異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう

文字の大きさ
185 / 189
タイムリープ編(完結編)

185 絵師エリス

しおりを挟む
 俺は、女神イリスが担当する世界に顕現した。

 この世界が惑星モトスで無いのは確かだ。
 月の色が違う。あれは明らかにフォトスではない。大陸の形も違う。
 空中を飛び、下界の様子を伺った。この世界には魔法が無いので注意が必要だ。

 上空から見て、めぼしい街を見付けて郊外の森へと降り立った。
 この街も発展しているようで街道も外壁も見事な造りだった。街が発展しているかどうかはインフラを見ればわかる。街道には多くの人や荷馬車が行き交っていた。

 俺は、街道脇の森から出て何食わぬ顔で街に入った。
 ここでは身分証が必要なのだが、ちゃんと準備して持って来ている。女神様謹製の身分証だ。俺は見せびらかすように門番に見せたが不思議そうな顔をしただけだった。
 女神様謹製の身分証なんて分かるわけないよな。てか、分かったら困る。

 こうして俺は、無事街に入ることが出来た。
 街は上空から見た以上に活気があり、商店には新鮮な食物が溢れ、レストランからはいい匂いが漂っていた。
 みんな明るい表情だ。これの何処に滅びの可能性があるのだろう?
 不思議だ。

 大通りの店を冷やかしながら歩いていると画材店の前まで来たところで何か騒いでいた。冷やかしついでに、ちょっと覗いてみる。

「おい、そこの少年!」

 騒ぎの中心の女が、こっちを向いて声を掛けてきた。

「少年?」

 確かに、俺は少年だった。イリス様、少年を召喚したのかよ!

「お前のことだ少年!」

 見ると、そこにはエリス様が居た。

「え、エリスさま……」俺は思わず言ってしまった。

「ほう。私を知っているのか少年。なかなか見どころがあるな! 丁度いい。そこの画材を持て。褒美をやるぞ」

 確かにエリス様のようなのだが、ちょっと雰囲気が違う。

「はい?」
「助手が急に体調を崩してな、代わりに雇ってやる。お前はついているぞ、少年。この宮廷絵師の手伝いが出来るのだからな」

 いきなり、知り合いに会ってしまったようなのだが、意外と老けてる……じゃなくて、大人の女だった。

「何か言ったか?」怪訝な顔で言うエリス様。
「いえ。あの、ちょっと忙しくて」
「いいから、とっとと持て。いくぞ」

 ひとの話聞こうよ、エリス様。

  *  *  *

「して、少年。お前の名前はなんだ?」馬車を巧みに操りながらエリス様は言った。
「え? リュウジですが」
「何? 竜神?」

 なんで竜神? この世界に竜神なんているのか?

「いえ、リュウジです」
「びっくりさせるな! そうだな。竜神の筈ないな。リュウジか? 変な名だな。リュウでいいか?」

 変なとか失礼な! てか、リュウとリュウジは違いますけど?

「まぁ、それでもいいです」言っても無駄そうなので、そう応えた。

「私は知っての通り宮廷絵師のエリスだ。エリス様と呼ぶがいい」さっきから、そう呼んでます。エリス様。

「わかりました」
「そこは、畏まりましたと言うべきだろうな。まぁ、私といる時はそれでいいが」いいのかよ。

「兄弟は、何人いるんだ?」
「兄弟は、いません」
「うん? 長男か? 親は?」
「親も、居ません」
「なに? そうか、孤児だったのか。それにしては、小奇麗にしているな」

 ありゃ、ちょっと変だったか。

「最近無くしたばかりで」
「ああ、先日の大火の犠牲者か。そうか、悪いことを聞いてしまった。すまなかったな」

 そう言うとエリス様はちょっと黙ってしまった。
 街で大火があったのか。勘違いだが、とりあえずそういう事にしとこう。

「そうだ。それならば、これからは私と一緒にいればいい。うん、それがいい。安心して良いぞ、少年!」

 エリス様は、見たことない優しい顔で言った。

「あ、はい。ありがとうございます」

 こうして、何故か俺はエリス様の手伝いをすることになった。
 折角、街に入ったところなのに、馬車に乗って門から出ていく俺。どうやら郊外で写生でもするらしい。

  *  *  *

 エリス様は郊外にある森の湖のほとりに小さなアトリエを持っていた。
 湖の水は透明で綺麗だった。恐らく近くの山からの雪解け水だろう。季節は初夏らしいが、湖にそそぐ小川からは冷たそうな音が聞こえていた。

「画材は棚に並べておいてくれ、種類ごとになってるから分かるだろう」

 アトリエに入ってすぐ、荷物の片づけを言い渡された。

「わかりました」
「終わったら、この奥に来い」
「はい」

 俺は、持ってきた画材の片づけを始めた。
 紙はやや荒いようだが、しっかりしたものだった。それと筆を何種類か。あとは、よく分からないが鉱物のようなものや瓶に入った液体などで、これが重かった。
 たぶん、絵具の材料なんだろうと思う。画家によっては絵具を自分で調合すると聞いたことがある。さすがだな。もう、神の領域に入っているのかも?

 何度か荷馬車を往復して片づけを終え、俺は言われた部屋のドアを開けた。
 そこは、風呂だった。

  *  *  *

「リュウか。そこで何をしている?」

 エリス様は、風呂に浸かっていた。そこはテラスの湯桶に水を張って、日差しで温めるような風呂だった。

「ああ、あの! 風呂だと思わず失礼しました。すぐ出ます」
「おいおい、出てどうする。そこで服を脱いで、こっちへ来い」

「へっ? だって、俺、男だし」
「ああ、知ってる。洗ってやるから、とっとと来い」

 なるほど。孤児で汚い少年を洗ってくれるらしい。

「あ、はい。ごめんなさい」

 それからエリス様は俺を優しく洗ってくれた。
 いいのか俺? っていうか、こんなに世話好きだったんだ。

「ほう。意外と綺麗じゃないか」

 綺麗に洗い上げた後、満足したらしく俺を連れて湯船に浸かった。やはり、エリス様の仕事に妥協は無いようだ。

「どうだ、気持ちいいだろう?」

 ぬるま湯程度の湯ではあるが、日差しもあり、気持ちよかった。

「はい。さっぱりしました」

 頭から全部さっぱりだからな。でも、風呂でだっこされてる俺って。

「なんだ? もじもじして。恥ずかしいのか?」
「だって。綺麗なお姉さんに抱かれてるので」
「ははは。リュウも男なんだな」

 完全に子ども扱いだった。

「ああ、もうちょっと大人だったら、付き合ってもおかしくないな」
「えっ? そうなんですか?」俺、ちょっと驚く。
「あ、本気にしたな!」
「ちょっ」

 俺はちょっと、膨れて見せた。少年だもんな。すると俺を抱き寄せて頬にキスして来た。

「怒るな」
「は、はい」
「気に入ったのは確かだ」

 本当に? しかしこの世界、本当に滅亡に向かってるんだろうか?

「エリス様は、おひとりなんですか?」
「うん? そうだが? ああ、結婚していると思ったか?」

「ええ、とても綺麗だし」
「ははは。まぁ、私はやりたいことがあるからな。そんな暇も惜しい」

「みんな、そうなんですか?」
「うん? そりゃ、やりたいことがある人はそうだろ? 結婚したり子供作ったりは別の人にお任せしている」

 世界中でみんながお任せし合ってるんだろうか?

「そうなんですか」
「リュウにはまだ分からないか?」
「はい」
「まあいい。そのうち分かる」

 違う意味で、ちょっと分かったかも。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する

うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。 そして、ショック死してしまう。 その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。 屋敷を逃げ出すのであった――。 ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。 スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

処理中です...