸へ-カンタス自治領-

しおりを挟む
 翌朝、パルス王国王妃御一行を乗せて一路カンタス自治領に向けて旅立った。
 とは言っても半分の行程はモニ王国への道と同じなので見慣れていると言えば見慣れている。

 遠くにロキー山脈を望みながら海岸線を南に下る。
 山々が海岸線まで迫っているため飛行船は海上を飛ぶ。南北大陸はこの地域が一番狭くなっていて、モニ王国はこの一番狭い地域にあることになる。

 モニ王国への別れ道を過ぎてそのまま南下すると、急に森が消え荒涼とした景色へと変わった。
 見るとそこには大きな湖が広がっていた。

「あれは塩の湖なのです」

 フィスラー妃が教えてくれた。彼女は、ここカンタス自治領出身なのだそうだ。

 なるほど塩湖か。塩を採って売る以外に使い道はないとのこと。
 それでも、この塩湖の塩はカンタス自治領の重要な交易品であるのは確かなようだ。
 もちろん、この先には肥沃な森もありカフェムも栽培していると言う。

「ですが、あまり売れていません。パルス王国とモニ王国の生産に比べますと、ほんの一握りです」とフィスラー妃。

 何が原因だろう? 気候? 豆の品種?

 そんな話をしている間にカンタス自治領に到着した。
 このカンタスが自治領と言われているのは保護国としてパルス王国があるからだ。つまり、カンタスまでがパルス王国の勢力圏なのである。

  *  *  *

 俺達はフィスラー妃の紹介もあり歓待された。
 こちらでは黒青病はそれほど深刻ではないようだが被害は出ていたようで、特効薬の提供は感謝された。また、大陸評議会への参加も問題無く了承された。

「むしろ、私どもも参加させて貰ってよろしいのでしょうか?」

 カンタス自治領の領主タント・カンタスが言った。
 なるほどフィスラー妃同様、腰が低い。少なくとも愚か者ではないようだ。

「勿論です。今はどの国も困難な時代です。しかし皆で努力すれば、また違った時代も訪れましょう。我々はその智慧を持っているのですから」

 ピステル、なかなかいいことを言う。というか代表が板について来た。

「おお、有難いことです。あなた方なら、それも可能とお見受けします。われらも、是非お仲間に加えていただきたい」
「はい、そのために私たちは来ました。共に協力して新たな繁栄を築きましょう」
「はい。ありがとうございます」

 いつものように大陸連絡評議会参加宣言と侍女隊のデモンストレーションが行われ、民衆は歓喜した。
 セシルのアナウンスも板についてきた。
 横で聞いていても、感動するほどにうまい。民衆を煽るわけではなく、静かで誠実な話し方が好感を持って受け入れられてるようだ。彼女の言うことなら信じられると思えるのだ。さすがは元シスター。

 俺がカフェムに興味があると言ったら、領主タント・カンタスは喜んでカンタス・カフェムを飲ませてくれた。
 これは今まで飲んだことのない味がした、地球でもこの異世界でも初めての味だ。この世界特有の新種だろう。
 苦味と酸味が弱く香りが高いのだが、その香りが独特なのだ。流石に最初は、どうかと思ったが悪くない。ちょっと薬っぽい印象もあるが、この手の香りは多少覚えがある。慣れると癖になるタイプだ。

「うん。これは素晴らしい。初めてこのような香りのカフェムを飲みました」
「おお、お気に召しましたか。自慢のカフェムなのです」
「ええ、大変気に入りました」
「それは良かった。香りに特徴があるので、好みは分かれるようです」

「なるほど。しかし、もっと流行ると思います。大量に取引することは可能でしょうか?」
「それは、有難い。今は、あまり多く作っておりませんが、作付け可能な場所はあります」

「まぁ、良かったわ。お父様、リュウジ殿に見込まれたなら大丈夫です」フィスラー妃が嬉しそうに言う。
「いや、フィスラー妃、それは買いかぶりです。でも、このカフェムは本当に旨いのでいけると思います」
「そうですか! これでカンタスが大きくなれるかも知れないと思うと、心が躍ります」

 確かに、可能性が見えることは大きい。

「この地域は、これくらいしか売り物になりませんからな。あとは砂漠ばかりですし」

 カンタス領主は南を手で指しながら言った。

「ストーン砂漠ですね。かなり大きな砂漠のようですが」

「はい、南大陸の半分が砂漠です。大昔は繁栄していたという話ですが、本当かどうか疑わしい」

「まぁ、お父様。本当ですわ。確かに遺跡がありますもの」
「ほう。遺跡ですか」
「はい。ストーン砂漠をはるかに超えて南大陸の南端にあるそうです」

 流石にフィスラー妃は見たことがないようだ。
 巨大な砂漠に埋もれた、かつて栄華を極めた古き都か。ちょっと興味が湧いた。

「ちょっと面白いわね」

 アリスも興味を持ったようだ。
 俺は神眼で覗いてみたが、すっかり砂に埋もれているようだった。何が原因で、こうなったのかも気になるところだ。

「わたくしも、ちょっと興味がありますわ」

 セレーネも国の未来を考える上で参考になると思った模様。

「通り道だから、ちょっと寄っていくか」

 翌日、俺達はカンタス・カフェムを沢山貰い、南の遺跡を目指して飛行船を発進させた。

 およそ千キロ、延々と砂漠が続いている。さすがに超音速なので一時間ちょっとで着いてしまうので飽きてる余裕はない。

  *  *  *

 砂漠はロキー山脈の西側にずっと続いていた。

 途中で大河の跡らしき溝が延々と見えたが完全に干上がっていた。この枯れた大河をしばらく辿っていくと古都の遺跡が見えて来た。

 そこは、南北大陸のほぼ最南端で大河はここで海に注いでいたらしい。
 その大河のほとりに伝説の古都と思われる遺跡はあった。
 ほとんどは砂に埋もれているが一部は砂から現れている。

「さすがに、砂に埋もれて見られないわね」と残念そうに言うアリス。

「そりゃそうだよ。砂嵐とかがあるんだ、直ぐに埋まっちゃうよ」

 実際、周辺には砂丘が広がっていた。

「そうよね。古い神殿跡が見れるかと期待したけど無理ね」とアリス。

「ん? そんなことはないよ」
「え? 掘り返すの?」
「そう。こんな時こそ神力だよ。砂をまとめて掘り出せばいいんだし」

「ああ、そうね。さすが元使徒よね」

 普通の神様だと、地上に手を出す発想がないらしい。まぁ、原則禁止だからな。

「あそっか。その気にならないのか」
「そうなのよ。最近、ちょっと出来るようになったけどね」

「あら、そういえば、私たち練習しようって言ってそのままね? やってみようかしら?」

 横で聞いてたイリス様がその気になったようだ。確かに言ってましたね。

「うむ。我も、ちょっと練習したいのだ!」
「ここなら、失敗しても怒られない」

 いや、エリス様。遺跡を壊しちゃダメです。むしろ大変です。

 本気らしいので、とりあえず砂を掘り出す練習をしてもらった。
 アリスは一度やってるのですいすい出来る。ニーナ、ミルル、セシルは先生だ。セレーネ、アルテミス、リリーは神力を抑えたまま懐妊したので、女神様とほとんど変わらない。一緒に勉強することにした。

 普通の魔法使いなら暑くて作業どころではないのだろうが、全員女神と使徒なので全然気にしない。涼しい顔して砂を掘り起こしていった。練習とは言え、当然あっという間である。

 パルス王国御一行には見せられないし過酷な環境なので飛行船で待機となった。
 ヒュペリオン王やピステルはついてくるものの当然見学組である。
 というか、呆気に取られていた。
 飛行船で待機しててもいいのに。リリーやクレオが、わざわざ防御フィールドを張ってあげている。まぁ、確かに普通は見られない絵だからな。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する

うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。 そして、ショック死してしまう。 その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。 屋敷を逃げ出すのであった――。 ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。 スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。

さら
ファンタジー
長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。 荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。 一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。 これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...