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16:拙者、筋肉痛でござる
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天国なのか地獄なのか分からない時間の中、夜明け頃にはうつらうつらし始めていた俺だったが、突如足に走った激痛で意識が覚醒する。
「い……っ!!」
飛び起きようとするが、体が上手く動かせない。寝返りすらできないほどの痛みに硬直していると、マヤ様が目を覚ました。
「ん……おはよイェモン。どうかした?」
「いえ、その……」
取り繕う余裕もなく変な汗がダラダラ流れる。とりあえず目に毒な姿は直視しないようにしていたが。
この痛みには、覚えがある……たぶん筋肉痛だ。と言っても剣を握るようになってからは毎朝鍛錬を続けてきたのに今更だとは思ったが。
(恐らく、望月丸に取り憑かれた影響だ。ドラゴンへのあの一撃は、普段の太刀捌きじゃあり得ない)
四人がかりの斬撃と魔法で倒した魔物と同等のドラゴンを一人で倒したのだ。今まで使っていなかった筋肉を酷使してもおかしくない。しかしまさか、起き上がれなくなるほどだとは。
状況を察したマヤ様は、心配そうに覗き込んでくる。
「平気? 痛みが治まるまでこのまま休む?」
「いいえ、これ以上主の寝台を占領するなど……痛っ!!」
無理に動こうとすると、手足に電流のような痺れが走る。今日はこれからアピス酋長と打ち合わせをして旅の準備を進めないといけないのに……と言うか、ただでさえマヤ様のぬくもりが残るベッドでギリギリの状態なのに、さらに寝続けては大変な事になりそうで怖い。
「そうだ、アタシがマッサージしてあげる。こんな事ぐらいしか出来ないから……」
「!? そんな、わざわざ主の御手を煩わせるなど」
「ダメだよ、これは命令です」
そう言われてしまっては黙るしかない。それにしても、心なしかマヤ様が楽しそうに見える。自分が俺のために役に立てるのが嬉しくてたまらないのだろう。可愛いけど俺としては自分が不甲斐ない。
「っ、はぁ……」
「痛い?」
「いえ……」
めっちゃ気持ちいいです、とは言えなかった。実際、力任せに揉み解すのではなく、筋に合わせて優しく撫でられているだけだが、そこからポカポカと温かくなっていく。まるで天国にいる気分だ。(マヤ様に触れられているだけでそうなんだが)
「ふあ……」
「ふふ、眠かったら寝てもいいからね」
「とんでも、ないです……あるじの、まえ……で」
こんな状況の中で寝るなんてもったいなさ過ぎる。なのに昨夜からの寝不足もあり、俺は眠気に抗えなくなってきた。痛みが嘘のように引いていく。
(この力……僧侶や神官の回復魔法に似ている。だけどマヤ様はお飾りの聖女で、生贄としての役割しか持っていないはず……傷も治っていたし、どういう事なんだ?)
「おやすみなさい、イェモン」
取り留めもない思考に沈みながらも閉じた俺の瞼に、そっと温かい何かが押し当てられた。キスされたんだ、と気付いた瞬間、今度こそ俺は飛び起きた。窓の外は夕暮れで赤く染まっている。一瞬、夢だったのかと錯覚したが。
「あ、イェモン起きた? ぐっすりだったから起こさずにいたけど」
「申し訳ございません……従者が主を置いて眠りこけるなど」
「アタシがそう命令したんだからいいの! もう体は大丈夫?」
合わせる顔もなかったが、そう言われて軽く体を動かして確認してみた。痛みも疲れも感じないまでに回復している。
「はい、もうすっきり」
「よかった! アタシ、このまま一方的に守られるだけなのは嫌だったんだ」
ニコッと笑うマヤ様に、俺は自分の忠誠を押し付けていた事や、逆に守られてしまった事を悟る。だが、ここで俺が情けないと落ち込む事は逆に彼女の笑顔を曇らせる。ここは素直に礼を言う事にした。
「誠に光栄にござる。主の真心、しかと受け取りました」
「アハハ、こんな時でも珍妙な喋り方なんだね」
そこは心が刀と一体化したせいなので容赦してもらいたい。
「い……っ!!」
飛び起きようとするが、体が上手く動かせない。寝返りすらできないほどの痛みに硬直していると、マヤ様が目を覚ました。
「ん……おはよイェモン。どうかした?」
「いえ、その……」
取り繕う余裕もなく変な汗がダラダラ流れる。とりあえず目に毒な姿は直視しないようにしていたが。
この痛みには、覚えがある……たぶん筋肉痛だ。と言っても剣を握るようになってからは毎朝鍛錬を続けてきたのに今更だとは思ったが。
(恐らく、望月丸に取り憑かれた影響だ。ドラゴンへのあの一撃は、普段の太刀捌きじゃあり得ない)
四人がかりの斬撃と魔法で倒した魔物と同等のドラゴンを一人で倒したのだ。今まで使っていなかった筋肉を酷使してもおかしくない。しかしまさか、起き上がれなくなるほどだとは。
状況を察したマヤ様は、心配そうに覗き込んでくる。
「平気? 痛みが治まるまでこのまま休む?」
「いいえ、これ以上主の寝台を占領するなど……痛っ!!」
無理に動こうとすると、手足に電流のような痺れが走る。今日はこれからアピス酋長と打ち合わせをして旅の準備を進めないといけないのに……と言うか、ただでさえマヤ様のぬくもりが残るベッドでギリギリの状態なのに、さらに寝続けては大変な事になりそうで怖い。
「そうだ、アタシがマッサージしてあげる。こんな事ぐらいしか出来ないから……」
「!? そんな、わざわざ主の御手を煩わせるなど」
「ダメだよ、これは命令です」
そう言われてしまっては黙るしかない。それにしても、心なしかマヤ様が楽しそうに見える。自分が俺のために役に立てるのが嬉しくてたまらないのだろう。可愛いけど俺としては自分が不甲斐ない。
「っ、はぁ……」
「痛い?」
「いえ……」
めっちゃ気持ちいいです、とは言えなかった。実際、力任せに揉み解すのではなく、筋に合わせて優しく撫でられているだけだが、そこからポカポカと温かくなっていく。まるで天国にいる気分だ。(マヤ様に触れられているだけでそうなんだが)
「ふあ……」
「ふふ、眠かったら寝てもいいからね」
「とんでも、ないです……あるじの、まえ……で」
こんな状況の中で寝るなんてもったいなさ過ぎる。なのに昨夜からの寝不足もあり、俺は眠気に抗えなくなってきた。痛みが嘘のように引いていく。
(この力……僧侶や神官の回復魔法に似ている。だけどマヤ様はお飾りの聖女で、生贄としての役割しか持っていないはず……傷も治っていたし、どういう事なんだ?)
「おやすみなさい、イェモン」
取り留めもない思考に沈みながらも閉じた俺の瞼に、そっと温かい何かが押し当てられた。キスされたんだ、と気付いた瞬間、今度こそ俺は飛び起きた。窓の外は夕暮れで赤く染まっている。一瞬、夢だったのかと錯覚したが。
「あ、イェモン起きた? ぐっすりだったから起こさずにいたけど」
「申し訳ございません……従者が主を置いて眠りこけるなど」
「アタシがそう命令したんだからいいの! もう体は大丈夫?」
合わせる顔もなかったが、そう言われて軽く体を動かして確認してみた。痛みも疲れも感じないまでに回復している。
「はい、もうすっきり」
「よかった! アタシ、このまま一方的に守られるだけなのは嫌だったんだ」
ニコッと笑うマヤ様に、俺は自分の忠誠を押し付けていた事や、逆に守られてしまった事を悟る。だが、ここで俺が情けないと落ち込む事は逆に彼女の笑顔を曇らせる。ここは素直に礼を言う事にした。
「誠に光栄にござる。主の真心、しかと受け取りました」
「アハハ、こんな時でも珍妙な喋り方なんだね」
そこは心が刀と一体化したせいなので容赦してもらいたい。
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