妖刀浪人と生贄聖女~追放されたサムライは新たな主を見つけたので、復帰命令は御免蒙る!~

白羽鳥(扇つくも)

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9:拙者、主に注意喚起するでござる

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 俺はマヤ様に、他の村の場所はないか聞いてみた。魔物討伐の依頼をしてきた村、そしてマヤ様が元いた村はアウトだ。出来れば聖女を供物にするのを良く思わないところが望ましい。
 箱入り娘でほとんど村から出た事がないとは言え、外交目的でたまに交流する機会もあった彼女の案内で、ここよりある程度離れた集落を目指す。そこは女性が強い地域で、聖女という名の人柱システムに対して同情的だったとマヤ様は言っていた。

「辛くなったら逃げ出していいとこっそり言ってくれたけど……表向きは大切にされていたし、村の掟に背いて一人で抜け出すなんて考えられなかったの」

 距離的な問題もあったのだろう。こうしてすぐに逃げ出せないような状況も、村による対策だったのだと考えられる。
 それはともかく、向かう前に血を洗い流しておく必要がある。俺は川を見つけると着物を脱いだ。じーっと視線を感じて振り向けば、マヤ様が頬を染めて俯く……やりにくい。

「主、お手を煩わせますが見張りをお願いしたい。荷物と、獣や盗人が来ないかも」
「わ、分かったわ。任せて」

 耳と尻尾をピンと立たせて頷くマヤ様。頼られる事が嬉しくて張り切る様は子供のようだ。刀と荷物を手渡すと、俺は血で汚れた着物を持って川に入り、じゃぶじゃぶと洗い出す。頭に手をやれば、昨日よりも軽くなっている事で、そう言えば髷を切ったんだと思い出した。

(別にどんな髪型だろうとこだわりはないし、手間もかからなくなったからさっぱりしたけど、あの王子もなかなか酷い事するよな)

 自分が男だから気にしないが、アラン王子は男女関係なく切り捨てる時に容赦はない。上辺は友好的に取り繕っても、誰にも心を許していないのだ。その点、普段から無茶ぶり言われる事が多い俺は逆に信頼されているんだとフォローされていたが……

(そんな俺でもあっさり捨てられるんだ。あの御方の琴線がどこにあるのかなんて、誰にも理解できないだろうよ)

 いや、ミリーなら可能だろうが。彼女の盲目的な狂信ぶりに対して、アラン王子の方は都合よく利用しつつも好意を返した事はない。ミリーもそれで不満なのではなく、下僕である事に満足しているのだろう。俺には到底至れない領域だ。

 そんな事を考えるうちに、血が落とせたので着物を絞って川岸の木の枝にかけていると――

「気持ちよさそうねぇ、アタシも入りたい」
「は? ちょ……っ」

 マヤ様が聖衣を脱ぎ始めたので、慌てて止めようとして勢い余って抱きしめてしまった。半裸の男女、何も起きないはずもなく……なんて死んでもするか! 俺は秒で彼女と距離を取った。

「主、男の前で易々と肌を晒してはなりませぬ」
「でも、村にいた頃は男のお世話係もいたよ? 子供の頃よりは減ったけど、アタシの姿が見えなくなるとみんなが不安がるからって」

 村の連中、マジで生贄を人間扱いしてないな。逃走を防ぐためにそこまで監視を徹底させるとは……こんな危なっかしい価値観に育てられてしまった事が心底許せない。これからは俺がしっかり教えつつお守りせねば!

「これから向かう集落で、入浴させてもらえないか頼んでみるでござる。主はもう聖女ではない故、危機感を持っていただかなくては」
「イェモンはいいの?」

 拗ねたようにこっちをチラチラ見てくる。一応、全裸ではないんだが……長い布を複雑な手順で下半身に締めた東方の下着だ。

「拙者は男なので……主が同じようにジロジロ見られては、きっと不快でござる」
「分かった……ごめんね」

 マヤ様にとって、村の外は未知な事ばかりだ。好奇心に駆られて危険を冒させるわけにはいかない。

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