19 / 111
学園サバイバル編
二重生活
しおりを挟む
こうして『リジー』と『エリザベス』の二人分の学園生活が始まった。早朝、まだ日が昇らない内に校舎に入り、プラチナブロンドのカツラを被る。これはあたしが染めていた頃の髪を使って作ったものだ。結構な長さだったので、カツラにしてもセミロングにはなる。
職員室で出席報告と課題を受け取り、殿下に委員会で渡された冊子を見ながら教室へ移動する。リジー=ボーデンとしては一学年の授業を受ける義務があるけれど、エリザベスとしても通っているところは見せておかなければならない。
そこでエミィに変装させて『リジー』として授業を受けてもらい、自分は『エリザベス』として二学年の各クラスを授業ごとに渡り歩いていた。これは、学園長以下教師陣の協力なくしてはできない事だった。休憩時間になったと同時に連れ出してもらわなければ、即座に取り囲まれてしまうからだ。
「お嬢様、そちらはどうです?」
クラス委員たちの包囲網からは死角になっている場所のトイレで、カツラと眼鏡を取って渡しながらエミィが聞いて来る。この時間はこの場所で落ち合う、と前日にあらかじめ決めてあるため、今のところはスムーズに二重生活を送れている。
「まだまだ直接授業に参加しないといけない時期だから辛いわね。机に落書きや花瓶で済んでるのはまだいい方で、ひどい時には外に放り出されてあったのよ? 先生も一応は注意してくれているけど、あれはもう一番後ろで立って受けた方がマシね」
大体の流れが理解できたら、あとは自習に切り替えてもいい事になっている。エリザベスとして学園から求められているのは、二学年での授業と、体育の補習に見せかけた走り込み、そして試験だった。要は『エリザベスが学園に通っている』姿が目撃されればそれでいいのだ。
「このまま徐々にフェードアウトしていって、早くリジーの方に集中したいわ。授業は一度受けているけれど、心を許せる友達との交流はできなかったもの」
「お嬢様……今のように学園中からいじめを受けて、辛くないですか?」
「不思議と、そうでもないのよ。きっと『エリザベスという悪役令嬢』を演じてるだけだからだと思う。みんながエリザベスを叩き潰そうとしているのを、リジーは離れた場所で見ている感じね」
そりゃ、悪意を向けられるのは恐ろしいし、辛い。今までは抵抗もできずに身を縮こませ、通り過ぎるのをただ待つしかできなかった。だけどそんなエリザベスとは別に、この学園にはリジーという無関係の新入生もいるのだ。逃げ道があると考えるだけで、たいぶ気が楽になれた。
「私は、腹立たしいですよ。誰か一人を悪者にして袋叩きにして……そうまでして得られるものが、そんなにも大事なんでしょうかね?」
「エミィ……」
あたしも、いつまでも誤魔化し切れないのは分かっている。そもそも『悪役令嬢エリザベス』は神託に逆らうために殿下が作り上げたものだ。それはわたくしであって、あたしじゃない。
(いつか本当の自分として表に出られるまで、あたしを悪意から守ってねエリザベス)
エミィには憤慨されそうだけど、あたしはリジーの盾となって迫害される虚像を、愛しく思うのだった。
職員室で出席報告と課題を受け取り、殿下に委員会で渡された冊子を見ながら教室へ移動する。リジー=ボーデンとしては一学年の授業を受ける義務があるけれど、エリザベスとしても通っているところは見せておかなければならない。
そこでエミィに変装させて『リジー』として授業を受けてもらい、自分は『エリザベス』として二学年の各クラスを授業ごとに渡り歩いていた。これは、学園長以下教師陣の協力なくしてはできない事だった。休憩時間になったと同時に連れ出してもらわなければ、即座に取り囲まれてしまうからだ。
「お嬢様、そちらはどうです?」
クラス委員たちの包囲網からは死角になっている場所のトイレで、カツラと眼鏡を取って渡しながらエミィが聞いて来る。この時間はこの場所で落ち合う、と前日にあらかじめ決めてあるため、今のところはスムーズに二重生活を送れている。
「まだまだ直接授業に参加しないといけない時期だから辛いわね。机に落書きや花瓶で済んでるのはまだいい方で、ひどい時には外に放り出されてあったのよ? 先生も一応は注意してくれているけど、あれはもう一番後ろで立って受けた方がマシね」
大体の流れが理解できたら、あとは自習に切り替えてもいい事になっている。エリザベスとして学園から求められているのは、二学年での授業と、体育の補習に見せかけた走り込み、そして試験だった。要は『エリザベスが学園に通っている』姿が目撃されればそれでいいのだ。
「このまま徐々にフェードアウトしていって、早くリジーの方に集中したいわ。授業は一度受けているけれど、心を許せる友達との交流はできなかったもの」
「お嬢様……今のように学園中からいじめを受けて、辛くないですか?」
「不思議と、そうでもないのよ。きっと『エリザベスという悪役令嬢』を演じてるだけだからだと思う。みんながエリザベスを叩き潰そうとしているのを、リジーは離れた場所で見ている感じね」
そりゃ、悪意を向けられるのは恐ろしいし、辛い。今までは抵抗もできずに身を縮こませ、通り過ぎるのをただ待つしかできなかった。だけどそんなエリザベスとは別に、この学園にはリジーという無関係の新入生もいるのだ。逃げ道があると考えるだけで、たいぶ気が楽になれた。
「私は、腹立たしいですよ。誰か一人を悪者にして袋叩きにして……そうまでして得られるものが、そんなにも大事なんでしょうかね?」
「エミィ……」
あたしも、いつまでも誤魔化し切れないのは分かっている。そもそも『悪役令嬢エリザベス』は神託に逆らうために殿下が作り上げたものだ。それはわたくしであって、あたしじゃない。
(いつか本当の自分として表に出られるまで、あたしを悪意から守ってねエリザベス)
エミィには憤慨されそうだけど、あたしはリジーの盾となって迫害される虚像を、愛しく思うのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
274
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる