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 も、もしかしてあれが花火って人かしら……ヤンキー同士とは言え、稲妻さんもあんまりいい趣味とは言えないわね。
 彼女はガムをクチャクチャ言わせながらスカートのポケットに手を突っ込んだ。

「何なの、タッちゃん。うち、真面目に授業受けてたんですけどぉ」
「バカ、見え透いた嘘ついてんじゃねーよ。言っただろう、てめぇがあぶをフッたって話だ。俺と別れてまで付き合いたいって言ったんだろうが」
「いつの話してんの? トラックの運ちゃんやってるオッサンが口出しすんじゃねーよ。アタシは茂久市六の番と付き合えりゃ、それでいいんだから」

 うん、偏見だろうけど、トラックの運転手の元ヤン率は高いわ。それはともかく花火さん、あなたそれでいいの? 不良とは言え、相手が高校生である以上は、付き合えるのも自分が在学中のうちだけだと思うけど。でも別に確たる信念があって言ってる訳じゃなさそうだから、案外コロッと手の平返して年上と付き合いそうだけどな……要は、ろくな奴じゃない。

「それより、イケメンはどこよ? あ、この子? へぇ~、可愛いじゃない」
「ヒエッ! は、初めまして木前田先輩……」

 夜羽に目を付けた花火が真っ赤な唇を歪めてニタッと笑う。惚れてる男からはどう見えてるか知らないけど、少なくとも夜羽は自分が食われる危険を察知して完全にビビッている。

「あれ、アタシの事知ってんの? ここらじゃ見かけない顔だけど……やだ、アタシってば超有名人じゃん」
「こいつは前に言ってた、俺と引き分けた中坊だよ。裏番になんねぇか誘いかけてた時、お前俺に電話してきただろ」
「うそっ! こんなかっこよかったの? もっと早く紹介してくれればよかったのにぃ」
「する訳ねぇだろ、隣の市の奴だぞ」

 くねくねと媚びた仕種で誘惑してくる花火に、望遠鏡を握る手にギリッと力が籠る。傍から見て完全に不審者だが、田舎なためか人通りはほとんどない。不良校の周辺だしね……

「おい花火! 何やってんだ、そんなとこで」

 その時、校門に向かって走ってくる男子生徒がいた。って、この人もサボリか! 私たちは今日が創立記念日だけど、彼らはしっかり平日の授業中である。

「あっ、虻さん! 今日はどちらへ?」
「おう、赤井に火山か。どこって、ゲーセンだよ。そしたら龍さんから呼び出し食らったと思えば……あっ!?」

 虻さんと呼ばれた男子 (例によって不良)が夜羽に気付くと、素っ頓狂な声を上げて指差した。

「てめぇ、わざわざ茂久市六ウチまで何しにきやがった!?」
「ふえぇっ、ごめんなさいごめんなさい!」

 半泣きになって自分の背に隠れる夜羽に目もくれず、稲妻さんは虻さんに向き直る。

「てめぇが不甲斐ねえから子分たちが戦力として引っ張ってきたんだろうが。虻、お前このままでいいのか? 花火取られて不貞腐れる暇があんなら、一年坊主にリターンマッチしろや」

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