10 / 22
10:拙者、女だらけの集落に来たでござる
しおりを挟む
日が落ちる頃、俺たちは女酋長が治める集落ビーウィに到着した。男の姿は見当たらず、働いているのも女性ばかりだったが、いないわけではないらしい。
「この集落では、女が男を養うのです。男の役割は子をもうける事。そのため、女を喜ばせる見た目や社交術を磨く事が推奨されます」
「言い方は悪いが、種馬なのか……だが、力仕事や武術まで女の仕事なのか? 他の村との衝突だってあっただろうに」
「もちろん、筋力は劣ります。ですからその分は頭を使って補うのですよ」
案内役とそんな話をしながら酋長の家に行くと、まだ三十にも満たない若い女が上座に座っていた。下着同然の煽情的な格好に首から腰から派手なアクセサリーをジャラジャラ身に纏い、ドラゴンを模した被り物をしている。堂々たる振る舞いに、女ながらに貫録を感じた。
「久しいな、マヤ殿……自ら我が集落に訪れるとは、ついに聖女の座を返上する決心がついたか」
「い、いいえアピス様……何と言うか、聖女の役は終えた後と言いますか」
アピスと呼ばれた女酋長は、マヤ様のおどおどした物言いにフッと嘲りの笑みを浮かべる。
「なるほど、言われてみればここ数日、サウーラの気が立っているのを感じた。死に損なって逃げ出したというわけだ。まあ、それも人生よな」
「なあ、『サウーラ』って?」
「ビーウィにとっての神です。よそ者に合わせてドラゴンと呼ぶ事もありますが、本当は各集落で呼び名が違うのですよ」
案内役に耳打ちしていると、見咎めたのかアピス酋長は扇をこちらに向けた。
「それで、マヤ殿にくっついている貴様は何者だ? マヤ殿との関係は?」
「え、ええっと彼は、アタシの恩人でして。名は……」
どう説明したものか口籠っているマヤ様に代わり、俺は名乗りを上げた。
「イェモン=ザクリア。俺は……マヤ様の下僕だ!」
次の瞬間、この場にいる全員が凍り付いた。マヤ様も目を真ん丸にしてこちらを凝視している。
「え……イェモン、アタシと喋ってる時と口調が違くない?」
「下僕は否定せんのだな……」
ずれた指摘に呆れて溜息を吐くアピス酋長。そう、マヤ様にだけは主に対する言葉遣いなのだが、それ以外は自由に話せるようなのだ。
「まあ、大体は察せるのだがな。サウーラに襲われそうになったマヤ殿を通りすがりで助け、行くあてがない彼女と主従関係を結んだというところか」
「さすが、聡明な女酋長なだけありますね」
「おだてても望みを聞いてやるかは、貴様の態度次第だぞ」
ここで酋長は人払いをすると俺たちを近付けさせ、声を潜めた。
「大方、サウーラ殺しを見逃せとでも言うつもりなのだろう?」
「無論、ただでとは言いません。少しなら持ち合わせもありますし……足りなければこき使っていただいても」
「いらん、男に労働させるのはこの集落の信念に反するのでな。……ただ、まあ」
酋長の扇が顎の下に入り、じっくり眺め回される。
「貴様、なかなか好い面構えをしている。サウーラを屠った強さも実に好みだ。しばらく我がペットとして可愛がってやるのはどうだ?」
「だっ、ダメ!!!」
揶揄うようなお誘いを思いの外大きな声で遮ったのは、マヤ様だった。
「この集落では、女が男を養うのです。男の役割は子をもうける事。そのため、女を喜ばせる見た目や社交術を磨く事が推奨されます」
「言い方は悪いが、種馬なのか……だが、力仕事や武術まで女の仕事なのか? 他の村との衝突だってあっただろうに」
「もちろん、筋力は劣ります。ですからその分は頭を使って補うのですよ」
案内役とそんな話をしながら酋長の家に行くと、まだ三十にも満たない若い女が上座に座っていた。下着同然の煽情的な格好に首から腰から派手なアクセサリーをジャラジャラ身に纏い、ドラゴンを模した被り物をしている。堂々たる振る舞いに、女ながらに貫録を感じた。
「久しいな、マヤ殿……自ら我が集落に訪れるとは、ついに聖女の座を返上する決心がついたか」
「い、いいえアピス様……何と言うか、聖女の役は終えた後と言いますか」
アピスと呼ばれた女酋長は、マヤ様のおどおどした物言いにフッと嘲りの笑みを浮かべる。
「なるほど、言われてみればここ数日、サウーラの気が立っているのを感じた。死に損なって逃げ出したというわけだ。まあ、それも人生よな」
「なあ、『サウーラ』って?」
「ビーウィにとっての神です。よそ者に合わせてドラゴンと呼ぶ事もありますが、本当は各集落で呼び名が違うのですよ」
案内役に耳打ちしていると、見咎めたのかアピス酋長は扇をこちらに向けた。
「それで、マヤ殿にくっついている貴様は何者だ? マヤ殿との関係は?」
「え、ええっと彼は、アタシの恩人でして。名は……」
どう説明したものか口籠っているマヤ様に代わり、俺は名乗りを上げた。
「イェモン=ザクリア。俺は……マヤ様の下僕だ!」
次の瞬間、この場にいる全員が凍り付いた。マヤ様も目を真ん丸にしてこちらを凝視している。
「え……イェモン、アタシと喋ってる時と口調が違くない?」
「下僕は否定せんのだな……」
ずれた指摘に呆れて溜息を吐くアピス酋長。そう、マヤ様にだけは主に対する言葉遣いなのだが、それ以外は自由に話せるようなのだ。
「まあ、大体は察せるのだがな。サウーラに襲われそうになったマヤ殿を通りすがりで助け、行くあてがない彼女と主従関係を結んだというところか」
「さすが、聡明な女酋長なだけありますね」
「おだてても望みを聞いてやるかは、貴様の態度次第だぞ」
ここで酋長は人払いをすると俺たちを近付けさせ、声を潜めた。
「大方、サウーラ殺しを見逃せとでも言うつもりなのだろう?」
「無論、ただでとは言いません。少しなら持ち合わせもありますし……足りなければこき使っていただいても」
「いらん、男に労働させるのはこの集落の信念に反するのでな。……ただ、まあ」
酋長の扇が顎の下に入り、じっくり眺め回される。
「貴様、なかなか好い面構えをしている。サウーラを屠った強さも実に好みだ。しばらく我がペットとして可愛がってやるのはどうだ?」
「だっ、ダメ!!!」
揶揄うようなお誘いを思いの外大きな声で遮ったのは、マヤ様だった。
1
あなたにおすすめの小説
ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした
むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
『農業スキルはいらない』と追放されたが、魔境の開拓ライフが勝手に世界配信されていた件。聖女や竜が集まり、元仲間は完全に詰みました
たまごころ
ファンタジー
「悪いがクビだ。魔王討伐に『農業』スキルなんて役に立たないからな」
幼馴染の勇者からそう告げられ、俺、アレンはパーティを追放された。
あてがわれたのは、人が住めないと言われるS級危険地帯『死の荒野』。
しかし、彼らは知らなかった。俺の農業スキルが、レベルアップによって神の領域(ギフト)に達していたことを。
俺が耕せば荒野は豊潤な大地に変わり、植えた野菜はステータスを爆上げする神話級の食材になり、手にしたクワは聖剣すら凌駕する最強武器になる!
「ここなら誰にも邪魔されず、最高の野菜が作れそうだ」
俺は荒野で拾ったフェンリル(美少女化)や、野菜の匂いにつられた聖女様、逃げてきたエルフの姫君たちと、にぎやかで楽しいスローライフを送ることにした。
その一方で、俺の生活が、荒野に落ちていた古代のアーティファクトによって、勝手に世界中に『生配信』されていることには全く気づいていなかった。
「え、この野菜食べただけで瀕死の重傷が治った!?」
「主様、強すぎます! ドラゴンを大根で叩き落とすなんて!」
『コメント:なんだこの配信……神か?』
『コメント:勇者パーティが苦戦してるダンジョン、この人の家の庭じゃね?』
これは、無自覚に最強の農園を作り上げた男が、世界中から崇拝され、一方で彼を追放した勇者パーティが没落していく様子を、リスナーと共にほのぼのと見守る物語。
【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立
黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」
「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」
ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。
しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。
「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。
だが、彼らは知らなかった。
ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを!
伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。
これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!
「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。
夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。
もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。
純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく!
最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる