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19:拙者、主を介抱するでござる
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ジャングルを抜けるための乗り物である走竜は、人の足より1/10の速度で移動できる――アピス酋長のこの言葉に嘘はなかった。正確に言えば、いくつか条件はあったが。
ジャングルの神様サウーラを馬サイズまで収縮したかのような……例えるなら巨大トカゲである走竜は障害物の多い道を凄まじい速さで走り抜ける事ができる。邪魔になる木々や川は時に薙ぎ払い、時に飛び越え、その間のスピードも落ちる気配がない。移動時間の短縮という点では、馬に取って代われる動物と言えた……ただし、乗っている人間の状態を考慮しなければ、だが。
「主、御気分は如何か」
「し、しぬ……」
国境を抜ける洞窟前まで三日かけて辿り着いた俺たちは、近くの川で休息を取っていた。汚れた上着を脱いで軽く洗ってから、グロッキー状態のマヤ様を抱き起こし水を飲ませる。
走竜の乗り心地が最悪だという忠告は事前にされていて、それは正しかったが見立てが甘かったのも事実だ。取り付けられたベルトで体を固定し、ヘルメットを被った上で手綱が解けないよう手にぐるぐる巻きつける。ここまでしないと余程のバランス感覚がないと振り落とされるほどあいつらは無茶苦茶だった。まあ道筋は記憶していて、仕込まれた通りに俺たちを連れてきてくれた事には感謝するが……
「何度か乗って慣れてきた私でも、余所者ですから二日はかかるんです。貴殿はすぐにコツを覚えたようですが、暴れ馬を乗りこなすのは得意で?」
「まあ……馬以外にも色々と」
猪とか駝鳥とか。アラン王子には剣の型しか見せていないけど、修行はどっちかと言うとサムライと言うよりニンジャかよとツッコみたくなる内容だったりする。そう言えば同じ東方繋がりでニンジャと間違われる事も多かったな……
マヤ様は放り出されないよう、俺の腹のベルトと繋げて膝に乗せていた。ずっとぶるぶる震えてしがみ付いていたが、その感触を堪能する余裕はなかった。ここに来るまでに二回嘔吐されたので、予定よりややスピードを落としつつ、時々休憩を挟みながら移動したのだ。
「ごめん、アタシのせいで時間かかっちゃうし着物も汚れ……うぷっ」
「主のせいではござらん。あの道のりを一日で来れるのは、恐らく乗りこなせているビーウィの者だけ。御体の具合は?」
「はあ……世界がぐるぐる回ってる」
川辺に寝転がってぼんやりしているマヤ様の様子に、俺は懐を探る。同行した商人のベナンに酔い止め薬を貰ったのだが、商売上手で追加分は安くない金額をきっちり請求されている。
(神聖魔法は、自分の傷や病は治せないんだっけ……マヤ様の治癒スキルが同じものなら、今回もダメだろうな)
主の危機に出し惜しみはしたくないが、国外に出る前の出費もできるだけ抑えたい。俺は火を起こして鍋に水を注ぐと、手持ちの薬草を放り込んで煮詰め出した。目を閉じてぐったりしていたマヤ様が体を起こす。
「なんか、すごい匂いなんだけど、何?」
「煎じ薬でござる。よく効く故、お飲みくだされ」
「……アタシ、猫舌だから」
カップに注いだドロドロの液体を手に近付こうとすると、じりじりと距離を取られる。絶対それだけが原因じゃないだろ……匂いすごいからなこれ。アンデッドみたいな顔色になっているマヤ様は、これ以上吐きそうなものを飲ませられるのは無理なんだろう。
「左様で……熱いうちならまだマシでござるが、そこまで言うなら冷ましてから差し上げるでござる」
「えっ」
「どうしても飲めないなら、無礼を承知で口移しする他ないが」
「ええっ!?」
真っ赤になって固まったマヤ様にそれ以上薬の事は言い出さず、しばらくして消え入るような声で「のむ……」とだけ呟いたマヤ様にカップを差し出せば、時間はかかったが死にそうな顔をして飲み干した。実際とてつもなく苦いのは分かっていたので、ベナンから貰った飴玉を彼女の口に放り込んでよしよししてあげる。
「よく頑張った。偉いでござるよ」
「う~~」
涙目のマヤ様に尻尾でペシペシ叩かれたが、体力は回復したようだ。
ジャングルの神様サウーラを馬サイズまで収縮したかのような……例えるなら巨大トカゲである走竜は障害物の多い道を凄まじい速さで走り抜ける事ができる。邪魔になる木々や川は時に薙ぎ払い、時に飛び越え、その間のスピードも落ちる気配がない。移動時間の短縮という点では、馬に取って代われる動物と言えた……ただし、乗っている人間の状態を考慮しなければ、だが。
「主、御気分は如何か」
「し、しぬ……」
国境を抜ける洞窟前まで三日かけて辿り着いた俺たちは、近くの川で休息を取っていた。汚れた上着を脱いで軽く洗ってから、グロッキー状態のマヤ様を抱き起こし水を飲ませる。
走竜の乗り心地が最悪だという忠告は事前にされていて、それは正しかったが見立てが甘かったのも事実だ。取り付けられたベルトで体を固定し、ヘルメットを被った上で手綱が解けないよう手にぐるぐる巻きつける。ここまでしないと余程のバランス感覚がないと振り落とされるほどあいつらは無茶苦茶だった。まあ道筋は記憶していて、仕込まれた通りに俺たちを連れてきてくれた事には感謝するが……
「何度か乗って慣れてきた私でも、余所者ですから二日はかかるんです。貴殿はすぐにコツを覚えたようですが、暴れ馬を乗りこなすのは得意で?」
「まあ……馬以外にも色々と」
猪とか駝鳥とか。アラン王子には剣の型しか見せていないけど、修行はどっちかと言うとサムライと言うよりニンジャかよとツッコみたくなる内容だったりする。そう言えば同じ東方繋がりでニンジャと間違われる事も多かったな……
マヤ様は放り出されないよう、俺の腹のベルトと繋げて膝に乗せていた。ずっとぶるぶる震えてしがみ付いていたが、その感触を堪能する余裕はなかった。ここに来るまでに二回嘔吐されたので、予定よりややスピードを落としつつ、時々休憩を挟みながら移動したのだ。
「ごめん、アタシのせいで時間かかっちゃうし着物も汚れ……うぷっ」
「主のせいではござらん。あの道のりを一日で来れるのは、恐らく乗りこなせているビーウィの者だけ。御体の具合は?」
「はあ……世界がぐるぐる回ってる」
川辺に寝転がってぼんやりしているマヤ様の様子に、俺は懐を探る。同行した商人のベナンに酔い止め薬を貰ったのだが、商売上手で追加分は安くない金額をきっちり請求されている。
(神聖魔法は、自分の傷や病は治せないんだっけ……マヤ様の治癒スキルが同じものなら、今回もダメだろうな)
主の危機に出し惜しみはしたくないが、国外に出る前の出費もできるだけ抑えたい。俺は火を起こして鍋に水を注ぐと、手持ちの薬草を放り込んで煮詰め出した。目を閉じてぐったりしていたマヤ様が体を起こす。
「なんか、すごい匂いなんだけど、何?」
「煎じ薬でござる。よく効く故、お飲みくだされ」
「……アタシ、猫舌だから」
カップに注いだドロドロの液体を手に近付こうとすると、じりじりと距離を取られる。絶対それだけが原因じゃないだろ……匂いすごいからなこれ。アンデッドみたいな顔色になっているマヤ様は、これ以上吐きそうなものを飲ませられるのは無理なんだろう。
「左様で……熱いうちならまだマシでござるが、そこまで言うなら冷ましてから差し上げるでござる」
「えっ」
「どうしても飲めないなら、無礼を承知で口移しする他ないが」
「ええっ!?」
真っ赤になって固まったマヤ様にそれ以上薬の事は言い出さず、しばらくして消え入るような声で「のむ……」とだけ呟いたマヤ様にカップを差し出せば、時間はかかったが死にそうな顔をして飲み干した。実際とてつもなく苦いのは分かっていたので、ベナンから貰った飴玉を彼女の口に放り込んでよしよししてあげる。
「よく頑張った。偉いでござるよ」
「う~~」
涙目のマヤ様に尻尾でペシペシ叩かれたが、体力は回復したようだ。
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